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2010年2月26日 (金)

ファンド(組合)による株式取得と届出

平成21年独禁法改正により組合による株式取得の一部が届出の対象となりました。つまりファンドによる株式取得も一部届出の対象となりました。

具体的には、組合の中でも、その組合を支配する親会社が存在するような組合に限って、株式取得の届出を要するようになりました(10条5項)。

この場合に届出義務を負うのは、直近の親会社になります(究極の親会社ではありません)。10条5項で、「当該組合に2以上の親会社がある場合にあっては、当該組合の親会社のうち他のすべての親会社の会社であるものをいう。」という部分が、このことを表しています。

10条5項で、「会社の子会社である組合」(の組合員が組合財産として株式を取得しようとする場合)と、ちょっと分かりにくい(「組合」なのに「子会社」とは?)になっていますが、

10条6項(「子会社」の定義規定)

10条2項(「会社等」を、会社、組合、その他類似する事業体であると定義しています)

とを併せて読むと、「子会社」には会社のみならず、組合も含まれることが分かります。これに対して「親会社」は会社に限ります(10条6項)。

ところで10条6項の「子会社」の定義は、同じような規定が銀行法や保険業法にもありますが、読みにくいですね。注釈を挿入すると、「会社」とは、

会社〔=会社を想定〕がその〔=直後の「株式会社」の〕総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の(、)当該会社〔=冒頭の「会社」。会社を想定〕がその経営を支配している会社等

というようになります(にしてみました)。

噛み砕いていうと、子会社の典型例として、別の会社(親会社)に議決権の過半数を握られているような株式会社を挙げ、その後の「その他の」に続けて、議決権の過半数に限らず、別の会社(親会社)に経営を支配されている会社や組合も「子会社」に該当する、としているわけです。

それでは、会社が経営を支配する組合(10条5項の文言では「会社の子会社である組合」)とはどのようなものを意味するのでしょうか。

この点については届出規則2条の9に子会社の定義があり、同条1項では、「子会社」とは、

「〔独禁法10条6項〕に規定する会社〔=会社を想定。上記参照〕がの会社等〔=会社を想定〕の財務及び事業の方針の決定を支配している場合における当該の会社等

と定義されています(なお、届出規則2条の9では「」はすべて会社のほうを指していることが読み取れると、理解しやすいです)。

それでは「財務及び事業の方針の決定を支配している場合」とはどのような場合かというと、届出規則2条の9第3項に規定があります。

子会社が株式会社の場合には議決権過半数などが支配の要件なのですが、組合が子会社の場合にはカッコ内に読み替え規定があり、大まかに言えば、

組合の業務執行を決定する権限の全体に対する自己(子も含みます)の計算で所有する業務執行を決定する権限の割合(以下、便宜的に「自己計算決定権限割合」といいます)が100分の50を超えている場合(届出規則2条の9第3項)、

など、一定の場合に「財務及び事業の方針の決定を支配している」、つまり親子関係がある、とされています。

さてここからが本題ですが(前置きが長いですね。笑)、「自己計算決定権限割合」って、具体的にはどのように計算するのでしょう?

民法上の組合の場合は、業務執行は組合員の過半数で決定されるのが原則です(民法670条1項)。いわゆる頭割りですね。

例えばP組合の組合員がAさん(個人)、B社(会社)、C社(会社)の場合には、B社もC社も「自己計算決定権限割合」は3分の1なので「親会社」には該当しません。

ところが、B社とC社に共通の100%親会社(Z社)があると、Z社は子会社であるB社とC社を通じて組合員数3人のうち2人を占めていることになるので、「自己計算決定権限割合」は3分の2となり、よってZ社がP組合の親会社ということになります。

また民法上の組合の場合には、組合契約で業務執行者に委任した者が数人あるときにはその過半数で決定されます(民法670条2項。業務執行者が1人の場合にはその者が決定することになります)。

例えばP組合の業務執行者がαさん(個人)、β社(会社)、γ社(会社)の3人である場合には、β社もγ社も「自己計算決定権限割合」は3分の1なので、「親会社」には該当しません(なお、業務執行者は組合員の中から選ばれることが多いでしょう。これを業務執行組合員(ジェネラル・パートナー、GP)といいます)。

しかしここでも、β社とγ社に共通の100%親会社(ζ(ゼータ)社)があると、ζ社はβ社とγ社を通じて業務執行者の3分の2を占めていることになり、ζ社がP組合の親会社となります。

投資事業有限責任組合(いわゆるベンチャーキャピタルなど、企業への投資を目的にします)の場合は、業務執行は無限責任組合員の過半数で決定されます(投資事業有限責任組合契約に関する法律7条2項。無限責任組合員が1人の場合にはその者が決定します。同条1項)。

例えばP投資事業有限責任組合の無限責任組合員がA社(会社)である場合には、A社がP投資事業有限責任組合の親会社となります。

最後に有限責任事業組合(共同で営利事業をするための組合。いわゆる日本版LLP)の場合には、業務執行は原則として総組合員の同意によることとされています(有限責任事業組合契約に関する法律12条1項)。LLPの組合員は全員が業務執行組合員であるという建前(金銭のみの出資は認めない)に基づいています。

さてこの場合、「自己計算決定権限割合」はどのように計算するのでしょう?

届出規則2条の9第3項の文言に戻ると、「自己計算決定権限割合」とは、

「業務執行を決定する権限の全体に対する自己の計算において所有している業務執行を決定する権限の割合」

を意味します。

全員一致で意思決定をする場合にこの「自己計算決定権限割合」をどう考えるのかは、ちょっと分かりにくいですが、やはり組合員の数の割合で考えるべきでしょう。

有限責任事業組合の場合でも重要でない一定の業務執行は3分の2以上の多数決で決定することができますが、株式取得の決定が3分の2以上の多数決でなされる場合も同様に、組合員の数の割合で考えるべきと考えます。

例えば、P有限責任事業組合にAさん(個人)、B社(会社)、C社(会社)の3人の組合員がいる場合、B社もC社も「自己計算決定権限割合」は3分の1なので、P有限責任事業組合の親会社ではありません。

しかし、B社とC社に共通の100%親会社Z社がいる場合には、Z社が親会社となり、株式取得の届出を要することになります。

以上、細かく考えるといろいろ問題があるものですね。ファンドで株式を取得する場合は要注意です。

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