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2010年4月

2010年4月30日 (金)

「不当な取引制限」の定義の英訳

独禁法2条6項では、不当な取引制限を以下のとおり定義しています。

「この法律において「不当な取引制限」とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。」

これに対して、公取委のホームページの2条6項の英訳は以下のとおりです。

「The term “unreasonable restraint of trade” as used in this Act means such business activities, by which any entrepreneur, by contract, agreement or any other means irrespective of its name, in concert with other entrepreneurs, mutually restrict or conduct their business activities in such a manner as to fix, maintain or increase prices, or to limit production, technology, products, facilities or counterparties, thereby causing, contrary to the public interest, a substantial restraint of competition in any particular field of trade.」

http://www.jftc.go.jp/e-page/legislation/index.html

これを見ると分かるように、英訳では、日本語の「取引の相手方を制限する等」の「等」に当たる部分が落ちてしまっています。

これは、「不当な取引制限」という、独禁法適用の範囲を画する根本概念の定義だけに、かなり問題だと思います。

細かいことを言うようですが、現在の英訳では、具体的に条文で列挙されているような、

「対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する」

というものを除いて、不当な取引制限には該当しないという誤解を招きかねません。

例えば、「販売地域の制限はどうなんだ」、「インターネット販売を止めることを合意することはどうなんだ」、というような、無用な議論を招きかねません。

少なくとも、公取委の翻訳だからといって、このまま英文メモで使うのは躊躇われます。

そこで、例えば2条6項の英訳は、

「The term “unreasonable restraint of trade” as used in this Act means such
business activities, by which any entrepreneur, by contract, agreement or any other
means irrespective of its name, in concert with other entrepreneurs, mutually
restrict or conduct their business activities in such a manner as, including without limitation, to fix, maintain or increase prices, or to limit production, technology, products, facilities or counterparties, thereby causing, contrary to the public interest, a ubstantial
restraint of competition in any particular field of trade」

とでもすることを提案したいと思います。

2010年4月29日 (木)

親子会社と下請法

親子会社間の取引に下請法は適用されるのでしょうか。

公取委のホームページのQ&Aには、以下のように記載されています。

「Q5  親子会社間の取引にも,下請法が適用されるのですか。

A.  親子会社間の取引であっても下請法の適用が除外されるものではありませんが,親会社が子会社の議決権の50%超を所有するなど実質的に同一会社内での取引とみられる場合は,従来,運用上問題としていません。」

http://www.jftc.go.jp/sitauke/qa/index.html

下請法の適用はあるが運用上問題にしない、ということですが、そういうことでいいのでしょうか。

「公取委が運用上問題にしないと言っているんだからそれでいいじゃないか」という声が聞こえてきそうですが、私はどうも釈然としません。

ここははっきりと、「親子会社間の取引には下請法の適用はない」と言い切るべきだと思います。

公取委の理屈はきっと、親子会社の取引を除外する規定が無いから下請法が適用されるんだ、という形式的な論理に基づくものでしょう。

しかし、こういう形式論だけに基づいた法律論というのはいただけません。

実質的に考えれば、下請法というのは下請保護のための法律なのですから、下請が親と一体であるために保護する必要がない場合には、下請法を適用する実質的な理由がないと思われます。

除外規定がないのは、はっきりいえば、立法するときに入れ忘れたのでしょう。

さらに、細かくみると、ちゃっかりと、「従来」という言葉が入っています。ということは、「これから先は問題にするかもしれませんよ」ということを匂わせています(まずありえませんが)。せめてこの「従来」は削除すべきでしょう。

また、この公取委回答では、「親会社が子会社の議決権の50%超を所有する」とうのは、「実質的に同一会社内での取引とみられる場合」の例示という書きぶりなので、問題にしない場合は議決権50%超以外の場合もある、という趣旨なのでしょう。もちろん、直接の子会社でも間接の子会社でも、運用上問題にしないのでしょう。

なお、公取委回答では、議決権50%超であれば必然的に「同一会社内での取引」とみる、と読める点は、いい意味での一つの割り切りと評価できると思います。

これに対して流通取引慣行ガイドラインでは、「親子会社間の取引」として、

「親会社の株式所有比率が100%に満たない子会社(原則として株式所有比率が50%超)の場合についても、親子会社間の取引が実質的に同一企業内の行為に準ずるものと認められるときには、親子会社間の取引は、原則として不公正な取引方法による規制を受けない。」

とされており、下請法のQ&Aほど割り切った書きぶりになっていません。つまり、親子会社間の取引でも「実質的に同一企業内の行為に準ずるものと認められるとき」に限って不公正な取引方法の規制を受けないといっているだけで、親子会社間の取引でも「実質的に同一企業内の行為に準ずるもの」と認められないことがあると読めます。逆に、「原則として」と言う文言から、50%以下の持分の場合でも「実質的に同一企業内の行為に準ずる」場合がありうる、と読めます(議決権比率ではなく株式所有比率としているのは、会社法ほど株式と議決権の関係が複雑でなかった商法時代のガイドラインであるためでしょうか)。

以上のような違いはきっと、独禁法の不公正な取引方法が実質的判断を伴う限界の微妙な違反行為であるのに対して、下請法が形式的要件で割り切った違法類型であることが影響しているのでしょう。

余談ですが、100%子会社の場合であっても、設立時から100%子会社というのではなくて、会社ができた後に買収された会社の場合には、買収された後も、「うちは○○グループの一員になったが、これからも独立の企業としてやっていく」みたいに、独立の気概に溢れた会社さんもいらっしゃいます。とくに大企業(とりわけ外資系の大企業)に買収された、中規模以下の会社に時々見られる傾向です。

こういう会社の社長さんは、「たとえ親会社から、グループ内の他の子会社と市場の住み分けをしろといわれても、うちの会社のためになるんだったら従うし、ならないんだったら断る」というような、まことに頼もしいことをおっしゃったりします。

こういうことを目の当たりにすると、議決権比率で単純に割り切っていいのか(50%超の議決権を握られている場合でも、市場で独立の競争単位として行動している場合があるのではないか)と思ったりします。

でも法律解釈としては、やはり議決権過半数過半数というのは決定的であると考えるのが正しいのでしょうね。

2010年4月28日 (水)

私的独占が立入後も継続された場合の課徴金

平成21年改正法により、私的独占に対して売上の6%に相当する課徴金が課されることになりました。

ここで若干注意すべきことは、立入調査後も違反を継続すれば、立入後の売上に対しても課徴金がかかり続ける、ということです。

言われてみれば当たり前のことですが、このようなことは不当な取引制限(カルテル)の場合には問題にならなかったので、見落としがちです。

つまり、カルテルの場合は、違法であることが明白であり、みんな隠れてやっているので、立入調査があれば違反をやめるのが通常です。ですから、立入調査後の行為に課徴金がかかるということはまれだったといえます(もちろん、立入調査後も隠れてカルテルを続けていれば、別個のカルテルとして摘発の対象になることはありえますが)。

しかし、私的独占の場合には、違法かどうか微妙な場合も多いのです。

立入を受けた企業が違法だと認めるのであれば、立入後速やかに私的独占をやめるでしょう。

しかし、公取委と争う場合には、対応は分かれ得ます。

「適法だとおもうけれど、立入調査があったから、念のため該当行為はやめておこう」という判断をする場合は、立入後には違反行為はなくなるので、課徴金もかかりません。

しかし、「違法だなんてとんでもない。とことん争う。違法とされた行為も止めない」という判断をした場合は、争っている間中も、延々と課徴金が積み上がっていく、ということになりかねません。

そこで立入を受けた企業としては、争いつつも当該行為は続けるのか、それともやめるのか、難しい選択を迫られることになります。

「違法行為を続けているのだから、課徴金がかかり続けるのは当然だ」という意見もありえましょうが、私的独占は不当な取引制限と違って、適法な事業活動と違法な私的独占の限界が微妙なので、そのように割り切って良いのか、疑問に感じます。

また、審判や裁判で争った結果、私的独占ではなかったということになった場合、立入調査後に当該行為を止める決定をした企業は、本来適法な事業活動の結果得られた利益を得られないことになるわけです。

さらに、私的独占とされた行為の内容によっては、企業側の事情で直ちに止めるわけにはいかないということもあるかもしれません。

課徴金が、売上の一定割合とする、という硬直的な制度になっているために、こういう問題が生じるとも言えます。

また逆の面から見れば、公取委は、立入調査後も企業が違反行為を続けている場合に、立入調査後の行為についても課徴金を課す納付命令を出すべきか、という問題があります。

課徴金は売上の一定率であって公取委の裁量の余地はないという建前からすれば、当然、違反行為が続いている限り、その続いている期間の売上についても課徴金を課すべき、ということになるでしょう。

この問題は、立入調査が改正法前になされ、立入後も違反行為が継続している場合、より深刻です。立入調査時には課徴金などなかったので、改正後に課徴金がかかることを見落としかねないからです。

例えば日本音楽著作権協会(JASRAC)は包括契約が私的独占だという排除措置命令を審判で争っていますが、もし今年の1月1日以降も包括契約を続けていれば(続けているかどうか私は知りませんが)、今年の1月1日から、審判で争っている間中、課徴金がかかり続ける、ということになります(もっとも、遡って最大3年分ではありますが)。

このような場合、公取委は課徴金納付命令を出すのでしょうか。

出すべき、というのが法律の建前ということなのでしょうが、立入調査に入ったときには課徴金を課すつもりなんてこれっぽっちもなかったのですから、「法律が変わったから課徴金を課します」というのも、何だか大人気ない気がします。

いずれにせよ、課徴金を課さないなら課さないで、公取委はそれなりにきちんと説明する必要があるように思います。

単純に理屈で割り切れない、難しい問題です。

2010年4月27日 (火)

経済学的観点からみた事業者団体の役割

競争政策の観点からみた場合、事業者団体の役割とはどのようなものであるべきでしょうか。

経済学的にいえば、事業者団体の存在意義とは、以下のようなものでしょう。

すなわち、事業者が行う事業活動には様々なものがあります。

その中で、「ある活動を行えば売上が伸びると分かっていても、自社の行った活動の恩恵が同業他社にも及んでしまうため、自分ではやる気が起きない、あるいはやる気の程度が下がる、という活動」があります。

例えば、業界全体のイメージを上げるための広報活動などです。

難しい言葉で言えば、「正の外部性」がある活動、ともいえます。

人間誰しも、自分の払ったコストに対するベネフィットが100%享受できる場合に、もっともやる気が出るものです。

そうでなくて、自分の払ったコストに対するベネフィットの10%しか享受できない場合には、「みんなでやれば利益になるのに誰もやろうとしない」ということになりがちです。

