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2010年3月

2010年3月30日 (火)

株式会社への組織変更と株式取得の届出

株式会社以外の組織形態(例えば合同会社や相互会社)から株式会社へ組織変更する場合にも、独禁法の株式取得の届出が必要です。

理屈(条文上の根拠)は以下のとおりです。

売上規模要件の部分を飛ばして独禁法10条2項を要約すると、

株式取得会社は、株式発行会社の株式の取得をしようとする場合において、取得会社グループ全社が当該取得の後において所有することとなる当該株式発行会社の「株式に係る議決権」の数の当該株式発行会社の総議決権に占める割合が、20%または50%を超えることとなるとき

に、届出が必要とされています。

「株式に係る議決権」の割合が20%または50%を「超えることとなるとき」となっているので、「株式に係る議決権」の割合が、取得前後で、20%・50%を下から上に跨いだときに、届出が要るのです。

すると、例えば合同会社であるG社に、A社、B社、C社という3名の社員がいたとして、G社が株式会社に組織変更するとします(会社法781条)。

組織変更では組織変更計画に従って株式が割り当てられるので(会社法746条5号)、仮に3名平等に割り当てるとすると、G社の株式の33.3%ずつを、A社、B社、C社が取得することになります。そこで、20%を跨ぎ、届出が必要になる、ということです(もちろん、売上要件は満たすことが前提です)。

合同会社に社員が複数いる場合、業務は社員の過半数で決定することになっているので(会社法590条2項)、組織変更前には、A社、B社、C社がG社の議決権を1個ずつ(つまり、3分の1ずつ)持っているイメージなのですが、このような持分に付随した議決権は、いわば「持分に係る議決権」であって、上述の10条2項の「株式に係る議決権」ではありません。

よって、「株式に係る議決権」を何%持っているかという視点で見た場合、組織変更前の「株式に係る議決権」は、A社、B社、C社とも0%、組織変更後の「株式に係る議決権」は、いずれも33.3%、ということになり、届出が必要になる、といわざるを得ません。

相互会社から株式会社への組織変更についても同様に考えられます(ただ、生保が相互会社から株式会社に組織変更したときにいきなり2割を超える株主が登場するとは考えにくいですが)。

実質的には組織変更前も組織変更後もA社、B社、C社のG社に対する支配の状況に何の変更もないので、これを独禁法上届出させることには大きな疑問を感じますが、条文の文理上、やむを得ません。

もちろん、予め届出を行うことが困難で届出が免除される場合を定める届出規則2条の7でも、組織変更は挙げられていません。

合同会社から株式会社への組織変更は社員の全員一致を要するので(会社法781条)、「予め届出を行うことが困難」とは言えなさそうですから、仮に持分会社から株式会社への組織変更を届出規則2条の7に規定しても、法律に反した規則として無効になりそうです。

例えばA社、B社、C社に共通の親会社P社がいれば、G社はP社の企業結合集団に属するので、この組織変更はグループ内での株式取得になるので届出不要となりますが、このような場合はむしろ例外的でしょう。

新会社を設立する場合なら、形式的には原始株主による株式取得ですが、新会社には通常、最終事業年度の国内売上高がないので届出は不要です。しかし、組織変更の場合には、組織変更前に売上があるのがむしろ通常ですので、売上要件で救われるとも限りません。

この問題が立法の不備というほど大げさなものかどうかは分かりませんが、実際に問題になる前に(目立たないように)法改正して欲しいものです(誰も文句を言わなそうなので、放置されそうな気がしますが・・・)。

2010年3月28日 (日)

テリトリー制と拘束条件付取引

メーカーが販売店などの販売地域を何らかの意味で制限するテリトリー制については流通取引慣行ガイドラインに規定があり、

①テリトリー内での積極的な販売活動を販売店に義務づけるだけの場合は、合法、

②販売店の設置場所をテリトリー内に限定する場合も、合法、

③テリトリー外での販売活動を制限する場合は、(1)有力なメーカーが行い、かつ(2)同一商品市場の商品の価格が維持されるおそれがあれば、違法、

④テリトリー外に所在する顧客からの引き合いに対してまで制限を加える場合には、同一商品市場の商品の価格が維持されるおそれがあるだけで、違法、

という分類になっています。

しかし、①はそもそも「一生懸命売りなさい」というだけ(しかも日本全国で一生懸命売るのは大変なのでテリトリーの中だけで良いから頑張りなさい、ということ)なので、そもそも行為要件としての「拘束」に該当しないといえます(これが「拘束」だというならおよそ契約は拘束条件付取引の行為要件を満たしてしまうでしょう)。

②が当然合法とされた理由はよくわかりません。

①も②もいちおう、「メーカーが商品の効率的な販売拠点の構築やアフターサービス体制の確保のため」であれば、という限定前提ならOKであると読めなくもないのですが、素直に読めばやはり、当然合法と読めると言わざるを得ないでしょう。

②は、メーカーが全国にサービス網を張り巡らせるような場合を想定していると思われますが、販売店同士の過当競争を防止するためにも使われそうなことは、容易に想像できます。

もし全国にくまなくサービス網を張り巡らせる必要があるというのであれば、販売店の場所を一定の場所に制限するまでの必要はなくて、「最低ここには1店舗出して下さい。それ以外は自由です。」とすれば十分なはずです。

③と④の違いは、③(「厳格な地域制限」)は、テリトリー外で営業マンが営業に回ったり新聞にチラシを入れたりというような、積極的な販売活動はしない、というのにとどまります。ですので、たまたま隣のテリトリーのお客さんがお店に来て売って下さいといった場合には、売っても構わないことになります。

これに対して④(「地域外顧客への販売の禁止」)は、テリトリー外では何も営業活動をしていなかったのにテリトリー外のお客さんのほうからお店に足を運んできた場合に、そのようなお客さんの注文は断らないといけない、ということになります。これをやる場合は、お客さんの住所を確認してから売るということになるでしょう。

③と④で、③のほうだけに「有力なメーカー」という要件が入っているのも、あまり科学的(あるいは実証的)な理由はないように思われます。

しかも、どのようなメーカーが「有力なメーカー」(ガイドラインでは「市場における有力なメーカー」)なのか、という点に関して、「一応の目安」と断りながらも、シェア10%以上、又は上位3社以内、という、極めて低いバーが課されているので、シェア10%を超えると厳格な地域制限について違法な可能性が出てくる、という誤った印象を持たれがちです。

しかし、実際には、善し悪しは別として③は現実に世の中にいくらでもありますし、独禁法の解釈としても違法とすべき場合は限られていると思います。

③の「有力なメーカー」基準については、それが価格維持のおそれの考慮要素に過ぎないということがはっきりとガイドラインに書いてあるからまだ良いのですが、そうすると、「有力なメーカー」基準を採用しない④の場合には、有力なメーカーでなくとも(つまり、シェア10%未満かつ順位4位以下)価格維持のおそれがあるということなのか???という疑問が沸きます。

たしかに、③と④を比べると④のほうが価格維持の効果は大きいとは思います。例えば自動車を買うときとかは、近所のトヨタ店と隣町のトヨタ店を競合させて値引きを引き出すということをされる方もいると思いますが、隣町のトヨタ店があなたの住所が自店のテリトリー外であることを理由に販売を断るとしたら(④)、やっぱり価格維持の効果は③より大きいでしょう。

同一ブランドの商品だと他店よりも高い値段を付ける理由が見つかりにくいので、どうしても値段のたたき合いになります(これに対して日産のディーラーなら、「うちの○○はトヨタさんの△△とはこういうところが違います!」といって値段の違いを正当化できるし、その違いが気に入った人が日産を買うので、値段のたたき合いだけでないところで競争が行われるわけです)。

脇道にそれましたが、申し上げたいのは、④の場合でも「有力なメーカー」でないメーカーが④をやることで価格維持のおそれ(しかも、ここでの価格は当該ブランドの価格だけでなく、同一商品市場の商品の価格であることがガイドラインの文言からして明らかです)が生じるというのは、ちょっと考えにくいです。

結局、ガイドライン上の要件の見た目の違いにかかわらず、③も④も結局は価格維持のおそれだけで判断される、ということのようです。

しかも厄介なことに、正式な判決、審決あるいは警告や相談事例まで含めても、テリトリー制を採用していただけで違法あるいは違法の疑い有りとされた事例が、1件もない、ということです。

