« 2010年1月 | トップページ | 2010年3月 »

2010年2月

2010年2月28日 (日)

排除措置命令の海外への送達

独禁法の書類の送達については民訴法の規定が準用されるので(独禁法70条の17)、排除措置命令の送達(独禁法49条2項)を外国所在の企業に向けて行う場合には民訴法108条の外国送達に関する規定が準用されます。

民訴法108条では、2つの方法を定めています。

1つめは、送達先の外国のしかるべき役所(条文上「管轄官庁」と呼ばれています。裁判所に限りません)に対して依頼する方法です。送達を行うのは外国の役所です。

2つめは、送達先の外国に駐在している日本の大使・公使・領事に依頼する方法です。送達を行うのは日本の大使・公使・領事です(大使・公使は忙しいためか、普通は領事が行うようです)。

ここで少し注意しておくべきは、民訴法108条がこれら2つの送達方法を定めている意味は、民訴法108条があるおかげでこれらの方法が日本の国内法上適法になる、ということです。

つまり、民訴法108条がなければ外国への送達には国内法上の根拠が無いことになり、もし外国への送達を何らかの方法で行っても不適法であって送達の効力が認められないことになります。外国政府がそのような送達を受け入れるかどうかという問題(この問題は送達条約等が受け持っており、後ほど説明します)とはまったく別の問題です。

独禁法70条の17が民訴法108条を準用している意味も同様であり、その意味するところは、民訴法108条の手続に従った送達方法による限り日本の独禁法上適法な送達として効力が認められる、ということです。

ですので、例えばフェデックスで排除措置命令を送っても、民訴法108条の要件を満たさないので送達の効力は認められません。

しかし、理屈の上では、独禁法に外国送達についての規定を置いて、「外国への送達はフェデックスで行う」と定めておけば、日本の独禁法上は有効な送達となり得ます(国際礼譲を定めた憲法98条2項に反して違憲だという議論はあるでしょうが、別に違憲とまでいうことはないと思います。現に外国の競争当局からは日本に命令書らしきものが国際郵便で届くことがありますし、日本だけ憲法論を持ち出して謙抑的になることもないでしょう)。

さて、民訴法108条では以上の2つの送達方法に優劣はありませんが、独禁法上の排除措置命令の送達はどちらの手続で行われるのでしょうか。

これは断然、民訴法108条後段の方法(日本の領事等が行う送達)です。

なぜなら、民訴法108条前段の方法は、外国のお役所にやってもらうので、連絡とか根回しが何かと面倒ですし、いつまでにやってくれるのかも分かりませんが、日本の領事にやってもらうならそういう面倒は少ないし、日本の役人なのでコントロールも効くからです。

ただ民訴法108条後段の方法(日本の領事等による送達)の場合でも相手国の同意が必要であると民訴法上は解されているようであり(「コンメンタール民事訴訟法Ⅱ」p410。その意味するところは、相手国の同意なくなされた領事送達は日本の民訴法上不適法である、ということです。民訴条約上または送達条約上相手国の同意を要するのかとは別の問題です)、恐らく公取委も同様の見解であろうと思われます。

そしてここでの相手国の同意は、条約に基づく場合もあれば個別同意による場合もあります。

そして、民訴法上の送達であれば、民訴条約の加盟国は同条約6条1項3号、同条2項後段、送達条約の加盟国は同条約8条、アメリカは日米領事条約17条(1)(e)(ⅰ)、イギリスは日英領事条約25条に基づいて、それぞれ送達に同意しているので、個別の同意なく民訴法108条後段の方法による送達(日本の領事等による送達)を行えるわけです。

しかし、独禁法の排除措置命令のような行政庁の命令書の送達が民訴条約、送達条約の対象になると考えて良いのかは問題です。いずれの条約も、民事または商事の文書の送達を対象にすると明記してあるからです。行政法は民事・商事法か、という問題です(なお、刑事法は明らかに民訴条約、送達条約の範囲外です)。

この点を以前調べたときは、結局、締約国の解釈次第で、行政法を民商事法の一部と考える法体系の国では行政上の文書の送達も認めるのだ、ということでした(出典は忘れてしまいました)。

日本は行政法を民商事法とは別物と考える発想が強いので、もし送達条約の締結国が同国政府の命令書を送達条約に基づいて日本国内で領事送達を行いたいといってきたら、「行政上の命令書は送達条約の範囲外だ」といって拒否するのだと思われます。

いずれにせよ、相手国の個別の同意を得た上で排除措置命令の送達をすれば、独禁法70条の17により独禁法上は有効な送達ということになるので、民訴条約や送達条約の対象に排除措置命令が含まれる(と相手国で解されているか否)か否かを考えるまでもなく、個別の同意を得てしまえばよいのです。

相手国の個別の同意が得られたとして、次は具体的にいかなる方法で民訴法108条後段の送達(領事による送達)をするのかが問題です。

例えば、相手国での普通郵便で送って送達することは出来るのでしょうか。

ここでも、日本の国内法の送達の要件を満たすのか、という問題と(民訴法の守備範囲)、相手国がどのような方法に同意するのかという問題(民訴条約・送達条約の守備範囲)とを分けて考える必要があります。

外国で民訴法108条後段の送達を行う場合の手続は最高裁通達が定めており、次の5つのパターンがあります。

①外国に駐在する日本の外交官・領事館に嘱託する(「領事送達」といいます。民訴法108条後段の送達ですね)

②「民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約」(1965年11月15日。通称「送達条約」)に基づき、外国のしかるべき当局に対して依頼する方法。同条約では「しかるべき当局」を「中央当局」と呼んでいるので、この方法は「中央当局送達」と呼ばれます(「中央当局」という呼び名は重要ではありません。「中央当局送達といえば送達条約に基づく送達なんだな」くらいに考えて下さい)。もちろん、送達条約に加盟している国に対してのみ可能です。

③「民事訴訟手続に関する条約」(1954年3月1日。通称「民訴条約」)に基づき、外国のしかるべき当局に対して依頼する方法。「しかるべき当局」は民訴条約上、「指定当局」と呼ばれるので、この方法は「指定当局送達」と呼ばれます。ここでも「指定当局送達といえば民訴条約に基づく送達なんだな」くらいに考えて下さい。

④民訴条約に基づき、外国に駐在する日本の大使からその外国の外務省に要請する方法(民訴条約では「外交上の経路による送達」と規定されているものですが、最高裁の通達で、日本の大使から当該外国の外務省へ依頼するというルートにしているわけです)。

⑤送達先の外国の裁判所に依頼する方法。「管轄裁判所送達」

しかし、公取委は裁判所ではなく最高裁の通達の拘束力は公取委には及ばないので、独禁法70条の17に基づいて排除措置命令を送達する場合には上記最高裁の通達は適用されないことになります。

そこで公取委が排除措置命令を外国に送達する場合には独禁法70条の17で認められた方法であればいかなる方法によっても良いということになります。

この点、独禁法70条の17が準用する民訴法108条では具体的にどのような方法で送達するか(どのような方法で送達すれば日本法上有効な送達となるか)については規定されていませんが、コンメンタール民事訴訟法Ⅱのp411によれば、民訴法108条後段の方法(領事等が送達する方法)による場合には、

「わが国の法律によって送達するが、送達実施機関たる執行官等がいないことを考えると、送達に関する規定に準じ、適当な方法で送達を実施すべきものと解するほかない」

とされています。

「適当な方法」って何やねんって感じですが(笑)、実際には、名宛人企業の担当者を領事官に呼び出して交付する方法を採っているようです。領事官が自ら相手方企業に赴いて交付するのは主権侵害の観点から憚られるし(相手国が同意していれば構わない気はしますが)、領事館から(相手国の郵便制度に乗せて)郵便で送達しても「わが国の法律によって送達」したことにならないので独禁法上無効な送達ではないか、との疑義があるためではないか、と思われます。

ちなみに、以上の方法で送達できなかった場合には、最後の手段として公示送達もあります(独禁法70条の18)。

2010年2月27日 (土)

