待機期間内の20%以下の議決権取得
平成21年独禁法改正で導入された株式取得の事前届出制度の下では、届出受理の日から30日を経過するまでは株式を取得してはならないとされています(10条8項。待機期間)。
では、30日の待機期間が経過するまでは一切株式取得をすることはできないのでしょうか。それとも、20%以下までであれば待機期間経過前に取得してもよいのでしょうか。
例えば、A社がB社の議決権の30%を取得する予定で事前届出をしたとします。
20%超の議決権を取得する場合に初めて事前届出が独禁法上要求されていることからすれば(つまり20%以下の議決権取得についてはそもそも届出が要らないことからすれば)、待機期間が経過しなくても20%までは取得できると考えるのが常識的なように思われます。
しかし、10条8項の文言を見る限り、話はそれ程単純ではなさそうです。
10条8項では、届出を行った会社は届出受理の日から30日を経過するまでは、「当該届出に係る株式の取得」をしてはならない、とされています。
私はこの「~に係る」という表現は曖昧なので嫌いなのですがそれはさておき(笑)、「当該届出に係る株式」という文言を文言どおりに解釈すれば、届け出られた取得計画の対象となっている株式全部のことを指していると解釈するほか無いように思われます。
そうすると、文言解釈としては、取得計画の対象となっている株式は待機期間中は一株も取得してはならない、ということになりそうです。
それに、無理矢理理屈を考えれば、取得計画の対象になっている株式取得は一体のものであり公取委も一体として取得の是非を判断するのだから、たとえ一部であっても(20%以下であっても)取得は認めるべきではない、という実質的な理由付けをすることもできるような気がします。
ではどのように解すべきでしょうか。
私は、届け出た計画全体では30%の取得が予定されている場合であっても、20%までは待機期間中でも取得可能と考えるべきだと思います。
なぜなら、20%以下の取得ならそもそも届出不要(したがって待機期間もなし)であるにもかかわらず、全体として30%の計画であるというだけで、本来取得が自由な20%についてまで取得できなくなるという実質的な理由が見いだせないからです。
待機期間中に株式取得をすると200万円以下の罰金に処せられますので(91条の2第4号)、罪刑法定主義の観点からもここは控えめに解釈しておくべきだと思います。
上述の通り、このような私見は確かに10条2項の「当該届出に係る株式」の文言解釈としては苦しいのですが、10条2項の文言は合併等の場合をそのまま使用しているだけでそれ以上の深い意味はない(少なくともここで問題にしているような部分取得の問題を念頭に置いて立案されたわけではない)、と考えるのが的を射ているのではないでしょうか。
合併や会社分割だと「一部だけの合併」や「一部だけの分割」ということはありえないのでこういう問題は生じませんが、株式取得は「一部だけの取得」ということがありうるのでこういう問題が生じます。このほかにも、株式取得独自の問題がいろいろあるかもしれません。
【2011年1月26日追記】
改めて考えてみたのですが、上では「文言上苦しいかも」と書きましたが、そんなこともなく、文言上も20%ちょうどまでは待機期間中に取得できると解釈できる、と思います。
つまり、10条8項のは、
「第二項の規定による届出を行つた会社は、届出受理の日から三十日を経過するまでは、当該届出に係る株式の取得をしてはならない。」
としているところ、そこでの
「当該届出」
というのは、
「第二項の規定による届出」
のことであり、第2項の届出というのは、元を辿れば10条2項の
「〔20%〕を超えることとなるときは、公正取引委員会規則で定めるところにより、あらかじめ当該株式の取得に関する計画を公正取引委員会に届け出なければならない。」
を指します。
そして、10条2項の届出というのは、20%を超えるときの届出、つまりは20%を超える部分についての届出、と考えるのが素直だと思います。
とすれば、20%ちょうどまでの取得は、10条8項の「当該届出」に該当しない、と解釈できると思います。
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