国内売上高の定義
平成21年度独禁法改正で、企業結合の届出基準が従来の資産基準から国内売上高基準に変わりました。そこで、「国内売上高」の定義について整理しておきます。
「国内売上高」は独禁法10条1項で、
「国内において供給された商品及び役務の価額の最終事業年度における合計額として公正取引委員会規則で定めるもの」
と定義されています。結局、規則を見ないと分からないわけですね。
そこで、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第9条から第16条までの規定による認可の申請、報告及び届出等に関する規則」(通称「届出規則」)の2条(国内売上高)では、「国内売上高」を、概ね以下のとおり定義しています。
まず、取引の相手方が消費者か法人かで区別されます。
国内の消費者に対する売上は、すべて「国内売上高」となります。国内の消費者に売った以上、その消費者が外国に転売しても「国内売上高」ですし、逆に、外国の消費者に対する売上はその外国消費者が日本に輸入しても「国内売上高」になりません。
これに対して法人等に対する売上は、商品を国内で供給するか外国で供給するかでさらに取扱いが分かれます。
まず法人等に国内で供給する場合には、原則として「国内売上高」になります。常識的ですね。
ただし例外として、当該法人等が当該商品の性質又は形状を変更しないで外国を仕向地として取引したり外国支店に回送したりすることを、こちら側(企業結合を届け出ようとする会社)が契約締結時に把握している場合には、そのような国内で供給された商品の売上は「国内売上高」から除かれます。
海外に転売されるので国内売上から除こう、ということですね。
ただ、「性質又は形状を変更しないで」となっているので、上記例外は、そのまま外国に転売する場合に限られることになります。つまり、最終消費地が海外でも、国内で加工される場合は「国内売上高」になります。反面、そのまま海外に送られて外国で加工される場合には、海外での売上となります(「国内売上高」にはなりません)。
また、外国に送られることを「契約締結時に」把握していないといけないので、「あとから実は買主が外国に転売することを知った」という場合は、この例外規定を使って国内売上高から除外することはできないことになります。
ちょっと融通が利かない感じがしますが、届出企業の認識ではなく客観的な事実を基準に国内売上高か否かを判定するとわけが分からなくなりそうですし、余り細かく例外の例外を規定したりするのも大変なので、割り切って契約締結時の届出企業の認識を基準にしたのでしょう。
これも細かく考えると「契約締結時」というのが基本契約締結時なのか個別契約締結時なのか、など問題はありそうですが、割り切って契約締結時の認識を基準にしているのですから、基本契約締結時で良いのではないかと思います。
次に法人等に対して外国で供給する場合には、原則として海外での売上と扱われます(「国内売上高」にはなりません)。これも常識的ですね。
ただし同様に例外があって、性質又は形状を変更しないで国内を仕向地として取引したり国内支店に回送したりすることを、こちら側が契約時に把握している場合には「国内売上高」となります。
以上が正式な「国内売上高」の求め方です。
しかし、このような計算ができない場合には、「適正かつ合理的な範囲内において、同項の規定の趣旨及び一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に基づく」方法によって国内売上高を算定して良いということになっています(規則2条2項)。
「適正かつ合理的な範囲内において」というのは何ともコメントのしようがなく(笑)、常識的な範囲内でというくらいの意味でしょうね(そうするとさっきの「基本契約時か個別契約時か」という文言解釈も余り意味がない気がしますね)。
「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」というのも、要するに、会社の会計書類がGAAPに基づいて作られていれば会計書類の数字を使って合理的に算定してよいということなのでしょう。
むしろ実際に使えそうなのは連結財務諸表を使って「国内売上高合計額」を算定する方法です(届出規則2条の3)。
届出規則2条の3では、要するに、グループ内に連結財務諸表提出会社がある場合には、それにぶら下がっている子会社群の「国内売上高合計額」は連結損益計算書の売上高から海外売上高を引く方法で計算してよい、とされています。
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