そういう場合には、事業者団体の出番となるわけです。

その他にも事業者団体がやる活動として、「事業者が個別にやるとコストに見合わないので誰もやらないが、みんなでやるとコストが下がるのでやる気になる活動」というのもあるでしょう。

例えば、従業員に対する研修などが、これに当たるかも知れません。

いわば、コスト削減という意味での効率性の実現です。

以上のような、「正の外部性」のある活動や「効率性」を増す活動というのは、事業者団体でしかできない、競争上望ましい活動であるとして、独禁法上もポジティブな評価を受けて然るべきだと思います。

事業者団体については、「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」(事業者団体ガイドライン)というものがあり、独禁法上問題となりうる行為が列挙されています。

http://www.jftc.go.jp/dk/jigyoshadantai.html

事業者団体の行為の独禁法上の問題を考える際には、同ガイドラインの、競争の阻害に繋がる行為か否か、という視点も重要ですが、上記のような、「正の外部性」、「効率性」という観点も持っていると、より事業者団体の活動を立体的に分析できると思います。

ところで、事業者団体ガイドラインには、別表がついており、情報交換など微妙な行為について、問題になりうる行為、ならない行為がリスト化されており、チェックリストとして使えて便利です。

2010年4月26日 (月)

詐欺的商法と景表法

当然無料のサービスを有料で提供することは景表法上問題ないでしょうか。

米国に渡航する際には、保安上の理由から、現在、米国大使館のウェブサイトで「ESTA」というものへの登録が必要なのですが、グーグルなどで「ESTA」で検索すると、このESTAの申請代行サイトというのがヒットします。

しかし、ESTAの申請はもちろん無料ですし、米国大使館のウェブサイトでものの10分ほどで簡単にできます。

米国大使館のウェブサイトには、

ESTA申請は無料です。 米国政府と無関係な第三者が独自のウェブサイトを設け、旅行者に代わりESTA申請のための料金を請求していることがありますのでご注意下さい」

という注意書きまであります。

つまり、当然無料である登録サービスを有料で請け負う業者がいるということですが、これを景表法で取り締まることは可能でしょうか。

景表法4条(不当な表示の禁止)1項1号では、不当表示として

「商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示・・・す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの」

が挙げられています。

まず、ウェブサイト等での宣伝文言、説明が「表示」(景表法4条1項柱書)であることは問題ないでしょう。

しかし、上記のようなESTA代行サービスは、実際に表示どおりの申請代行サービスを提供するものです。したがって、サービスの内容が「実際のものよりも著しく優良」というのは無理がありそうです。

続いて同項2号では、

「商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの・・・よりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの 」

とされています。

しかし、ここでも、例えばその業者のサイトで「4000円でESTA申請を代行します」と書いてあって、実際そのとおりの代金しか請求されないのであれば、「価格その他の取引条件」が実際のものより著しく有利ということはできないように思われます。

しかし、何だか釈然としないものが残ります。

そこで、このような、当然無料であるサービスを有料で提供する場合には、

「この申請は米国大使館のホームページで簡単にできます。当然無料です。それでも、自分で申請するのに不安がある人は、当社のサービスをご利用下さい」

というような断り書きをしないと役務の「内容」を偽ったことになる、という解釈を取れないでしょうか。

やはり難しいと思います。

なぜなら、ここでの表示は、申請代行サービスなるものが、本来価値がない(米国大使館のホームページで無料でできるので)ものであるにもかかわらず、もっともらしホームページを作ることで価値があるものであるかのような体裁を取っている、というだけで、やはり、サービスの「内容」に偽りはないからです。

このように、景表法の規制は、実際に支払わなければならない対価や実際に受け取れる商品の内容についての虚偽の表示は取り締まれますが、無料のものを、さもお金を払う価値があるかのように装う表示は取り締まれない、ということなのだと思います。

ですので、例えばある商品の市場での相場が1000円であるのに、その商品を1万円で売るという表示をしても、不当表示にはなりません。この場合に、「市場では1000円で手に入りますよ」という表示をしないと不当表示になる、なんていうのはばかげているでしょう。

景表法も競争法の一分野であるという観点から説明をすると、景表法は自己の商品役務の内容・価値をありのままに伝えることを要求するものであってそれ以上のものではなく、市場での客観的価値を表示することまでは求めていない、さらに言えば、市場経済においては、商品役務の価値を他社と比べたり価格コムでチェックすることによって調べる責任は、需要者の側にある、ということなのでしょう。

一般の方からすると、どうしてそんな杓子定規な解釈をするんだ、詐欺は取り締まるべきだろう、ということかもしれませんが、やはり法律の文言を無視するわけにはいきません。

景表法の管轄が公取委から消費者庁に移ったことで、消費者庁は、競争政策というよりむしろ消費者保護の観点から、公取委よりもクリエイティブな解釈をすることがあるかもしれませんが、やはり、詐欺的商法を景表法で取り締まることには一定の限界がありそうです。

2010年4月24日 (土)

ABA最終日

本日はABA春期大会の最終日でした。

午前中の前半は、FTCのメンバーによるブリーフィングに参加しました。

ここでも最初の話題は新合併ガイドラインで、旧ガイドラインに比べて協調的効果についての記述を分かりやすくしたこと、審査手順を(まず市場画定ありきではなく)フレキシブルにしたこと、Upward Pricing Pressureは企業のインセンティブに注目するものであって、利益最大化を必ずしも前提とするものではなく(なので微分の知識も不要)、常識的な感覚にも沿うものであること、これらはFTCの現在の実務を忠実に反映したものであって、目新しいものではないこと、などが説明されました。

次の話題は金融規制とFTCの役割についてで、新しく設立される機関とFTCの権限分配、新規制での「large entity」の意義が明確でないこと、といった問題点が議論されました。

消費者保護については、競争当局と消費者保護というFTCの2つの顔について議論がされ、インテルのケースにはdeceptionの要素もあること、「消費者の選択の自由は市場経済の中枢神経である」との指摘などが印象的でした。

FTC法5条については、一般にシャーマン法より範囲が広いといわれているところ、その具体例として、invitation to collusionがあり(アメリカン・エアラインズのケース)、これからも積極的に運用していく、とのことでした。

また、広告については、行動経済学の知見を用いているとのことであり、誤解を招く表示が有害であることはもちろん、情報が多すぎること、とくに無関係な情報が多すぎることが問題となり得る、という指摘が興味深かったです。

消費者の情報保護について議論され、これからは、プライバシー・ポリシーのような契約ベースの規制では十分ではなく、新しいテクノロジーに対応していくことが問題であろう(たとえば携帯電話やブラックベリーで何ページもあるプライバシー・ポリシーを読む人はいないであろう)、国境を越えて個人情報が蓄えられているような場合(クラウド・コンピューティング)にどう対応するのか、ロケーション・ベースの広告にどう対応するのか、といった問題点が指摘されました。

午前中後半は、Enforcers' Round table という、DOJとFTCとEC委員会とカナダ当局、というフルキャストによるパネルに参加しました。

ここでも、合併ガイドラインが最初の話題で、DOJのクリスティン・バーニー氏が、「新ガイドラインでは透明性を目指した。実際に、司法省で検討されている事項、プロセスを偽りなく記した。全米どこにいるかにかかわらず、DOJが何を考えているか分かるようにした。『ガイドラインにはこう書いてあるけど実態は違うんだよ』などということが起こらないように、ありのままを記載した」と言っていました。

刑事執行については、法人に対する罰金の抑止力について触れられ、バーニー氏が自らの弁護士としての経験から、いかに法人に対する罰金が抑止力となっているかを力説していました。ECでは、カルテルの利益を得ているのは法人なので、個人を罰すべきとの発想は少ないとのことでした。

消費者保護については、ここでも、インターネットを通じたプライバシーの問題が指摘されました。

ハイテク産業については、何がボトルネックになっているのか(たとえばネットワーク効果など)という点に注目している、との発言がバーニー氏からありました。

カナダは昨年独禁法の大きな改正があったそうです。

レメディについては、司法省もFTCも、構造的措置を好むのはそのとおりだけれども、「行為的措置にもアレルギーがあるわけではない」(バーニー氏)、「クリエイティブな行動的措置によって競争の制限がなくなるのであれば、これを受け付けない理由はない」(FTC)との発言がありました。

なお、別のセッションに出た方の話によると、「再販価格維持は最高裁が合理の原則に判例変更した後も実務家の多くは当然違法的発想であり、議会でも当然違法化する法律が成立しそうだ」とのことでした。

午後から、ある法律事務所のランチに招かれました。そこでのスピーチもとても興味深い話でしたが、独禁法に関係するところでは、今度引退するスティーブンス最高裁判事(90歳!)が、いかに反トラスト法の判例形成に貢献したか、彼の引退の影響は大きいであろう、というような話がありました。

そこで面白かったのは、「スティーブンス判事は、弁論で最初に質問することはなく、いつも他の判事の質問が終わったころに、『あまり本論とは関係ないかもしれない質問なんですけれど・・・』といって鋭い質問をするのが常で、代理人はスティーブンス判事が口を開くと、『ここからが本番だ』と思った」というような経験談がありました。

以上、3日間のABAでした。非常に盛りだくさんで、来年もまた来ようと思います。

2010年4月23日 (金)

ABA 2日目

午前中は、リニエンシーについてのセッションに参加しました。

4人のうち3人のパネリストは、リニエンシーがいかに画期的な制度で、如何にめざましい成果を挙げてきたかを中心に話されていましたが、マーク・レディー氏(クリアリー・ゴットリープ)だけが、リニエンシーの問題点を強調していたのがアメリカっぽくて印象的でした。

同氏によると、リーニエンシーの良くない点は、司法審査を欠いていること、被疑者はどうしても事実を拡大して話してしまうこと(2年も3年も前の会合の話を、さも記憶が鮮明であるかのように話してしまったり。confirmation biasとかover reportingという言葉で表現していました)、しかも経験の浅い検察官はそれを見抜けないこと、などでした。

同氏によれば、リニエンシーを採用する国が現在の50数カ国から100カ国とかそれ以上になれば、いつかどこかでこれらの問題点が無視できないようになるであろう、とのことでした。

また、リニエンシー自体の問題ではないものの、量刑ガイドラインのような一律の基準は問題がある、事情はケースごとに違うのだからケース・バイ・ケースで判断すべきだ、損害を二重、三重にカウントしてしまうことになる(たとえばオーストラリアで販売された部品が韓国へ転売されて完成品に組み込まれ、完成品がアメリカに輸出されたような場合、実質的には1つの行為に対して何重にも罰金を科すことになる)と指摘していました。

