不当廉売ガイドライン
昨年12月18日に公取委から公表された「不当廉売に関する独占禁止法上の考え方」(不当廉売ガイドライン)について、気が付いたことを記しておきます。
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/09.december/09121801.html
実質的に大きく変わったところはないのですが、法律に格上げされて課徴金の対象(ただし2度目の違反から)になった類型(ガイドラインでは「法定不当廉売」と呼ばれています)と、一般指定に残ったそれ以外の不当廉売を区別することに配慮が払われています。
まず、「可変的性質を持つ費用以上の価格は・・・法定不当廉売に該当することはない」、つまり課徴金の対象になることはない、と断言したことが注目されます。
確かに法定不当廉売には該当しなくとも一般指定の不当廉売には該当し得るのですが、役所のガイドラインでは、「一般的には・・・」とか、「通常は・・・」とか、例外があり得ることを仄めかす文言が入るので、このように断言することはそれなりの見識だと思います。
「可変的性質を持つ費用」には、いわゆる変動費のみならず、供給と「密接な関連を有する費用」(「密接関連費」)も含まれるとのことなので、公取委の側としては、密接関連費をこつこつ積み上げて不当廉売の費用基準を上げていく(つまり、違法になりやすくする)ことが指向されそうです。
気になったのは、(注7)で、需要創出のために発売開始前に集中的に支出した宣伝広告費は密接関連費に該当することがある、としている点です。
つまり、宣伝広告費も込みの費用以上の値段を付けないと、不当廉売になる、ということです。
こういうルールにすると、「宣伝広告費をたくさんかけると値段を上げないといけなくなるので、宣伝広告費を減らそう」という誘因が働くので、ちょっと問題だと思います。
それに、この基準に従って費用割れと認定されても、(宣伝広告費を含まない)変動費と密接関連費を超える価格で売っている限り、「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ」が生じるとは通常考えにくいと思います。他社がかけた宣伝広告費が多かろうが少なかろうが、ライバル会社の事業活動には直接影響が無いように思うのです(「ナイキが莫大な宣伝費を使うと、品質重視のミズノやアシックスが困るじゃないか」という意見もありえますが、そういう不都合は不当廉売規制で解決すべき問題ではないと思います)。
ですので、実際には、この基準があったからこそ違法にできる、というケースは余りないのではないかと想像します。
それから、「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ」という要件は、法定不当廉売と一般指定の不当廉売に共通の要件のはずですが、ガイドラインでは、両者で別々に論じられています。
具体的には、一般指定の不当廉売のところでだけ、
「例えば、市場シェアの高い事業者が、継続して、かつ、大量に廉売する場合、又はこのような事業者が、他の事業者にとって経営上重要な商品を集中的に廉売する場合は、一般的には、他の事業者の事業活動に影響を与えると考えられる・・・」
という例が挙げられています。
しかし、理屈の上では法定不当廉売でも同じ文言を使っているので、上記の例は、法定不当廉売の場合にも該当すると考えるのが論理的でしょう。
結局、廉売の費用基準と「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ」という要件とは表裏一体のようなところがあるので、無理に書き分けると、法定不当廉売を法律に格上げしたこととも相俟って、論理的にはすっきりしないことになるのでしょう。
その現れとして、一般指定の不当廉売の「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ」の説明の中で、
「・・・この場合には、廉売対象商品の供給と関連のある費用(製造原価又は仕入れ原価及び販売費)を下回っているかどうかを考慮する。」
と、費用基準の話が出てきます。
最後に、差別対価のところで、
「有力な事業者が同一の商品について,取引価格やその他の取引条件等について,合理的な理由なく差別的な取扱いをし,差別を受ける相手方の競争機能に直接かつ重大な影響を及ぼすことにより公正な競争秩序に悪影響を与える場合にも,独占禁止法上問題となる」
という文言の読み方には注意が必要です。
独禁法に馴染みのない人はどうしても、「合理的な理由なく」というところに目が行って、「価格に差を付けるには合理的な理由が必要なんだ」と思ってしまいがちです。
しかし、この記述の重点は、明らかに「差別を受ける相手方の・・・」以下の後半部分にあります。差別対価をするには合理的理由が必要だ、という読み方は誤りであることだけ、指摘しておきたいと思います。
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コメント
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新規出店においてガソリンと灯油のみを下記条件で販売するにあたり公正取引委員会の審査課において総販売原価をいくらに設定するのか質問いたします。
土地購入価格 40、000、000円
建設費 60,000,000円
1か月あたりの運営コスト(人件費込) 2,000,000円
仕入価格 ガソリン110円(税込)
灯油 60円(税込)
公正取引委員会において総販売原価を算出するに当たり上記以外に必要な
数値があるのなら教えていただきたい。
上記において1カ月当たりの運営コストを1,000,000円とした場合
には総販売原価をいくらに算出するかもお答えいただきたい。
ガソリンスタンド業界ではオープン時に数量を確保する意味でいきなり廉売で始めるケースが多いのです。
量販店では油だけ売っているケースもかなり在り初期投資イコール総販売原価の基準と考えられるケースだと思われるが公正取引委員会はまったく質問に答えないのです。
公取に基準らしい物が無いのに厳正に対処が出来るものなのでしょうか?
投稿: 世界標準 | 2010年5月 3日 (月) 10時25分