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2010年2月21日 (日)

新設合併と株式取得の届出

合併などの組織再編手続の中に株式取得が隠れいていることがあるので、合併だけ届け出て株式取得の届出を忘れないように注意する必要があるということは、このブログでも何度か申し上げてきました。

今回は、新設合併の場合について考えてみます。

新設合併というのは私自身使ったことがありませんし、実例を聞いたことすらありませんが、頭の体操だと思ってお付き合い下さい。

新設合併の場合、一方の当事会社の企業結合集団の国内売上高が200億円超、他方の当事会社の企業結合集団の国内売上高が50億円超の場合に届出が必要になります(15条2項)。

そして、新設合併では新会社が設立されて、新会社の株式を合併当事会社の株主が取得することになるので、新会社の株主による株式取得の届出の要否を考える必要があります。

例えば、A社(国内売上高200億円超)とB社(同50億円超)が新設合併をするとします。A社の40%程度の大株主であるα社(国内売上高200億円超)が、新設会社の株式の20%超を取得するとします(いずれの会社にも子会社はないとします)。

この場合に、α社による新設会社株式の取得について株式取得の届出は必要でしょうか。

届出要件を満たすにはまず、株式を取得するα社の国内売上高が200億円超でなければなりません(10条2項)。

次に、株式発行会社である新設会社の国内売上高が50億円超である必要があります(10条2項)。

さて、ここで疑問が浮かびます。

新設会社の国内売上高って、何でしょう?

ここで「国内売上高」といっているのは、条文上、最終事業年度の国内売上高です(10条2項)。

しかし、新設会社は文字通りできたばかりの会社なので、「最終事業年度」は論理的にあり得ません。したがって、国内売上高もゼロのはずです。

しかし、以前も取り上げだ公取委ホームページの「届出制度Q&A」によれば、どうも公取は、決算を経た会社や事業を引き継いだ会社は国内売上高も引き継ぐと考えているようです(このような解釈が条文の文言から導かれうるのかはやや疑問であるものの、実質的には妥当な解釈であると考えることは、以前申し上げました)。

そして、決算を経た国内売上高も引き継ぐという公取委の解釈に立てば、新設会社の国内売上高は、A社とB社の国内売上高を合計したもの、ということになりそうです。

本設例では、A社の国内売上高は200億円超、B社の国内売上高は50億円超なので、両方引き継いだ新設会社の国内売上高は250億円超となり、株式取得の場合の発行会社の国内売上高基準(200億円超)を満たすことになります。

よってα社による新設会社株式の取得に関する届出が必要となります。

以上が公取委のQ&Aにおける考えを踏まえた形式的な結論ですが、なんだか変ではないでしょうか。

α社はもともとA社の株主なので、取得するのはB社の国内売上高に相当する部分だけなのではないでしょうか。つまり、もともと株主であったA社の国内売上高まで算入されるのはおかしくないでしょうか。

さらにいえば、新設合併の場合にA社とB社の国内売上高を合計した額が新設会社の国内売上高となるのであれば、吸収合併の場合とアンバランスではないでしょうか(この点については別途考えてみます)。

しかし、結論をいってしまえば、A社とB社の国内売上高を合計した額が新設会社の国内売上高になり株式取得の届出が必要になると考えるのが正しいように思います。

α社が元々大株主として把握していたA社の国内売上高もカウントされるのは腑に落ちないものがありますが、(新設会社が当時会社の権利義務を承継するという)新設合併という形式を採る以上、論理的には新設会社はあくまでA社とB社の売上を引き継ぐと考えるのも間違っているとはいえないと思われるからです。

またそもそも独禁法上の企業結合の届出は反競争性の実質審査のためのとっかかりに過ぎないことからすれば、届出要件の有無を実質論で狭めたりする必要はない(形式的に届出要件に該当するならとりあえず届け出させる)と思われるからです。

公取委の届出制度Q&Aでの解釈は他の組織再編の中でもいろいろな問題を生みそうですね。さらに検討していきたいと思います。

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