ライツ・イシューと株式取得の届出

東京証券取引所の規則改正で、従前は事実上禁じられていたいわゆるライツ・イシュー(株主に対して新株予約権を割り当てる方法による資金調達)が解禁されました。

このライツ・イシューについても独禁法上の株式取得の事前届出が必要になることがありうるので注意が必要です。

例えば、ライツ・イシューをS社が行おうとしている場合に、S社には議決権比率20%ちょうどの大株主P社がいたとします。

ライツ・イシューの手続は、通常、

①取締役会による新株予約権の割当決議、有価証券届出書提出

②新株予約権の割当基準日の到来

③信託銀行から株主へ割当通知、目論見書を送付

④新株予約権行使期間の開始

⑤行使期間の満了

という流れをたどります。①から⑤まで概ね3ヶ月程度かかるといわれています。

さて、新株予約権者は新株予約権を行使した日に株主になります(会社法282条)。

そして、大株主P社の議決権比率はちょうど20%なので、P社がS社の株主の中で最後に新株予約権を行使するのでない限り、行使後の議決権比率は20%を超えてしまいます。

これに対してP社が株主の中で最後に議決権を行使する場合には20%ちょうどのままで変更はないことになりますが、株主の中には新株予約権を行使しない(払込金額を支払わない)ことを選択する者も当然いるでしょうから、結局、事実上常に20%を超えてしまうことになります。

したがって、S社(とその子会社)の国内売上高が50億円超、P社の国内売上高合計額が200億円超であれば、独禁法上の株式取得の事前届出が必要になります。

新株予約権の行使後に具体的に持ち株比率が何%になるかは、他の株主の新株予約権の行使状況を見ないと分からないので、届出書には取得後の議決権比率を具体的に書くことができないのですが、公取に事情を説明すれば多分細かいことはいわれないと思います。

どうしても株式取得の届出をするのが嫌なら、新株予約権を一部行使しなければよいでしょう。

実は、株主割当による新株発行の場合でも同様に、既存の20%株主が株主割当により20%を超えてしまうということはありえます。

今回は、まだ実例のないライツ・イシューを説明の素材に取り上げてみましたが、株主割当の新株発行の場合にもご注意下さい。

2010年2月26日 (金)

ファンド(組合)による株式取得と届出

平成21年独禁法改正により組合による株式取得の一部が届出の対象となりました。つまりファンドによる株式取得も一部届出の対象となりました。

具体的には、組合の中でも、その組合を支配する親会社が存在するような組合に限って、株式取得の届出を要するようになりました(10条5項)。

この場合に届出義務を負うのは、直近の親会社になります(究極の親会社ではありません)。10条5項で、「当該組合に2以上の親会社がある場合にあっては、当該組合の親会社のうち他のすべての親会社の会社であるものをいう。」という部分が、このことを表しています。

10条5項で、「会社の子会社である組合」(の組合員が組合財産として株式を取得しようとする場合)と、ちょっと分かりにくい(「組合」なのに「子会社」とは?)になっていますが、

10条6項(「子会社」の定義規定)

10条2項(「会社等」を、会社、組合、その他類似する事業体であると定義しています)

とを併せて読むと、「子会社」には会社のみならず、組合も含まれることが分かります。これに対して「親会社」は会社に限ります(10条6項)。

ところで10条6項の「子会社」の定義は、同じような規定が銀行法や保険業法にもありますが、読みにくいですね。注釈を挿入すると、「会社」とは、

会社〔=会社を想定〕がその〔=直後の「株式会社」の〕総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の(、)当該会社〔=冒頭の「会社」。会社を想定〕がその経営を支配している会社等

というようになります(にしてみました)。

噛み砕いていうと、子会社の典型例として、別の会社(親会社)に議決権の過半数を握られているような株式会社を挙げ、その後の「その他の」に続けて、議決権の過半数に限らず、別の会社(親会社)に経営を支配されている会社や組合も「子会社」に該当する、としているわけです。

それでは、会社が経営を支配する組合(10条5項の文言では「会社の子会社である組合」)とはどのようなものを意味するのでしょうか。

この点については届出規則2条の9に子会社の定義があり、同条1項では、「子会社」とは、

「〔独禁法10条6項〕に規定する会社〔=会社を想定。上記参照〕がの会社等〔=会社を想定〕の財務及び事業の方針の決定を支配している場合における当該の会社等

と定義されています(なお、届出規則2条の9では「」はすべて会社のほうを指していることが読み取れると、理解しやすいです)。

それでは「財務及び事業の方針の決定を支配している場合」とはどのような場合かというと、届出規則2条の9第3項に規定があります。

子会社が株式会社の場合には議決権過半数などが支配の要件なのですが、組合が子会社の場合にはカッコ内に読み替え規定があり、大まかに言えば、

組合の業務執行を決定する権限の全体に対する自己(子も含みます)の計算で所有する業務執行を決定する権限の割合(以下、便宜的に「自己計算決定権限割合」といいます)が100分の50を超えている場合(届出規則2条の9第3項)、

など、一定の場合に「財務及び事業の方針の決定を支配している」、つまり親子関係がある、とされています。

さてここからが本題ですが(前置きが長いですね。笑)、「自己計算決定権限割合」って、具体的にはどのように計算するのでしょう?

民法上の組合の場合は、業務執行は組合員の過半数で決定されるのが原則です(民法670条1項)。いわゆる頭割りですね。

例えばP組合の組合員がAさん(個人)、B社(会社)、C社(会社)の場合には、B社もC社も「自己計算決定権限割合」は3分の1なので「親会社」には該当しません。

ところが、B社とC社に共通の100%親会社(Z社)があると、Z社は子会社であるB社とC社を通じて組合員数3人のうち2人を占めていることになるので、「自己計算決定権限割合」は3分の2となり、よってZ社がP組合の親会社ということになります。

また民法上の組合の場合には、組合契約で業務執行者に委任した者が数人あるときにはその過半数で決定されます(民法670条2項。業務執行者が1人の場合にはその者が決定することになります)。

例えばP組合の業務執行者がαさん(個人)、β社(会社)、γ社(会社)の3人である場合には、β社もγ社も「自己計算決定権限割合」は3分の1なので、「親会社」には該当しません(なお、業務執行者は組合員の中から選ばれることが多いでしょう。これを業務執行組合員(ジェネラル・パートナー、GP)といいます)。

しかしここでも、β社とγ社に共通の100%親会社(ζ(ゼータ)社)があると、ζ社はβ社とγ社を通じて業務執行者の3分の2を占めていることになり、ζ社がP組合の親会社となります。

投資事業有限責任組合(いわゆるベンチャーキャピタルなど、企業への投資を目的にします)の場合は、業務執行は無限責任組合員の過半数で決定されます(投資事業有限責任組合契約に関する法律7条2項。無限責任組合員が1人の場合にはその者が決定します。同条1項)。

例えばP投資事業有限責任組合の無限責任組合員がA社(会社)である場合には、A社がP投資事業有限責任組合の親会社となります。

最後に有限責任事業組合(共同で営利事業をするための組合。いわゆる日本版LLP)の場合には、業務執行は原則として総組合員の同意によることとされています(有限責任事業組合契約に関する法律12条1項)。LLPの組合員は全員が業務執行組合員であるという建前(金銭のみの出資は認めない)に基づいています。

さてこの場合、「自己計算決定権限割合」はどのように計算するのでしょう?

届出規則2条の9第3項の文言に戻ると、「自己計算決定権限割合」とは、

「業務執行を決定する権限の全体に対する自己の計算において所有している業務執行を決定する権限の割合」

を意味します。

全員一致で意思決定をする場合にこの「自己計算決定権限割合」をどう考えるのかは、ちょっと分かりにくいですが、やはり組合員の数の割合で考えるべきでしょう。

有限責任事業組合の場合でも重要でない一定の業務執行は3分の2以上の多数決で決定することができますが、株式取得の決定が3分の2以上の多数決でなされる場合も同様に、組合員の数の割合で考えるべきと考えます。

例えば、P有限責任事業組合にAさん(個人)、B社(会社)、C社(会社)の3人の組合員がいる場合、B社もC社も「自己計算決定権限割合」は3分の1なので、P有限責任事業組合の親会社ではありません。

しかし、B社とC社に共通の100%親会社Z社がいる場合には、Z社が親会社となり、株式取得の届出を要することになります。

以上、細かく考えるといろいろ問題があるものですね。ファンドで株式を取得する場合は要注意です。

2010年2月25日 (木)

転換社債の転換と株式取得の届出

転換社債を転換して株式を取得して議決権比率が20%または50%を超えてしまった場合にも株式取得の届出は必要でしょうか。

結論をいえば、必要です。

「転換社債」という名前は現行会社法には既にありませんが、会社法でいうところの新株予約権付社債、その中でも、新株予約権を行使すると社債の満期が繰り上がりその償還金が株式の払込に充当されるもの(転換社債型新株予約権付社債)を指します。