(テリトリー制と再販売価格維持を併用していたのが違法とされたケースとしては、富士写真フイルム事件勧告審決昭和56・5・11がありますが、テリトリー制だけの反競争効果を分析しているわけではないので参考になりません。)

逆にテリトリー制を適法とした判決として三光丸事件(東京地裁平成16年4月15日)があり、

①行為者が有力な事業者、

②制限が不当である(地域制限に一応の合理性、相当性がない)

③価格維持の効果がある、

という場合にテリトリー制が違法であるとしました。東京地裁だし比較的新しい判決なので参考になるのですが、この事例も結局適法という結論だし、事例としては明らかに適法だろう(薬全体で見れば三光丸のシェアはたかが知れているので)という事案だったので、厳しいあてはめがなされておらず、したがって、微妙な事案の判断の参考にするにはやや辛いものがあります。

とくに、①と②はまだしも、③は経済学の発想がないとあてはめが手に負えないのではないでしょうか。しかも、微妙な事案では常に③が勝敗を分ける気がします。

テリトリー制は、世の中でも普通に行われていることですし、実際の違反例も事実上皆無であることから、個人的には、独禁上のリスクは実務上、一般的に低いと考えています。

さらに、インターネットでの販売が一般的になってきた現在では、テリトリー制が競争制限効果を持つ場合はますます限られるでしょう。

かといってテリトリー制は、理屈の上では再販売価格維持よりも競争を制限する側面があるので、一律合法というわけには、到底いかないと思います(再販売価格維持の場合は、その分一生懸命サービスしようという気になるし、同一ブランドの販売店間でもサービス競争があるといえるが、特に厳格なテリトリー制だと、サービス競争も、そしておそらくは値段の競争も、なくなってしまう)。

このように、テリトリー制は一応違法の可能性があるにもかかわらず、実際にテリトリー制だけで違法とされた例がなく、今後もおそらく出てこないであろうと思われ、モヤモヤした状態が続くことになるのでしょう。

2010年3月27日 (土)

インターネット販売の禁止と不公正な取引方法

インターネットでの販売を禁止したことが不公正な取引方法(拘束条件付取引)にあたるおそれがあるとして警告がなされた事例に、平成14年12月12日のジョンソン・エンド・ジョンソンに対する警告があります。

行為の概要は短いので全文引用すると、

「ジョンソン社は,自社の使い捨てコンタクトレンズについて,医師の処方があれば取引先販売業者が販売することを認めていたにもかかわらず,平成11年ころから平成13年3月ころにかけて,取引先販売業者に対し,インターネットによる販売を一律に認めない方針を採り,これにより,医師の処方を得てインターネットにより低価格で販売する場合まで,取引先販売業者の取引を制限していた疑いのある行為が認められた。」

ということのようです。

あくまで警告であって排除措置命令ではないので、明確に違法であると判断されたわけではなく、あくまで違反する「おそれ」に過ぎないので、割り引いて読む必要があるのですが、確かに、インターネットでの販売を禁止することは価格維持に繋がりやすく、その一律禁止は問題だったのでしょう。

しかし、この事例もジョンソン社が使い捨てコンタクトレンズで高いシェアを占めていることが当然念頭に置かれていると考えるべきです。もしシェアが微々たるものであれば、インターネットでの販売を禁止しても使い捨てコンタクトレンズ全般の価格維持に繋がるおそれはないと思われるからです。

本件ではジョンソン社が高いシェアを有することが決定的に重要だと思うのですが、公取委発表文にはそのことは一切触れられていません。やはり大事なことはきちんと書いて欲しです。

むしろ公取委発表文では、以前はインターネット販売を認めていたこととか、インターネット販売をしていた業者のなかには低価格販売をしていた業者もいたことなどが書かれていますが、これらは本質的とはいえません。

以前は認めていたのを認めなくなったというのは、インターネット販売禁止に、例えば安全性確保などの合理的理由がない(あるなら以前も禁止していたはず)ことを裏付ける一事情に過ぎないというべきでしょう。

さらに、業者の中に低価格販売をしていた者がいることというのは、再販売価格維持でもしていない限りそのような業者が一部に混じっているのは当然のことであり、インターネット販売禁止という行為の違法性認定には直接関係ないように思います。

インターネット販売をしていた業者の中に安売り業者がいたからといって必ずしも価格維持のおそれが生じるわけではないと思います。インターネット販売をしていない業者のなかにも安売り業者がいるのであれば、インターネット販売を禁じたからといって、価格維持のおそれは必ずしも生じないでしょう。

公取委は、インターネット販売をしていた業者の中に安売り業者がいたというだけではなくて、安売り業者の大半はインターネットで販売をしていたというような事実を認定すべきだったと考えます。また想像するに、実際安売り業者はインターネット販売が多いのではないかと思われ、そのような認定は容易だったと想像します。

こういう、一部の事例を取り上げて全部が悪いかのようにいう論法は、医薬品のネット販売禁止の議論の中で、ネットで睡眠薬を大量購入して自殺を図った女子高生の例を引くような発想と相通ずるものがあり(それ自体は不幸な事件ではありますが)、論理的ではないと思います。

ともあれ、インターネット販売は店舗設置のコストがかからないとか、競合他社との価格比較が容易であるとかいう特色があり、ネット販売制限はその他の販売方法制限よりも競争制限的になりやすいのは事実だと思います。

そして、零細企業にとってネット販売は需要者に辿り着くための重要な競争手段であり、ネット販売をあえて禁止するというのは市場支配力を有する企業だからこそできるし、やろうと思うのだとも言えます。

この事例で恐れるのは、ネット販売をすることでブランドイメージが崩れることが懸念されるような類の商品についてまで、ネット販売禁止が即違法とされると誤解されないか、ということです。

ブランドイメージは独禁法上も保護されるべき正当な利益だと思いますし、前述のように、本件はジョンソン社のシェアが高いことが決定的に重要だったケースだと思います。

そのような意味でも、このケースはかなり割り引いて読むべきだと考えます。

2010年3月26日 (金)

米国のガン・ジャンピングの事案(US v. Smithfield Foods & Premium Standard Farms)

今年の1月21日、米国でいわゆるガン・ジャンピングのケースが出ました(United States
v. Smithfield Foods, Inc. and Premium Standard Farms, LLC)。

http://www.justice.gov/atr/cases/smith2.htm

http://www.justice.gov/atr/public/press_releases/2010/254357.htm

ガン・ジャンピングというのは、日本語(和製英語?)でいえば「フライング」のことです。銃声よりも前に飛び出すイメージですね。独禁法の世界では、企業結合の待機期間中に、形式的には企業結合しないまでも実質的には企業結合したかのような行為(情報交換や意思決定権限の委譲など)をすることを意味するようです。

個人的には、こういう業界の人にしか分からない、しかも意味のはっきりしない言葉は好みではないのですが、司法省の訴状にも、

"This conduct, called "gun jumping" is prohibited by Section 7A."

というように使われているので、アメリカでは市民権を得ている用語なのでしょう。

このケースは、全米最大の豚肉製造業者であるSmithfield Foods, Inc.(「スミス社」)が、同業のPremium Standard Farms, LLC (「プレミアム社」)を買収した事案です。企業結合の待機期間満了前に、スミス社がプレミアム社の事業活動に対する支配権を実質的に握ってしまったことが、待機義務に違反する、とされたもので、両社に90万ドルの制裁金が課されました。

具体的には、プレミアム社がその豚肉処理能力の1%に満たないような豚肉調達契約についてまでスミス社の同意を求めていたことなど、プレミアム社の通常の業務の範囲内の行為にまで、自ら判断することを放棄してスミス社の同意を得ていたことが、問題とされました。

M&Aをするときは、買収の契約を締結してから実行までの間にターゲットの会社に好き勝手なことをされると困るので、いわゆるコベナンツでいろいろ縛りをかけるのが通常ですが、ターゲットの通常の業務の範囲のことにまで買収者が口を出すと、独禁法上の待機義務違反とされることがある、ということなのでしょう。

しかし当事者の立場に立つと、これは悩ましい問題です。もう買収されようとしているターゲットが、仮にクローズ前だからといって、合併契約まで調印した後に、本気で買収者と競争しようとするでしょうか(例えば買収者の顧客を奪いに行ったりするでしょうか)。そんなことはないと思います。