スプラットリング氏(ギブソン&ダン)は、多数の国でリニエンシーを申請することがいかに手間がかかり、そのため弁護士費用その他の費用(膨大な資料の翻訳など)が高額になるか、という問題点を指摘していました。そのような手間とコストを考えると、現実的には、米国、EC、カナダ、韓国、日本、ブラジル、など8カ国ぐらいが限度だろうということでした。

面白かったのは、リーニエンシー導入時は検察官も企業も同制度に懐疑的であって反対意見が強かった、ということでした。そういう話を聞き、また、リニエンシーが書面化されてから目覚しい成果を挙げるようになったという話を聞くと、よくいわれるような、「リニエンシーの成功には透明性と予測可能性が不可欠である」というお題目も、なるほどなぁと思えました。

午後からは、独禁法の近時のホット・トッピクを扱うセッションに参加しました。

まず、ヘルス・ケアがホットであるとのこと。特許紛争でブランド医薬品会社がジェネリック医薬品会社に対して、ジェネリック医薬品の製造を遅らせる代わりに和解金を支払うという、いわゆるリバース・ペイメントは当然違法であること、特許を通常の資産と同様に扱ってよいかという根源的な問題があること、病院の合併が多いが、病院のレバレッジの獲得は医療費の高騰に直結したり、医師のforeclosureが起きたりして問題である場合があること、病院の合併ではバンドリングなどの要素も考慮されること、などが紹介されていました。

次に、ライブネイションによるチケットマスターの買収の話題が取り上げられました。

ライブネイションはコンサートのプロモーションなどの大手で、チケットマスターはチケット販売の大手です。この事件は、垂直的統合の要素が非常に強いにもかかわらず、当局の異議は水平的要素(ライブネイションはチケット販売への有力な参入候補者であるという議論など)に集中していた点が特徴的だとのことでした。

背景として、この買収が発表されるずっと前(さらにHSRの申請のずっと前)から、買収のうわさが取りざたされており、折り悪く、そのうわさのある中でチケットマスターがブルース・スプリングスティーンのチケットを通常の定価で手に入る市場で販売せず、2倍、3倍するセカンダリー・マーケットで販売したことが世論の反発と当局の注目を浴びてしまったことなどがある、との指摘が面白かったです。

新合併ガイドライン案については、訴訟を意識した記載が増えている、との指摘がありました。

その他簡単に紹介されたケースを記すと、インテルのリベートの事件、プリンコ事件へのアミカス、リアルコンプ事件、ジョーンズ対ハリス事件など、です。

また私は参加していないのですが、模擬裁判のセッションがあり、参加した方から、「陪審員がいかに専門家証人を信用しないかには驚かされる。結局、陪審員にとっては専門家証人は当事者に雇われているに過ぎないからである。専門家証人に多額の報酬を支払っている当事者にとってはたまらないけれど」という話を聞けたのは興味深かったです。

それから途中参加のセッションでしたが、届出基準に満たない合併が審査の対象になることが、大きな問題らしいです。こういう合併でも顧客から文句が出て当局に発覚するそうです。原因として、経済分析を市場確定にもちいると市場が一般的な感覚よりも狭く画定される傾向がある(たとえば、お菓子市場ではなく、高級チョコレートチップクッキー市場、とか)ことが遠因ではないか、との指摘がありました。

2010年4月22日 (木)

ABA初日

ABA Spring Meeting の初日午前中はまず司法省のDeputy Assistant Generalによるブリーフィングに出席しました。

実は昨日、合併ガイドラインのドラフトが公開されており、やはりそれについての話題が多かったです。私はまだドラフトを読めていませんが、議論の要点は以下の通りです。

-新ガイドラインは現在の実務を反映するものであって、現在の実務からの乖離を意図するものではない。

-より高い透明性と、判断の背後にある考え方もわかることを目標としている。

-現行ガイドラインの、まず市場画定をしてから・・・というstep by stepのアプローチではなく、手続をフレキシブルなものとした。

-市場画定がまずありきではなく、市場画定は反競争的効果の分析の一要素に過ぎないことを明らかにした。

-新たに、アップワード・プライシング・プレッシャー(UPP)、マージンレシオ、ダイバージョンレシオ、クリティカルロス・アナリシスなどの経済分析が採用されているが、これらはスクリーニングの手段(違法要件)ではなく、違法性の一つの要素(indicator)に過ぎない。セーフハーバーでもない。

-構造的レメディーが中心。行為的レメディーは、構造的レメディーを補強するものであれば歓迎する。

もう1つの話題は、現在のDOJの刑事執行担当の責任者であるスコット・ハモンド氏によるカルテルに対する執行の説明がありました(ちなみに、彼は日本の公取委主催のセミナーでも見たことがありますが、ものすごい男前です。甘い声だし、ちょっとジョージ・クルーニーっぽいです)。

-引き続きカルテル執行は強めていく。

-国際カルテルに対する執行のコンバージェンスを目指していく。

-ただ、司法省は捜査権限と訴追権限の両方を有する当局として世界でもユニークな存在であることは認識している。

-国際カルテルに対する執行は、違反が海外で行われるので、いかに相手方国の協力を得て証拠を収集するかがポイントであると考えている。

-競争法の強化は世界的な潮流である。ICNによる調査でも、最近10年で刑罰を強化した国が大半である。盗聴を認めるようになった国もある(このような議論を聞いていると、カルテルは1つの行為の効果が世界中に波及することに特殊性があり、またそのために国際協力について各国当局に強いインセンティブがあることから、カルテルの国際執行の議論が国際刑事法や場合によっては国内刑法の議論を牽引していくのも自然な成り行きだなぁと感じます)。

それから、ガンジャンピングでスミスフィールドのケースが取り上げられました。

このケースは以前このブログでも説明しましたが、民事執行の責任者であるモリー・ボースト氏によると、このケースでは、通常のビジネスに属する事柄の、しかも売り上げに占める大きな割合が買収企業のコントロールに服したことがポイントである、とのことでした。

また購入の協調行為をガンジャンピングとして取り上げたケースとしては初めてのケースとのことでした。

その他、司法省の組織変更や、完了した企業結合やHSRの届出要件を満たさない企業結合に対する調査(最近話題で、実例も多いらしいです)、ライブネイションによるチケットマスター買収のケースの問題点(垂直的合併での水平的要素の考慮、バンドリング)、再販売価格維持、オラクルとサンのケース(EUは日程が融通が利かないので苦労したこと。EU当局とは毎日のように議論したこと)、グーグルブックに対する議論などが照会されました。

午後は合併ガイドラインについてのセッションに出てきました。

ありがたいことに、ガイドラインの全体像についての説明がありました。

要点は以下の通りです。

-HHIのセーフハーバーの基準が変わった。

-ダイバージョン・レシオについての経済学的説明(ダイバージョン・レシオというのは、商品1と商品2があるときに、(商品2の価格-商品1の価格)×(商品1の価格の変化に対する商品2の数量の変化の割合)を意味するそうです。こんどじっくりガイドライン案を読んでみます)

-買い手独占

-商品市場の画定も地理的市場の画定も、本質的には同じ作業である(白石先生がたびたびおっしゃっていることですね)

-部分的買収

-合併の分析における顧客の役割の重視

-経済分析は生の証拠(社内文書など)を補完するものであること。やはり生の証拠は大事であること

-SSNIPテストのベンチマーク価格は合併直前の価格であること

-クリティカルロス・アナリシスのは損益分岐点の発想であること

-行動経済学的発想(企業は必ずしも利潤の最大化を目指さないこと)

-2年以上かかる参入は競争圧力にならないこと

-UPPの下では低いマージンの産業でも狭い市場が画定されることがあること

なお、新ガイドライン案についてはウォールストリートジャーナルの朝刊でも紹介されていて、「新ガイドラインは、当局の立場からすれば現状の実務を明らかにするものに過ぎないということだろうが、企業の側からすれば、当局に手続き的な柔軟性があたえられるために、裁判所でガイドライン違反だと争うことがむずかしくなるだろう」という評価がなされていました。

2010年4月21日 (水)

ABA Antitrust Law Spring Meeting 2010

American Bar Association (ABA) の反トラスト法Spring Meetingに出席するために、今ワシントンDCに来ています。

DCは、2001年に留学で初めて降り立った、とても思い出深い町です。

その後も何度か来ていますが、その度に、当時のことを思い出し、新鮮な気分になれます。

何といっても日本の独禁法の母国であり、世界の競争法をリードしてきたのがアメリカです。そのアメリカの法曹の団体であるABAの大会、その中でも最大のイベントの1つである春季大会ですから、いろいろとためになる話が聞けるのではないかと期待しています。

今年も、司法省(DOJ)反トラスト局と連邦取引委員会(FTC)のトップがパネリストとして招かれています。

今日は時差ぼけの解消に努め、明日からに備えたいと思います。ではまた。

2010年4月19日 (月)

株式取得の場合の排除措置命令の名宛人

競争を実質的に制限することとなるような株式取得をすると排除措置命令を受けることがありますが(独禁法17条の2)、この場合に排除措置命令を受けるのは、株式取得会社だけです。株式発行会社(ターゲット)は、排除措置命令の対象になりません。

独禁法で禁止されているのは、株式の「取得」ですので、ターゲットは違反のしようがないので、命令の対象にもなり得ないわけです。この点、その他の企業結合の場合には両方の当事者が違反者となり、かつ排除措置命令の対象となるのと異なります。また当然のことですが、株式譲渡の際の株式の譲渡人は、違反者とはなり得ません。

言われてみればあたりまえのことですが、注意が必要です。

ちなみに、株式取得報告書の提出者は、株式取得者だけです(10条2項)。

これに対して、事前相談については、敵対的買収の場合を除いては、取得者とターゲットが一緒に相談に行くのが通常でしょう。

それでは、株式取得が独禁法違反であるとされた場合に、どのような排除措置命令がなされるでしょうか。

ここで、排除措置命令を受けるのは株式譲受会社のみです。

例えば、A社がB社の株式を第三者から譲り受けるとします。A社のa事業と、B社のb事業が競合しており、シェアが高くなり、競争上の問題があるとします。

このような株式取得の存在が後で公取委に分かった場合、公取委はどのような排除措置命令が出せるでしょうか。

最もオーソドックスなのは、取得した株式を売却せよという命令ですが、もしB社にb事業以外の事業があった場合、しかも株式取得の目的はb事業以外の事業であった場合、株式を売却せよという命令は何となく行き過ぎというか、的外れな気がします。