(ちなみに、もう1つの新株予約権付社債の類型は新株予約権を行使するときに新たに払込を要し社債はそのまま存続する、「社債存続型新株予約権付社債」です。龍田「会社法大要」p324)

そして、独禁法10条2項では、「・・・株式の取得をしようとする場合」に届出を要するとされており、株式を取得する場合に一般的に届出が必要となる(つまり、売買や贈与のような譲渡に限らない)ことが明らかです。

したがって、転換社債の転換(会社法の用語では、転換社債型新株予約権付社債に付された新株予約権の行使)によって株式が取得される場合も、当然、株式取得の届出が必要です。

ついでに言うと、合併、会社分割、事業譲渡による取得(つまり、合併消滅会社の資産に株式が含まれていた、分割対象事業に株式が含まれていた、譲渡対象事業に株式が含まれていた、というような場合)も「取得」に該当するので、届出が必要です。

これに対して、相続による取得は、届出の対象が会社による取得の場合に限られており個人による取得は届出の対象外なので、「取得」には該当するものの、結果的には届出は不要です。

さて、届出規則2条の7では、予め届け出ることが困難なので届け出なくて良い場合を定めています。

その中には、株式分割による取得、株式併合による取得、株式無償割当による取得、取得条項付株式の取得の対価として株式を取得する場合などが、届出を要しないとされています。これらの場合は取得者が積極的に投資判断をしているわけではない(つまり自分の判断で取得するわけではない)からと説明されます。

以上のような届出免除の場合に、転換社債の転換は含まれていません。転換社債を株式に転換するかどうかは転換社債の所有者が自分の判断で決めるので、当然のことですね。

(届出規則の正式名称は「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第九条から第十六条までの規定による認可の申請、報告及び届出等に関する規則」といいます。条文は、政府の法令データ提供システムで入手可能です。

http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxsearch.cgi

2010年2月23日 (火)

不争義務と非係争義務

「知的財産権の利用に関する独占禁止法上の指針」(知的財産ガイドライン)に、「不義務」と「非争義務」というのが取り上げられており、名前が似ていてややこしいのでまとめておきます。

「不義務」とは、例えば特許権の場合であれば、当該特許権のライセンシーが当該特許権の有効性について争わない(無効審判を申し立てたりしない)義務です。特許の有効性を争わないから「不争」義務と呼ぶわけですね。

Aがα特許権を持っていてBにライセンスする場合、Bはα特許権の有効性を争わない、ということです。

これに対して、「非争義務」というのは、ライセンシーが現在または将来保有する特許権をライセンサーに対して行使しない義務です(特許権を「行使しない」とは、法的には、特許権を「ライセンスする」というのとほとんど同じです)。

Aがα特許権を持っていてBにライセンスする場合に、Bが現在または将来保有する特許権(β1特許権、β2特許権、β3特許権・・・)を、Aに対して行使しない、ということです。

場合によっては、Aが指定する者(例えば、Aからα特許権のライセンスを受けている他のライセンシー)に対しても行使しない、とすることもあります。

不争義務と非係争義務は、競争に与えるインパクトもずいぶんと異なります。

一言で言えば、不争義務のほうは大して問題ではないです。

その理由は、不争義務が実体法上どのような効果を有するのかを考えてみれば分かります。

つまり、不争義務というのは、Bにα特許権の有効性を争わないという不作為義務を課すものですが、かかる不作為義務に反してBが特許無効審判の請求を行っても、かかる審判請求が不争義務の存在を理由に却下されることはあり得ません。つまり、Bが無効審判を申し立てるのに何ら支障はありません。

また、不争義務が課されているのにそれに反してBがα特許権の無効を主張してロイヤリティの支払いを拒んだ場合、Aが「(仮にα特許権が無効であっても)Bは不争義務を負っているのだから、Bはα特許権の無効を理由にロイヤリティの支払いを拒むことは出来ない」と主張してロイヤリティをBに請求しても、恐らく裁判所はAのロイヤリティ請求を認めないと思われます。つまり、Bがロイヤリティの支払拒絶をするのも、事実上支障はないことになります。

さらに、仮にBがα特許権の無効を理由にロイヤリティ支払いを拒んだためにAがライセンス契約を解除してBによるα特許権の使用差し止めを請求しても、α特許権が無効なら仮に不争義務があっても裁判所はAの差止請求を認めないでしょう。つまり、Bがα特許権を使用することには何ら支障がないのです。

まして、AがBの不争義務違反を理由にBに損害賠償請求をしても、仮にα特許権が無効なら、裁判所はそのような損害賠償請求を認めないでしょう(Aには損害が無いでしょう)。

このように考えると、不争義務というのは、Bに対する事実上の牽制にはなるものの、いざBが本気でα特許権の無効を争う気になればいくらでも争える(争うのに支障はない)という、Aにとっては何とも儚い権利なわけです。

知的財産ガイドラインでも、不争義務は「直接的には競争を減殺するおそれは小さい」としてます。

(知的財産ガイドラインではそれに続けて、「しかしながら、無効にされるべき権利が存続し、当該権利に係る技術の利用が制限されることから、公正競争阻害性を有するものとして不公正な取引方法に該当する場合がある」としていますが、上述のように具体的に検討すると、本当にそのような場合があるのか(あるとしても極めて例外的な場合ではないのか)という気がします。)

これに対して非係争義務の場合は、要するにBが将来取得する特許権まで含めてAにライセンスを強制されるに等しいのですから、ガイドラインが指摘するように、Aの地位が不当に強化されたり、Bが開発意欲を失ったりということがあり得るでしょう。

ただ、非係争義務の場合には、Bがライセンスを強制されることになる特許権の範囲(β1特許権、β2特許権、β3特許権・・・の範囲)をどのように定めるのかによって、上記のような反競争的効果はずいぶんと異なります。

例えば、α特許権のライセンス契約締結時点でBが保有している特定のβ1特許権だけを非係争義務の対象にするのであれば、普通のクロスライセンスと大して異ならず、Bとしてはα特許権とβ1特許権の価値を天秤にかけながらα特許権についてのロイヤリティの額を交渉すればよいだけの話です。

このように、非係争義務の反競争的効果はβ1,β2,β3・・・の範囲がどこまで広がるかに強く依存し、そのためAの弁護士としては反競争的効果が生じないように注意してβ1,β2,β3・・・の範囲を限定するようにライセンス契約をドラフトするわけです。

以上のように、不争義務と非係争義務は、似ているのは名前だけで、中身も反競争的効果もまったく異なることが、ご理解いただけましたでしょうか。

2010年2月22日 (月)

公開買付期間中の措置期間満了と訂正届出書

平成21年改正法により株式取得が事前届出化されたことに伴い生じる公開買付との関係に関する問題点について、金融庁より「株券等の公開買付けに関するQ&A」の追加が出ています。

http://www.fsa.go.jp/policy/m_con/20091126.html

その問10に、

「公開買付けに係る株券等の買付け等について、公開買付期間中に措置期間〔注:公取委が独禁法10条9項により排除措置命令の事前通知を出せる期間〕が終了した場合、公開買付届出書の訂正届出書を提出する必要がありますか。」

というのがあります。

回答の内容はQ&Aを見ていただくとして、結論を要約すると、

①公開買付届出書の提出までに事前相談での「問題なし」との回答を得ている場合には、公開買付届出書にその旨を「許可等」として記載すればよく、措置期間の満了時に訂正届出書を提出する必要はない、

事前相談を行っていない場合、措置期間の満了時に「許可等」があったものとして、訂正届出書を提出する必要がある、

ということです。

株式取得に当局の「許可等」が必要な場合には「許可等」の有無について公開買付届出書に記載する必要がありますが、事前相談をしたときには事前相談での「問題なし」という回答を「許可等」とみなし、事前相談をしないときには措置期間の満了したことをもって「許可等」とみなす、ということですね(①のルート)。

競合他社を買収する場合でシェアがそれなりに高くなる場合には事前相談をするのが通常でしょうから、①のルートに乗ることになります。

これに対して、ファンドによるTOBの場合などは、通常、競争を実質的に制限することにはならないため、事前相談をしないのではないかと思います(②のルート)。

しかし上記のとおり、②のルートに乗ると、公開買付届出書の訂正届出書の提出が必要になります。

そして、公開買付届出書の訂正届出書を提出した場合には、訂正届出書を提出した日より起算して10営業日を経過する日まで公開買付期間を延長しなければなりません(他社株買付府令22条2項)(公開買付期間が訂正届出書を提出した日から10営業日後より後に満了するよう公開買付届出書で設定されていた場合には、もちろん延長は必要ありません)。

