届出制度Q&A
公取委のホームページに、改正後の企業結合届出制度に関するQ&Aが出ています。
http://www.jftc.go.jp/ma/qaindex.html
大変懇切丁寧かつ的を射たQ&Aで、実務家必読です。
さてその中でいくつか気になった点を書き留めておきます。
(なお、役所のホームページの記述はいつの間にか変わっていたりするので、プリントアウトして保存しておくことをおすすめします。)
「禁止期間について」のQ2の「株式取得日の考え方を教えて下さい」という質問に対して、売買契約が履行された日が株式取得日になると回答されています。
この解釈は従前から公取委が採っていた解釈なのですが、売買契約の「履行」って、何なのでしょうね。代金の支払いか、株券の引渡かのいずれかがあれば良いのでしょうか。その両方が必要なのでしょうか。
それに続けて、「名義書換は必要ありません」と明記されていることからすると、名義書換以外の義務の履行、例えば代金支払と株券引渡(振替株式なら譲受人口座の保有者欄への記載)を指すということかとも読めますが、それはちょっと危険です。
やはり企業結合規制の趣旨からすれば、議決権を行使しうる立場あるいは名義書換を請求しうる立場に立つことが問題なのですから、株券引渡(振替株式なら保有者欄への記載)を禁止期間中にやるのは問題なような気がします。
むしろ代金支払の有無は反競争的効果と直接関係ないでしょう。
Q3では、公開買付の場合の取得日が「決済を行った日」と回答されています。
これも同じ理由で問題なような気がします。ただ、公取委が禁止期間内に決済しなければ振替記録の移転や株券の引渡、ひいては名義書換までしてもよい、といってくれているのですから、TOBをする側にとってはむしろありがたいことかも知れません。
Q5で、公開買付の場合に禁止期間の短縮が認められる要件について、
①競争への影響が明らかに軽微
②届出受理の日から30日を経過するまでに決済が終了すること
と回答しています。
これはありがたいですね。ファンドによる株式取得の場合、ファンド自身は事業をしていないので①は満たすでしょうから、事実上フリーパスです。もちろん油断は禁物ですし、Q&Aでも、禁止期間を考慮して買付期間を設定することが望ましいとされています。
「届出基準について」のQ1での国内売上高の意味についての質問で、保険会社については経常収益が売上高であるというのは届出規則2条1項のとおりなのですが、「国内で供給された役務の価額」というのは保険会社の場合どう読むんでしょうね。おそらく、保険契約者ではなく、保険金受取人が日本にいるかどうかで決めるのでしょう。
Q7では、企業結合集団の親子関係は株式取得等の行為の前日で判断するとされています。理屈の上では当然なのかもしれませんが、実質基準で判断される親子関係は届出から行為の日までに予期せぬことで変わることもあり得、面倒なことになることがあるかもしれません。
「国内売上高」のQ1で、売上のほとんどが国内向けの会社でも輸入を除いた売上を国内売上高として届け出て下さい、と回答されています。届出規則では厳密に国内売上高を定義していますが、実際にはこのようなざっくりとした計算でも受理されるであろうことを伺わせます。
Q2で、航空会社の場合は本邦発着の国際線の売上も国内売上高として下さい、と回答されています。概ね納得できるのですが、乗り継ぎも想定するとこれでよいのでしょうか。
例えば、ニューヨークから関空経由で上海まで行く人に対する売上も、この定義だと国内売上高になりそうですが、あくまでこの人はニューヨークから上海に行くのが目的なので、これを日本の国内売上というのはちょっと変な気がします。
(余談ですが、巷では日本航空(JAL)がアメリカン・エアラインズ(AA)と提携を決めたことが話題ですが、航空産業では、乗り継ぎを考えると、ある路線とある路線が代替財であったり補間財になったり、というのが競争上の分析の1つのポイントです。)
「届出の要否について」のQ1で、決算期を変更したために最終事業年度が3ヶ月しかない場合はどう判断するのかとの質問に対して、不足する9ヶ月分を足して判断してください、と回答されています。しかも最後の9ヶ月ではなく、12ヶ月の4分の3とするよう指定されています。
規則の文言解釈からこういう解釈が導けるのかはさておき、このような明確(かつ妥当)な解釈を示すのは良いことだと思います。
「株式取得の届出の要否について」のQ9で、短期間で2度株式取得をし、2度閾値を超える場合に2度届出が必要か、との問いに、30日以内に再び閾値を超えることが予定されている場合には1回の届出で済まして良い、と回答されています。
どうして「30日以内」でなければならないのでしょうか。2つの取得日が30日以上空いていてもまとめて1回で届出をできない理由は無いような気がします。取得の6ヶ月前から届出は受理するとしているのとも平仄が合いません。
Q10に、最終親会社A社の子会社B社とC社が共同株式移転をして中間持ち株会社D社を設立する場合株式取得が必要か、という質問に、不要であると回答されています。
これは鋭い質問ですね。D社は「企業結合集団」の定義には形式的には該当しない(企業結合集団に該当するためには行為の直前に支配関係が必要だがD社はまだ設立されていないので支配関係がありえない)のですが、穏当な解釈だと思います。中間持ち株会社の設立は実例も多いでしょうから、有益なQ&Aです。
Q11で、発行会社の最終事業年度の国内売上高が40億円でも、その後発行会社が国内売上高30億円の事業を譲り受けた場合には、当該譲渡対象事業に係る売上について決算を経ているときには届出が必要、と回答されています。
10条の文言からは出てこない解釈だとは思いますが、結論は妥当なので、まあ良いのでしょう。
それ以下の質問でも、決算を経ているか否かで譲渡対象事業に帰せられる売上が譲受側の国内売上高に算入されるか否かが決まるという立場が貫かれているようです。
「その他」のQ2で、公開買付届出書に添付する「許可等があったことを知るに足る書面」として、事前通知を受けることなく法定の期間が経過したことを示す文書を交付する、とあります。結構なことですね。
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