ではb事業を売却せよという命令を出せるか、というと、b事業を売却するかどうかを決めるのはB社です。

そして、前述のように、株式発行会社であるB社に対しては排除措置命令を出すことはできません。

というわけで、B社にb事業を売却せよとの排除措置命令は出せないことになります。

とすると、A社に対してa事業を売却するよう命じることになりそうです。

しかし、a事業の方がシェアが大きい場合、これは問題かも知れません。

例えば、a事業のシェアが40%、b事業のシェアが10%、という場合、A社にしてみれば、b事業は手放してもいいけどa事業は手放したくない、ということもあるかもしれません。

しかも、株式取得の結果B社がA社の100%子会社になっていれば、A社はB社に役員を送り込んで事業譲渡の取締役会決議をし、株主総会で賛成票を投じることによってb事業を売却してしまうことが可能ですし、公取委もそのようにせよという命令をA社に対して出せそうですが、b事業の譲渡にはB社の株主総会の特別決議が必要なので(会社法309条2項11号)、A社がB社の株式の3分の2を保有していない場合、A社がB社に無理矢理b事業を売却させることは不可能です。

とすると、A社は、b事業は手放してもよいと思っていたところ思いがけずa事業を手放すことになりかねませんし、公取委としても、本当はb事業を手放してくれれば十分なんだけれどそういう命令が出せないからa事業の譲渡を命じるほか無い、ということが起こりえます。

公取委に事前相談にいくかどうかは、このようなことまで考えた上で判断した方が良さそうです。

2010年4月18日 (日)

「不当な取引制限」と「不公正な取引方法」

独禁法を勉強し始めたころに引っかかりがちなのが、「不当な取引制限」と「不公正な取引方法」の区別です。

両者の概念は全く異なるのですが、どちらにも「不当」、「不公正」という似たような言葉と、「取引」という同じ言葉が入っていて名前が紛らわしいので、案外苦労する人も多いのではないでしょうか。

これらは独禁法上定義された用語なので、字面(じづら)をいくら眺めても意味は見えてきません。法律の定義に従って、そいういうもんなんだなぁと納得するしかありません。

しかも、とくに「不当な取引制限」の定義のほうですが、法律上の定義自体も、定義から何かが見えてくるというより、さきに「こういうものが独禁法違反なんだ」という確固たるイメージがあって、それを抽象的な文言で表現した、という感じの定義なので、余り良い定義ではないので始末が悪いです。

ざっくり言えば、「不な取引制限」が、いわゆるカルテルや談合のことで、競争者間(いわば、ヨコの関係)で競争を制限する合意を意味します。

これに対して、「不公正な取引方法」は、基本的にはタテの関係(取引をする者相互の関係)についての違法類型で、法律と一般指定で具体的に規定されているものです。再販売価格維持や不当廉売、優越的地位濫用などが、これに該当します。

いずれも元々のネーミングがいまいちなので、良い覚え方というのも思いつきませんが、「不当な取引制限」のほうは、ライバル間の合意なので、ライバル間には普通「取引」はなく、ここで「制限」されるのは、違反当事者とその取引先との「取引」です。

「(不当な)取引制限」というのは、事業活動の制限、くらいの意味で、典型的には、お互いに価格や産出量に制限を設けることだ、というくらいにイメージして下さい。英語では、「unfair restraint of trade」といいます。

なぜ「不当な」取引制限であって、「不公正な」取引制限ではいけないのか、「不当」と「不公正」で意味は違うのか、と悩んでも仕方ありません。法律で定義された用語である以上、「不当な取引制限」という用語を丸暗記するしかありません。

これに対して、「不公正な取引方法」のほうは、取引当事者間に加えられる制限なので、「(不公正な)取引方法」にいう「取引とは、まさに取引当事者間の「取引」です。英語では、「unfair trade practice」といいます。なぜ「不公正(unfair)」であって「不当な(unreasonable)」ではないのか、と字面を眺めて悩んでも、やはり答えは出てきません。

ところで、不当な取引制限の定義は、門外漢にはかなり不親切です。

2条6項では、

「この法律において「不当な取引制限」とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。」

と、細々とした例示列挙はあるものの、結局、「事業活動」の拘束であるかどうかが定義上のポイントなのですが、「事業活動」の定義は独禁法にはありません。

例えば、業界団体の会長選挙でライバル2社が協力して同じ候補者を押したら「事業活動」の拘束でしょうか。たぶん違うでしょう。

では、競争会社どおして、同じ時期に新株発行をすると市場でさばきにくくなるので時期をずらそうと合意した場合、「事業活動」の拘束でしょうか。新株発行のような資金調達も「事業活動」の一環といえそうですが、これを「不当な取引制限」に当たるという声も聞いたことがありません。なので、たぶん当たらないのでしょう。

では、私立大学同士で受験日程をずらすのは「事業活動」の拘束でしょうか。或いは、W大学の入学金の払込期限をK大学の合格発表の前の日に設定する(そのため、両方うかったらK大学に行くつもりの受験生も、K大学の合否が分かる前にW大学の入学金を払わざるを得なくなります)のは、「事業活動」の拘束でしょうか。いずれも、当たりそうに見えます。

・・・というように、不当な取引制限の定義だけを見ても、どのような行為が「不当な取引制限」に該当するのかは、実ははっきりしません。これは特に、非ハードコアカルテルと呼ばれるものについて顕著です。

つまり、文言上は、「事業活動」の拘束に該当するか否かで不当な取引制限か否かが決まるはずなのに、それでは決まらない、ということです。

一言で言えば、ここでの「事業活動」の拘束は、価格、数量、品質などに関わる拘束である、ということが、暗黙の前提になっているのです。

というのようなことは、独禁法を勉強してしばらくして分かってくるので、最初分からなくてもめげずに勉強して下さい。

2010年4月17日 (土)

問題解消措置を履行しなかった場合の制裁

企業結合が一定の条件付きで認められる場合があり、そのような条件を問題解消措置と呼びますが、この問題解消措置を履行しなかった場合、どのようなことになるのでしょうか。

代表的な企業結合である株式取得の場合で説明します(合併などその他の場合も似たり寄ったりでしょう)。

また前提として、株式取得会社は事前相談を済ませており、事前相談で申し出た問題解消措置を株式取得報告書に記載しているとします。実務では通常のパターンですね。

まず、問題解消措置に違反した場合に刑罰の適用はあるでしょうか。

無いと考えられます。届出義務違反についての刑罰は独禁法91条の2第3号と4号に規定がありますが、3号は、「届出をせず」又は「虚偽の記載をした届出書を提出した」ことが要件になっていますが、問題解消措置を履行しなかっただけでは「届出をせず」とはいえないことは明らかです。問題解消措置の不履行も「虚偽の記載」というには文言上無理があるでしょう。

4号は、30日の待機期間内に株式を取得した場合の罰則なので、やはり関係ありません。問題解消措置が取られる場合でも、株式取得そのものは30日の待機期間経過後にするからです。

では、排除措置命令についてはどうでしょうか。

10条9項1号では、株式取得の報告書に記載された問題解消措置が一定の期限までに行われることとされている場合には、10条9項柱書の事前通知の期限が適用されない(つまり無期限になる)としています。

ただ、それでは余りに法的安定性を害するということで、10条10項で、問題解消措置の実施の期限から1年以内に事前通知をしないといけないとされています。

さて、問題解消措置の内容が、例えば、「株式取得後1年以内に、株式発行会社の○○の事業を譲渡する」というような場合には、排除措置命令の事前通知の期限は、当該問題解消措置の実施期限から1年後、つまりここでは、株式取得後2年以内ということになります。

また、株式取得の前に事業譲渡することを要求されることもあります。欧米でいう「アップフロント・バイヤー(up-front buyer)」ですね。この場合の事前通知の期限については、例えば、「株式取得前に○○の事業を譲渡する」というような場合には、株式取得の日が問題解消措置の実施期限ですから、事前通知の期限は株式取得の日から1年以内ということになります。

したがって、問題解消措置を履行しなかった場合にどうなるのか、という問いに答えるならば、「株式取得報告書に記載した期限までに問題解消措置を実施しなかった場合には、当該期限から1年以内に排除措置命令を受ける可能性がある」ということです。

このように、一定期限までに事業譲渡をするというような問題解消措置なら分かりやすいのですが、問題解消措置には、例えば、同業他社にコストベースでの製品引取権を付与する、というようなものもあります。

このような、いわゆる行動的措置が株式取得報告書に「重要な事項」(10条9項1号)として記載されている場合に、それを守らなかった場合、排除措置命令の事前通知はいつまで出せるのでしょうか。

10条9項1号の文言は、問題解消措置の履行には一定の期限があることを前提にしており、コストベースの引取権のような、当事会社がずーっと義務を負い続けるような場合を想定していないように読めます。

そのため、条文を形式的に読むと、「重要な事項が当該計画において行われることとされている期限までに行われなかった(こと)」という要件にそもそも該当しない(「期限」が無い)、というように解釈できそうです。その結果、原則に戻って、30日の待機期間内に事前通知を出す必要がある、と解釈できそうです。

しかし、それは余りにも形式的な解釈に過ぎるでしょう。

やはり、コストベースの引取権のような問題解消措置の場合には、文言的にはちょっと苦しいですが、コストベースの引取権に違反して商品の引渡を拒絶したときから1年以内に限り、事前通知を出せると解釈すべきでしょう。

行動的措置は株式取得会社がずーっと義務を負い続けるもの、つまり無期限の義務だと考えると、問題解消措置の履行の「期限」が無期限で、無期限なものから1年後もやはり無期限ですから(∞+1=∞)、事前通知も無期限に出せると解するのが論理的ではありますが、それも余りに据わりが悪いので、違反してから1年以内と解しておきます。根拠は10条9項と10項の類推適用でしょうか。

では次に、問題解消措置を履行しなかった場合に出すことのできる排除措置命令とは、どのような内容でしょうか。

問題解消措置の内容そのままの排除措置命令(例えば一部の事業の譲渡)を出すことができることは、問題ないでしょう。

では、問題解消措置の内容を明らかに超えるような排除措置命令も出せるのでしょうか。

届出の時に「問題解消措置を取れば株式取得を認める」というお墨付きを得たのですから、問題解消措置を取らなかったからと言ってそれを超えるような排除措置命令(例えば、問題解消措置はコストベースの引取権で、排除措置命令は事業譲渡)が認められるのは腑に落ちませんが、問題解消措置と同じ排除措置命令(あるいはそれ以下の排除措置命令)しか出せないという法律上の根拠は無いように思われます。

ですので、基本的には、問題解消措置よりも重たい排除措置命令も可能といわざるを得ないと思われます。あとは、その排除措置命令が、「10条1項・・・の規定に違反する行為を排除するために必要な措置」(17条の2)であるか否か、というところで争うのでしょう。

