ライツ・イシューと株式取得の届出
東京証券取引所の規則改正で、従前は事実上禁じられていたいわゆるライツ・イシュー(株主に対して新株予約権を割り当てる方法による資金調達)が解禁されました。
このライツ・イシューについても独禁法上の株式取得の事前届出が必要になることがありうるので注意が必要です。
例えば、ライツ・イシューをS社が行おうとしている場合に、S社には議決権比率20%ちょうどの大株主P社がいたとします。
ライツ・イシューの手続は、通常、
①取締役会による新株予約権の割当決議、有価証券届出書提出
②新株予約権の割当基準日の到来
③信託銀行から株主へ割当通知、目論見書を送付
④新株予約権行使期間の開始
⑤行使期間の満了
という流れをたどります。①から⑤まで概ね3ヶ月程度かかるといわれています。
さて、新株予約権者は新株予約権を行使した日に株主になります(会社法282条)。
そして、大株主P社の議決権比率はちょうど20%なので、P社がS社の株主の中で最後に新株予約権を行使するのでない限り、行使後の議決権比率は20%を超えてしまいます。
これに対してP社が株主の中で最後に議決権を行使する場合には20%ちょうどのままで変更はないことになりますが、株主の中には新株予約権を行使しない(払込金額を支払わない)ことを選択する者も当然いるでしょうから、結局、事実上常に20%を超えてしまうことになります。
したがって、S社(とその子会社)の国内売上高が50億円超、P社の国内売上高合計額が200億円超であれば、独禁法上の株式取得の事前届出が必要になります。
新株予約権の行使後に具体的に持ち株比率が何%になるかは、他の株主の新株予約権の行使状況を見ないと分からないので、届出書には取得後の議決権比率を具体的に書くことができないのですが、公取に事情を説明すれば多分細かいことはいわれないと思います。
どうしても株式取得の届出をするのが嫌なら、新株予約権を一部行使しなければよいでしょう。
実は、株主割当による新株発行の場合でも同様に、既存の20%株主が株主割当により20%を超えてしまうということはありえます。
今回は、まだ実例のないライツ・イシューを説明の素材に取り上げてみましたが、株主割当の新株発行の場合にもご注意下さい。
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