株式会社への組織変更と株式取得の届出
株式会社以外の組織形態(例えば合同会社や相互会社)から株式会社へ組織変更する場合にも、独禁法の株式取得の届出が必要です。
理屈(条文上の根拠)は以下のとおりです。
売上規模要件の部分を飛ばして独禁法10条2項を要約すると、
株式取得会社は、株式発行会社の株式の取得をしようとする場合において、取得会社グループ全社が当該取得の後において所有することとなる当該株式発行会社の「株式に係る議決権」の数の当該株式発行会社の総議決権に占める割合が、20%または50%を超えることとなるとき
に、届出が必要とされています。
「株式に係る議決権」の割合が20%または50%を「超えることとなるとき」となっているので、「株式に係る議決権」の割合が、取得前後で、20%・50%を下から上に跨いだときに、届出が要るのです。
すると、例えば合同会社であるG社に、A社、B社、C社という3名の社員がいたとして、G社が株式会社に組織変更するとします(会社法781条)。
組織変更では組織変更計画に従って株式が割り当てられるので(会社法746条5号)、仮に3名平等に割り当てるとすると、G社の株式の33.3%ずつを、A社、B社、C社が取得することになります。そこで、20%を跨ぎ、届出が必要になる、ということです(もちろん、売上要件は満たすことが前提です)。
合同会社に社員が複数いる場合、業務は社員の過半数で決定することになっているので(会社法590条2項)、組織変更前には、A社、B社、C社がG社の議決権を1個ずつ(つまり、3分の1ずつ)持っているイメージなのですが、このような持分に付随した議決権は、いわば「持分に係る議決権」であって、上述の10条2項の「株式に係る議決権」ではありません。
よって、「株式に係る議決権」を何%持っているかという視点で見た場合、組織変更前の「株式に係る議決権」は、A社、B社、C社とも0%、組織変更後の「株式に係る議決権」は、いずれも33.3%、ということになり、届出が必要になる、といわざるを得ません。
相互会社から株式会社への組織変更についても同様に考えられます(ただ、生保が相互会社から株式会社に組織変更したときにいきなり2割を超える株主が登場するとは考えにくいですが)。
実質的には組織変更前も組織変更後もA社、B社、C社のG社に対する支配の状況に何の変更もないので、これを独禁法上届出させることには大きな疑問を感じますが、条文の文理上、やむを得ません。
もちろん、予め届出を行うことが困難で届出が免除される場合を定める届出規則2条の7でも、組織変更は挙げられていません。
合同会社から株式会社への組織変更は社員の全員一致を要するので(会社法781条)、「予め届出を行うことが困難」とは言えなさそうですから、仮に持分会社から株式会社への組織変更を届出規則2条の7に規定しても、法律に反した規則として無効になりそうです。
例えばA社、B社、C社に共通の親会社P社がいれば、G社はP社の企業結合集団に属するので、この組織変更はグループ内での株式取得になるので届出不要となりますが、このような場合はむしろ例外的でしょう。
新会社を設立する場合なら、形式的には原始株主による株式取得ですが、新会社には通常、最終事業年度の国内売上高がないので届出は不要です。しかし、組織変更の場合には、組織変更前に売上があるのがむしろ通常ですので、売上要件で救われるとも限りません。
この問題が立法の不備というほど大げさなものかどうかは分かりませんが、実際に問題になる前に(目立たないように)法改正して欲しいものです(誰も文句を言わなそうなので、放置されそうな気がしますが・・・)。