しかしよく考えてみると、17条の2の排除措置命令は、10条1項という、競争を制限する株式取得をしたという実体的な違反に対する排除措置命令なのですね。

ここで問題にしているのは、問題解消措置の不履行という、いわば届出手続上の違反行為です。

そして、問題解消措置を履行すれば「競争を実質的に制限することとなる」(10条1項)までには至らないとは言えても、問題解消措置を履行しなければ必ず「競争を実質的に制限することとなる」とは言えないと思われます。当事会社は、ギリギリのレベルの問題解消措置を申し出てもいいですが、安全策で、ちょっと重めの問題解消措置を盛り込む(それによって公取委の審査をスムーズに進める)、ということも十分あり得ると思われるからです。

とすると、結局、問題解消措置を履行しなかったからといって、直ちに排除措置命令を受けるわけではなく、公取委は「競争を実質的に制限することとなる」ことを立証しなければならない、ということになりそうです。

かつてJALとJASが統合する際に、条件として運賃を上げないと約束したのが、燃料の値上がりを理由にあっさりと破棄されたのを公取が黙認した、ということがありましたが、「運賃を上げるな」という排除措置命令は、法律上も当然には出せないのですね。

このように考えていくと、問題解消措置の不履行に対して制裁金を課せる欧州のような制度のほうが、当局にとっては使い勝手が良い、ということが分かります。将来の検討課題でしょう。

2010年4月16日 (金)

セブン・イレブンへの排除措置命令に思う

セブン・イレブンがフランチャイジーに弁当の値引き販売を禁止したことが優越的地位の濫用にあたるとして公取委から排除措置命令を受けた事件がありました(平成21年6月22日公取委報道発表資料)。

http://www.jftc.go.jp/pressrelease/21index.html#Tuki06

この事件について、人気のポッドキャスト番組「日経ヴェリタス 大江麻理子のモヤモヤとーく」の文庫本に、興味深いことが書いてあります。

要約すると、以下のとおりです。

-セブン・イレブンは、天候等による弁当などの売上変動をPOSデータで詳細に管理している。

-それにより売れ残りをなるべく出さないのがセブン・イレブンのビジネスである。

-このようなデータも含め情報を提供する代わりに、売れ残りもなるべく出さないでくださいね、というのがセブン・イレブンのやり方であった。

-いったん値引き販売を認めると、無駄が出てもいいから余分に仕入れることなってしまい、かえってコストが膨らんでしまう。

-コストが膨らんだ分、値段も上げざるを得ない、ということになりかねない。

独禁法の分析をする際には、物の値段がどうやってきまるのかという仕組みを理解することが必要ですが、物の値段の決まり方は一筋縄ではいかないなぁ、と改めて感じる例です。

また、独禁法は、基本的には、当事者間の利害調整をすることが目的ではなく、競争を保護し、ひいては市場の参加者(特に消費者)に利益をもたらすことが目的なのですが、そもそも法律は紛争解決の道具である以上、どうしても紛争の場では紛争当事者の利害が正面に出てしまいます。

そうすると、当事者はそれでよいかもしれないが、実はそのツケは消費者が払わされる、ということが、実際に起こりえます。

どのような分野の法律であれ、おかしな判決が出ると取引社会全体に影響がでることに変わりは無いのかもしれませんが、独禁法は、そもそもの目的が競争の保護であって紛争当事者の保護ではないのですから、裁判官、公取委、弁護士などの実務家は、そのような副作用にはとくに注意をしなければならないと思います。

さて、上記で要約したようなセブン・イレブンの理屈が正しいのか、あるいは審判で争ったら認められるのかは、何ともいえないですが、法律家の発想からすると、「巡り巡ってコストが上がる」という理屈は、抽象的には理解できても、ある程度は厳密な因果関係が立証できないと、抗弁としては難しいかなと思います。

また、システム全体でみれば効率的であっても、一部そのシステムから取りこぼされる当事者(例えば、需要予測が困難な立地にあるため、どうしても定期的に弁当が売れ残ってしまうフランチャイジー。いつも売れ残る場合は、仕入れを減らせば済む話ですね)がいる場合、システムの効率性のおかげで消費者が利益を受けるんだからいいじゃないか、と割り切るのか、システムから落ちこぼれた当事者の救済を優先するのか、難しいところです。

ひとつ言えることは、仮に当事者の救済に偏して経済合理性の観点からみると間違った決定が下されても、当事者は、セカンド・ベストのオプションを考えてうまいことやっていくもんだ、ということです。

本件でも、公取委の決定のために消費者厚生が害された可能性はありますが、そういう命令が出た以上、セブン・イレブンは知恵を働かせて、新たなビジネスのやり方を考えて行くのだと思います。

2010年4月15日 (木)

下請法の罰則規定の不整合

下請法10条から12条に、下請法違反についての罰則の規定があります。

下請事業者に必要事項を記載した発注書面(いわゆる3条書面)を交付しなかった場合に、50万円以下の罰金に処せられることになっています(10条)。

ただ、下請法の両罰規定は、論理的にやや整理されていないように思われます。

まず10条では、

第十条  次の各号のいずれかに該当する場合には、その違反行為をした親事業者の代表者、代理人、使用人その他の従業者は、五十万円以下の罰金に処する。

 第三条第一項の規定による書面を交付しなかつたとき。 」

とされています。

素直な日本語の読み方になれていると、ここでの「その違反行為をした」を、直後の「親事業者」にかかると読んでしまいそうですが、そう読むと、「代表者、代理人、使用人その他の従業者」個人が違反行為をしたか否かにかかわらず、親事業者の従業員であれば誰でも罰則の対象になってしまい不自然です。

ですので、「その違反行為をした」は(さらに言えば、「親事業者の」も)、「代表者、代理人、使用人その他の従業員」にかかる、というふうに読むべきです。

したがって、親事業者社内で本来発注書面を交付すべき立場にあった従業員(例えば発注担当者)のみが、罰則の対象になる、ということになります。

親事業者の代表者も、社内でそのような立場にあったなら、罰則の対象になり得ますが、代表者個人がそのような立場にあることは稀でしょう。

以上より明らかなように、行為者である個人は、10条で処罰されることになります。

問題はここからです。

両罰規定である12条では、

第十二条  法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前二条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の刑を科する。」

とされています。

12条の規定振り自体はごく一般的な両罰規定なのですが、実はこのタイプの両罰規定では、「行為者〔=従業者個人〕を罰する(ほか)」という文言が、本来法人を名宛人とする違反規定の行為主体を広げる結果、自然人従業者を罰する根拠規定となると、判例上解されています。

例えば、独禁法の両罰規定である独禁法95条について、そのような趣旨の説明がなされています(「注釈独占禁止法835頁」)。

ですので、独禁法95条のような一般的な規定振りに慣れていると、下請法10条と12条のような規定の仕方は、ちょっと重複気味な感じがします。

しかし、「行為者を罰する(ほか)」という、とってつけたような文言を自然人行為者の処罰根拠にする判例の見解こそがおかしい、という立場に立てば、下請法の規定振りのほうが本来あるべき姿だということになるのでしょう。

ちょっと気になるのは11条の報告義務違反罪です。

11条では、

第十一条  第九条第一項から第三項までの規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者は、五十万円以下の罰金に処する。」

とされています。

しかし、9条の報告の名宛人は、条文上明らかに「親事業者」であって、従業員ではありません。つまり、従業員個人は、9条に違反しようがありません。

したがって、11条の、報告をしなかった者、というのは、法人たる親事業者のことであると考えざるを得ません。

そうすると結局、報告をしなかった親事業者の従業者(報告をすべき地位にあった者。報告には代表者名で回答するのが通常なので、代表者は当然含まれるでしょう)を処罰する根拠は、独禁法95条の解釈と同様に、12条の「行為者を罰する(ほか)」という文言に求めざるを得ないように思われます。

このように、11条、12条、13条の規定振りは、何となくちぐはぐした感じがします。

まとめると、

10条→発注書面等を交付しなかった個人の罰則、

11条→報告命令に応じなかった法人の罰則、

12条→10条違反については、法人の罰則、11条違反については、個人(と法人)の罰則、

ということになると思われます。

下請法違反で刑事罰が適用された事例は未だありませんが、将来の参考になればと思います。

2010年4月14日 (水)

私的独占と不公正な取引方法の切り分け

排除型私的独占ガイドラインをみると、一見、不公正な取引方法な取引方法に該当しそうな、以下の行為が私的独占の例として挙げられています。

①コスト割れ販売(ガイドラインの用語では、「商品を供給しなければ発生しない費用を下回る対価設定」)

②排他的取引

③抱き合わせ

④供給拒絶・差別的取扱い

①は、不公正な取引方法の1つである不当廉売(独禁法2条9項)と同じように見えます。

同様に、②は、排他条件付取引(一般指定11項)、③は、抱き合わせ(一般指定10項)、④は、単独の取引拒絶(一般指定2項)や差別対価(一般指定3項)と同じように見えます。

ここで、排除型私的独占ガイドラインの文言と不公正な取引方法の文言を読み比べて、①~④が対応する不公正な取引方法とどう違うのかを分析しても、意味はありません。

なぜなら、①から④の私的独占は、「競争の実質的制限」が要求される分だけ、「公正競争阻害性」で足りる不公正な取引方法よりも、反競争性が高い、というだけであり、両者が重なるのは当然のことだからです。

ざっくり言えば、弊害要件(反競争性)の点では私的独占の方が成立範囲が狭く、行為要件の面では構成要件がはっきりしている分だけ不公正な取引方法の方が狭い、といえます。

ただ、不公正な取引方法の行為要件も相当網羅的であるために、両者は行為要件の面では相当近づくので、私的独占のほうが反競争性が高い、という点が際立つことになります。

そうはいっても、平成21年改正で私的独占と不公正な取引方法とで課徴金の額に差がつきましたので、両者を区別する必要と実益がありそうです。

では、①~④の私的独占と、不公正な取引方法の違いはどこにあるのでしょう。

まず、①のコスト割れ販売については、何をもって「コスト割れ」の基準の「コスト」とみるか、については、私的独占と不公正な取引方法とで、違いはほとんどありません。

ですので、私的独占についてはシェア50%以上の者が優先的に摘発される(そう排除型私的独占ガイドラインに書いてあります)、その反面として、シェア50%未満の者は不公正な取引方法として処理される、ということになると予想されます。

これが紋切り型の説明でしょうけれど、例えば一地方のガソリンスタンドでの不当廉売のケースでは、仮に当該地方ではシェア50%超のガソリンスタンドが不当廉売をしても、これが私的独占で摘発されることは考えにくいと思います。