つまり、公開買付期間中に措置期間が満了することが分かっている場合には、(訂正届出書の提出を要することから)措置期間満了日から公開買付期間最終日までに10営業日空くように、当初の公開買付期間を設定する必要がある、ということです。

(もちろん、当初の公開買付期間をあえて措置期間満了日ぎりぎりに設定した上で延長しても良いのですが、最初から延長されることが目に見えているのにぎりぎりに設定することもないでしょう。)

訂正届出書を出すことを嫌うのであれば(例えば、最短の20営業日に設定したい場合)、公開買付届出書の提出前に措置期間が満了するように、株式取得の事前届出書を早めに公取委に提出しておくべき、ということになります。

ただ、株式取得の事前届出書には株式取得の意思決定をしたことを示す書面を添付する必要があり、このような意思決定をすると、場合によっては適時開示をする必要が出てきます。

このような適時開示を嫌うのであれば、公取委に事前相談をして、公開買付届出書提出までに「問題なし」の回答を得ておけばよい、ということになります(事前相談での「問題なし」の回答は、「許可等」として扱われますので)。つまり、①のルートに乗せるということですね。

以上のような次第で、今後は、競争上何ら問題がないのに「許可等」を得るためだけにする、「なんちゃって事前相談」をすべきケースが出てくるかも知れません。

2010年2月21日 (日)

新設合併と株式取得の届出

合併などの組織再編手続の中に株式取得が隠れいていることがあるので、合併だけ届け出て株式取得の届出を忘れないように注意する必要があるということは、このブログでも何度か申し上げてきました。

今回は、新設合併の場合について考えてみます。

新設合併というのは私自身使ったことがありませんし、実例を聞いたことすらありませんが、頭の体操だと思ってお付き合い下さい。

新設合併の場合、一方の当事会社の企業結合集団の国内売上高が200億円超、他方の当事会社の企業結合集団の国内売上高が50億円超の場合に届出が必要になります(15条2項)。

そして、新設合併では新会社が設立されて、新会社の株式を合併当事会社の株主が取得することになるので、新会社の株主による株式取得の届出の要否を考える必要があります。

例えば、A社(国内売上高200億円超)とB社(同50億円超)が新設合併をするとします。A社の40%程度の大株主であるα社(国内売上高200億円超)が、新設会社の株式の20%超を取得するとします(いずれの会社にも子会社はないとします)。

この場合に、α社による新設会社株式の取得について株式取得の届出は必要でしょうか。

届出要件を満たすにはまず、株式を取得するα社の国内売上高が200億円超でなければなりません(10条2項)。

次に、株式発行会社である新設会社の国内売上高が50億円超である必要があります(10条2項)。

さて、ここで疑問が浮かびます。

新設会社の国内売上高って、何でしょう?

ここで「国内売上高」といっているのは、条文上、最終事業年度の国内売上高です(10条2項)。

しかし、新設会社は文字通りできたばかりの会社なので、「最終事業年度」は論理的にあり得ません。したがって、国内売上高もゼロのはずです。

しかし、以前も取り上げだ公取委ホームページの「届出制度Q&A」によれば、どうも公取は、決算を経た会社や事業を引き継いだ会社は国内売上高も引き継ぐと考えているようです(このような解釈が条文の文言から導かれうるのかはやや疑問であるものの、実質的には妥当な解釈であると考えることは、以前申し上げました)。

そして、決算を経た国内売上高も引き継ぐという公取委の解釈に立てば、新設会社の国内売上高は、A社とB社の国内売上高を合計したもの、ということになりそうです。

本設例では、A社の国内売上高は200億円超、B社の国内売上高は50億円超なので、両方引き継いだ新設会社の国内売上高は250億円超となり、株式取得の場合の発行会社の国内売上高基準(200億円超)を満たすことになります。

よってα社による新設会社株式の取得に関する届出が必要となります。

以上が公取委のQ&Aにおける考えを踏まえた形式的な結論ですが、なんだか変ではないでしょうか。

α社はもともとA社の株主なので、取得するのはB社の国内売上高に相当する部分だけなのではないでしょうか。つまり、もともと株主であったA社の国内売上高まで算入されるのはおかしくないでしょうか。

さらにいえば、新設合併の場合にA社とB社の国内売上高を合計した額が新設会社の国内売上高となるのであれば、吸収合併の場合とアンバランスではないでしょうか(この点については別途考えてみます)。

しかし、結論をいってしまえば、A社とB社の国内売上高を合計した額が新設会社の国内売上高になり株式取得の届出が必要になると考えるのが正しいように思います。

α社が元々大株主として把握していたA社の国内売上高もカウントされるのは腑に落ちないものがありますが、(新設会社が当時会社の権利義務を承継するという)新設合併という形式を採る以上、論理的には新設会社はあくまでA社とB社の売上を引き継ぐと考えるのも間違っているとはいえないと思われるからです。

またそもそも独禁法上の企業結合の届出は反競争性の実質審査のためのとっかかりに過ぎないことからすれば、届出要件の有無を実質論で狭めたりする必要はない(形式的に届出要件に該当するならとりあえず届け出させる)と思われるからです。

公取委の届出制度Q&Aでの解釈は他の組織再編の中でもいろいろな問題を生みそうですね。さらに検討していきたいと思います。

2010年2月20日 (土)

商品代替性の「定義」としての需要の交差弾力性

ミクロ経済学の教科書をみると、需要の交差弾力性という概念が紹介されていて、交差弾力性が正なら代替財で負なら補完財であるという説明がなされています。

しかし、これを法律家的発想で、「交差弾力性が相互に正の財を代替財というのだ」と、あたかも「交差弾力性が正」というのを代替財の定義であるかのように考えると間違いです。

まず「需要の交差弾力性」とは何かというと、ある商品Aの価格が1%上がったときに別の商品Bの需要が何%増える(減る)かを測定する指数です。

たんに「需要の弾力性」というと、需要の自己弾力性のことで、ある商品Aが1%値上がりしたら需要は何%減るか、を意味します。「交差」弾力性は、ある商品Aが値上がりしたら別の商品Bの需要はどうなるのかをみて、商品Aと商品Bの関係をみるのですね。

需要の交差弾力性を式で表すと、

(商品Aの価格に対する商品Bの需要の交差弾力性)={(商品Bの需要の増加)÷(商品Bの需要)}÷{(商品Aの価格の増加)÷(商品Aの価格)}

となります。

例えば、バター(商品A)の価格が100円から110円に値上がりしたときに、マーガリンの需要が1000キロから1050キロに増えたとすると(バターの値段が上がったのでマーガリンに乗り換える人がいるわけですね)、

(バターの価格に対するマーガリンの需要の交差弾力性)

={1050キロ-1000キロ)÷1000キロ}÷{(110円-100円)÷100円}

=(50キロ÷1000キロ)÷(10円÷100円)

=0.05÷0.1

=0.5

となり、0.5は正なので、バターとマーガリンは代替財である、と考えるのです。

なお、日本語では「需要の交差弾力性」ということが多いですが、英語ではcross-price elasticity of demand(需要の価格交差弾力性)といいまして、こちらのネーミングの方が、商品Aの価格が商品Bの需要にどう響くかという概念であることをよく表していると思います。

しかし、これもミクロ経済学の教科書に書いてあることなのですが、純粋な経済モデルの世界では需要の交差弾力性が正である2つの財を代替財と定義しても問題ないのですが、現実の世の中では、需要の交差弾力性が正であるからといって必ず代替財であるといえるわけではありません。

つまり、経済モデルの中では、バターの値段が上がったからマーガリンへの乗換えが起こったのだ、という因果の流れを当然の前提にしていますが、現実の世界では、需要の交差弾力性が正であっても、それは乗り換えが起こったからなのか、別の要因なのか、分からないことがあり得ます。

例えば、干ばつで小麦(商品A)の値段が上がったときに、同じく干ばつを原因としてスプリンクラー(商品B)の需要が増える、ということがあるかもしれません。しかし、小麦とスプリンクラーが代替財であると考える人はいません。

要するに、交差弾力性が正だと代替財であることが多いが例外もある(「交差弾力性が正」は代替財の定義ではない)ということです。

経済学はモデルの世界で議論をすることが多く、そのモデルの中できちんと説明できることが大事なので、この手の例外には比較的無頓着な気がしますが、法律の世界ではまず定義ありきで、定義に従って概念を整理し規範を定立し紛争を解決していくという発想なので、こういう例外は許せません。