このように、買収の契約を締結した段階で、あるいはもっと早く、買収の交渉に入っただけで、独立の競争単位として競争するのは、案外難しいと想像されます。

かといって、買収交渉をやっている間にターゲットに好きなようにされたのでは、買収者としては困ってしまいます。

またこのケースは、ターゲットの原材料調達行為という、価格やアウトプットに直結する事業上の意思決定を買収者が支配していたということなので、競争法上放っておけない行為だということが素直に腑に落ちるのですが、ではどの辺りまでの行為のコントロールなら大丈夫か、はっきりしません。

M&Aではコベナンツでターゲットを縛るのが一般的と上に書きましたが、それでは、一定額以上の融資を受けることを買収者の承認にかからしめるのはどうでしょうか。一定以上の設備投資ではどうでしょうか。融資も設備投資も生産のための重要な投入要素である点で原材料の仕入と本質的には違わないような気もします。

このように色々と考えると、今回のケースの限界が広がるとM&A実務に与える影響というのも結構大きなものになりそうです。

さて、このケースでもう一つ注意すべきは、あくまで待機義務違反という手続上の義務違反が問われたということで、実質的な競争制限効果とは無関係ということです。つまり、シェアが極めて低い会社同士の合併であっても、届出基準を満たす限り、今回のような違反に問われるということです。

さらに、ガンジャンピングの問題はアメリカ企業だけの問題ではないということです。日本企業同士の合併でも、アメリカに一定以上の売上があればHSR法の届出が必要ですし、そうすると、当然、ガンジャンピングの規制がかかってきます。

最後に、スミス社のケースはHSR法の届出をしたのが2006年10月、司法省が民事制裁金を求めて訴訟提起したのが2010年1月と、3年以上も前の違反が問題にされています。

災難は忘れた頃にやってきます(笑)。国際カルテルでも、日米欧の処理が終わって、忘れた頃にブラジルから調査が入ったり、なんてことがあります。独禁法違反は、いつまでも気が抜けません。

2010年3月25日 (木)

不当廉売ガイドライン

昨年12月18日に公取委から公表された「不当廉売に関する独占禁止法上の考え方」(不当廉売ガイドライン)について、気が付いたことを記しておきます。

http://www.jftc.go.jp/pressrelease/09.december/09121801.html

実質的に大きく変わったところはないのですが、法律に格上げされて課徴金の対象(ただし2度目の違反から)になった類型(ガイドラインでは「法定不当廉売」と呼ばれています)と、一般指定に残ったそれ以外の不当廉売を区別することに配慮が払われています。

まず、「可変的性質を持つ費用以上の価格は・・・法定不当廉売に該当することはない」、つまり課徴金の対象になることはない、と断言したことが注目されます。

確かに法定不当廉売には該当しなくとも一般指定の不当廉売には該当し得るのですが、役所のガイドラインでは、「一般的には・・・」とか、「通常は・・・」とか、例外があり得ることを仄めかす文言が入るので、このように断言することはそれなりの見識だと思います。

「可変的性質を持つ費用」には、いわゆる変動費のみならず、供給と「密接な関連を有する費用」(「密接関連費」)も含まれるとのことなので、公取委の側としては、密接関連費をこつこつ積み上げて不当廉売の費用基準を上げていく(つまり、違法になりやすくする)ことが指向されそうです。

気になったのは、(注7)で、需要創出のために発売開始前に集中的に支出した宣伝広告費は密接関連費に該当することがある、としている点です。

つまり、宣伝広告費も込みの費用以上の値段を付けないと、不当廉売になる、ということです。

こういうルールにすると、「宣伝広告費をたくさんかけると値段を上げないといけなくなるので、宣伝広告費を減らそう」という誘因が働くので、ちょっと問題だと思います。

それに、この基準に従って費用割れと認定されても、(宣伝広告費を含まない)変動費と密接関連費を超える価格で売っている限り、「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ」が生じるとは通常考えにくいと思います。他社がかけた宣伝広告費が多かろうが少なかろうが、ライバル会社の事業活動には直接影響が無いように思うのです(「ナイキが莫大な宣伝費を使うと、品質重視のミズノやアシックスが困るじゃないか」という意見もありえますが、そういう不都合は不当廉売規制で解決すべき問題ではないと思います)。

ですので、実際には、この基準があったからこそ違法にできる、というケースは余りないのではないかと想像します。

それから、「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ」という要件は、法定不当廉売と一般指定の不当廉売に共通の要件のはずですが、ガイドラインでは、両者で別々に論じられています。

具体的には、一般指定の不当廉売のところでだけ、

「例えば、市場シェアの高い事業者が、継続して、かつ、大量に廉売する場合、又はこのような事業者が、他の事業者にとって経営上重要な商品を集中的に廉売する場合は、一般的には、他の事業者の事業活動に影響を与えると考えられる・・・」

という例が挙げられています。

しかし、理屈の上では法定不当廉売でも同じ文言を使っているので、上記の例は、法定不当廉売の場合にも該当すると考えるのが論理的でしょう。

結局、廉売の費用基準と「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ」という要件とは表裏一体のようなところがあるので、無理に書き分けると、法定不当廉売を法律に格上げしたこととも相俟って、論理的にはすっきりしないことになるのでしょう。

その現れとして、一般指定の不当廉売の「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ」の説明の中で、

「・・・この場合には、廉売対象商品の供給と関連のある費用(製造原価又は仕入れ原価及び販売費)を下回っているかどうかを考慮する。」

と、費用基準の話が出てきます。

最後に、差別対価のところで、

「有力な事業者が同一の商品について,取引価格やその他の取引条件等について,合理的な理由なく差別的な取扱いをし,差別を受ける相手方の競争機能に直接かつ重大な影響を及ぼすことにより公正な競争秩序に悪影響を与える場合にも,独占禁止法上問題となる」

という文言の読み方には注意が必要です。

独禁法に馴染みのない人はどうしても、「合理的な理由なく」というところに目が行って、「価格に差を付けるには合理的な理由が必要なんだ」と思ってしまいがちです。

しかし、この記述の重点は、明らかに「差別を受ける相手方の・・・」以下の後半部分にあります。差別対価をするには合理的理由が必要だ、という読み方は誤りであることだけ、指摘しておきたいと思います。

2010年3月24日 (水)

「最終事業年度」はいつの時点から見ての「最終」か

企業結合の要否を判定するための「国内売上高」を算定するための「最終事業年度」は、いつの時点から見て最終の事業年度なのか、という論点があります。

公取委のQ&Aでは、最終事業年度の国内売上高で届出の要否を判定する、とされています(「届出基準について」の2番目のQ&A)。

「Q2:届出基準である国内売上高は,いつの時点の国内売上高で計算するのですか。

A2: 最終事業年度の国内売上高で計算します。」

http://www.jftc.go.jp/ma/qa-3/qatodokede.html#keika

しかし、これだけではいつの時点を基準にしての「最終事業年度」であるのか、今ひとつはっきりしません(届出時か、企業結合の直前か、はたまたその両方か、どっちでもいいのか)。

例えば、A社とB社が合併をしようとしていて、両社の決算期はいずれも3月31日であるとします。

そして、2010年3月25日に合併の届出を行い、合併期日は2010年5月1日を予定しているとします。

この例で、合併の届出日(2010年3月25日)を基準にすると最終事業年度は2009年3月期になり、合併期日を基準にすると2010年3月期になります。いずれが正しいのでしょうか。

私見では、

①届出時を基準にしてみた最終事業年度(2009年3月期)において売上要件を満たしているなら、届出時における最終事業年度(2009年3月期)の国内売上高で届け出れば足りる(「足りる」のであって、必ず届出なければならないわけではない。②も参照)、

②届出時を基準にしてみた最終事業年度(2009年3月期)において届出要件を満たしていない場合、または満たしていたけれど2009年3月期の数字に基づいては届けでなかった場合には、合併期日の直前(前日)を基準としてみた最終事業年度(2010年3月期)の売上高を元に届出の要否を判定し、合併期日の直前(前日)において届出要件に該当すれば、当該最終事業年度(2010年3月期)の国内売上高に基づき届出を行うべき、