というのは、おそらく公取委が排除型私的独占ガイドラインで、シェア50%超の者を優先的に摘発すると言っている場合の「シェア50%超」というのは、業界を牛耳っている大企業をイメージしているように思われ、地方の小さな市場でシェア50%超の場合、そんな小さな市場での行為を「私的独占」という仰々しい名前で摘発するのは、公取委が躊躇する(あるいはそんな気はさらさら無い)のではないかと思うのです。

そこで、大雑把に言えば、全国シェア50%超の場合は私的独占、それ以外は不公正な取引方法、という切り分けになるのではないか、と思われます。

次に、②の排他的取引については、シェア50%超なら私的独占、それ以外なら不公正な取引方法、というのが紋切り型の説明ですが、①と同様、私的独占は、全国シェア50%の場合に限られると予想されます。

さらに、排他取引全般が私的独占で摘発されるとは考えにくく、ガイドラインでも具体例としてあげられている排他的リベートだけが私的独占として摘発されるのではないか、それ以外の排他取引は、不公正な取引方法に落とされるのではないか、と予想します。

次に、③の抱き合わせについては、主たる商品の市場支配力を梃子に従たる商品の市場での競争者を排除するような、いわゆる他者排除型の抱き合わせ(マイクロソフトがエクセル(主たる商品)にワード(従たる商品)を抱き合わせてワードのライバルの一太郎を駆逐するような行為)については、私的独占で処理されるように思われます。

これに対して、人気商品に不人気商品を抱き合わせるような不要品強要型の抱き合わせ(かつて、ガンダムのプラモデルが人気だった頃、ガンダムのプラモデルに人気のない別のプラモデルが抱き合わされていました)については、不公正な取引方法で処理されるように思われます。

最後に、④については、同じく全国シェア50%超なら私的独占、それ以外なら不公正な取引方法、ということになりそうですが、そもそも取引拒絶・差別的取扱いが反競争的でありうるのは特殊な場面に限定される(ガイドラインでは、マージンスクイーズの例が挙げられています)ので、一般的に「単に取引を拒絶しただけで独禁法違反」ということは、今後もないと思われます。

理屈を詰めれば、私的独占と不公正な取引方法の区別は「競争の実質的制限」と「公正競争阻害性」という反競争性の程度の違いに基づいて区別されるべきですが、そのような区別は、どれだけ緻密な経済分析をしても不可能です。

判例の競争の実質的制限の定義に厳密に従えば、シェア5割未満でも私的独占になっておかしくないはずであり、その反面、不公正な取引方法が空洞化してもよさそうなものですが、実務では私的独占は高尚なものと捉える向きが強いので、上述のような区別に落ち着くのではないかと予想します。

2010年4月10日 (土)

三角合併と企業結合の届出

普通の合併と三角合併をする場合で、独禁法の企業結合の届出にどう違いが出るかみてみましょう。

A社とB社が合併をするとします。A社が存続会社、B社が消滅会社とします。A社にもB社にもグループ会社はないとします。

この場合、A社の国内売上高が200億円超、B社の国内売上高が50億円超の場合に、合併の届出が必要になります(独禁法15条。A社が50億円超、B社が200億円超でも必要です)。

さらに、消滅会社であるB社の株主は存続会社であるA社の株式を取得するので、B社の株主の中に国内売上高200億円超の会社があって、当該株主がA社の株式の20%超、50%超を取得することになる場合は、株式取得の届出が必要になります(独禁法10条)。

さて、このようなA社とB社が合併をするのではなく、A社が100%子会社a社を設立してB社と吸収合併させ(B社が消滅会社)、B社の株主にA社の株式を取得させる、という三角合併をする場合、企業結合の届出は必要でしょうか。

まず、A社がa社を設立する段階では、企業結合の届出は要りません。確かにA社はa社の株式の100%を取得するのですが、a社は設立したばかりで国内売上高が無いので、株式取得の届出要件を満たさないからです。

(なお余談ですが、平成21年改正前には、会社設立と同時に全株式を取得する場合には株式取得の報告は要らないという明文の規定があったのですが、改正後はそのような規定はありません。たぶん新設会社には国内売上高が無いので届け出が必要になることはないから、そういう明文規定は不要と考えられたのでしょう。これに対して改正前は届出が総資産の額で判断されたので、新会社の設立の場合でも総資産規模要件を満たすことがいくらでもあったので、このような明文規定が必要だったのです。)

次に、a社とB社の合併について、合併の届出(15条)が必要になります。なぜなら、a社には国内売上高がありませんが、A社に国内売上高200億円超があるので、a社の「国内売上高合計額」(グループ会社全体の国内売上高のこと)は200億円超となり、売上げ規模の要件を満たすからです。

ここで、「三角合併も独禁法15条の『合併』なの?」と疑問を抱いてはいけません。独禁法に「合併」の定義はありませんが、少なくとも日本の会社については日本の会社法上の合併と同じ意味であると考えられ、会社法上の合併は対価が存続会社の株式に限らず、存続会社の親会社の株式が対価でもいい(三角合併)ので、当然、三角合併も独禁法15条の「合併」です。

最後に、消滅会社であるB社の株主のなかに国内売上高200億円超の会社があり、A社の株式の20%超、50%超を取得するものがある場合、株式取得の届け出が必要になります。普通の合併の場合と同じですね。

以上のように、普通の合併の場合と三角合併との場合で、企業結合の届け出には違いがない、ということになります。

2010年4月 9日 (金)

競業避止義務と独禁法

営業譲渡などの場合に譲渡人が競業避止義務を負うことはごく一般的なことなので、競業避止条項が独禁法に違反するなどというと、驚かれる方もいるかもしれません。

しかし、理屈の上では独禁法違反になり得ますし、公取委の相談事例にも違反とされた例があります。

平成17年度相談事例の2の事例です。

http://www.jftc.go.jp/soudanjirei/jigyosya/sonotaseigen2.html

事例はちょっと変わっていて、見本市の開催者(イベント会社でしょうか)が競争会社からイベントの「開催権」を譲り受けるに際して、譲渡側のイベント開催を制限すること(一種の競業避止義務ですね)は独禁法違反となる、としたものです。

競業避止義務というのは要するに、「一定の範囲の事業を行わないでね」、ということです。

つまり、もろに「競争しない」と合意しているわけです。理屈の上でこれが独禁法違反にならない理由はありません。競争者間ならなおさらです。

ただ、事業譲渡の場合であれば、譲渡後のHHIを算定する際に譲渡会社と譲受会社のシェアを合算するという作業をしますが、この作業の中に、「譲渡会社は同じ事業を行わない」ということが暗黙の前提として組み込まれていると言えます。

例えば、シェア1%のA社がシェア10%のB社に事業譲渡する場合には、譲渡後は、A社のシェア0%、B社のシェア11%、という前提でHHIを計算します。この、譲渡後のA社のシェア0%というのが、譲渡後は(競業避止義務があろうと無かろうと)A社は当該事業を行わないことを、すでに前提にしています。

したがって、このような前提で算定したHHIでOKな事業譲渡であれば、競業避止義務の部分だけが取り出されて独禁法違反になるということは、基本的にはないと思われます。

ただ、注意すべきは競業避止義務の範囲です。競業避止条項では、対象事業と同種の事業を行わないこととされますが、この「同種」を広げて解釈したり、「同種」といえないようなものまで競業避止義務の対象とすれば、企業結合規制とは別途、競業避止義務自体の独禁法違反が問題になり得ます。上記の相談事例も、そんな事例です。

世の中に普通に行われているから独禁法違反にならないだろう、という理屈は通用しません。特にシェアの大きい会社は、頭の片隅に、独禁法の方向から光を当てる発想を持っておくべきだと思います。

2010年4月 8日 (木)

独禁法の世界と慣性の法則

日頃から「なぜ独禁法は普通の法律家にとって分かりにくいのだろう」と考えることがあります。

その1つの理由が、独禁法の世界には、民法の世界のような「慣性の法則」がないからではないか、というものです。

つまりこういうことです。

我々法律家は、民法を勉強するときに、権利義務という道具を使って紛争(法律問題)を分析します。

つまり、まず権利義務の主体となる「人」(自然人と法人)というものがあり、人と人との間の関係をすべて権利義務として説明します。

イメージとしては、2人の人の絵を描いて、権利を有する人から義務を負う人に、びーーーーーっと権利の矢印を引く図をイメージして下さい。

複雑な事実関係も、すべてこの権利の矢印がどうなるのか(生じるのか、消えるのか、内容が変わるのか)に落とし込みます。

(こういう権利義務思考が独禁法には通じないことが、独禁法が分かりにくい理由の一つでもあります。)

そして、何もないところにいきなり権利は発生しません。さらに、こちらの方が重要ですが、いったん発生した権利が何もないのに消滅することもありません。

これを私は学生の頃、物理の力学の慣性の法則になぞらえて、「民法の世界の慣性の法則」と名付けました。

一度発生した権利は、例えば弁済とか免除とか時効とか、何らかの法律要件事実がないことには、あたかも摩擦抵抗のない世界ではボールが永久に直進し続けるように、永久に存在し続ける、というイメージです。(このイメージが頭に沸いたときは、頭の中のモヤモヤが一気に晴れて、どんな難問でも解けそうな気がしたものです)。

逆に、ボールに力が加わったとき(慣性が途切れたとき)にはボールの運動の向きが変わるように、法律要件事実が発生すると、世界が一変します。これは慣性の法則の裏返しです。

法律家の頭の中には、実は無意識に、この「慣性の法則」があるのではないか、という気がしています。

しかし、独禁法の世界には、このような「慣性の法則」がありません。

まず、何もしなくても状況が変わってしまいます。商品は同じでも、お客さんの好みが変わってシェアが落ちることもありますし、それによって違法だった行為が適法になることもあります。

つまり、独禁法の分析は、こういう移り変わる市場の様子をありのままで分析しなければならないのです。

民法の問題は、現実社会の紛争を分析するときも、頭の中では、純粋培養の「摩擦抵抗のない世界」を観念した上で分析できます。しかし独禁法の分析には、こういうやり方は通用しません。

慣性の法則が支配する民法の世界ではボールに力が加わると世界が一変する、といいましたが、この面でも独禁法の分析は異なるように思われます。

独禁法の世界では、何か事件(法律要件事実)があれば世界が一変するというイメージではなくて、例えば市場に対する影響があるか否かについても、ステップ・バイ・ステップで、ちょっとずつ分析を進めていくイメージです。

例えば不当廉売では、民法の分析のイメージでは、

コスト割れの販売(要件) → 競合他社の損害賠償請求権発生(効果)

