「最終事業年度」はいつの時点から見ての「最終」か
企業結合の要否を判定するための「国内売上高」を算定するための「最終事業年度」は、いつの時点から見て最終の事業年度なのか、という論点があります。
公取委のQ&Aでは、最終事業年度の国内売上高で届出の要否を判定する、とされています(「届出基準について」の2番目のQ&A)。
「Q2:届出基準である国内売上高は,いつの時点の国内売上高で計算するのですか。
A2: 最終事業年度の国内売上高で計算します。」
http://www.jftc.go.jp/ma/qa-3/qatodokede.html#keika
しかし、これだけではいつの時点を基準にしての「最終事業年度」であるのか、今ひとつはっきりしません(届出時か、企業結合の直前か、はたまたその両方か、どっちでもいいのか)。
例えば、A社とB社が合併をしようとしていて、両社の決算期はいずれも3月31日であるとします。
そして、2010年3月25日に合併の届出を行い、合併期日は2010年5月1日を予定しているとします。
この例で、合併の届出日(2010年3月25日)を基準にすると最終事業年度は2009年3月期になり、合併期日を基準にすると2010年3月期になります。いずれが正しいのでしょうか。
私見では、
①届出時を基準にしてみた最終事業年度(2009年3月期)において売上要件を満たしているなら、届出時における最終事業年度(2009年3月期)の国内売上高で届け出れば足りる(「足りる」のであって、必ず届出なければならないわけではない。②も参照)、
②届出時を基準にしてみた最終事業年度(2009年3月期)において届出要件を満たしていない場合、または満たしていたけれど2009年3月期の数字に基づいては届けでなかった場合には、合併期日の直前(前日)を基準としてみた最終事業年度(2010年3月期)の売上高を元に届出の要否を判定し、合併期日の直前(前日)において届出要件に該当すれば、当該最終事業年度(2010年3月期)の国内売上高に基づき届出を行うべき、
と考えます。
要するに、届出時に分かっている売上を基準に届け出てもいいけれども(①)、届出(をしようとする)時点に売上要件を満たさない場合であっても、企業結合前の時点のどこかで売上要件を満たすなら、やっぱり届け出るべきです。
これを独禁法10条2項など(合併の場合は15条2項)の文言に照らして説明すると以下のとおりです。
15条2項では、
「会社が合併をしようとする場合において、・・・(一定の売上要件に該当するときには)・・・あらかじめ当該合併に関する計画を公正取引委員会に届け出なければならない」
とされており、届出義務発生の要件は、
①合併をしようとすること、
②売上要件を満たすこと、
の2つであると読めます。
そして、届出の時点で売上基準を満たして届け出た以上、届出義務は履行されたことになると思うのです(つまり、合併期日までに新たな最終事業年度末が到来しても、別途届出義務が生じることはない)。
しかし、2010年3月25日の時点での最終事業年度(2009年3月期)の売上高が届出基準に満たない場合でも、合併期日の直前までのいずれかの時点で売上基準を満たすことになれば(具体的には、2010年3月期の売上高が基準を満たせば)、その基準を満たした瞬間、②の要件が満たされることになり、届出義務が生じると思うのです(①の要件はずっと満たしています)。
以上のように考えれば、2010年3月末の数字が固まらないと届出ができない、というような不都合なことは起こらなくなります(これに対して、あくまで合併直前の時点を基準とした最終事業年度(2010年3月期)の国内売上高で届け出る必要があると解すると、2010年3月期の数字が固まるまで届出ができないことになってしまいます)。
そもそも国内売上高を計算する目的は届出の要否を判定することですので、2009年3月末の数字でも2010年3月末の数字でも明らかに届出要件を満たす場合には、2009年3月末の数字で届出をして足りるとしても、実際上も何ら問題はないと思われます。
実際には、届出されるのは明らかに売上基準を超えるケースが多いでしょうから、届出書には、届出日時点で分かる最終事業年度における売上を記入して、その売上が200億、50億を超えていれば、問題なく受理されている、というのが実態だと思われます。
逆に、届出時点で分かる売上(2009年3月期)では届出要件を満たすけれども、合併直前の時点から見た最終事業年度(2010年3月期)では満たさない、という場合には、届出をする必要はないでしょう。ただ、2010年3月期の数字を待ってから届け出るのではスケジュールが遅れて困る、というのであれば、2010年3月期の数字が出る前に、2009年3月期の売上で届け出ておけばよいと思います。
以上のように、決算期前後に届け出るケースで売上要件を満たすか否か微妙なケースでは、結構悩ましい問題が生じるので、都度公取委と相談しながら進めるべきでしょう。
なお、会社法では「最終事業年度」というと定時株主総会または取締役会で計算書類が承認された事業年度に限ることになっていますが(会社法2条24号)、独禁法にはこのような規定はありませんので、言葉の意味通り、最終の事業年度、と解すべきです。つまり、取締役会や定時総会による計算書類の承認がなくても「最終事業年度」に該当するということです。
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