と考えます。

要するに、届出時に分かっている売上を基準に届け出てもいいけれども(①)、届出(をしようとする)時点に売上要件を満たさない場合であっても、企業結合前の時点のどこかで売上要件を満たすなら、やっぱり届け出るべきです。

これを独禁法10条2項など(合併の場合は15条2項)の文言に照らして説明すると以下のとおりです。

15条2項では、

「会社が合併をしようとする場合において、・・・(一定の売上要件に該当するときには)・・・あらかじめ当該合併に関する計画を公正取引委員会に届け出なければならない」

とされており、届出義務発生の要件は、

①合併をしようとすること、

②売上要件を満たすこと、

の2つであると読めます。

そして、届出の時点で売上基準を満たして届け出た以上、届出義務は履行されたことになると思うのです(つまり、合併期日までに新たな最終事業年度末が到来しても、別途届出義務が生じることはない)。

しかし、2010年3月25日の時点での最終事業年度(2009年3月期)の売上高が届出基準に満たない場合でも、合併期日の直前までのいずれかの時点で売上基準を満たすことになれば(具体的には、2010年3月期の売上高が基準を満たせば)、その基準を満たした瞬間、②の要件が満たされることになり、届出義務が生じると思うのです(①の要件はずっと満たしています)。

以上のように考えれば、2010年3月末の数字が固まらないと届出ができない、というような不都合なことは起こらなくなります(これに対して、あくまで合併直前の時点を基準とした最終事業年度(2010年3月期)の国内売上高で届け出る必要があると解すると、2010年3月期の数字が固まるまで届出ができないことになってしまいます)。

そもそも国内売上高を計算する目的は届出の要否を判定することですので、2009年3月末の数字でも2010年3月末の数字でも明らかに届出要件を満たす場合には、2009年3月末の数字で届出をして足りるとしても、実際上も何ら問題はないと思われます。

実際には、届出されるのは明らかに売上基準を超えるケースが多いでしょうから、届出書には、届出日時点で分かる最終事業年度における売上を記入して、その売上が200億、50億を超えていれば、問題なく受理されている、というのが実態だと思われます。

逆に、届出時点で分かる売上(2009年3月期)では届出要件を満たすけれども、合併直前の時点から見た最終事業年度(2010年3月期)では満たさない、という場合には、届出をする必要はないでしょう。ただ、2010年3月期の数字を待ってから届け出るのではスケジュールが遅れて困る、というのであれば、2010年3月期の数字が出る前に、2009年3月期の売上で届け出ておけばよいと思います。

以上のように、決算期前後に届け出るケースで売上要件を満たすか否か微妙なケースでは、結構悩ましい問題が生じるので、都度公取委と相談しながら進めるべきでしょう。

なお、会社法では「最終事業年度」というと定時株主総会または取締役会で計算書類が承認された事業年度に限ることになっていますが(会社法2条24号)、独禁法にはこのような規定はありませんので、言葉の意味通り、最終の事業年度、と解すべきです。つまり、取締役会や定時総会による計算書類の承認がなくても「最終事業年度」に該当するということです。

2010年3月23日 (火)

「外交上の経路」と領事送達

独禁法上の排除措置命令や報告命令を海外に送達する場合にも「民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約」(送達条約)が関係しうることは以前に書きましたが、海外送達について調べ物をしているとよく出てくる言葉に「外交上の経路(による送達)」というのがあります。

この「外交上の経路」(diplomatic channel)というのは、条約や法律に具体的な定義もないことから、混乱を生じかねない用語です。

具体的には、領事送達を外交上の経路による送達であると誤解してしまう(あるいは外交上の経路による送達と呼んでしまう)ことです。

条約上の用例をみると、例えば送達条約9条1項では、

「各締約国は・・・他の締約国の指定する当局に対し送達又は告知を目的として裁判上の文書を転達するため、領事官の経路を用いることができる。」

としています。

続いて同条2項では、

「各締約国は、特別の事情がある場合には、前項の目的と同様の目的のため外交上の経路を用いることができる。」としています。

つまり、「領事官の経路」と「外交上の経路」は、相対立するもの、別物として扱われています。

「外交上の経路」というのは、言葉の素直な意味からしても、お互いの外交を担う当局(日本で言えば外務省)を通して、というくらいの意味ですから、外交上の経路による送達といえば、日本の外務省から、相手国の外務省に相当する官庁にお願いして、相手国のしかるべき機関に送達をしてもらう、ということになります。

これに対して領事送達の場合は、送達するのはあくまで自国の在外領事自身です。例えば日本の訴状を米国内の被告に送達する場合には、アメリカにいる日本の領事が送達を行うことになります。日本の外務省が米国の国務省に送達を依頼するわけではありません。

領事も外交に関係しているような漠然としたイメージがあるので、領事送達も外交上の経路による送達の一種であると考えてしまいがちなのですが、そうではありませんので、注意が必要です。

2010年3月20日 (土)

競争の実質的制限と公正競争阻害性の違い

不当な取引制限(カルテルや談合など)と私的独占については、違法となるためには「競争の実質的制限」が要求されています。

これに対して不公正な取引方法(再販売価格維持など)については、公正な競争を阻害するおそれ(略して「公正競争阻害性」)が要求されています。

いずれも、市場に対する悪影響を表した要件です。

それでは、「競争の実質的制限」と「公正競争阻害性」はどのように違うのでしょうか。

(なお、欺まん的顧客誘引のような不正手段型や優越的地位濫用は、競争の実質的制限の場合のように競争が減少することを問題にする(=競争減殺)違反類型とはだいぶ毛色が違って比較しにくいので、今回は割愛します。)

「競争の実質的制限」は、

「競争自体が減少して、特定の事業者または事業者集団が、その意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することによって、市場を支配することができる形態が現れているか、または少なくとも現れようとする程度に至っている状態」

であるとされています(東宝・スバル事件・東京高判昭和26年9月19日)。

これに対して「公正競争阻害性」は、これを定義といっていいかはさておき、

「一定の取引分野における競争を実質的に制限するものと認められる程度のものである必要はなく、ある程度において公正な自由競争を妨げるものと認められる場合で足りる」

とさています(大正製薬株式会社に対する件(昭和28年3月28日審判審決))。

要するに、公正競争阻害性は競争の実質的制限より程度の低いもの、ということです。

率直に言って、これらの定義では裁判規範として使い物にならないと思います。

まだ競争の実質的制限のほうは、ミクロ経済学の基礎を勉強すると、独占者が限界費用よりも価格を引き上げることによって超過利潤を獲得する様子が何となくイメージできるので、東京高裁も独占の経済モデルを頭の中に置きながら、言葉にしにくい要件を何とか言葉にしようとしたんだろうなぁという苦心の跡を窺うことができます。

さらに排除型私的独占ガイドラインで、シェア5割以上の場合にしか私的独占は成立しない(ガイドライン上は、優先的に摘発する基準であり違法性の基準ではないとされていますが、事実上は、最低5割くらいのシェアがないと私的独占は成立しないものと考えていいと思います)とされたので、競争の実質的制限は完全競争(≒シェア0%)と完全独占(=シェア100%)の真ん中くらいの競争の程度なんだろうなぁ、とイメージできます。

それに対して公正競争阻害性のほうは、上記公取委審決のいう、「ある程度において公正な自由競争を妨げる」では、いったいどういう場合に違法になるのか、正直さっぱり分かりません。

しかも不公正な取引方法についての代表的なガイドラインである流通取引慣行ガイドラインでは、違法になる競争減殺の程度が低すぎて、これを守ろうとすると何でもかんでも違法ということになりかねません。

実務上も、公正競争阻害性の場合は、「公正な競争を阻害する『おそれ』だからね」と、ちょっとでも競争が減少する場合には、違法であるとアドバイスをしても間違いとはいえない、ということになってしまいます。

結局、公正競争阻害性については、行為類型ごとにだいたいの相場感というのがあって、それに基づいてアドバイスせざるを得ない、というのが実情ではないかと思います。

たとえば、再販売価格維持はシェア2割くらいから怪しくなり出して、3割くらいあると違法かなぁという感じがしますが、1割くらいでは違法とはいえないと思います。そういう意味で、「原則違法」という見解には、私は反対です。白石忠志先生も著書で指摘されているように、公取委の運用も、実際には原則違法ということにはなっていませんし。