同じような経済学と法学の感覚の違いは、排除型私的独占の違法性基準の一つとして唱えられている「短期利益犠牲テスト」にも見られるように思います。短期的な利益を犠牲にするような行為は経済合理性がないから他者の排除を目的にしているのだろう(だから違法だ)という基準です。

しかしこれも、短期利益を犠牲にしたからといって合理的な行為もあれば、短期利益を犠牲にしないでも他者排除が生じる場合もあります。

つまり「短期利益犠牲テスト」は一つの目安にはなるけれどこれを排除行為の定義とすることはできない、ということです(短期利益犠牲テストについては別の機会に取り上げたいと思います)。

法学と経済学、パラダイムが異なるとこれほどまでに議論がかみ合わないものだと感じる、一つの例でした。

2010年2月19日 (金)

市場画定のコツ

企業結合について相談を受ける場合に最初の入り口にして最大の難関が、商品市場をどのように画定するか、です。

企業結合ガイドラインをみると、

-商品市場は需要者からみた「商品の代替性」により画定される、

-「商品の代替性」の程度は「効用等」の同種性と一致することが多い、

-「効用等」の同種性の程度の評価については、用途、価格・数量の動き等、需要者の認識・行動を考慮する、

と、一応論理的に繋がっていますが、その論理を丹念に追いかけても市場画定が出来るわけではないところが独禁法の難しいところです。

また、需要者にとっての代替性といっても、相談に来られるクライアントは供給者側なので、需要者の意見を直接聞くことは通常出来ません。

そこでいろいろ工夫しながらクライアントのお話を聞くのですが、私は例えば以下のように考えながらお話を聞きます。

まず、その商品の概要を尋ねます。パンフレット等を持ってきてもらうことも多いです(最近はインターネットで分かることも多いので便利です)。

それでおおよその商品のイメージを掴んだところで、競合他社としてどのような会社があるのかを尋ねます。

その上で、「御社はどのような顧客をターゲットにしているのですか」と尋ねます。各社毎に製品には特徴があり、またそのような特徴を戦略的に採用していることが多いので、詳しく教えてもらえます。

どのような顧客をターゲットにしているのかは、商品の性能や価格、デザイン等だけで決まるわけではなく、販売網の強みなども関係してくるので、ターゲットを念頭に置きながら流通網の話も聞くと、より具体的な市場の状況が見えてきます。

このような戦略上のターゲット層が各社にあり、似たようなターゲット層を狙っている会社が最も競合関係の強い会社ということになります。

そして、そのように絞られたターゲットがそのまま独禁法上の商品市場ということはあまりないので、そこからどの辺まで広げたところで競争しているのかを探っていきます。

それから視点は異なりますが、商品というのは、需要者の一定の需要を満足させる機能の束(たば)のようなイメージです。医薬品などの、複数の効能(頭痛と胸やけに効く、とか)がある商品が分かり易いですが、あらゆる商品について、こういう「機能の束」はイメージできますし、そういう発想が市場画定のために必要な商品もあります(中間財などに多そう)。

以上はほんの一例ですが、参考になれば幸いです。

要は、クライアントは常に競合他社を意識しながら競争しているので、競争の実態のことはクライアントが一番よく分かっており、弁護士の役割はそれをうまく聞き出すことだと思います。

ところで市場画定をする際に一定の需要者層というのを意識しますが、一定の需要者層って必ず想定しなければならないのか、ということがかつてよく分かりませんでした。

つまり、売る競争というのは顧客を奪い合う競争なのだから、奪われる顧客が1人であろうが「全国の20代前半の女性」であろうが、独禁法上保護に値する市場といえるのではないか、という問題意識を持っていました(この点は「需要者1人の市場は成り立つか」という形で、自治体の入札談合において議論される問題意識に少し似ています)。

そこで目からウロコが落ちたのが、確かカリスマ・コンサルタントの神田昌典さんの本で紹介されていた話だった記憶なのですが、

「ナニワ金融道を読んでいたら、『同じような人が集まるところには商売のチャンスがある』というセリフがあって、『これだ!』と思った」

という話です。

つまり、市場は同じような嗜好の人たちが集まって初めて成り立つものなのですね。

独禁法でいうところの競争をするときも、企業は1人の顧客に売り込むために商売をすることは稀で(そういう商品もありますが)、同じような嗜好を持った人たち(需要者層)に売り込むことを考えて、競争をしているはずです。

逆に言えば、買ってくれる人が1人しかいなければそもそも市場は成り立たないということです。さらに、そんな「成り立たない市場」を独禁法上の市場(競争の場)と考えても無意味、ということなんだろうと思います。

例えば新規参入の可能性を考える場合も、どれくらいの需要者層が存在するのかが分からないと分かりようがありません。

だから、このような「一定の嗜好を持った需要者をくくる」という作業は市場画定のために必須だと思います。

企業結合ガイドラインでは、「一定の取引分野」の中で、商品の画定と地理的範囲の画定の説明があるのですが、「需要者をくくる」という発想は出てきません。

更に言えば、独禁法2条4項の「競争」の定義にも、このような「需要者をくくる」という発想は見いだせません。

しかし、上で述べたように、市場画定には需要者をくくることが是非とも必要です。

独禁法を読んでも企業結合ガイドラインを読んでも分からないこをと分からせてくれる「ナニワ金融道」、恐るべし。

2010年2月12日 (金)

欧州企業結合規則(ECMR)の審査期間の数え方

本日は、日本の事前相談と欧州の企業結合規制の審査期間(日数)の数え方の違いについてご紹介します。

日本の事前相談では、当事会社が一定の提出義務を果たしてから何日以内、という形で期限が算定されます。

例えば、第1次審査は当事会社が必要な資料を提出した日から起算し、提出した日から原則30日以内に公取委は第2次審査が必要か否か通知する、とされています。

したがって、当事者による資料提出が遅れれば、いつまでたっても第1次審査の回答期限は到来しないことになります。

さらに、日本の事前相談では、第1次審査または第2次審査の全体の日数について、事前相談の申請日から何日以内というような形での制限がありません。

これに対して欧州では、第1次審査は申請日から25営業日、第2次審査は第2次審査開始の通知日から90営業日、というふうに、各段階の全体の日数(タイムリミット)が明記されています。

そして、欧州企業結合実施規則(Commission Regulation (EC) No 802/2004 of 7 April 2004 Implementing Council Regulation (EC) No 139/2004 on the control of concentrations between undertakings)では、以下の場合に、上記の「25営業日」、「90営業日」のタイムリミットが停止する、とされています(実施規則9条1項)。

(a)委員会が当事者に要求した情報を当事者が期限までに提出しない場合。

(b)委員会が第三者に要求した情報が、当事者の責に帰すべき事由により期限までに提出されない場合。

(c)当事者が調査を拒んだ場合。

(d)当事者が計画の変更を委員会に通知することを怠った場合。

では、日本の期限の定め方と欧州の期限の定め方で、どこが異なるのでしょうか。

一言で言えば、当局側の検討中(いわば当局側のコートにボールがある間)に、期限までの日数がカウントされるか否かが異なります。

日本の場合、例えば第1次審査の回答期限は必要な資料が提出されてから30日以内ですが、必要な資料の要求が公取委からあるまでは、事実上、時計は止まったままです。

事前相談ガイドラインでは、申請(と計画内容を示す資料の提出)から20日以内に追加資料の要否について公取委が当事者に通知することにはなっていますが、その通知が遅れても、第1次審査の回答期限(公取委の持ち時間)が延びることはありません。

つまり、公取委側の処理が遅れたらその分全体の手続が遅れるということです。

これに対して欧州の場合は、例えば第1次審査の場合であればトータルの審査期間が25営業日と決まっており、欧州委が追加質問の内容を考えている日数も、この25営業日に含まれます。

つまり、欧州委の側で対応が遅れると、それだけ審査期間が短くなる、ということです。

このような実務を反映して、欧州の弁護士は、「欧州委が追加要求をすると時計が止まる(stop the clock)」という言い方をします。いわば、ボールが当事者側のコートにある間は時間が止まる、というイメージですね。

しかし日本では、トータルの審査期間というものが決まっていないので、「追加質問があったことで時計は止まるのか?」と質問されると答えに難渋します。時計が止まるといえば止まるのですが、全体の審査日数に制限がないので、時計が止まること自体に余り意味はないからです。

恐らく欧州の弁護士には、当局側に玉を投げ返している間は時計が進むという大前提があるのでしょうけれど、日本はそうではありません。公取委からの追加質問リストの提出が遅れれば、それだけ第1次審査の手続が遅れることになりますし、それに対する何らの救済もありません。