というイメージですが、独禁法の分析のイメージは、

①コスト割れの価格の決定→②価格の発表→③需要者への価格の伝達→④店頭での販売開始→⑤1個目の販売→⑥2個目の販売・・・・→⑦競合他社からの客離れ→⑦競合他社の廃業→⑧廉売者による値上げ・・・

という感じです。そして、このうちどこで(しかも、「ここ」、という点ではなくて、「だいたいこの辺」という感じ)公正競争阻害性が発生したといえるのか、という分析の視点が必要な気がしています(ちなみに、recoupment必要説も、⑧の段階で反競争性が生じるというのではなく、⑧が生じそうなときには、④~⑦のどこかで反競争性が生じる、という立場だと理解しています)。

つまり、独禁法の分析は、常に移り変わっていく世界での因果の流れを緻密に追っていく必要があるように思うのです。事実を生のままに近い形で分析することが要求される、といってもいいかもしれません。

実は、このように一歩一歩(というより、1ミリ1ミリ)因果の流れを追ってく発想がないと、なぜ、どのように他社排除が生じるのか、あるいは何をもって反競争性ありとされるのか、よく理解できません。

さらに独禁法では、競争者や需要者を1人1人分析するのではなくて、その集合体である「市場」というものを分析することが要求されます。特に需要者が全体としてどのように行動するかはミクロ経済学を勉強するとイメージしやすいのですが、普通の法律家にはこれも大変で、ほとんど直感に頼った分析になってしまいます。

抽象的過ぎて分かりにくいですね。すみません。でも独禁法の世界の発想が民法をはじめとする普通の法律といかに違うかをあぶり出すために、今回は「慣性の法則」にスポットを当ててみました。

2010年4月 6日 (火)

インターネット販売に関する欧州ガイドラインの改正

2010年5月31日に現行の欧州委員会の垂直的契約一括適用免除規則が失効するのに備えて、改正一括免除規則の案と、改正ガイドラインの案が、昨年7月28日に公表されています。

(欧州委員会のホームページ http://ec.europa.eu/competition/index_en.html のプレスリリースのページで見られます。)

一括免除規則案のほうでは、例えばこういう条項を代理店契約に入れるとEC条約101条(以前の81条から番号が変わりました)に違反する、として、再販売価格維持や、積極的販売(active sales)の制限(後で説明します)などの条項が挙げられており(規則4条・ハードコア制限)、このようなハードコア制限が無い場合には、メーカーと販売店、いずれのシェアも30%を超えない限り、垂直的制限は競争法違反ではない、とされています(規則3条)。

ガイドライン案では、規則の内容を具体的に説明しています。

今回のガイドライン案での改正の1つに、インターネットを通じての販売行為に関する規定があります。

一括免除規則では、メーカーが地域制限や顧客制限を販売店に課す場合、積極的販売行為を禁止するのは構わないけれど、消極的販売まで禁止するのは行き過ぎなので、競争法違反になる、ということになっています。

積極的販売というのは、他の販売店のテリトリーに店を出したりチラシを配ったり、というように、販売店の側から積極的に売り込みに行くことです。

消極的販売というのは、他の販売店のテリトリーに住んでいるお客さんから引き合いがあった場合には売る(こちらからの売り込みはしない)、ということです。

積極的販売を無制限に認めるとテリトリー制が崩壊してしまうので禁止してもOKだけれど、消極的販売まで制限する(例えば、商品を売るときにお客さんの住所を確認して、テリトリー外のお客だったら断らせる)のは行き過ぎだろう、ということで消極的販売の禁止は違法とされます。

そこでインターネットを通じた販売活動の問題です。

ガイドライン案は、インターネット販売に関係する消極的販売の制限の例(つまり、これらの制限を課すとハードコア制限で違法)を挙げています。

①テリトリー外のお客さんから、販売店のホームページが見られないようにすること。

②テリトリー外のお客さんからホームページにアクセスがあったら、そのお客さんのテリトリーを担当する別の販売店のホームページに飛ばすようにすること。

③クレジットカードの住所からお客さんの住所がテリトリー外だと分かった場合に、注文を断らせること。

④インターネットを通じての販売を、全販売の一定割合に制限すること。

⑤インターネットで販売する場合には、そうでない場合よりも高い値段で卸すこと。

②は、例えばフランスのお客さんがドイツの販売店のサイトにアクセスしようとしたら、自動的にフランスの販売店のサイトに行くようにする、というものです。

確かに外国の会社のホームページを見ようとして「.com」のアドレスを入れたら、同じ会社の「.co.jp」のアドレスに飛ばされて「あれっ?」と思うことがありますが、アクセスするサーバーの場所によって振り分けられているのですね。

ただ、この②の制限は、ドイツとフランスの販売店が別法人である場合に問題になるのであって、例えば日本企業が欧州で代理店を1社だけ任命していて、その代理店が各国語のホームページを運用しているような場合に、ドイツの顧客からフランス語のページにアクセスがあったときにはドイツ語のページに飛ばす、というのはOKだと思われます。

直接契約している代理店が欧州で1社で、その100%子会社がドイツとフランスにある、という場合でも同様で、ドイツからのアクセスをフランス子会社のページに飛ばすのは問題ないと思われます。

⑤については、インターネットで販売する場合には販売店もコストが安上がりなんだから、メーカーの立場からすればその分高く仕入れて欲しい気もしますが、インターネット販売分だけ高く卸す実際の動機は、「インターネットでたくさん売ると値崩れするから、できるだけインターネットでは売らないでね」ということが多いでしょうから、一律違法というのも、やむを得ない気がします。

欧州で代理店を使って商売をしている日本企業は、新規則と新ガイドラインが施行される6月1日までに、代理店契約の内容をチェックしておく必要があります。

2010年4月 5日 (月)

独禁法の「事業者」の英訳について

公取委の英語版のホームページには、独禁法全文の英訳がアップされています。

http://www.jftc.go.jp/e-page/legislation/index.html

同じ独禁法の英訳は、政府の「日本法令外国語訳データベースシステム」でも手に入ります。

http://www.japaneselawtranslation.go.jp/

しかし、この独禁法の翻訳は、政府の法令英訳プロジェクトが始まるずっと前になされたものを元にしており、あまり出来が宜しくありません(翻訳した方、すみません)。

中でも気になるのが、「事業者」の英訳です。

独禁法の英訳では「事業者」を「entrepreneur」と訳しているのです。

しかし、entrepreneurの意味は、

"someone who starts a company, arranges business deals, and takes risks in order to make a profit" (利益を得るために、会社を興し、事業を取り纏め、リスクを取る者)(ロングマン現代英英辞典)

であり、日本語で言えば「起業家」です。

一応、政府の公定訳なので、この訳語を使わざるを得ないのですが、はっきりいって誤訳だと思います(うちの事務所の外国人ローヤーに見てもらうと、ほとんど必ず直されます)。しかも頻繁に登場する用語なので、目立ちますし。

なので、英文メモを書くときは、条文を引用するのでない限り、私は"company"とか"business"とか、適当に訳すか、できるだけ「事業者」に相当する用語を使わないで済むように書いています。

ちなみに、上記の日本法令外国語訳データベースシステムの辞書検索で「事業者」を引くと、business operatorが1番目に出てきます。こちらの方がまだしっくり来ますね。

確かに翻訳の継続性ということも大事ですから簡単には直せないのも分かりますが、翻訳が修正された例が過去にないわけでもありません。

昔見つけたのに、独禁法47条1項(強制調査の条文です)に、

「公正取引委員会は、事件について必要な調査をするため、次に掲げる処分をすることができる。 」

とあるのを、古い翻訳では、

「The Fair Trade Commission may, in order to conduct the necessary investigation with regard to a case of violation, take the following measures:」

と訳されていたのが、いつの間にか、

「The Fair Trade Commission may, in order to conduct necessary investigation with regard to a case, make the following measures:」(現在の英訳)

と、violationという単語が無くなっていました。

プリントアウトした1つめの古い翻訳を(当時はそれが最新のものと思いこんで)見ていたときには、

「47条の『事件』は違反事件(case of violation)という意味で、公取委は違反の事実が無い限り強制調査はできないという前提でこの翻訳をしたのかなぁ。確かに、『事件』っていう日本語は、普通は違反があった場合を意味するよなぁ」

と思っていたのですが、念のためホームページで最新版をチェックしたらviolationが無くなっていてびっくりしました。

このように、こっそり翻訳を修正した例は過去にもあるわけで、是非、「事業者」も business operator あたりに直して欲しいものです。

2010年4月 4日 (日)

どのようにして独禁法違反を防ぐか。

コンプライアンス(法令遵守)がきっちりしていると定評のある会社でも、独禁法違反の疑いで公取委から調査を受けたりすることがあります。

なぜ独禁法違反が発生してしまうのでしょうか。

恐らく独禁法の場合、カルテルや談合の場合を除いて、違法という認識なしに違反を犯している場合が多いのではないかと思われます。

またカルテルの場合でも、場合によっては営業担当者が「自分のやっていることはカルテルじゃない」と都合の良いように解釈していることがあります(人間、何でも自分の都合の良いように解釈するものです)。

このように、知らずに独禁法に違反してしまう大きな理由は、どのような行為が違反になるのか明らかでないという、独禁法特有の事情があるように思われます。

例えば、メーカーが、販売店が出す広告に価格を表示しないように要求する行為は拘束条件付取引に該当する可能性がありますが、一般指定をみてもそこまで具体的には書いてありませんし、むしろ価格を表示しないことというのは、拘束条件付取引が競争を制限する、他者排除(≒流通網の独り占め)と競争停止(=小売店間の競争の停止)という2パターンの典型例に当てはまらないようにすら見えます。

(なお、価格表示の禁止は、どの小売店の価格が安いか一見して明らかでなく、お客さんはいちいちお店に行くか電話で値段を聞くかしないといけなくなるので、価格の安い小売店にお客さんが流れることを妨げる効果があり、競争停止の一種といえます。)

ここで、価格の表示を禁止することが独禁法違反とされた事例やガイドラインを知っていれば、うっかり違反することはないかもしれません。

あるいは、「メガネやコンタクトレンズの価格を広告に載せることを禁止しているアメリカの州では禁止していない州より価格が高い傾向がある」という実証研究を聞いたことがあれば、価格の表示を禁止すると価格が維持されるおそれがあるのだなぁ、とひらめくかも知れません。

