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2010年4月14日 (水)

私的独占と不公正な取引方法の切り分け

排除型私的独占ガイドラインをみると、一見、不公正な取引方法な取引方法に該当しそうな、以下の行為が私的独占の例として挙げられています。

①コスト割れ販売(ガイドラインの用語では、「商品を供給しなければ発生しない費用を下回る対価設定」)

②排他的取引

③抱き合わせ

④供給拒絶・差別的取扱い

①は、不公正な取引方法の1つである不当廉売(独禁法2条9項)と同じように見えます。

同様に、②は、排他条件付取引(一般指定11項)、③は、抱き合わせ(一般指定10項)、④は、単独の取引拒絶(一般指定2項)や差別対価(一般指定3項)と同じように見えます。

ここで、排除型私的独占ガイドラインの文言と不公正な取引方法の文言を読み比べて、①~④が対応する不公正な取引方法とどう違うのかを分析しても、意味はありません。

なぜなら、①から④の私的独占は、「競争の実質的制限」が要求される分だけ、「公正競争阻害性」で足りる不公正な取引方法よりも、反競争性が高い、というだけであり、両者が重なるのは当然のことだからです。

ざっくり言えば、弊害要件(反競争性)の点では私的独占の方が成立範囲が狭く、行為要件の面では構成要件がはっきりしている分だけ不公正な取引方法の方が狭い、といえます。

ただ、不公正な取引方法の行為要件も相当網羅的であるために、両者は行為要件の面では相当近づくので、私的独占のほうが反競争性が高い、という点が際立つことになります。

そうはいっても、平成21年改正で私的独占と不公正な取引方法とで課徴金の額に差がつきましたので、両者を区別する必要と実益がありそうです。

では、①~④の私的独占と、不公正な取引方法の違いはどこにあるのでしょう。

まず、①のコスト割れ販売については、何をもって「コスト割れ」の基準の「コスト」とみるか、については、私的独占と不公正な取引方法とで、違いはほとんどありません。

ですので、私的独占についてはシェア50%以上の者が優先的に摘発される(そう排除型私的独占ガイドラインに書いてあります)、その反面として、シェア50%未満の者は不公正な取引方法として処理される、ということになると予想されます。

これが紋切り型の説明でしょうけれど、例えば一地方のガソリンスタンドでの不当廉売のケースでは、仮に当該地方ではシェア50%超のガソリンスタンドが不当廉売をしても、これが私的独占で摘発されることは考えにくいと思います。

というのは、おそらく公取委が排除型私的独占ガイドラインで、シェア50%超の者を優先的に摘発すると言っている場合の「シェア50%超」というのは、業界を牛耳っている大企業をイメージしているように思われ、地方の小さな市場でシェア50%超の場合、そんな小さな市場での行為を「私的独占」という仰々しい名前で摘発するのは、公取委が躊躇する(あるいはそんな気はさらさら無い)のではないかと思うのです。

そこで、大雑把に言えば、全国シェア50%超の場合は私的独占、それ以外は不公正な取引方法、という切り分けになるのではないか、と思われます。

次に、②の排他的取引については、シェア50%超なら私的独占、それ以外なら不公正な取引方法、というのが紋切り型の説明ですが、①と同様、私的独占は、全国シェア50%の場合に限られると予想されます。

さらに、排他取引全般が私的独占で摘発されるとは考えにくく、ガイドラインでも具体例としてあげられている排他的リベートだけが私的独占として摘発されるのではないか、それ以外の排他取引は、不公正な取引方法に落とされるのではないか、と予想します。

次に、③の抱き合わせについては、主たる商品の市場支配力を梃子に従たる商品の市場での競争者を排除するような、いわゆる他者排除型の抱き合わせ(マイクロソフトがエクセル(主たる商品)にワード(従たる商品)を抱き合わせてワードのライバルの一太郎を駆逐するような行為)については、私的独占で処理されるように思われます。

これに対して、人気商品に不人気商品を抱き合わせるような不要品強要型の抱き合わせ(かつて、ガンダムのプラモデルが人気だった頃、ガンダムのプラモデルに人気のない別のプラモデルが抱き合わされていました)については、不公正な取引方法で処理されるように思われます。

最後に、④については、同じく全国シェア50%超なら私的独占、それ以外なら不公正な取引方法、ということになりそうですが、そもそも取引拒絶・差別的取扱いが反競争的でありうるのは特殊な場面に限定される(ガイドラインでは、マージンスクイーズの例が挙げられています)ので、一般的に「単に取引を拒絶しただけで独禁法違反」ということは、今後もないと思われます。

理屈を詰めれば、私的独占と不公正な取引方法の区別は「競争の実質的制限」と「公正競争阻害性」という反競争性の程度の違いに基づいて区別されるべきですが、そのような区別は、どれだけ緻密な経済分析をしても不可能です。

判例の競争の実質的制限の定義に厳密に従えば、シェア5割未満でも私的独占になっておかしくないはずであり、その反面、不公正な取引方法が空洞化してもよさそうなものですが、実務では私的独占は高尚なものと捉える向きが強いので、上述のような区別に落ち着くのではないかと予想します。

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コメント

たいへんわかりやすい考え方でした。
当方、法学部生なのですが全く授業に出席しておらず笑、折り重なる範囲についての理解に苦しんでおりました。
ありがとうございます!

経済法の試験前で困っているときにこのブログにたどり着きました。とても分かりやすい説明で、疑問を解消することができました。ありがとうございました。

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