日本の事前相談は法律上の手続ではないので、きっとこのような緩い運用がまかり通るのでしょう。

2010年2月10日 (水)

届出制度Q&A

公取委のホームページに、改正後の企業結合届出制度に関するQ&Aが出ています。

http://www.jftc.go.jp/ma/qaindex.html

大変懇切丁寧かつ的を射たQ&Aで、実務家必読です。

さてその中でいくつか気になった点を書き留めておきます。

(なお、役所のホームページの記述はいつの間にか変わっていたりするので、プリントアウトして保存しておくことをおすすめします。)

「禁止期間について」のQ2の「株式取得日の考え方を教えて下さい」という質問に対して、売買契約が履行された日が株式取得日になると回答されています。

この解釈は従前から公取委が採っていた解釈なのですが、売買契約の「履行」って、何なのでしょうね。代金の支払いか、株券の引渡かのいずれかがあれば良いのでしょうか。その両方が必要なのでしょうか。

それに続けて、「名義書換は必要ありません」と明記されていることからすると、名義書換以外の義務の履行、例えば代金支払と株券引渡(振替株式なら譲受人口座の保有者欄への記載)を指すということかとも読めますが、それはちょっと危険です。

やはり企業結合規制の趣旨からすれば、議決権を行使しうる立場あるいは名義書換を請求しうる立場に立つことが問題なのですから、株券引渡(振替株式なら保有者欄への記載)を禁止期間中にやるのは問題なような気がします。

むしろ代金支払の有無は反競争的効果と直接関係ないでしょう。

Q3では、公開買付の場合の取得日が「決済を行った日」と回答されています。

これも同じ理由で問題なような気がします。ただ、公取委が禁止期間内に決済しなければ振替記録の移転や株券の引渡、ひいては名義書換までしてもよい、といってくれているのですから、TOBをする側にとってはむしろありがたいことかも知れません。

Q5で、公開買付の場合に禁止期間の短縮が認められる要件について、

①競争への影響が明らかに軽微

②届出受理の日から30日を経過するまでに決済が終了すること

と回答しています。

これはありがたいですね。ファンドによる株式取得の場合、ファンド自身は事業をしていないので①は満たすでしょうから、事実上フリーパスです。もちろん油断は禁物ですし、Q&Aでも、禁止期間を考慮して買付期間を設定することが望ましいとされています。

「届出基準について」のQ1での国内売上高の意味についての質問で、保険会社については経常収益が売上高であるというのは届出規則2条1項のとおりなのですが、「国内で供給された役務の価額」というのは保険会社の場合どう読むんでしょうね。おそらく、保険契約者ではなく、保険金受取人が日本にいるかどうかで決めるのでしょう。

Q7では、企業結合集団の親子関係は株式取得等の行為の前日で判断するとされています。理屈の上では当然なのかもしれませんが、実質基準で判断される親子関係は届出から行為の日までに予期せぬことで変わることもあり得、面倒なことになることがあるかもしれません。

「国内売上高」のQ1で、売上のほとんどが国内向けの会社でも輸入を除いた売上を国内売上高として届け出て下さい、と回答されています。届出規則では厳密に国内売上高を定義していますが、実際にはこのようなざっくりとした計算でも受理されるであろうことを伺わせます。

Q2で、航空会社の場合は本邦発着の国際線の売上も国内売上高として下さい、と回答されています。概ね納得できるのですが、乗り継ぎも想定するとこれでよいのでしょうか。

例えば、ニューヨークから関空経由で上海まで行く人に対する売上も、この定義だと国内売上高になりそうですが、あくまでこの人はニューヨークから上海に行くのが目的なので、これを日本の国内売上というのはちょっと変な気がします。

(余談ですが、巷では日本航空(JAL)がアメリカン・エアラインズ(AA)と提携を決めたことが話題ですが、航空産業では、乗り継ぎを考えると、ある路線とある路線が代替財であったり補間財になったり、というのが競争上の分析の1つのポイントです。)

「届出の要否について」のQ1で、決算期を変更したために最終事業年度が3ヶ月しかない場合はどう判断するのかとの質問に対して、不足する9ヶ月分を足して判断してください、と回答されています。しかも最後の9ヶ月ではなく、12ヶ月の4分の3とするよう指定されています。

規則の文言解釈からこういう解釈が導けるのかはさておき、このような明確(かつ妥当)な解釈を示すのは良いことだと思います。

「株式取得の届出の要否について」のQ9で、短期間で2度株式取得をし、2度閾値を超える場合に2度届出が必要か、との問いに、30日以内に再び閾値を超えることが予定されている場合には1回の届出で済まして良い、と回答されています。

どうして「30日以内」でなければならないのでしょうか。2つの取得日が30日以上空いていてもまとめて1回で届出をできない理由は無いような気がします。取得の6ヶ月前から届出は受理するとしているのとも平仄が合いません。

Q10に、最終親会社A社の子会社B社とC社が共同株式移転をして中間持ち株会社D社を設立する場合株式取得が必要か、という質問に、不要であると回答されています。

これは鋭い質問ですね。D社は「企業結合集団」の定義には形式的には該当しない(企業結合集団に該当するためには行為の直前に支配関係が必要だがD社はまだ設立されていないので支配関係がありえない)のですが、穏当な解釈だと思います。中間持ち株会社の設立は実例も多いでしょうから、有益なQ&Aです。

Q11で、発行会社の最終事業年度の国内売上高が40億円でも、その後発行会社が国内売上高30億円の事業を譲り受けた場合には、当該譲渡対象事業に係る売上について決算を経ているときには届出が必要、と回答されています。

10条の文言からは出てこない解釈だとは思いますが、結論は妥当なので、まあ良いのでしょう。

それ以下の質問でも、決算を経ているか否かで譲渡対象事業に帰せられる売上が譲受側の国内売上高に算入されるか否かが決まるという立場が貫かれているようです。

「その他」のQ2で、公開買付届出書に添付する「許可等があったことを知るに足る書面」として、事前通知を受けることなく法定の期間が経過したことを示す文書を交付する、とあります。結構なことですね。

2010年2月 9日 (火)

【日経産業新聞フォーラム2010】

本日、日経産業新聞フォーラム2010「グローバル化への試金石-内需関連企業のM&A戦略を検証する」で、

「グローバル化時代の内需関連企業のM&Aにおける独占禁止法上の留意点」

というテーマでプレゼンテーションをさせていただきました。

http://www.adnet.jp/nikkei/ssforum/20100209c.asp

多くの皆様にご出席いただき、ありがとうございました。後日日経産業新聞に講演内容のサマリーが載るようですので、関心のある方は是非ご覧下さい。

キリンとサントリーとの統合が破談になった翌日ということで、タイムリーなのかタイムリーではないのかよくわかりませんが、今後も内需中心の企業が統合して世界規模で競争をしていくというケースは増えるのではないかと思われます。

そして、内需中心の企業が体力をつけるためにM&Aをする上では、日本の独禁法を避けて通ることはできない問題だろうと思います。

私の見るところ、今後公取委の企業結合審査については3つのパターンで事実上異なったスタンダードが適用されていくのではないかと予想しています。

1つめは、キリンとサントリーのような、国内のいわゆる勝ち組企業同士の大型の統合です。このような統合は、世間の耳目を集めるので公取委も相当慎重に審査するでしょうし、違法だと判定するのは相当勇気がいるものと思われます。

2つめは、規模は大きくないけれどもニッチなマーケットで国内シェアが高くなってしまう企業の統合です。1つめのパターンに比べ、小粒で世間の注目も高くないので、案外簡単に違法と認定されてしまうような気がします。

3つめは、世界各国で活動している企業同士の統合です。この場合、日本の独禁法が保護するのは国内の競争(需要者)なので各国の競争法当局とは異なる結論になるのは理論上おかしくないとはいえ、実際上、他の多くの国で適法と認定されているものを違法と認定するのは、また勇気の要るところだと思います。

それから、内需中心の企業が統合していくときに独禁法上重要なのが、統合によって何を目指すのか、ということだろうと思います。

例えば、コスト削減やシナジー効果を目指すというような、需要者の利益になるような(消費者厚生を増すような)統合なら認められるべきでしょう。

これに対して、同じコスト削減とはいえ、効率性に基づかないコスト削減(例えば過剰設備の削減)であるとか、顧客ベースの獲得(囲い込み)なんていうのは、独禁法上あまり褒められた動機ではありません。まして「国内で競争をやめてほっと一息ついて海外へ」なんていうのは宜しくないです。

