独禁法(景表法・下請法含む)と消費者保護法
独禁法を消費者保護法の一分野であるかのように扱う一部実務家がいるのですが、私は独禁法と消費者保護法は別物であるべきと考えています。
消費者保護法は、消費者が充分な情報も判断能力も有せず、企業に対して劣位な地位にあることから、対等な当事者間を前提としては認められないような特別な契約解除権(クーリングオフなど)や損害賠償請求権を認めることにより、消費者を保護しようとするものです。
これに対して独禁法は、一般消費者の利益の保護をその目的に掲げてはいるものの(独禁法1条)、保護の手段といいますか、保護の考え方が、いわゆる消費者保護法と大きく異なります。
すなわち、独禁法は事業者間の競争を促進することで消費者の利益に資そうというものです。因果関係の流れを図示すれば、
競争の促進→価格の低下・品質の向上→消費者の利益
という流れです。
このような、消費者の利益保護のあり方・方法が異なる消費者保護法と独禁法を一緒くたにすると、競争をする側からしてみれば、何を基準に独禁法違反と判断されるのかが分からない、ということになってしまいます。
このような観点からとくに消費者保護法との境界線が曖昧なのが、独禁法の特別法といわれる景表法です。
独禁法の特別法としての景表法は、正しい情報が需要者に伝わることにより公正な競争を確保するものであり、一応競争の保護を視野に入れいてるのですが、実際には、景表法のアドバイスをするのに通常の独禁法の知識・考え方は不要であることが多く、どちらかというと消費者保護法に近い発想の法律だと思います。
同じく独禁法の特別法とされる下請法も、建前では公正な競争の保護を謳いますが、実際には弱い下請業者保護であり、消費者保護法に通底するものがあります。独禁法の中の優越的地位濫用も同様の発想であり、他の独禁法違反行為類型とは異質であるというのが率直な印象です。
景表法や下請法、優越的地位の濫用における消費者保護や弱者保護という価値は一般市民や通常の法律家に理解しやすいため、同じような発想で独禁法を消費者保護の道具に使おうという流れが起こるのかもしれませんが、前述のように、いわゆる消費者保護法と独禁法とはまったく異なる考え方に基づくものであるので、両者を混同するのは問題であると考えます。
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