親子会社と下請法
親子会社間の取引に下請法は適用されるのでしょうか。
公取委のホームページのQ&Aには、以下のように記載されています。
「Q5 親子会社間の取引にも,下請法が適用されるのですか。
- A. 親子会社間の取引であっても下請法の適用が除外されるものではありませんが,親会社が子会社の議決権の50%超を所有するなど実質的に同一会社内での取引とみられる場合は,従来,運用上問題としていません。」
http://www.jftc.go.jp/sitauke/qa/index.html
下請法の適用はあるが運用上問題にしない、ということですが、そういうことでいいのでしょうか。
「公取委が運用上問題にしないと言っているんだからそれでいいじゃないか」という声が聞こえてきそうですが、私はどうも釈然としません。
ここははっきりと、「親子会社間の取引には下請法の適用はない」と言い切るべきだと思います。
公取委の理屈はきっと、親子会社の取引を除外する規定が無いから下請法が適用されるんだ、という形式的な論理に基づくものでしょう。
しかし、こういう形式論だけに基づいた法律論というのはいただけません。
実質的に考えれば、下請法というのは下請保護のための法律なのですから、下請が親と一体であるために保護する必要がない場合には、下請法を適用する実質的な理由がないと思われます。
除外規定がないのは、はっきりいえば、立法するときに入れ忘れたのでしょう。
さらに、細かくみると、ちゃっかりと、「従来」という言葉が入っています。ということは、「これから先は問題にするかもしれませんよ」ということを匂わせています(まずありえませんが)。せめてこの「従来」は削除すべきでしょう。
また、この公取委回答では、「親会社が子会社の議決権の50%超を所有する」とうのは、「実質的に同一会社内での取引とみられる場合」の例示という書きぶりなので、問題にしない場合は議決権50%超以外の場合もある、という趣旨なのでしょう。もちろん、直接の子会社でも間接の子会社でも、運用上問題にしないのでしょう。
なお、公取委回答では、議決権50%超であれば必然的に「同一会社内での取引」とみる、と読める点は、いい意味での一つの割り切りと評価できると思います。
これに対して流通取引慣行ガイドラインでは、「親子会社間の取引」として、
「親会社の株式所有比率が100%に満たない子会社(原則として株式所有比率が50%超)の場合についても、親子会社間の取引が実質的に同一企業内の行為に準ずるものと認められるときには、親子会社間の取引は、原則として不公正な取引方法による規制を受けない。」
とされており、下請法のQ&Aほど割り切った書きぶりになっていません。つまり、親子会社間の取引でも「実質的に同一企業内の行為に準ずるものと認められるとき」に限って不公正な取引方法の規制を受けないといっているだけで、親子会社間の取引でも「実質的に同一企業内の行為に準ずるもの」と認められないことがあると読めます。逆に、「原則として」と言う文言から、50%以下の持分の場合でも「実質的に同一企業内の行為に準ずる」場合がありうる、と読めます(議決権比率ではなく株式所有比率としているのは、会社法ほど株式と議決権の関係が複雑でなかった商法時代のガイドラインであるためでしょうか)。
以上のような違いはきっと、独禁法の不公正な取引方法が実質的判断を伴う限界の微妙な違反行為であるのに対して、下請法が形式的要件で割り切った違法類型であることが影響しているのでしょう。
余談ですが、100%子会社の場合であっても、設立時から100%子会社というのではなくて、会社ができた後に買収された会社の場合には、買収された後も、「うちは○○グループの一員になったが、これからも独立の企業としてやっていく」みたいに、独立の気概に溢れた会社さんもいらっしゃいます。とくに大企業(とりわけ外資系の大企業)に買収された、中規模以下の会社に時々見られる傾向です。
こういう会社の社長さんは、「たとえ親会社から、グループ内の他の子会社と市場の住み分けをしろといわれても、うちの会社のためになるんだったら従うし、ならないんだったら断る」というような、まことに頼もしいことをおっしゃったりします。
こういうことを目の当たりにすると、議決権比率で単純に割り切っていいのか(50%超の議決権を握られている場合でも、市場で独立の競争単位として行動している場合があるのではないか)と思ったりします。
でも法律解釈としては、やはり議決権過半数過半数というのは決定的であると考えるのが正しいのでしょうね。
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最近は新たに経営分社化させて、資本金1000万に設定して下請け法を掻い潜っている企業がでています。
恐らく、株式法人の一円からの資本金設定はブラック企業にとって甘い法律ではないでしょうか。
投稿: 大久保満夫 | 2017年5月 9日 (火) 15時20分