結局は、需要者の利益になるかどうかが独禁法の評価の上で重要なのであり、会社の都合だけに基づく統合では高いシェアを正当化することは難しいでしょう。

これだけ変化の激しい時代ですから、「シェアを拡大して過当競争を避けて一息つこう」というような安易なM&Aは、ビジネス上もうまくいかないのではないでしょうか。

こう考えると、独禁法上の良いM&Aというのは、ビジネス上も良いM&Aである、といえるかも知れません。

それから、もう一つ内需中心企業のM&Aに関連して注目しているのが、民主党政権の中小企業保護政策です。独禁法上の企業結合規制とは一見関係なさそうですが、企業結合をすることによって下請に対する優越的地位濫用が起こりやすくなる、という理由で統合が認められないということも、理論上はあり得ます(私自身は、優越的地位濫用は他の不公正な取引方法と比べて特殊な行為類型であり、その高度の蓋然性がない限り、優越的地位濫用が容易になることを理由に企業結合を違法とすることは控えるべきであると考えています)。

さらに、とくにグローバル化を目指す内需中心企業同士の統合の場合には、統合によるメリットというのは明らかにあるわけですから、仮に独禁法上問題があるような場合であっても、一刀両断に違法とするのではなく、きめ細やかな問題解消措置で対応するといった柔軟な姿勢が公取委には必要ではないか、と思います。

内需関連企業のM&Aに関してのこの辺りの考えは、もう少し整理してどこかで発表したいと思います。

2010年2月 8日 (月)

株式取得の事前届出と取得の「意思決定を証するに足りる書面」

平成21年独禁法改正により株式取得が事前届出化されたことに伴い、届出書の添付書類についても

「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第9条から第16条までの規定による認可の申請、報告及び届出等に関する規則」(届出規則)

が改正されました。

そして、株式取得の届出書の添付書類の1つに、「株式の取得に関する契約書の又は意思決定を証するに足りる書面」というのがあります(届出規則2条の6第2項1号)。

このうち、「株式の取得に関する契約書の写」の意味は明らかです。契約書を締結していれば、この契約書の写しを提出すればよいのです。

では、「株式取得に関する・・・意思決定を証するに足りる書面」というのは、どのようなものを指すのでしょうか。

まず、合併や分割などの場合と異なり、株式取得自体については、会社法上、取締役会の決議は要求されておりません。

ですので、株式取得の場合には取締役会決議がなされないこともあり得ます。

この点、公開買付をする場合には買付会社で取締役会決議をすることが通常でしょうし(ファンドが買付者ならそれに相当する機関決定)、公開買付ではないにしても(例えば非上場会社の株式取得)他社の支配権を取得して子会社化するような場合には、取締役会決議を経るのが通常でしょう。

しかし、例えば発行会社の19.99%の議決権を既に保有している会社がさらに0.02%取得するような場合には、会社法上取締役会決議を要しないのはもちろんのこと、実際にも、取締役会決議まではしないのではないかと思われます。

「株式取得に関する・・・意思決定を証するに足りる書面」というのは、このような場合にまで取締役会決議を要求する趣旨とは思われないので、あえて取締役会決議まではしないような場合には、意思決定権限を有する者(例えば代表取締役)による上申書でも、恐らく受理されるのではないかと思います。

若干脇道にそれますが、届出書の添付書類に「意思決定を証するに足りる書面」を要求する理由は、株式取得の届出が、取得会社が発行会社の「株式の取得をしようとする場合」(独禁法10条2項)になされるべきであるからと思われます。

つまり、株式取得を「しようと」していない場合には届出義務はなく、よって届出の要件を満たすか否かを確認するために、「意思決定を証するに足りる書面」が要求される、と考えられます。

最初この問題を考えたときは、意思決定を証する書面まで添付書類として要求する合理性はないのではないか(例えば、取締役会決定をしていなくても、時間の短縮のためにともかく届出だけは早くしておきたい場合とか)、と考えたのですが、法律の条文が「しようとする場合」となっている以上、規則に文句を言っても仕方なさそうです。

別の言い方をすると、取得会社が取得の意思決定をしてからクローズするまでに30日の待機期間を要することは法律が予定している、ということです。

しかし、このように規則に書かれた要件を盲信するのではなく、その規則は法律の委任の範囲内といえるのかを、論理的にチェックすることは重要だと思います。

例えば、合併の場合には合併契約書の写しが添付書類として要求されていますが(届出規則5条3項2号)、合併の届出の法律上の要件は、「合併をしようとする場合」(独禁法15条2項)であって、株式取得の場合と同じく、「しようとする場合」です。

したがって、株式取得の場合と同様に考えれば、「合併をしようとする場合」であれば届出は受理されて然るべきはずです。合併契約書がなければ「合併をしようとする場合」に該当しないというのは言い過ぎではないでしょうか(それなら、株式取得の場合も株式取得契約書の添付が必要なはずです)。

独禁法15条2項の届出要件は満たしているのに規則上の添付書類が存在しないから公取委が届出を受理しないとしたら、本末転倒でしょう。

以上のような点を踏まえてか、届出規則の文言はさておき、公取委でも契約書の案を添付すれば届出可能と解しているようです(公取委HPの「届出制度Q&A」(http://www.jftc.go.jp/ma/qa-3/qatodokede.html#keika)参照)。

ちなみに、改正前は合併契約が口頭による場合にはその内容を説明する文書でもよいとされていましたが、改正後はこの部分が削除されています。その理由はよくわかりません。おそらく、実務で口頭の合併契約というものが通常ありえないから削っただけだとは思いますが、会社法上要求されていない書面性を事実上独禁法で要求するのはいかがなものかと思います。たしかに見てくれは良くないですが、「口頭による場合は・・・」というのを残しておいた方が律儀で良かったのにと思います。

2010年2月 7日 (日)

インターネット懸賞のチェックポイント

インターネットを通じた懸賞について、景表法の観点からのポイントをまとめておきます。

まず、「懸賞」とは何でしょうか。

「懸賞」の定義は、「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」(懸賞制限告示)にあり、

①くじその他偶然性を利用して定める方法、または

②特定の行為の優劣または正誤によって定める方法

によって、景品類の提供の相手方や提供する景品類の価額を定めること、と定義されています。

昔、「オープン懸賞」という用語があったので紛らわしいのですが、現在「懸賞」といえば、景品類の提供をすることに限られます。

そして、「景品類」といえるためには取引付随性が必要ですので(景表法2条1項)、取引に付随しない経済上の利益は「懸賞」に該当しないことになります。

余談ですが、この「懸賞」という言葉は、法律用語としてあまりよろしくないと思います。懸賞という言葉に「取引付随性」をイメージさせる要素が無いからです。むしろ民法529条の「ある行為をした者に一定の報酬を与える」という懸賞の定義のほうが、普通の言葉の意味に近いと思います。

時々、「こういうことをすると懸賞に該当しますか」という質問を受けるのですが、たぶん質問する人は、昔オープン懸賞と呼ばれていたものと、景品類の提供方法としての懸賞とをごちゃまぜにしている可能性が高いです。

ですので、このような質問を受けるとまず、「昔『オープン懸賞』と呼ばれていたもの」と「景品類の提供方法としての懸賞」の違いを説明するところから始めないといけません(勝手にこちらで懸賞告示に定義された懸賞だと解釈して答えると質問の趣旨を誤解していることになります)。

そこでちょっと長いですが、懸賞告示にいう懸賞のことを以下では「景品類の提供方法としての懸賞」と呼ぶことにします。

現行法上は、「景品類の提供方法としての懸賞」に該当しなければ、仮に民法529条の懸賞に該当しても、景表法上または独禁法上の規制はありません(昔あった「オープン懸賞告示」は廃止されました)。

そこで、インターネット懸賞が「景品類の提供方法としての懸賞」に該当するかを考える必要があります。

この点については、公取委から「インターネット上で行われる懸賞企画の取扱いについて」というものが出ています。

これによれば、懸賞サイトが商品の販売を行うサイト上にあったり、商品販売サイトを見なければ懸賞サイトを見ることができないような構造であったとしても、取引付随性はなく、「景品類の提供方法としての懸賞」には該当しない、としています。つまり、いくらでも懸賞として物品を提供してよいことになります。

要するに、オープン懸賞告示が廃止された現在では、インターネットを通じた懸賞は無制限に行うことができる、ということになります(なお、取引付随性がない場合には、自己と取引することを誘因していることにもならないので、一般指定の不当な利益による顧客誘因にも該当しないと考えられます)。

