「外交上の経路」と領事送達
独禁法上の排除措置命令や報告命令を海外に送達する場合にも「民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約」(送達条約)が関係しうることは以前に書きましたが、海外送達について調べ物をしているとよく出てくる言葉に「外交上の経路(による送達)」というのがあります。
この「外交上の経路」(diplomatic channel)というのは、条約や法律に具体的な定義もないことから、混乱を生じかねない用語です。
具体的には、領事送達を外交上の経路による送達であると誤解してしまう(あるいは外交上の経路による送達と呼んでしまう)ことです。
条約上の用例をみると、例えば送達条約9条1項では、
「各締約国は・・・他の締約国の指定する当局に対し送達又は告知を目的として裁判上の文書を転達するため、領事官の経路を用いることができる。」
としています。
続いて同条2項では、
「各締約国は、特別の事情がある場合には、前項の目的と同様の目的のため外交上の経路を用いることができる。」としています。
つまり、「領事官の経路」と「外交上の経路」は、相対立するもの、別物として扱われています。
「外交上の経路」というのは、言葉の素直な意味からしても、お互いの外交を担う当局(日本で言えば外務省)を通して、というくらいの意味ですから、外交上の経路による送達といえば、日本の外務省から、相手国の外務省に相当する官庁にお願いして、相手国のしかるべき機関に送達をしてもらう、ということになります。
これに対して領事送達の場合は、送達するのはあくまで自国の在外領事自身です。例えば日本の訴状を米国内の被告に送達する場合には、アメリカにいる日本の領事が送達を行うことになります。日本の外務省が米国の国務省に送達を依頼するわけではありません。
領事も外交に関係しているような漠然としたイメージがあるので、領事送達も外交上の経路による送達の一種であると考えてしまいがちなのですが、そうではありませんので、注意が必要です。
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