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2010年4月 4日 (日)

どのようにして独禁法違反を防ぐか。

コンプライアンス(法令遵守)がきっちりしていると定評のある会社でも、独禁法違反の疑いで公取委から調査を受けたりすることがあります。

なぜ独禁法違反が発生してしまうのでしょうか。

恐らく独禁法の場合、カルテルや談合の場合を除いて、違法という認識なしに違反を犯している場合が多いのではないかと思われます。

またカルテルの場合でも、場合によっては営業担当者が「自分のやっていることはカルテルじゃない」と都合の良いように解釈していることがあります(人間、何でも自分の都合の良いように解釈するものです)。

このように、知らずに独禁法に違反してしまう大きな理由は、どのような行為が違反になるのか明らかでないという、独禁法特有の事情があるように思われます。

例えば、メーカーが、販売店が出す広告に価格を表示しないように要求する行為は拘束条件付取引に該当する可能性がありますが、一般指定をみてもそこまで具体的には書いてありませんし、むしろ価格を表示しないことというのは、拘束条件付取引が競争を制限する、他者排除(≒流通網の独り占め)と競争停止(=小売店間の競争の停止)という2パターンの典型例に当てはまらないようにすら見えます。

(なお、価格表示の禁止は、どの小売店の価格が安いか一見して明らかでなく、お客さんはいちいちお店に行くか電話で値段を聞くかしないといけなくなるので、価格の安い小売店にお客さんが流れることを妨げる効果があり、競争停止の一種といえます。)

ここで、価格の表示を禁止することが独禁法違反とされた事例やガイドラインを知っていれば、うっかり違反することはないかもしれません。

あるいは、「メガネやコンタクトレンズの価格を広告に載せることを禁止しているアメリカの州では禁止していない州より価格が高い傾向がある」という実証研究を聞いたことがあれば、価格の表示を禁止すると価格が維持されるおそれがあるのだなぁ、とひらめくかも知れません。

しかし、一般の営業の方にそこまでの知識や想像力(直感)を求めるのは難しいでしょう。だからこそ各社の営業パターンに即したコンプライアンス研修が必要なのです。

さらに、普通にビジネスをしている中で起こりうるところに、独禁法違反の一つの特徴があるように思います。

例えば、インサイダー取引は限界が微妙な法律違反の例ですが、普通に社員が仕事をしている中でうっかり違反をするようなたぐいのものではありません。

これに対して、例えば前述の広告への価格表示を禁止する例では、メーカーが小売店の広告を見て積極的に(電話や文書で)修正を依頼したというのではなく、小売店からメーカーへの通常の広告案の承認申請手続の中で、メーカーが、広告のロゴや色遣いの修正と同じ感覚で、価格の表示を消しただけなのかもしれません。

このように、独禁法違反は日常のビジネスのプロセスの中で、しかも多くの場合契約書とは関係無しに起こるので、仮に契約書については法務部が全部目を通すという体制であっても、独禁法違反は法務部の目を通りにくいのではないかと思われます。

そこで、違反が実際に起こってしまった場合には、なぜ法務部の目をすり抜けてしまったのかというプロセスを徹底的に分析することが重要だと思います。

さらに、独禁法は競争に関する一般法であって業種によって色が付いていないだけに、どうしてもイメージに残りにくく、社員の意識の中では後回しにされるように思われます。

例えば、消費者金融であれば貸金業法、マルチ商法の会社であれば特定商取引法というように、社員も自分の業界に関係のある法律だと明確に認識している法律であれば、コンプライアンス研修をやっても頭に残ります。

これに対して独禁法を肌身に滲みて自分の会社の問題と考えているのは、公共工事がメインの収入源である会社や、過去に何度も違反している会社くらいではないかと思います。

ですので、独禁法のコンプライアンス研修は、他の法律の研修にも増して、各社ごとにカスタマイズすることが重要です。そうしないと、「うちの会社には関係ないなぁ」という反応になり、その瞬間、何を言っても頭に残らなくなります。

また、努力の甲斐無く違反が生じてしまった場合でも、公取委の調査にまで至らないような方策を考えてみるのも有益でしょう。

公取委の調査は取引先からの申告から始まることが多いので、取引先向けのホットラインを設置して違反に関する情報を吸い上げ、公取委に申告される前に自浄することが考えられます(取引先は、社員以上に情報漏洩を懸念するでしょうから、ホットラインには弁護士を使った方が良いでしょう)。

独禁法違反を100%防ぐことは決して不可能ではありません。何事も不可能と考えたとたんに、新たなアイディアは浮かばなくなるのだと思います。

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