それでも再販売価格維持は違法になる可能性が高い行為類型で、単独の取引拒絶なんかになると、かなり限られた場合にしか違法にならないというのが率直な感覚です。

不当廉売については、シェアは余り関係ないですね。大幅にコスト割れで売れば同業他社は困るわけで、少なくとも廉売開始時のシェアは関係ないでしょう。もっとも、不当廉売については、「おそれ」という文言にひっぱられてコスト以上でも違反になるという運用になっていないのは結構なことです。

というわけで、やはり公正競争阻害性は一筋縄ではいかないというのが率直な実感です。

2010年3月17日 (水)

事前相談のタイミング

企業結合の事前相談をすべきか否か、するとしてどのタイミングでするか、悩まれる方もいらっしゃると思います。

まず、そもそも「大きな会社(あるいは上場会社)の合併なら、事前相談くらいやるものだろう。事前相談までしなくとも、公取委にご挨拶くらいにはいくものだろう」というようなことは、ありません。

規模が大きな合併でも競争上の問題が生じないことはいくらでもあるわけで、問題がありそうな場合にだけ事前相談をすれば十分です。

でも、独禁法上全然問題がなさそうな合併なのに、新聞に出た次の日に公取委から「ちょっと話を聞かせて欲しいんだけれど」という電話があることもあるかもしれません。

だからといって公取委に挨拶に行かないと意地悪されるということもないのですが、やはり何事もきちんとしたいとか、いきなり電話がかかってきてびっくりするのも嫌だといのであれば、事前相談というのではなく、企業結合の概要を説明しに挨拶程度に行っても、それはそれで構わないでしょう。

では事前相談をするとして、いつ公取委に行くか、ですが、これは企業結合のスケジュールから逆算して決めるよりありません。

ですので、合併等の期限が重要で延長できないというのであれば、できるだけ早く行くことです。

できるだけ早くといっても、まだ具体的な企業結合の計画も固まっていないような場合には、事前相談は受け付けてもらえません。「企業結合計画に関する事前相談に対する対応方針」(事前相談ガイドライン)に、具体的な計画を示して相談しなさいと書いてあります。

しかし、企業結合の正式な取締役会決議や株主総会決議が必要ということはありませんので、役会決議や総会決議前に行っても、それだけを理由に事前相談を断られることはありません。

それから、事前相談をする際に、「結合のスケジュールはこうなってるので、回答はいつまでに欲しい」と、はっきり言いましょう。言ったからといって、必ずしも公取委が守ってくれるわけでもないのですが、努力はしてくれると思います。

事前相談ガイドラインには、事前相談のスケジュールも示されており、第2次審査まで含めても5,6ヶ月で終わりそうに書いてありますが、実際にはこの通りに行かないことも多いです。所詮事前相談は任意の手続なので、ガイドラインにも法的拘束力はないのです。

第1次審査で終わる簡単な案件でも2,3ヶ月、2次審査まで行けば優に半年、大型で複雑な案件なら1年以上かかることもある、という感じでしょうか。

ガイドライン上、2次審査に入る場合には、当事会社が企業結合を公表しないといけないことになっているので、非公表の事案の場合には、このことも念頭にスケジュールを立てておく必要があります。

最近、2次審査に入ることになった時点で統合を取りやめるケースも見かけます。事情は各社様々なのでしょうが、1次審査で終わるか2次審査まで行くかの見極めも重要かも知れません。

2010年3月16日 (火)

OEMの独禁法上の問題点

OEM(Original Equipment Manufacturing)が独禁法上問題とされる場合があります。

それでは、OEMが独禁法違反とされるのはどのような場合なのでしょうか。

この問題を考えるには、なぜOEMが独禁法違反となり得るのか、をよく考える必要があります。

OEMというのは、要するに、他社から供給を受けた製品を自社ブランドで売ることです。

例えば、東芝が船井電機からDVDプレイヤーの供給を受けて、東芝ブランドで売る、といった具合です(あくまでたとえ話です)。

これだけ見ると、OEMは製造委託と変わらないように見えるので(東芝がフナイに製造委託しているだけ)、どこが独禁法違反なのか、よく分かりません。

実はOEMの場合、委託側と製造側が競争者であるために、単なる製造委託とは異なる以下のような問題が生じ得るので、独禁法上問題とされるのです。

まず当たり前のことですが、OEMでは委託側(東芝)の調達コストが製造側(フナイ)に丸見えになってしまいます。フナイから東芝に売った値段が東芝の調達コストなので、これを分からないようにするのは無理です(ただ、東芝からフナイに原材料を支給して製造委託料だけをフナイに支払うようにすれば、この事態は避けられます)。ライバルの調達コストが分かれば、どうしても競争制限的行動に結びつきやすくなります。

次に、OEMでは委託側(東芝)の販売量や販売計画が、製造側(フナイ)に丸見えになってしまいます(東芝がフナイだけでなく、同じ商品をサムスンにもハイアールにも製造委託すればそういうことにはならないのでしょうが、そういうことは実際には余り無いようです)。そうすると、フナイとしては東芝の販売計画を睨みながらフナイ製品の販売計画を立てられるわけで、競争制限的な行為に結びつきやすくなります。通常の製造委託では、そもそも製造側は自社ブランドでは販売しませんので、こういう問題生じません。

また、従来自社で製造していた商品をOEMに切り替える場合には、委託側(東芝)が製造設備を縮小することが多いです。しかも、そのことを製造側(フナイ)にはっきり伝えなくても、OEMに至る事情からして製造設備を縮小するんだろうなぁということが、受託側に分かってしまいます。これも、協調的行為に結びつく可能性があります。

さらに、OEMでは製造側(フナイ)も自社ブランド製品を販売せねばなりませんので、もしフナイの生産能力に余裕がないと、東芝分何台、フナイ分何台、というように、割り振りを決めないといけないことになります。もしOEMの対象になっている東芝ブランドのDVDとフナイのDVDの市場でのシェアが高ければ、かなりカルテルっぽくなります。普通の製造委託であれば、製造側の生産能力が足りなくなれば、委託側は他の業者に頼むまでです。

以上のように、OEMに独特の問題がいろいろとあるので、単なる製造委託に比べて独禁法に抵触する可能性が高くなります。

ついでにいえば、OEMは様々な事情でもともと寡占的な業界でなされやすいということもあるのではないかと思います(通常の製造委託では、中小の受託製造業者がいくらでも存在するし、委託側が中小企業であることもある)。

最後に、公取委の相談事例などを見てこういう点が考慮されていると思われる点を、以下に列挙しておきます。

①OEMの対象製品が、製造側(フナイ)の生産能力のどの程度の割合を占めるか(割合が低ければ問題なし)、

②OEMの対象製品が、製造を委託する側(東芝)の販売数量のどの程度の割合を占めるか(割合が低ければ問題なし)、

③製造を委託する側と製造する側のマーケットシェア(低ければ問題なし)、

④製品の販売価格に占める製造コストの割合が大きいか(製造コストが販売価格に占める割合が大きいと販売価格も両社で近づくことになり、問題が大きい)、

⑤販売は独自に行うか(独自に行うなら問題ない)、

⑥必要な範囲を超えて情報交換しないか(すれば問題。当然ですね)。

相互OEMの場合は、各当事者が製造を委託する側と製造する側の両方の立場に立つので、①~⑥を両方の立場からチェックすることになるので、各要素にひっかかる可能性が高まりますが、かといって、一方通行のOEMであれば独禁法上問題ではない、というわけではありません。

独禁法に馴染みがないと、どうしてもOEMという契約形態自体が問題であるかのような錯覚をしてしまいがちで、何が問題なのかの本質が捉えにくくなるのですが、取引のネーミングに囚われず、競争への影響を丹念に見ていくことが必要なのだと思います。

2010年3月12日 (金)

持株会社の定義(9条4項1号)と間接子会社の株式

総資産額が6000億円(子会社含む)を超える持株会社は、事業に関する報告書を毎年、年度末から3ヶ月以内に公取委に提出しなければならないことになっています(独禁法9条4項1号)。

平成19年度には、この持株会社による届出を含め、9条4項(平成21年改正前は5項)の届出が93件あったそうです(平成20年版独禁白書。なお、2号は金融機関の届出、3号はその他の会社の届出です)。

