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2010年4月19日 (月)

株式取得の場合の排除措置命令の名宛人

競争を実質的に制限することとなるような株式取得をすると排除措置命令を受けることがありますが(独禁法17条の2)、この場合に排除措置命令を受けるのは、株式取得会社だけです。株式発行会社(ターゲット)は、排除措置命令の対象になりません。

独禁法で禁止されているのは、株式の「取得」ですので、ターゲットは違反のしようがないので、命令の対象にもなり得ないわけです。この点、その他の企業結合の場合には両方の当事者が違反者となり、かつ排除措置命令の対象となるのと異なります。また当然のことですが、株式譲渡の際の株式の譲渡人は、違反者とはなり得ません。

言われてみればあたりまえのことですが、注意が必要です。

ちなみに、株式取得報告書の提出者は、株式取得者だけです(10条2項)。

これに対して、事前相談については、敵対的買収の場合を除いては、取得者とターゲットが一緒に相談に行くのが通常でしょう。

それでは、株式取得が独禁法違反であるとされた場合に、どのような排除措置命令がなされるでしょうか。

ここで、排除措置命令を受けるのは株式譲受会社のみです。

例えば、A社がB社の株式を第三者から譲り受けるとします。A社のa事業と、B社のb事業が競合しており、シェアが高くなり、競争上の問題があるとします。

このような株式取得の存在が後で公取委に分かった場合、公取委はどのような排除措置命令が出せるでしょうか。

最もオーソドックスなのは、取得した株式を売却せよという命令ですが、もしB社にb事業以外の事業があった場合、しかも株式取得の目的はb事業以外の事業であった場合、株式を売却せよという命令は何となく行き過ぎというか、的外れな気がします。

ではb事業を売却せよという命令を出せるか、というと、b事業を売却するかどうかを決めるのはB社です。

そして、前述のように、株式発行会社であるB社に対しては排除措置命令を出すことはできません。

というわけで、B社にb事業を売却せよとの排除措置命令は出せないことになります。

とすると、A社に対してa事業を売却するよう命じることになりそうです。

しかし、a事業の方がシェアが大きい場合、これは問題かも知れません。

例えば、a事業のシェアが40%、b事業のシェアが10%、という場合、A社にしてみれば、b事業は手放してもいいけどa事業は手放したくない、ということもあるかもしれません。

しかも、株式取得の結果B社がA社の100%子会社になっていれば、A社はB社に役員を送り込んで事業譲渡の取締役会決議をし、株主総会で賛成票を投じることによってb事業を売却してしまうことが可能ですし、公取委もそのようにせよという命令をA社に対して出せそうですが、b事業の譲渡にはB社の株主総会の特別決議が必要なので(会社法309条2項11号)、A社がB社の株式の3分の2を保有していない場合、A社がB社に無理矢理b事業を売却させることは不可能です。

とすると、A社は、b事業は手放してもよいと思っていたところ思いがけずa事業を手放すことになりかねませんし、公取委としても、本当はb事業を手放してくれれば十分なんだけれどそういう命令が出せないからa事業の譲渡を命じるほか無い、ということが起こりえます。

公取委に事前相談にいくかどうかは、このようなことまで考えた上で判断した方が良さそうです。

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