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2010年4月16日 (金)

セブン・イレブンへの排除措置命令に思う

セブン・イレブンがフランチャイジーに弁当の値引き販売を禁止したことが優越的地位の濫用にあたるとして公取委から排除措置命令を受けた事件がありました(平成21年6月22日公取委報道発表資料)。

http://www.jftc.go.jp/pressrelease/21index.html#Tuki06

この事件について、人気のポッドキャスト番組「日経ヴェリタス 大江麻理子のモヤモヤとーく」の文庫本に、興味深いことが書いてあります。

要約すると、以下のとおりです。

-セブン・イレブンは、天候等による弁当などの売上変動をPOSデータで詳細に管理している。

-それにより売れ残りをなるべく出さないのがセブン・イレブンのビジネスである。

-このようなデータも含め情報を提供する代わりに、売れ残りもなるべく出さないでくださいね、というのがセブン・イレブンのやり方であった。

-いったん値引き販売を認めると、無駄が出てもいいから余分に仕入れることなってしまい、かえってコストが膨らんでしまう。

-コストが膨らんだ分、値段も上げざるを得ない、ということになりかねない。

独禁法の分析をする際には、物の値段がどうやってきまるのかという仕組みを理解することが必要ですが、物の値段の決まり方は一筋縄ではいかないなぁ、と改めて感じる例です。

また、独禁法は、基本的には、当事者間の利害調整をすることが目的ではなく、競争を保護し、ひいては市場の参加者(特に消費者)に利益をもたらすことが目的なのですが、そもそも法律は紛争解決の道具である以上、どうしても紛争の場では紛争当事者の利害が正面に出てしまいます。

そうすると、当事者はそれでよいかもしれないが、実はそのツケは消費者が払わされる、ということが、実際に起こりえます。

どのような分野の法律であれ、おかしな判決が出ると取引社会全体に影響がでることに変わりは無いのかもしれませんが、独禁法は、そもそもの目的が競争の保護であって紛争当事者の保護ではないのですから、裁判官、公取委、弁護士などの実務家は、そのような副作用にはとくに注意をしなければならないと思います。

さて、上記で要約したようなセブン・イレブンの理屈が正しいのか、あるいは審判で争ったら認められるのかは、何ともいえないですが、法律家の発想からすると、「巡り巡ってコストが上がる」という理屈は、抽象的には理解できても、ある程度は厳密な因果関係が立証できないと、抗弁としては難しいかなと思います。

また、システム全体でみれば効率的であっても、一部そのシステムから取りこぼされる当事者(例えば、需要予測が困難な立地にあるため、どうしても定期的に弁当が売れ残ってしまうフランチャイジー。いつも売れ残る場合は、仕入れを減らせば済む話ですね)がいる場合、システムの効率性のおかげで消費者が利益を受けるんだからいいじゃないか、と割り切るのか、システムから落ちこぼれた当事者の救済を優先するのか、難しいところです。

ひとつ言えることは、仮に当事者の救済に偏して経済合理性の観点からみると間違った決定が下されても、当事者は、セカンド・ベストのオプションを考えてうまいことやっていくもんだ、ということです。

本件でも、公取委の決定のために消費者厚生が害された可能性はありますが、そういう命令が出た以上、セブン・イレブンは知恵を働かせて、新たなビジネスのやり方を考えて行くのだと思います。

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