独占禁止法(競争法)の勉強法
世の中「勉強法」の本が流行りですが、本日は私が辿った独禁法の勉強方法を綴ってみたいと思います。
私が司法試験に合格した当時には独禁法は試験科目ではなかったので、受験勉強で勉強する機会はありませんでした。
私が学部生当時、母校京都大学では川濱昇教授が主に院生向けに独禁法の講義を担当されていましたが、学部生には余りに高度な内容で2回出席しただけで脱落してしまいました(今思えば惜しいことをしました)。
弁護士になってから必要に迫られて独禁法の基本書を何冊か拾い読みしましたが、まったく理解できずに挫折しました。
ニューヨーク大学でHarry First教授の講義を聴いて、アメリカの歴史上独禁法(アメリカなので「反トラスト法」ですが)の解釈が時代とともに大きく変わった様子とその理論的背景を知り、なるほど独禁法の発想が普通の法律と違うのはこういう事情のせいかと、何となく肌で感じることができました。
以上の体験を踏まえ、また当時シカゴに住んでいたので「やっぱりシカゴ学派だろう」という軽いノリで(笑)、シカゴ学派のバイブルといわれロバート・ボークk著「The Antitrust Pradox」を読み衝撃を受けました。
この本、法律の教科書としては極めて刺激的な内容で、我妻の「債権総論」、星野英一著「民法概論4(契約)」、森本滋著「会社法」と並び、私にとって思い出深くかつ重要な法律基本書となっています。
「The Antitrust Paradox」を読んで「経済学をきちんと勉強せねば」と悟り、グレゴリー・マンキュー著「Principles of Economics」、ニコルソン著「Microeconomic Theory」、カールトン著「Modern Industrial Organization」、カブラル著「Introduction to Industrial Organization」などを読みました。
いきなり経済学の教科書を頭から読もうとすると普通の法学部生は挫折するので(私もそうでした)、「The Antitrust Paradox」を読んでミクロ経済学のどの部分が独禁法の解釈に必要なのかをイメージした上で、必要な限りで各論から総論へと遡っていくのが良いと思います。
例えば「独占」の話が必要だと分かれば、「独占」の章を読み、その理解のためには完全競争下での価格理論の理解が必要、価格理論を理解するには限界費用とか限界収入、固定費と変動費の区別の理解が必要と理解して更に読み進む(本の初めの方に読み戻る?)、という具合です。
今は日本語の教科書もたくさんあって恵まれていると思いますが、おすすめは何と言っても白石忠志著「独占禁止法」と同「独禁法講義」です。ミクロ経済学の基礎を勉強してからこれらの本を読むといかに合理的な解釈論が展開されているか、よく分かります。
いわゆる通説的な本が良い(或いはそういう本も読まないと不安)、という人は金井・川濱・泉水編「独占禁止法」がよいと思います。
基本書ばかりではつまらない、という人にはKwoka他「The Antitrust Revolution」が超おすすめです。アメリカの重要なケースが経済学的知見から詳細に論じられており、理論が具体的な事案にどのように適用されるのかがよく分かります。
日本では岡田・林編「独占禁止法の経済学」が同様の発想で作られています(まだ一部しか読んでいませんが)。
理屈を極めたい、という人はMotta著「Competition Policy」が良いと思います。しかし私の数学力では全部読みこなせません。。。
以上を私なりに4段階にまとめると、
①基本書等で独禁法の考えやケース(事案)になじむ、
②必要なミクロ経済学の分野を学ぶ、
③もう一度基本(書)に戻る、
④具体的なケースへの応用を学ぶ、
というかんじです。
ロースクールの学生さんにはこのような勉強方法は向いていないかも知れませんが(しかも洋書が多い・・・)、長い目で見ればこのような勉強法のほうがしっかりした基礎が身に付くと思います。
かつてある独禁法専門の弁護士さんが「独禁法はケースが重要。たくさんケースを読めばだんだん感覚が付いてくる」といっていましたが、私の考えるところでは、理屈が分からずにいくらケースを読んでも無駄です。古い公取委の審決などは特にそうです。
最近ある税法専門の弁護士さんと話したときに「独禁法には理論があるとは思えない」という趣旨のことをおっしゃっていましたが、一見そう見えるのは無理もないと認めざるをえません(笑)。
しかし実際にはそうではありません。白黒付きにくいのは事実ですが理屈が無いわけではありません。
独禁法の理屈をきっちりと理解した若い法曹が増えることを願っています。
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