なぜ再販売価格維持は違法なのか?
再販売価格維持(再販)は原則として違法などといわれることが多いので、なぜ違法なのか、というようなタイトルを付けると「何を今さら」と言われそうですが、この点についてはよく考えてみる必要があります。
一般向けに分かりやすいためにしばしばなされる説明が、小売店などの自由な意思決定を拘束するからだ、というものです。
しかしこの説明の問題点は、小売店全員が再販に喜んで従っている場合には、誰の「自由な意思決定」も侵害していないので、再販が違法になる根拠がないことになってしまうことです。
さらに問題なのは、このような全ての小売店が喜んで従っている場合(いわば鉄壁の再販)の場合こそ、もっとも消費者が受けるダメージが大きいということです。
小売店の自由な意思決定の侵害を再販の違法性の根拠にする見解では、このような消費者のダメージが最も大きい場合に違法性の根拠がない、ということになってしまいます。
ですので、再販の違法性の根拠は、端的に、小売価格統一のために小売店間の競争が停止されることに求めるべきです。これが現在の学説の標準的な立場だと思いますし、公取委の運用も、実際にはこの立場に立っていると思われます。
小売店間の競争の停止による競争減殺(競争が減ること)を違法性の根拠にする考え方であれば、「メーカーのシェアにかかわらず再販は違法だ」などという極端な結論にはならないはずです。例えばシェア1%のメーカーが再販を行っても、ブランド間競争が活発であれば、市場の競争に与えるインパクトは微々たるものだからです。
小売店の自由な意思決定の侵害を根拠にする学説は、「小売店は何も縛らなければ自由に競争するはずだ」という、ある意味の性善説を前提にしているように思われますが、現実の世の中はそれ程単純ではありません。むしろ、本音ではできれば競争したくないと考える小売店の方が多いのではないか、と思います。
欧米では、再販はメーカーと小売店の合意であると考えられているので、小売店が喜んで再販に従っている場合(合意がある場合)でも、違法とすることに問題はありません。
これに対して、日本では、メーカーによる小売店の「拘束」ということになっているので(独禁法2条9項4号)、自由な意思決定の侵害を重視する発想が強くなってしまうのかも知れません。
確かに理念的には、事業者の自由な意思決定が公正な競争の不可欠の前提であるというのは理解できますが、理念上の説明道具を実務上の違法要件(しかも十分条件)であるかのように考えると、何でもかんでも違法という、とんでもないことになります。逆に、必要条件と考えると、小売店全員が満足している再販は違法でないということになり、これまた不都合です。
このような、必要条件でも十分条件でもないものは、結局、違法性判断のための諸般の事情の1つに過ぎないのであり、また、そのウェイトはかなり低いと感じています。
実務家としては、理念的な議論はそのようなものだと割り引いて考え、それにあまり引きずられないようにすることが大事だと思います。
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