企業結合の届出書における「同種の商品または役務」の定義の変更
細かいことですが、平成21年改正に伴い改訂された企業結合届出書の記載要領によると、届出書で用いられる「同種の商品または役務」の意味が改正前と変わっています。
改正前は、
「商品又は役務の種類は,日本標準産業分類に掲げる大分類F-製造業に係るものについては,工業統計調査規則(昭和26年通商産業省令第81号)に基づく工業統計調査用産業分類の6けたの分類に準拠するものとし,その他の事業に係るものについては,日本標準産業分類の細分類(4けた分類)に準拠するものとする」
と、日本標準産業分類に基づくものとされていました。
これに対して改正後の記載要領では、
「『同種の商品又は役務』とは、機能及び効用が同種であるものをいい、商品についてはその物的作用、用途、経済的効用等が同種であるもの、役務については通常、『日本標準産業分類』(総務省)の細分類を参考とします。」
とされています。
つまり、届出書においても機能及び効用が同種か否かという、実質的な意味での商品市場の画定をしなければならないことになりました。
それに伴い、日本標準産業分類は、役務についてだけ用いられ、しかも「参考」に過ぎない(実質的な市場画定は必要)という位置付けになりました。
実はこの変更は、事案によっては影響が大きいように思われます。
例えば、標準産業分類を基準にすると微々たるマーケットシェアを持つに過ぎない企業同士の合併だけれど、実はその当事会社の商品は標準産業分類には現れないような特殊な用途に用いられる商品で、当該用途に限ってみると当事会社のシェアがほぼ100%、というような場合です。
改正前であれば、標準産業分類に準拠するよう指定されていたため、届出書の記載上はシェアが低くならざるを得ませんでした。
これに対して改正後は、実質的に機能・効用を考えて商品市場を画定することが求められるので、届出書の記載上も、当事会社のシェアがほぼ100%ということが現れてしまいます。
そうなると、さすがに公取委の審査で引っかかりそうです。となると、やはり事前相談はしておいた方がよい、という判断になるでしょう。
改正前であれば、こういう場合様々な考慮の下に事前相談をしないという選択肢もありえました(例えば、顧客にも説明済みで納得してもらっているとか、潜在的な輸入圧力があって市場支配力が生じないとか)。
しかし改正後は、特殊な用途があるなら、それに基づいて「同種の商品」の範囲を画定しないと届出書の虚偽記載になってしまうので、改正前のようにはいかなくなりました。
昔届出をやったときの感覚で方針を決めていると間違いますので、要注意です。
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