ただし、商品販売サイトで商品を購入することが懸賞への応募の条件になっていたり、商品を購入することで懸賞が当たりやすくなる場合には、取引付随性があり、「景品類の提供方法としての懸賞」に該当するので注意が必要です。

また、こちらのほうが実際にはありがちな方法ですが、インターネットでの懸賞とその他の方法(例えば商品の包装に懸賞を告知するなど)を通じた懸賞とを併用する場合(典型的には、両方の方法で同じ内容を告知して、同じ物品を提供する場合)には、注意が必要です。

この場合、インターネットを通じた部分は価格等無制限に行えますが、包装等で告知する部分については「景品類の提供方法としての懸賞」に該当してしまいます(ちなみに、「景品類等の指定の告示の運用基準について」4(2)では、取引に付随しない提供方法を併用していても商品包装に告知している場合には取引付随性ありとしています)。

両者を明確に分ければいいのでしょうが、企業としては同じ内容を告知したいでしょう(両者異なっていれば消費者が混乱しそうです)。

さらに、購入した商品の包装の告知を見て懸賞を見た人が、「はがきを買って申し込むのも面倒だし、切手代ももったいない」ということでインターネットにアクセスして申し込むこともあるでしょう。

このような可能性もあることを考えると、景品の最高額と総額については、インターネットを通じて申込があった分と、(おそらくは商品包装をみて)はがきで申込があった分を分けることなく、景品類の最高額と総額が懸賞制限告示の範囲内にするようにすべきでしょう。

(こういうアドバイスをすると、「ではホームページからの申込フォームに『私はこのホームページを見て申し込んだのであり商品包装に告知されている表示を見て申し込んだものではありません」という文言を入れたらどうか」と提案するクリエイティブな(?)事業者が出てきそうですが、やめておいた方が良いと思います。)

つまり、

①懸賞により提供する景品類の最高額は、懸賞に係る取引額の20倍以下(当該金額が10万円を超える場合は10万円以下)、

②懸賞により提供する景品類の総額は、当該懸賞に係る取引の予定総額の100分の2以下、

となります(懸賞制限告示3項。なお4項に例外あり)。

最後に関連する問題を2つ記します。

海外のサイトでも、英語のサイトでも、サーバーが海外にあっても、日本の需要者が応募できる場合には、日本の景表法が適用されると考えられます。事実上すべてのサイトがこれに該当するでしょう。どうしても日本の景表法の適用を排除したいなら、応募者に住所を記入させて日本の住所なら申込無くするか、「あなたは日本人ですか」と質問して「Yes」と答えたら申し込みできなくするかしかないでしょうね(それで本当に大丈夫かちょっと疑問ですが)。

それから、取引付随性がないとしても、応募に金銭の支払いを要するような場合には刑法の富くじ罪(刑法187条)に該当し得ます。

2010年2月 6日 (土)

株式取得と適時開示

平成21年独禁法改正で株式取得が事前届出化されたので、改正法下において株式取得に関して必要となりそうな適時開示のポイントをまとめておきます(なお、見やすさ・覚えやすさ重視で若干端折っております)。

適時開示は、取得する側(取得会社)と取得される側(発行会社)と譲渡する側(譲渡会社)の3者において問題となり得ます。

まず、取得会社側の開示について。

①資本提携を伴う業務提携

株式取得価格が取得会社の純資産額と資本金の額の大きい方の10%以上となるような資本提携を伴う業務提携契約を締結することを取締役会で決議した場合、直ちに開示が必要です。

②子会社の異動

(ⅰ)発行会社の資本金の額が取得会社の資本金の10%以上

(ⅱ)発行会社と取得会社の仕入または売上取引高が取得会社の総仕入または総売上高の10%以上

(ⅲ)発行会社の総資産額が取得会社の総資産額のの30%以上

(ⅳ)発行会社の売上高が取得会社の売上高の10%以上

(ⅴ)発行会社の経常利益または当期純利益が取得会社の経常利益または純利益の30%以上(取得会社の経常利益または当期純利益が10億円以上の場合)

(ⅵ)発行会社の経常利益または当期純利益が取得会社の直近5期の経常利益または当期純利益の平均(赤字はゼロ)の30%以上(取得会社の経常利益または当期純利益が10億円未満の場合)

③公開買付

公開買付をするのであればすべて開示が必要です。

次に、発行会社側の開示について。

①主要株主の異動

議決権比率10%以上の株主(「主要株主」)の異動および主要株主である筆頭株主の異動が生じた場合、開示が必要です。名義書換請求の有無にかかわらず、かかる異動が確実と見込まれた時点または異動を確認した時点で直ちに開示を行う必要があります。

②親会社およびその会社の異動

すべて開示が必要です。名義書換請求の有無にかかわらず、異動が確実と見込まれた時点または異動を確認した時点で直ちに開示する必要があります。

③資本提携を伴う業務提携

取得される株式数が発行会社の発行済み株式5%を超えるような資本提携を伴う業務提携契約を締結することを取締役会で決議した場合、開示が必要です(資本提携を伴う業務提携)。

④公募による新株発行

発行価格の総額が1億円以上の場合、開示が必要です。

⑤自己株式の処分

処分価額が1億円以上の場合、開示が必要です。

最後に、譲渡会社側の開示について。

①子会社の売却

(ⅰ)子会社(発行会社のことです)の資本金の額が譲渡会社の資本金の額の10%以上

(ⅱ)発行会社との仕入または売上取引高が譲渡会社の純資産額の10%以上

(ⅲ)発行会社の前期末における総資産額が譲渡会社の前期末における純資産額の30%以上

(ⅳ)発行会社の売上高が譲渡会社の売上高の10%以上

(ⅴ)発行会社の経常利益または当期純利益が譲渡会社の経常利益または当期純利益の30%以上(譲渡会社の経常利益または当期純利益が10億円以上の場合)

(ⅵ)発行会社の経常利益または当期純利益が譲渡会社の直近5期の経常利益または当期純利益の平均(赤字は0)の30%以上、である場合、子会社の売却に当たれば開示が必要です。

②株式の売出し

売出し価額の総額が1億円以上の場合に開示が必要です。

なお、以上の開示事由が子会社で発生した場合には、子会社における決定事実・発生事実として、親会社で開示が必要になる場合があります。

また、業績予想の修正、配当予想の修正が必要になることもあるでしょう。

2010年2月 4日 (木)

独禁法97条の過料の手続

独禁法97条では、排除措置命令に違反した者は50万円以下の過料に処するとされています。この過料の制裁は行政罰であり、排除措置命令が確定する前であっても科することができます。

過料の制裁の手続については、非訟事件手続法161条以下に定められています。独禁法97条の過料については東京高裁の専属管轄になります(独禁法86条)。

非訟事件手続法にははっきりとは書いてありませんが、過料の裁判は裁判所が職権で開始します。対審構造でもなく、公取委の職員や検察官が出廷するということも必要ではありません。

法律上は裁判所の職権で過料の命令が発せられるということであり、公取委に申立権限があるわけではありません。公取委が裁判所に過料を科してもらいたいと考えた場合には、公取委から東京高裁に通知し、東京高裁の職権発動を促すことになります。

ただし実際には、排除措置命令が送達により効力を生じてから審判開始の申立期限までの60日間に公取委が東京高裁にこの違反事実の通知をするということは、余りないのではないかと思います。60日くらい待てないことはないだろうという点と、審判開始の申立をする当事者は排除措置命令の執行免除の申立(70条の6)をすることが多いからです。

過料の制裁の運用について面白い事例があります。株式会社ビームスに対する、景表法違反の排除命令に関する独禁法97条の過料が問題になった事例です(最高裁決定平成20年3月6日)。

この決定に添付されている東京高検の抗告許可申立理由書によると、公取委が東京高裁に過料の制裁を求める通知をするまでに、以下の手順を踏んだことが分かります。

①平成19年1月30日 審判審決。

②1月31日 決定送達。

③その後審決取消訴訟提起。ビームスは執行免除の申し立てせず(担保を積むのが惜しかったんですかね)。

④4月27日 公取委事務総長名で「5月11日までに誤認を排除するための公示の承認を公取に求めないと97条により措置を採らざるを得ない」との警告状を送付。

⑤ビームスはこれを無視。

⑥6月21日 公取委は東京高裁第3特別部に審決不履行の違反事実について通知。

つまり、東京高裁に97条の通知をする前に公取はビームスに再三警告しているんですね。過料の運用の実態が垣間見えて参考になると思います。

« 2010年1月 | トップページ | 2010年3月 »