持株会社の定義は9条4項1号かっこ書きにあり、

子会社の株式の取得価額(最終の貸借対照表において別に付した価額があるときは、その価額)の合計額の当該会社の総資産の額に対する割合が100分の50を超える会社」

と定義されています。

そして、上記定義での「子会社」は、議決権の過半数が握られているか否かという形式基準で判断されます。また、孫会社等の間接子会社も含まれます(9条5項)。株式取得等の届出における企業結合集団の範囲が実質基準できまるのと対照的です。

このように「子会社」には、直接の子会社だけでなく間接の子会社も含まれますが、そこでちょっとひっかかるのは、総資産に対する子会社の株式取得額が過半数、という持株会社の定義との関係です。

間接子会社も「当該会社(=持株会社)の子会社とみなす」という9条5項の文言からすると、一瞬、

「間接子会社(例えば、C社)も持株会社(例えば、A社)の子会社とみなされるのだから、C社の株式はその直接の親会社(例えば、B社)が保有しているのではなくて、A社が保有してるとみなされるのかな。そうすると、A社の資産の過半数を子会社株式が占めるかどうかを算定するときに、C社の株式もカウントされるのかな・・・?」

と思ってしまいそうです。

しかし、そんなことはありません。カウントされるのはB社の株式の価格だけです。常識的な結論ですね。

説明方法はいくつかありそうですが、9条4項1号の持株会社の定義では、

「取得価額(〔A社の〕最終の貸借対照表において別に付した価額があるときは、その価額)」

とされており、「取得価額」はA社の貸借対照表に載っていることが大前提になっています(A社のBSに載らない株式について「別に」付した価額を云々するはずがない)。よってA社の貸借対照表に載りようがないC社の株式取得価格は、「株式価値過半数要件」にはカウントされません。

間接子会社も子会社とみなされることが意味を持つのは、(持株会社の定義自体ではなくて)持株会社とその子会社の総資産が6000億円を超えるときに報告義務が生じる、というときの「6000億円」に、間接子会社の資産も含まれる、という点においてです。

ところで、間接子会社と一括りにいいましたが、定義をよく読むと、間接子会社(C社)はもちろん、間接子会社と究極親会社の間に挟まっている直接子会社(B社)も国内の会社でなければなりません。

よって、例えば持株会社(A社)の下に海外の中間持株会社(B社)をつくって、その下に国内の事業会社(C社)をぶら下げると、B社は「子会社」の定義に該当しないために、A社は持株会社でなくなってしまいます(A社の資産に占める「子会社」の株式価値が、「子会社」が存在しないためにゼロとなるので)。

つまり、持株会社が中間持株会社を海外に作ると、国内の事業会社を中間持株会社の下にぶら下げても独禁法9条4項1号の報告義務は生じないことになります。

2010年3月10日 (水)

「同一の商品」と「同種の商品」(企業結合届出書)

昨日の続きです。

平成21年改正後の企業結合の届出書をよく読むと、「同の商品」と「同の商品」という、2つの異なった用語が登場することが分かります。

しかも、「同一の商品」については、記載要領を読んでも定義がありません。

「同一の商品」の使い方は、例えば「4 届出会社及び株式発行会社の国内の市場における地位」のところで、届出会社(=株式取得会社)と株式発行会社の市場における順位とシェアを記載するときに、

(1)届出会社と発行会社で同一の事業地域内で「同一の商品又は役務」について競合する場合

(2)「同一の商品若しくは役務について競合しない場合(と、異なる地域で競合する場合)

に分けて記載せよ、というように使用されています。

なので順位とシェアは「同一の商品」(その定義はさておき)について記載すれば良いのか、と思うとさにあらず。記載要領には、

「市場占拠率の算出は・・・株式取得後の会社と同種の商品又は役務の総供給量・・・を分母とする次の例式によって算出して下さい。」

と明記されています。つまり、機能及び効用が同種の商品の中での順位とシェアを書かないといけない、ということです。

届出書の書式を全体的にみると、「同一の商品」というのを「同種の商品」と意図的に書き分けているようでもなさそうです。

ですので、「同一の商品」は「同種の商品」と同じ意味だ、と考えておくのが恐らく正しいのだと思います。

そんな細かいことはどうでも良いじゃないかと思われそうですが、「同一」とか「同種」あるいは「種類」という用語は、実は結構厄介です。例えばA社債とB社債は同じ「種類」といえるのか否か、議論が分かれたりします。なので法律家は、「同一」とか「同種」とかいわれると、敏感に反応してしまいます。

恐らく、届出書の「同一の商品」というのは、旧法時代のものが残ってしまっただけなのだと思いますが、同じ意味の異なる用語があるというのはやはり混乱の元です。

しかも、普通の人は「同一の商品」の範囲のほうが、「同種の商品」の範囲より狭いと感じるのではないでしょうか(「同一」の方はまさに同一で、「同種」の方は「同じ種類」というに過ぎない)。

でも、仮に「同一の商品」が旧法の届出書の記載を引き継いだもので標準産業分類で同一性の有無を判定するのだとすると、「同一の商品」の方が「同種の商品」よりも広い、という解釈すら生じうると思われます。

これを読んだ公取委の人が、次の届出規則の改正のときにでもついでに、「同一の商品」を「同種の商品」に統一してくれることを望みます。

2010年3月 9日 (火)

企業結合の届出書における「同種の商品または役務」の定義の変更

細かいことですが、平成21年改正に伴い改訂された企業結合届出書の記載要領によると、届出書で用いられる「同種の商品または役務」の意味が改正前と変わっています。

改正前は、

商品又は役務の種類は,日本標準産業分類に掲げる大分類F-製造業に係るものについては,工業統計調査規則(昭和26年通商産業省令第81号)に基づく工業統計調査用産業分類の6けたの分類に準拠するものとし,その他の事業に係るものについては,日本標準産業分類の細分類(4けた分類)に準拠するものとする

と、日本標準産業分類に基づくものとされていました。

これに対して改正後の記載要領では、

「『同種の商品又は役務』とは、機能及び効用が同種であるものをいい、商品についてはその物的作用、用途、経済的効用等が同種であるもの、役務については通常、『日本標準産業分類』(総務省)の細分類を参考とします。」

とされています。

つまり、届出書においても機能及び効用が同種か否かという、実質的な意味での商品市場の画定をしなければならないことになりました。

それに伴い、日本標準産業分類は、役務についてだけ用いられ、しかも「参考」に過ぎない(実質的な市場画定は必要)という位置付けになりました。

実はこの変更は、事案によっては影響が大きいように思われます。

例えば、標準産業分類を基準にすると微々たるマーケットシェアを持つに過ぎない企業同士の合併だけれど、実はその当事会社の商品は標準産業分類には現れないような特殊な用途に用いられる商品で、当該用途に限ってみると当事会社のシェアがほぼ100%、というような場合です。

改正前であれば、標準産業分類に準拠するよう指定されていたため、届出書の記載上はシェアが低くならざるを得ませんでした。

これに対して改正後は、実質的に機能・効用を考えて商品市場を画定することが求められるので、届出書の記載上も、当事会社のシェアがほぼ100%ということが現れてしまいます。

そうなると、さすがに公取委の審査で引っかかりそうです。となると、やはり事前相談はしておいた方がよい、という判断になるでしょう。

改正前であれば、こういう場合様々な考慮の下に事前相談をしないという選択肢もありえました(例えば、顧客にも説明済みで納得してもらっているとか、潜在的な輸入圧力があって市場支配力が生じないとか)。

しかし改正後は、特殊な用途があるなら、それに基づいて「同種の商品」の範囲を画定しないと届出書の虚偽記載になってしまうので、改正前のようにはいかなくなりました。

昔届出をやったときの感覚で方針を決めていると間違いますので、要注意です。

2010年3月 8日 (月)

連結財務諸表による株式発行会社の国内売上高算定の疑問点

平成21年改正によって、株式取得の発行会社側の規模要件として、発行会社とその子会社の国内売上高(50億円超)が採用されました。

国内売上高の定義は「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第九条から第十六条までの規定による認可の申請、報告及び届出等に関する規則」(届出規則)2条にあるのですが、実際にこの定義に従って国内売上高や国内売上高合計額(=グループの売上)を計算するのは大変なので、連結財務諸表提出会社の場合には、連結損益計算書の売上からセグメント情報に記載される海外売上高を控除した額を国内売上高合計額とすることができます(届出規則2条の3)。

