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2010年4月10日 (土)

三角合併と企業結合の届出

普通の合併と三角合併をする場合で、独禁法の企業結合の届出にどう違いが出るかみてみましょう。

A社とB社が合併をするとします。A社が存続会社、B社が消滅会社とします。A社にもB社にもグループ会社はないとします。

この場合、A社の国内売上高が200億円超、B社の国内売上高が50億円超の場合に、合併の届出が必要になります(独禁法15条。A社が50億円超、B社が200億円超でも必要です)。

さらに、消滅会社であるB社の株主は存続会社であるA社の株式を取得するので、B社の株主の中に国内売上高200億円超の会社があって、当該株主がA社の株式の20%超、50%超を取得することになる場合は、株式取得の届出が必要になります(独禁法10条)。

さて、このようなA社とB社が合併をするのではなく、A社が100%子会社a社を設立してB社と吸収合併させ(B社が消滅会社)、B社の株主にA社の株式を取得させる、という三角合併をする場合、企業結合の届出は必要でしょうか。

まず、A社がa社を設立する段階では、企業結合の届出は要りません。確かにA社はa社の株式の100%を取得するのですが、a社は設立したばかりで国内売上高が無いので、株式取得の届出要件を満たさないからです。

(なお余談ですが、平成21年改正前には、会社設立と同時に全株式を取得する場合には株式取得の報告は要らないという明文の規定があったのですが、改正後はそのような規定はありません。たぶん新設会社には国内売上高が無いので届け出が必要になることはないから、そういう明文規定は不要と考えられたのでしょう。これに対して改正前は届出が総資産の額で判断されたので、新会社の設立の場合でも総資産規模要件を満たすことがいくらでもあったので、このような明文規定が必要だったのです。)

次に、a社とB社の合併について、合併の届出(15条)が必要になります。なぜなら、a社には国内売上高がありませんが、A社に国内売上高200億円超があるので、a社の「国内売上高合計額」(グループ会社全体の国内売上高のこと)は200億円超となり、売上げ規模の要件を満たすからです。

ここで、「三角合併も独禁法15条の『合併』なの?」と疑問を抱いてはいけません。独禁法に「合併」の定義はありませんが、少なくとも日本の会社については日本の会社法上の合併と同じ意味であると考えられ、会社法上の合併は対価が存続会社の株式に限らず、存続会社の親会社の株式が対価でもいい(三角合併)ので、当然、三角合併も独禁法15条の「合併」です。

最後に、消滅会社であるB社の株主のなかに国内売上高200億円超の会社があり、A社の株式の20%超、50%超を取得するものがある場合、株式取得の届け出が必要になります。普通の合併の場合と同じですね。

以上のように、普通の合併の場合と三角合併との場合で、企業結合の届け出には違いがない、ということになります。

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