« 経済学的観点からみた事業者団体の役割 | トップページ | 親子会社と下請法 »

2010年4月28日 (水)

私的独占が立入後も継続された場合の課徴金

平成21年改正法により、私的独占に対して売上の6%に相当する課徴金が課されることになりました。

ここで若干注意すべきことは、立入調査後も違反を継続すれば、立入後の売上に対しても課徴金がかかり続ける、ということです。

言われてみれば当たり前のことですが、このようなことは不当な取引制限(カルテル)の場合には問題にならなかったので、見落としがちです。

つまり、カルテルの場合は、違法であることが明白であり、みんな隠れてやっているので、立入調査があれば違反をやめるのが通常です。ですから、立入調査後の行為に課徴金がかかるということはまれだったといえます(もちろん、立入調査後も隠れてカルテルを続けていれば、別個のカルテルとして摘発の対象になることはありえますが)。

しかし、私的独占の場合には、違法かどうか微妙な場合も多いのです。

立入を受けた企業が違法だと認めるのであれば、立入後速やかに私的独占をやめるでしょう。

しかし、公取委と争う場合には、対応は分かれ得ます。

「適法だとおもうけれど、立入調査があったから、念のため該当行為はやめておこう」という判断をする場合は、立入後には違反行為はなくなるので、課徴金もかかりません。

しかし、「違法だなんてとんでもない。とことん争う。違法とされた行為も止めない」という判断をした場合は、争っている間中も、延々と課徴金が積み上がっていく、ということになりかねません。

そこで立入を受けた企業としては、争いつつも当該行為は続けるのか、それともやめるのか、難しい選択を迫られることになります。

「違法行為を続けているのだから、課徴金がかかり続けるのは当然だ」という意見もありえましょうが、私的独占は不当な取引制限と違って、適法な事業活動と違法な私的独占の限界が微妙なので、そのように割り切って良いのか、疑問に感じます。

また、審判や裁判で争った結果、私的独占ではなかったということになった場合、立入調査後に当該行為を止める決定をした企業は、本来適法な事業活動の結果得られた利益を得られないことになるわけです。

さらに、私的独占とされた行為の内容によっては、企業側の事情で直ちに止めるわけにはいかないということもあるかもしれません。

課徴金が、売上の一定割合とする、という硬直的な制度になっているために、こういう問題が生じるとも言えます。

また逆の面から見れば、公取委は、立入調査後も企業が違反行為を続けている場合に、立入調査後の行為についても課徴金を課す納付命令を出すべきか、という問題があります。

課徴金は売上の一定率であって公取委の裁量の余地はないという建前からすれば、当然、違反行為が続いている限り、その続いている期間の売上についても課徴金を課すべき、ということになるでしょう。

この問題は、立入調査が改正法前になされ、立入後も違反行為が継続している場合、より深刻です。立入調査時には課徴金などなかったので、改正後に課徴金がかかることを見落としかねないからです。

例えば日本音楽著作権協会(JASRAC)は包括契約が私的独占だという排除措置命令を審判で争っていますが、もし今年の1月1日以降も包括契約を続けていれば(続けているかどうか私は知りませんが)、今年の1月1日から、審判で争っている間中、課徴金がかかり続ける、ということになります(もっとも、遡って最大3年分ではありますが)。

このような場合、公取委は課徴金納付命令を出すのでしょうか。

出すべき、というのが法律の建前ということなのでしょうが、立入調査に入ったときには課徴金を課すつもりなんてこれっぽっちもなかったのですから、「法律が変わったから課徴金を課します」というのも、何だか大人気ない気がします。

いずれにせよ、課徴金を課さないなら課さないで、公取委はそれなりにきちんと説明する必要があるように思います。

単純に理屈で割り切れない、難しい問題です。

« 経済学的観点からみた事業者団体の役割 | トップページ | 親子会社と下請法 »

2009年独禁法改正」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 私的独占が立入後も継続された場合の課徴金:

« 経済学的観点からみた事業者団体の役割 | トップページ | 親子会社と下請法 »

フォト
無料ブログはココログ