さて、国内売上高合計額(=グループの売上)の算定に連結損益計算書を用いる場合には、当該連結財務諸表提出会社が他の連結財務諸表提出会社の子会社ではないことが必要であるとされています(届出規則2条の3第1項1号~3号の各柱書き)。

これは恐らく、当該連結財務諸表提出会社にさらに親会社があるのであれば、当該親会社の連結損益計算書(=グループの一番頂点の親会社の連結損益計算書)を使いなさい、という趣旨なのでしょう。

別の言い方をすれば、グループの中で複数の連結財務諸表提出会社がある場合には、一番上の連結財務諸表提出会社の連結損益計算書だけを用いることができるのであり、アドホックに下のレベルの連結財務諸表提出会社の連結損益計算書をつなぎ合わせることはできない、ということなのでしょう。

国内売上高合計額(=グループの売上)の算定については、以上の理屈も理解できなくはありません。

しかし、実はまったく同じ制限が、株式取得の場合における株式発行会社の国内売上高の算定についても定められています。

すなわち、届出規則2条の4では、株式発行会社とその子会社の国内売上高の原則的な算定方法が定められており、2条の5では、連結財務諸表提出会社がある場合の発行会社とその子会社の国内売上高の算定方法が定められています。

そして、連結財務諸表を用いる場合には、当該連結財務諸表提出会社は、他の連結財務諸表提出会社の子会社であってはならない、とされています(2条の5第1項1号~3号各柱書き)。

しかし、発行会社に親会社が存在するからといって発行会社自体の連結損益計算書を使えなくなるというのはおかしいと思います。

確かに、合併等で企業結合集団の売上を求める場合には、グループの下のほうレベルで連結損益計算書をアドホックに継ぎはぎして国内売上高の合計を算定するというのはいかがなものかと思いますが、株式取得の場合には、発行会社が国内売上高算定のピラミッドの頂点になるのですから、発行会社のさらに上に親会社がいようといまいと、発行会社の連結損益計算書による国内売上高の合計額の算定を認めるべきです。

2条の3の文言をそのまま2条の5に使ったのでこういう問題が生じたのではないかと思われますが、公取委には、ぜひ、届出規則を改正していただきたいと思います。

仮に株式発行会社に親会社がある場合に発行会社の連結損益計算書を用いられない何らかの理由があるとしても、独禁法の株式取得の届出制度の趣旨は一定のサイズの企業結合はひとまず届けさせて問題がありそうだったら実質審理するということなのですから、些細な理由で発行会社の連結損益計算書を使わせないというのは、いたずらに手間が増えるだけで実益が無いと思います。

と、立法論(規則改正論?)をいっても実務家としては無責任なので、私なりに現実的な解決方法を申しますと、発行会社に親会社がある場合でも、発行会社の連結損益計算書を用いて算定した国内売上高は、届出規則2条2項(=2条1項で算定できない場合の救済規定)で幅広く救うような運用をしていただくよう、公取委と交渉すべきと考えます。

もともと届出規則2条2項が、1項で算定できないときに限って救済しているのもやや硬直的であり、本来は、1項と2項とでより信頼性が高そうなほうを用いたほうが結論的にも妥当なはずです(いい加減に1項で算定するくらいなら、いろいろ工夫して2項の精度を上げるべき)。

そのようなことも踏まえ、ぜひ、発行会社の連結損益計算書を用いた売上高の算定を幅広く認めていただきたいものです。

2010年3月 7日 (日)

直近親会社は複数存在するか。

企業結合届出制度における「企業結合集団」の範囲を画するための概念として「親会社」、「子会社」という概念が平成21年改正法で導入されました。

独禁法10条6項と届出規則2条の9の「子会社」の定義や「親会社」の定義(独禁法10条7項、届出規則2条の9)をみると、ある会社に直近の親会社が同時に2社以上存在することがあり得るのか、というのがやや明確でなく、モヤモヤしておりました。

(なお、ある会社(A社)の親会社(B社)の親会社(C社)もA社の「親会社」に該当すると言う意味でA社にB社、C社という2社の親会社が存在することは明らかなのですが、ここで問題にしているのは「直近」親会社、例えばA社の50%ずつの株主B社およびC社というのがありる場合に、B社とC社が同時にA社の親会社ということがあり得るのか、という問題です。)

が、公取委は直近親会社は1社しか存在し得ないという立場を「株式取得に関する計画届出書記載要領」などの記載要領において明確にしました。

http://www.jftc.go.jp/ma/youryou/kaiseiyouryou.html

同記載要領では、

「①会社〔A社、B社〕が他の会社等〔C社〕の「財務及び事業の方針の決定を支配している」ことに該当するか否かの判定に当たっては、複数の会社(親子会社にある会社を除きます。)〔A社、B社〕が、それぞれ当該他の会社等〔C社〕の「財務及び事業の方針の決定を支配している」ことにはならないことに留意して下さい。」

と言っています。

つまり、C社を支配するのはA社かB社のいずれか1社であるはずであって、A社とB社が同時にC社を支配するということはあり得ない、といっています。

しかも、届出規則2条の9第3項号の要件を満たす親会社(=過半数議決権を有する親会社)がいる場合には、届出規則2条の9第3項号の親会社(=議決権40%~50%で、かつ一定の要件を満たす親会社)が仮に存在しても、2号の親会社は親会社に該当せず、1号の親会社のみが親会社に該当する、といっています。

(なお、記載要領では、「規則第2条の9第1項1号」、「規則第2条の9第1項第2号」といっていますが、「1項」というのは「3項」の誤字ですね。)

つまり、届出規則2条の9第3項において、

1号 > 2号

という優先関係があることが明らかにされました。

届出規則2条の9第3項の文言からどのようにすれば以上のような解釈が導かれるのか疑問がないではありませんが(文言上は、1号 = 2号に見える)、常識的な結論ですし、ともあれこのような解釈を公取委が示したことは結構なことだと思います。

とはいえ、問題がすべて解決したわけではありません。

例えば、A社とB社が50%ずつのジョイント・ベンチャーC社を設立した場合、C社の親会社はどのように決まるのでしょうか。

50%ずつですので、1号には該当しません。

そこで2号の要件を検討することになりますが、2号イ(=自己所有等議決件数が過半数)は、50:50の合弁なので該当しません。

C社の取締役会の過半数がA社の役員・使用人からなれば、A社が親会社ということになりますが(2号ロ)、ちょうど同数なら2号ロでも親会社は存在しないことになります。

合弁契約は、「重要な財務及び事業の方針の決定を支配する契約(届出規則2条の9第3項2号ハ)に該当する内容を有することが多いと思いますが、公取委の見解では親会社は1社に限りますので、A社かB社いずれか1社がC社を支配するというような合弁契約書でもない限り、2号ハによってもA社とB社いずれも親会社でない、ということになりそうです。

2号ニでは、資金調達額の過半数を融資していることというのが支配の要件になっているので、これで親会社が決まるかもしれません。

しかし、合弁契約では双方親会社が出資割合に応じて融資義務を負うことも多いので、ちょうど同額だと2号ニでも親会社が決まりません。

決まらないならまだ良いのですが、企業結合集団の範囲は企業結合の前日で判断するとされているので、何かのはずみで企業結合の前日の融資残高がA社>B社になったりすると、いきなりA社が親会社として登場することになるので、これはこれで困ったことです。

2号ホ(その他自己が他の会社等の財務及び事業の方針の決定を支配していることが推測される事実が存在すること)になると、もう一般的に述べることは出来ません。

最後に3号は、50:50の本設例の場合、該当なしとなります。

公取委の記載要領は、50:50のジョイント・ベンチャーであるC社は、A社とB社が共同で支配している場合にはいずれの子会社にも該当しない(関会社になる)という立場のようです。

しかし記載要領を注意して読むと、「・・・共同支配されている実態にある場合には」となっているので、そういう実態がない場合には、50:50の合弁だからといって親会社が存在することもあり得そうです。

典型的に悩ましいのは、合弁契約で社長を一方(例えばA社)の出身者と定めている場合です。これだと2号ホ(その他自己が他の会社等の財務及び事業の方針の決定を支配していることが推測される事実が存在すること)に該当してA社がC社を支配していることになり得そうですが、やはり社長がどちらの出身かと言うだけの一事をもってしては、支配の有無は決まらないと考えるべきでしょう。