しかし、一般の営業の方にそこまでの知識や想像力(直感)を求めるのは難しいでしょう。だからこそ各社の営業パターンに即したコンプライアンス研修が必要なのです。

さらに、普通にビジネスをしている中で起こりうるところに、独禁法違反の一つの特徴があるように思います。

例えば、インサイダー取引は限界が微妙な法律違反の例ですが、普通に社員が仕事をしている中でうっかり違反をするようなたぐいのものではありません。

これに対して、例えば前述の広告への価格表示を禁止する例では、メーカーが小売店の広告を見て積極的に(電話や文書で)修正を依頼したというのではなく、小売店からメーカーへの通常の広告案の承認申請手続の中で、メーカーが、広告のロゴや色遣いの修正と同じ感覚で、価格の表示を消しただけなのかもしれません。

このように、独禁法違反は日常のビジネスのプロセスの中で、しかも多くの場合契約書とは関係無しに起こるので、仮に契約書については法務部が全部目を通すという体制であっても、独禁法違反は法務部の目を通りにくいのではないかと思われます。

そこで、違反が実際に起こってしまった場合には、なぜ法務部の目をすり抜けてしまったのかというプロセスを徹底的に分析することが重要だと思います。

さらに、独禁法は競争に関する一般法であって業種によって色が付いていないだけに、どうしてもイメージに残りにくく、社員の意識の中では後回しにされるように思われます。

例えば、消費者金融であれば貸金業法、マルチ商法の会社であれば特定商取引法というように、社員も自分の業界に関係のある法律だと明確に認識している法律であれば、コンプライアンス研修をやっても頭に残ります。

これに対して独禁法を肌身に滲みて自分の会社の問題と考えているのは、公共工事がメインの収入源である会社や、過去に何度も違反している会社くらいではないかと思います。

ですので、独禁法のコンプライアンス研修は、他の法律の研修にも増して、各社ごとにカスタマイズすることが重要です。そうしないと、「うちの会社には関係ないなぁ」という反応になり、その瞬間、何を言っても頭に残らなくなります。

また、努力の甲斐無く違反が生じてしまった場合でも、公取委の調査にまで至らないような方策を考えてみるのも有益でしょう。

公取委の調査は取引先からの申告から始まることが多いので、取引先向けのホットラインを設置して違反に関する情報を吸い上げ、公取委に申告される前に自浄することが考えられます(取引先は、社員以上に情報漏洩を懸念するでしょうから、ホットラインには弁護士を使った方が良いでしょう)。

独禁法違反を100%防ぐことは決して不可能ではありません。何事も不可能と考えたとたんに、新たなアイディアは浮かばなくなるのだと思います。

2010年4月 3日 (土)

「価格が維持されるおそれ」の判断要素としてのブランド間競争

流通取引慣行ガイドラインの非価格制限(地域制限など)の違法基準として、「当該商品の価格が維持されるおそれがある場合」というのが示されていますが、その判断要素として、

①ブランド間競争の状況(市場集中度、商品特性、製品差別化の程度、流通経路、新規参入の難易性等)、

②ブランド内競争の状況(価格のばらつきの状況、流通業者の業態)、

③制限対象の流通業者の数及び市場における地位、

④制限が流通業者の事業活動に及ぼす影響(制限の程度・態様等)

というのが挙げられています。

しかし、これらの要素がどのように価格維持に繋がるのかという仕組みが分からないと、実際の当てはめが困難です。

例えば、①の「市場集中度」でいえば、市場集中度が高いほど価格維持のおそれが大きいことは常識的に理解できますが、ではどの程度の市場集中度であれば、独禁法上違法と評価されるような「価格維持のおそれ」があるのか、という問題に関しては、ガイドラインは何も答えを与えてくれません。

実はこの辺りの勘所を掴むのにミクロ経済学の知識が有用なのですが、ここでは、①のブランド間競争について挙げられている要素について、私なりの考え方を述べておきます。

まず「市場集中度」について。

「市場集中度」の場合に限りませんが、「価格維持のおそれ」があるか否か(あるとしてその程度)は、当該商品の需要の価格弾力性に決定的に依存します。

つまり、需要が弾力的な場合(=価格がちょっと上がっただけで需要が一気に減るような商品の場合。無ければ無しで済むような、例えばお酒などでしょうか)には、価格維持のおそれは小さいといえます。よって、独禁法上違法となる可能性は小さくなります。

逆に、需要が非弾力的な場合(=価格が上がっても、需要は大して減らないような商品の場合。雪国での灯油代など、生活必需品のイメージです。)には、価格維持のおそれは大きいと言えます。この場合、独禁法上違法となる可能性が高くなります。

なので、どの程度の「市場集中度」であれば「価格維持のおそれ」ありとなるのかも、需要の弾力性を頭の片隅において考える必要があります。

そして、寡占モデルのクールノー競争(産出量による競争。超過利潤が最大になります。)とベルトラン競争(価格による競争。超過利潤はゼロになります。)とを両極端に置いて、需要の弾力性も頭の片隅に置きつつ、現実の市場での超過利潤はどの程度かなぁ・・・とイメージしながら、「価格維持のおそれ」も大してないのかなぁ、などと考えます。

次に、「商品特性」について。

これは正直意味がよく分かりません。この次に差別化のことが書いてあることからすると、差別化のことは除くようなので、ひょっとしたら需要の弾力性のことかもしれません。いずれにせよ、よく分からないのでパスです(笑)。

次に、「製品差別化の程度」について。

差別化についてもミクロ経済学でモデル化されているので、それを勉強するとイメージが沸きやすいのですが、例えばA社の商品とB社の商品が差別化がされていると(例えば、壊れにくいけどデザインは野暮ったいA社のパソコンと、デザインはピカイチだけれど壊れやすいB社のパソコン)、それぞれの会社が直面する需要曲線は右下がりになり、わずかながらも限界費用より価格を上げることができるようになります。

このようなことが起こるのは「特にA社の製品を好む人」、「どちらかというとA社の製品を好む人」、「どちらでも良いので値段の安い方を選ぶ人」、「どちらかというとB社の製品を好む人」、「特にB社の製品を好む人」というように、いろんな嗜好を持った需要者が市場にいるためです。

このように、市場に色々な嗜好を持った需要者がいることをイメージしながら、「この程度の差別化だったら、これくらい値段を上げたらこれくらい他社製品に客が流れるから、価格維持のおそれはある(または、ない)」と考えます。

次に、「流通経路」について。

これも正直よく分かりませんが、ブランド間競争の文脈で問題にしているのですから、例えば流通段階の寡占度を問題にしているのかもしれません。あるいは流通の系列下が進んでいる場合には価格維持のおそれが大きいということかもしれません。

次に、「新規参入の難易性」について。

新規参入が容易か否かは、理屈の上では、価格維持のおそれの有無を判断する上で決定的に重要です。メーカーの流通業者に対する拘束により価格が維持されても、新規参入が速やかに起こるのであれば、維持された価格は速やかに競争レベルに戻るからです。

このように、理屈の上では最も重要な「新規参入」が最後に来ているのは、きっと日本の現状(少なくとも流通取引慣行ガイドライン制定時の現状)では新規参入が容易なことなんてあまりない、という認識の表れなのかもしれません。

最後に、「等」について(笑)。

ブランド間競争の程度を計る物差しのバスケット条項なので、いろいろ考えられますが、例えば、乗り換えの容易性(乗り換えが容易なほど競争が激しい)、モデルチェンジの頻度(頻繁なほど競争が激しい)、技術革新の活発さ(活発なほど競争が激しい)、耐用年数(長いほど競争が緩い)などでしょうか。

こんなイメージだけでは具体的なケースを判断することはできないのですが、ただ要素を列挙するだけよりは何らかの足しになるかなと思い、私なりのイメージのふくらませ方を記した次第です。

また漠然としたイメージだけでは微妙なケースの判断はできないのですが、少なくとも明らかに大丈夫なケースは明らかに大丈夫と自信を持って言えるようになりますし、大丈夫というためにはどの辺に目を付けたらいいかという勘所も身に付くと思います。

2010年4月 2日 (金)

なぜ再販売価格維持は違法なのか?

再販売価格維持(再販)は原則として違法などといわれることが多いので、なぜ違法なのか、というようなタイトルを付けると「何を今さら」と言われそうですが、この点についてはよく考えてみる必要があります。

一般向けに分かりやすいためにしばしばなされる説明が、小売店などの自由な意思決定を拘束するからだ、というものです。

しかしこの説明の問題点は、小売店全員が再販に喜んで従っている場合には、誰の「自由な意思決定」も侵害していないので、再販が違法になる根拠がないことになってしまうことです。

さらに問題なのは、このような全ての小売店が喜んで従っている場合(いわば鉄壁の再販)の場合こそ、もっとも消費者が受けるダメージが大きいということです。

小売店の自由な意思決定の侵害を再販の違法性の根拠にする見解では、このような消費者のダメージが最も大きい場合に違法性の根拠がない、ということになってしまいます。

ですので、再販の違法性の根拠は、端的に、小売価格統一のために小売店間の競争が停止されることに求めるべきです。これが現在の学説の標準的な立場だと思いますし、公取委の運用も、実際にはこの立場に立っていると思われます。

小売店間の競争の停止による競争減殺(競争が減ること)を違法性の根拠にする考え方であれば、「メーカーのシェアにかかわらず再販は違法だ」などという極端な結論にはならないはずです。例えばシェア1%のメーカーが再販を行っても、ブランド間競争が活発であれば、市場の競争に与えるインパクトは微々たるものだからです。

小売店の自由な意思決定の侵害を根拠にする学説は、「小売店は何も縛らなければ自由に競争するはずだ」という、ある意味の性善説を前提にしているように思われますが、現実の世の中はそれ程単純ではありません。むしろ、本音ではできれば競争したくないと考える小売店の方が多いのではないか、と思います。

欧米では、再販はメーカーと小売店の合意であると考えられているので、小売店が喜んで再販に従っている場合(合意がある場合)でも、違法とすることに問題はありません。

これに対して、日本では、メーカーによる小売店の「拘束」ということになっているので(独禁法2条9項4号)、自由な意思決定の侵害を重視する発想が強くなってしまうのかも知れません。

確かに理念的には、事業者の自由な意思決定が公正な競争の不可欠の前提であるというのは理解できますが、理念上の説明道具を実務上の違法要件(しかも十分条件)であるかのように考えると、何でもかんでも違法という、とんでもないことになります。逆に、必要条件と考えると、小売店全員が満足している再販は違法でないということになり、これまた不都合です。

このような、必要条件でも十分条件でもないものは、結局、違法性判断のための諸般の事情の1つに過ぎないのであり、また、そのウェイトはかなり低いと感じています。

実務家としては、理念的な議論はそのようなものだと割り引いて考え、それにあまり引きずられないようにすることが大事だと思います。

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