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2010年3月 7日 (日)

直近親会社は複数存在するか。

企業結合届出制度における「企業結合集団」の範囲を画するための概念として「親会社」、「子会社」という概念が平成21年改正法で導入されました。

独禁法10条6項と届出規則2条の9の「子会社」の定義や「親会社」の定義(独禁法10条7項、届出規則2条の9)をみると、ある会社に直近の親会社が同時に2社以上存在することがあり得るのか、というのがやや明確でなく、モヤモヤしておりました。

(なお、ある会社(A社)の親会社(B社)の親会社(C社)もA社の「親会社」に該当すると言う意味でA社にB社、C社という2社の親会社が存在することは明らかなのですが、ここで問題にしているのは「直近」親会社、例えばA社の50%ずつの株主B社およびC社というのがありる場合に、B社とC社が同時にA社の親会社ということがあり得るのか、という問題です。)

が、公取委は直近親会社は1社しか存在し得ないという立場を「株式取得に関する計画届出書記載要領」などの記載要領において明確にしました。

http://www.jftc.go.jp/ma/youryou/kaiseiyouryou.html

同記載要領では、

「①会社〔A社、B社〕が他の会社等〔C社〕の「財務及び事業の方針の決定を支配している」ことに該当するか否かの判定に当たっては、複数の会社(親子会社にある会社を除きます。)〔A社、B社〕が、それぞれ当該他の会社等〔C社〕の「財務及び事業の方針の決定を支配している」ことにはならないことに留意して下さい。」

と言っています。

つまり、C社を支配するのはA社かB社のいずれか1社であるはずであって、A社とB社が同時にC社を支配するということはあり得ない、といっています。

しかも、届出規則2条の9第3項号の要件を満たす親会社(=過半数議決権を有する親会社)がいる場合には、届出規則2条の9第3項号の親会社(=議決権40%~50%で、かつ一定の要件を満たす親会社)が仮に存在しても、2号の親会社は親会社に該当せず、1号の親会社のみが親会社に該当する、といっています。

(なお、記載要領では、「規則第2条の9第1項1号」、「規則第2条の9第1項第2号」といっていますが、「1項」というのは「3項」の誤字ですね。)

つまり、届出規則2条の9第3項において、

1号 > 2号

という優先関係があることが明らかにされました。

届出規則2条の9第3項の文言からどのようにすれば以上のような解釈が導かれるのか疑問がないではありませんが(文言上は、1号 = 2号に見える)、常識的な結論ですし、ともあれこのような解釈を公取委が示したことは結構なことだと思います。

とはいえ、問題がすべて解決したわけではありません。

例えば、A社とB社が50%ずつのジョイント・ベンチャーC社を設立した場合、C社の親会社はどのように決まるのでしょうか。

50%ずつですので、1号には該当しません。

そこで2号の要件を検討することになりますが、2号イ(=自己所有等議決件数が過半数)は、50:50の合弁なので該当しません。

C社の取締役会の過半数がA社の役員・使用人からなれば、A社が親会社ということになりますが(2号ロ)、ちょうど同数なら2号ロでも親会社は存在しないことになります。

合弁契約は、「重要な財務及び事業の方針の決定を支配する契約(届出規則2条の9第3項2号ハ)に該当する内容を有することが多いと思いますが、公取委の見解では親会社は1社に限りますので、A社かB社いずれか1社がC社を支配するというような合弁契約書でもない限り、2号ハによってもA社とB社いずれも親会社でない、ということになりそうです。

2号ニでは、資金調達額の過半数を融資していることというのが支配の要件になっているので、これで親会社が決まるかもしれません。

しかし、合弁契約では双方親会社が出資割合に応じて融資義務を負うことも多いので、ちょうど同額だと2号ニでも親会社が決まりません。

決まらないならまだ良いのですが、企業結合集団の範囲は企業結合の前日で判断するとされているので、何かのはずみで企業結合の前日の融資残高がA社>B社になったりすると、いきなりA社が親会社として登場することになるので、これはこれで困ったことです。

2号ホ(その他自己が他の会社等の財務及び事業の方針の決定を支配していることが推測される事実が存在すること)になると、もう一般的に述べることは出来ません。

最後に3号は、50:50の本設例の場合、該当なしとなります。

公取委の記載要領は、50:50のジョイント・ベンチャーであるC社は、A社とB社が共同で支配している場合にはいずれの子会社にも該当しない(関会社になる)という立場のようです。

しかし記載要領を注意して読むと、「・・・共同支配されている実態にある場合には」となっているので、そういう実態がない場合には、50:50の合弁だからといって親会社が存在することもあり得そうです。

典型的に悩ましいのは、合弁契約で社長を一方(例えばA社)の出身者と定めている場合です。これだと2号ホ(その他自己が他の会社等の財務及び事業の方針の決定を支配していることが推測される事実が存在すること)に該当してA社がC社を支配していることになり得そうですが、やはり社長がどちらの出身かと言うだけの一事をもってしては、支配の有無は決まらないと考えるべきでしょう。

何より、記載要領では「共同支配」の定義こそないものの、50:50の合弁では共同支配を広く認める趣旨のように思われ(50:50ですら「共同支配」と言わないなら、およそ共同支配が認められる場合など存在しなくなるでしょう)、裏を返せば50:50の場合には基本的に親会社は存在しないと公取委は考えて良いのではないかと思います(というより、そう思いたいです)。

例えば、上述の融資額過半数の要件(2号ニ)に企業結合の前日にたまたま該当しても、基本的には、共同支配ということになる、と公取委は考えているのではないかと思います。

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