何より、記載要領では「共同支配」の定義こそないものの、50:50の合弁では共同支配を広く認める趣旨のように思われ(50:50ですら「共同支配」と言わないなら、およそ共同支配が認められる場合など存在しなくなるでしょう)、裏を返せば50:50の場合には基本的に親会社は存在しないと公取委は考えて良いのではないかと思います(というより、そう思いたいです)。

例えば、上述の融資額過半数の要件(2号ニ)に企業結合の前日にたまたま該当しても、基本的には、共同支配ということになる、と公取委は考えているのではないかと思います。

2010年3月 4日 (木)

【閑話休題その2】契約当事者を甲・乙と略称すること

続いてまた軽い話題を。

日本語の契約書では当事者を「甲」、「乙」と略称する習慣があります。

この習慣は、当事者を取り違えやすいし、読むときもいちいち「どっちだったっけ?」と考えながら読まなければならないことになるので、私はお勧めしていません。

実際、甲と乙を明らかに間違えてドラフトしている契約書に出会ったことは1度や2度ではありません。

しかし、私ごときが反対しても古い習慣はなかなか無くならないので、なんとかミスをしない方法を工夫する必要があります。

まず、この甲、乙の使い方が概ね定まっている契約書の種類も多いです。例えば、売買契約書なら売主が甲、賃貸借契約書なら貸主が甲、という具合です。

これらは財産権の移転の方向(売主→買主)に従って、甲→乙、と名付けているといえます。独禁法流にいえば、川上から川下へ、ですね。

しかし問題は、このように川上、川下と割り切れない契約の場合です(例えば共同研究開発契約)。甲、乙の誤植はまさにこんな場合に生じます。

そこでひとつの指針は、「偉い方が甲、偉くない方が乙」という覚え方です。こうイメージしておくと、甲と乙の取り違えがぐっと減ります。

確かに、どちらが甲でも乙でもいいような契約書では、立場が強そうな方が甲、弱そうな方が乙になっていることが多いです。

例えば、下請業者に対する製造委託契約では、物の流れは下請→発注者ですが、ほぼ例外なく、川下側である発注者が甲になっていますが、これなどは発注者の方が偉いからでしょう。

(だからといって、下請業者を「甲」にして偉そうに見せても、下請法リスクの回避には何の役にも立ちませんので念のため。)

私くらいの世代(昭和47年生まれ)では甲、乙という呼び方にこういうランク付けがあるという発想が余りないのですが、少しご年配の方ですと(契約書を指しながら)、

「我が社が『乙』ですよ。信じられますか、先生!」

みたいに怒る人もいたりします。

ですが、本当に申し上げたいのは、甲・乙という呼び方はやめよう、ということです。

印刷が面倒だった昔は甲・乙と書式に入れて空欄の当事者名は手書きで埋めるということをしていたので、甲・乙にも合理性はあったのかも知れませんが、今はパソコンとプリンタがあります。

是非この機会に、甲、乙という呼び方を使うのを止めることをご検討下さい。

2010年3月 3日 (水)

【閑話休題】複雑な条文の読み方

今日は独禁法とは関係のない話題をひとつ。

独禁法の条文も最近はどんどん複雑になってきて、初めて読むときにはかなり難儀します。

そこで線を引いたりマーカーで色を付けたりするのですが、複雑な条文だとマーカーだらけになってどこがポイントなのかが分からなくなってしまいがちです。

そこで私は、マーカーの塗り方にちょっと工夫をしています。

いろいろパターンはあるのですが、例えば、長い主語の条文のときには、主語の後の助詞の「は」や「が」をマーカーで塗ります。これで主語がどこまで続くのか一目瞭然です。英語の条文では主語がそんなに長いことは少ないのですが、同様にマークするとすればshallですね。

下に独禁法10条2項をマークしたものを載せてみました。こんなイメージです。

2010022217250000_2

う~ん、見にくいですね。4行目くらいのところの主語(10条2項の主語は株式取得会社です)の最後の「は」にマーカーがしてあるのがお分かりいただけますでしょうか。

その他のパターンとしては、「及び」とか「又は」とかの接続詞を塗ります。英語の条文ならandとかorです。これによって、何と何が対比・並列されているのかが視覚的に浮き上がってきます。

「括弧を飛ばして読む」というのはよく言われることですが、実務では括弧の中が大事だったりするので、括弧の最後の「を含む」とか「を除く」とか「に限る」にマーカーします。これで、括弧の中を読む前に、その部分が除かれるのか含まれるのかが直感的に分かります(英語の条文だとincludingとかexcludingが先に来るので、こういう悩みはむしろ少ないですね)。

その他には、条文の中に1号、2号・・・があるときには、だいたい柱書きに「次の各号に該当するとき・・」みたいな文言があるので、そこの「次」というのをマーカーで塗ります。というのは、こういう条文を見るときはまず各号を見てから柱書きを見るのですが、柱書きが長いと各号が結局何のことなのか、すぐに分かりづらいことがあるからです。

英語の条文のときには、否定のno, none, nothing (のうちの更に"no"だけ。thingは塗らない), unlessなどもマークです。長い条文だと、否定なのか肯定なのか途中で分からなくなるからです。これをやると読み返すときが楽です)。

他にも工夫の余地はあると思います。みなさんもぜひいろいろ試してみて下さい。

2010年3月 2日 (火)

事前相談の結果に異議がある場合の対応

日本では、統合後のシェアが高くなるなど独禁法上問題が生じそうな企業結合については、公取委に事前相談を行うのが一般的です。

では、事前相談の結果公取委から独禁法上問題有りと指摘された場合、どのように争えば良いのでしょうか。

事前相談の結果に不服があっても当事会社は異議を申し立てることはできません。事前相談が法律上の根拠を持たない任意の制度であることからすれば、当然のことかもしれません。

また事前相談は行政手続法2条6号に定義される「行政指導」にも該当しません。同号では行政指導は「・・・作為又は不作為を求める」指導などを指す、とされており、事前相談はいわば独禁法の解釈をしめす法律相談のようなものであり、作為や不作為を求めているわけではないからです。またそもそも、「行政指導」に該当するとしても行政手続法不服申立の手続があるわけでもありません。

それでは事前相談の結果に異議がある当事者はどうすれば良いのかといえば、正式に、法律上の企業結合の届出をするほかありません。というよりむしろ、こちらの法律上の届出のほうが本来の制度なわけです。

事前相談で公取委が違法だと結論付けた企業結合は、正式届出手続においても当然違法だと言われるでしょうから、そのまま企業結合を実行すれば公取委から事前通知の後排除措置命令を受けるので(独禁法17条の2)、まずは公取委において審判で、続いて東京高裁において審判取消訴訟で争う、ということになります。

以上は届出義務があることを前提にお話しましたが、届出の要件を満たさないために届出義務が無い場合はどうなるのでしょうか(念のためですが、届出義務が無くても企業結合が実体法上違法であるということはありえます)。

この場合は、届出をしないでそのまま企業結合を行うことになります。そして、その場合には、排除措置命令(の事前通知)の期限(独禁法10条9項など)が無いので、理屈の上では永久に、公取委から排除措置命令を受ける可能性がある、ということになります。

なお、排除措置命令の事前通知(独禁法10条9項等)は企業結合が行われる前でも後でもなされることがあり得ますが、排除措置命令自体は、独禁法17条の2において「・・・違反する行為があるときは、」とされているので、当然、合併等が行われた後においてのみなされるものと解されます。

また、公取委が東京高裁に緊急停止命令(独禁法70条の13)の申し立てをすることも考えられますが、緊急停止命令も、10条1項などに「違反する疑いのある行為をしている者に対し」てできるものなので、まだ企業結合していない(=違反していない)者に対して行うことはできないと解されます。

ただ、企業結合を行う前でも立入調査や報告命令はなされる可能性があります(独禁法47条)。

事前相談の制度ができてからは、独禁法上問題のありそうな企業結合が事前相談も無く行われていきなり排除措置命令がでたという話は聞きませんが、もし今後、事前相談をせずに企業結合の届出をしてみよう(届出義務の無い場合はいきなり企業結合してみよう)という場合の参考になればと思います。

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