« 独禁法の世界と慣性の法則 | トップページ | 三角合併と企業結合の届出 »

2010年4月 9日 (金)

競業避止義務と独禁法

営業譲渡などの場合に譲渡人が競業避止義務を負うことはごく一般的なことなので、競業避止条項が独禁法に違反するなどというと、驚かれる方もいるかもしれません。

しかし、理屈の上では独禁法違反になり得ますし、公取委の相談事例にも違反とされた例があります。

平成17年度相談事例の2の事例です。

http://www.jftc.go.jp/soudanjirei/jigyosya/sonotaseigen2.html

事例はちょっと変わっていて、見本市の開催者(イベント会社でしょうか)が競争会社からイベントの「開催権」を譲り受けるに際して、譲渡側のイベント開催を制限すること(一種の競業避止義務ですね)は独禁法違反となる、としたものです。

競業避止義務というのは要するに、「一定の範囲の事業を行わないでね」、ということです。

つまり、もろに「競争しない」と合意しているわけです。理屈の上でこれが独禁法違反にならない理由はありません。競争者間ならなおさらです。

ただ、事業譲渡の場合であれば、譲渡後のHHIを算定する際に譲渡会社と譲受会社のシェアを合算するという作業をしますが、この作業の中に、「譲渡会社は同じ事業を行わない」ということが暗黙の前提として組み込まれていると言えます。

例えば、シェア1%のA社がシェア10%のB社に事業譲渡する場合には、譲渡後は、A社のシェア0%、B社のシェア11%、という前提でHHIを計算します。この、譲渡後のA社のシェア0%というのが、譲渡後は(競業避止義務があろうと無かろうと)A社は当該事業を行わないことを、すでに前提にしています。

したがって、このような前提で算定したHHIでOKな事業譲渡であれば、競業避止義務の部分だけが取り出されて独禁法違反になるということは、基本的にはないと思われます。

ただ、注意すべきは競業避止義務の範囲です。競業避止条項では、対象事業と同種の事業を行わないこととされますが、この「同種」を広げて解釈したり、「同種」といえないようなものまで競業避止義務の対象とすれば、企業結合規制とは別途、競業避止義務自体の独禁法違反が問題になり得ます。上記の相談事例も、そんな事例です。

世の中に普通に行われているから独禁法違反にならないだろう、という理屈は通用しません。特にシェアの大きい会社は、頭の片隅に、独禁法の方向から光を当てる発想を持っておくべきだと思います。

« 独禁法の世界と慣性の法則 | トップページ | 三角合併と企業結合の届出 »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 競業避止義務と独禁法:

« 独禁法の世界と慣性の法則 | トップページ | 三角合併と企業結合の届出 »

フォト
無料ブログはココログ