« 直近親会社は複数存在するか。 | トップページ | 企業結合の届出書における「同種の商品または役務」の定義の変更 »

2010年3月 8日 (月)

連結財務諸表による株式発行会社の国内売上高算定の疑問点

平成21年改正によって、株式取得の発行会社側の規模要件として、発行会社とその子会社の国内売上高(50億円超)が採用されました。

国内売上高の定義は「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第九条から第十六条までの規定による認可の申請、報告及び届出等に関する規則」(届出規則)2条にあるのですが、実際にこの定義に従って国内売上高や国内売上高合計額(=グループの売上)を計算するのは大変なので、連結財務諸表提出会社の場合には、連結損益計算書の売上からセグメント情報に記載される海外売上高を控除した額を国内売上高合計額とすることができます(届出規則2条の3)。

さて、国内売上高合計額(=グループの売上)の算定に連結損益計算書を用いる場合には、当該連結財務諸表提出会社が他の連結財務諸表提出会社の子会社ではないことが必要であるとされています(届出規則2条の3第1項1号~3号の各柱書き)。

これは恐らく、当該連結財務諸表提出会社にさらに親会社があるのであれば、当該親会社の連結損益計算書(=グループの一番頂点の親会社の連結損益計算書)を使いなさい、という趣旨なのでしょう。

別の言い方をすれば、グループの中で複数の連結財務諸表提出会社がある場合には、一番上の連結財務諸表提出会社の連結損益計算書だけを用いることができるのであり、アドホックに下のレベルの連結財務諸表提出会社の連結損益計算書をつなぎ合わせることはできない、ということなのでしょう。

国内売上高合計額(=グループの売上)の算定については、以上の理屈も理解できなくはありません。

しかし、実はまったく同じ制限が、株式取得の場合における株式発行会社の国内売上高の算定についても定められています。

すなわち、届出規則2条の4では、株式発行会社とその子会社の国内売上高の原則的な算定方法が定められており、2条の5では、連結財務諸表提出会社がある場合の発行会社とその子会社の国内売上高の算定方法が定められています。

そして、連結財務諸表を用いる場合には、当該連結財務諸表提出会社は、他の連結財務諸表提出会社の子会社であってはならない、とされています(2条の5第1項1号~3号各柱書き)。

しかし、発行会社に親会社が存在するからといって発行会社自体の連結損益計算書を使えなくなるというのはおかしいと思います。

確かに、合併等で企業結合集団の売上を求める場合には、グループの下のほうレベルで連結損益計算書をアドホックに継ぎはぎして国内売上高の合計を算定するというのはいかがなものかと思いますが、株式取得の場合には、発行会社が国内売上高算定のピラミッドの頂点になるのですから、発行会社のさらに上に親会社がいようといまいと、発行会社の連結損益計算書による国内売上高の合計額の算定を認めるべきです。

2条の3の文言をそのまま2条の5に使ったのでこういう問題が生じたのではないかと思われますが、公取委には、ぜひ、届出規則を改正していただきたいと思います。

仮に株式発行会社に親会社がある場合に発行会社の連結損益計算書を用いられない何らかの理由があるとしても、独禁法の株式取得の届出制度の趣旨は一定のサイズの企業結合はひとまず届けさせて問題がありそうだったら実質審理するということなのですから、些細な理由で発行会社の連結損益計算書を使わせないというのは、いたずらに手間が増えるだけで実益が無いと思います。

と、立法論(規則改正論?)をいっても実務家としては無責任なので、私なりに現実的な解決方法を申しますと、発行会社に親会社がある場合でも、発行会社の連結損益計算書を用いて算定した国内売上高は、届出規則2条2項(=2条1項で算定できない場合の救済規定)で幅広く救うような運用をしていただくよう、公取委と交渉すべきと考えます。

もともと届出規則2条2項が、1項で算定できないときに限って救済しているのもやや硬直的であり、本来は、1項と2項とでより信頼性が高そうなほうを用いたほうが結論的にも妥当なはずです(いい加減に1項で算定するくらいなら、いろいろ工夫して2項の精度を上げるべき)。

そのようなことも踏まえ、ぜひ、発行会社の連結損益計算書を用いた売上高の算定を幅広く認めていただきたいものです。

« 直近親会社は複数存在するか。 | トップページ | 企業結合の届出書における「同種の商品または役務」の定義の変更 »

2009年独禁法改正」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 連結財務諸表による株式発行会社の国内売上高算定の疑問点:

« 直近親会社は複数存在するか。 | トップページ | 企業結合の届出書における「同種の商品または役務」の定義の変更 »

フォト
無料ブログはココログ