ABA 2日目
午前中は、リニエンシーについてのセッションに参加しました。
4人のうち3人のパネリストは、リニエンシーがいかに画期的な制度で、如何にめざましい成果を挙げてきたかを中心に話されていましたが、マーク・レディー氏(クリアリー・ゴットリープ)だけが、リニエンシーの問題点を強調していたのがアメリカっぽくて印象的でした。
同氏によると、リーニエンシーの良くない点は、司法審査を欠いていること、被疑者はどうしても事実を拡大して話してしまうこと(2年も3年も前の会合の話を、さも記憶が鮮明であるかのように話してしまったり。confirmation biasとかover reportingという言葉で表現していました)、しかも経験の浅い検察官はそれを見抜けないこと、などでした。
同氏によれば、リニエンシーを採用する国が現在の50数カ国から100カ国とかそれ以上になれば、いつかどこかでこれらの問題点が無視できないようになるであろう、とのことでした。
また、リニエンシー自体の問題ではないものの、量刑ガイドラインのような一律の基準は問題がある、事情はケースごとに違うのだからケース・バイ・ケースで判断すべきだ、損害を二重、三重にカウントしてしまうことになる(たとえばオーストラリアで販売された部品が韓国へ転売されて完成品に組み込まれ、完成品がアメリカに輸出されたような場合、実質的には1つの行為に対して何重にも罰金を科すことになる)と指摘していました。
スプラットリング氏(ギブソン&ダン)は、多数の国でリニエンシーを申請することがいかに手間がかかり、そのため弁護士費用その他の費用(膨大な資料の翻訳など)が高額になるか、という問題点を指摘していました。そのような手間とコストを考えると、現実的には、米国、EC、カナダ、韓国、日本、ブラジル、など8カ国ぐらいが限度だろうということでした。
面白かったのは、リーニエンシー導入時は検察官も企業も同制度に懐疑的であって反対意見が強かった、ということでした。そういう話を聞き、また、リニエンシーが書面化されてから目覚しい成果を挙げるようになったという話を聞くと、よくいわれるような、「リニエンシーの成功には透明性と予測可能性が不可欠である」というお題目も、なるほどなぁと思えました。
午後からは、独禁法の近時のホット・トッピクを扱うセッションに参加しました。
まず、ヘルス・ケアがホットであるとのこと。特許紛争でブランド医薬品会社がジェネリック医薬品会社に対して、ジェネリック医薬品の製造を遅らせる代わりに和解金を支払うという、いわゆるリバース・ペイメントは当然違法であること、特許を通常の資産と同様に扱ってよいかという根源的な問題があること、病院の合併が多いが、病院のレバレッジの獲得は医療費の高騰に直結したり、医師のforeclosureが起きたりして問題である場合があること、病院の合併ではバンドリングなどの要素も考慮されること、などが紹介されていました。
次に、ライブネイションによるチケットマスターの買収の話題が取り上げられました。
ライブネイションはコンサートのプロモーションなどの大手で、チケットマスターはチケット販売の大手です。この事件は、垂直的統合の要素が非常に強いにもかかわらず、当局の異議は水平的要素(ライブネイションはチケット販売への有力な参入候補者であるという議論など)に集中していた点が特徴的だとのことでした。
背景として、この買収が発表されるずっと前(さらにHSRの申請のずっと前)から、買収のうわさが取りざたされており、折り悪く、そのうわさのある中でチケットマスターがブルース・スプリングスティーンのチケットを通常の定価で手に入る市場で販売せず、2倍、3倍するセカンダリー・マーケットで販売したことが世論の反発と当局の注目を浴びてしまったことなどがある、との指摘が面白かったです。
新合併ガイドライン案については、訴訟を意識した記載が増えている、との指摘がありました。
その他簡単に紹介されたケースを記すと、インテルのリベートの事件、プリンコ事件へのアミカス、リアルコンプ事件、ジョーンズ対ハリス事件など、です。
また私は参加していないのですが、模擬裁判のセッションがあり、参加した方から、「陪審員がいかに専門家証人を信用しないかには驚かされる。結局、陪審員にとっては専門家証人は当事者に雇われているに過ぎないからである。専門家証人に多額の報酬を支払っている当事者にとってはたまらないけれど」という話を聞けたのは興味深かったです。
それから途中参加のセッションでしたが、届出基準に満たない合併が審査の対象になることが、大きな問題らしいです。こういう合併でも顧客から文句が出て当局に発覚するそうです。原因として、経済分析を市場確定にもちいると市場が一般的な感覚よりも狭く画定される傾向がある(たとえば、お菓子市場ではなく、高級チョコレートチップクッキー市場、とか)ことが遠因ではないか、との指摘がありました。
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