株式事前届出化が実務上意味するもの
平成21年改正で株式取得が事前届出化されました。このことが株式取得のスケジュールに与える影響などが議論されていますが、現実的な実務上の問題としては、事前届出化されたことにより、クローズ前に届出義務の見落としが判明する可能性が出てきた(それによってスケジュールが狂ってしまう)ということがあるかと思います。
どういうことかというと、株式取得が事後報告で良かった改正前には、万が一株式取得後に届出義務の見落としが判明した場合も、何とか30日以内に届出書を準備して届け出ることが可能でした。
また仮に株式取得後30日を過ぎてから見落としが判明した場合、或いは30日ぎりぎりになって見落としが判明した場合でも、遅れた理由を書いた始末書を添えてとりあえず届出はしておく、ということで、大きな問題にはならなかったのではないかと思います。
つまり、仮に届出をうっかり忘れていても、株式取得は既に終わっているので、株式取得を反故にしたりやり直したりすることはありませんでした。
ところが事前届出になるとそうはいきません。
株式取得後に届出義務の見落としに気づいた場合には、もう株式取得が終わってしまっているので、まだ影響は限られているといえます(もちろん違法ではあるわけですが)。
問題はむしろ、株式取得前に届出義務の見落としに気づいてしまった場合です。
改正前なら、例えば取得の前日に見落としに気づけば、30日以内に届出をすれば済んだわけです。
ところが、事前届出制の場合には、取得の直線に届出義務の見落としに気づいた場合には、届け出ないまま取得してしまう(=届け出義務を意図的に無視する)という選択肢は、まともな企業であればあり得ないと思われます。
しかも、合併等改正前から事前届け出であった企業結合については、見落としというのは起きにくいと思われます。「合併」という企業結合の法形式ごとに届け出義務を規定していることが功を奏して、反射的に、「合併→独禁法15条は大丈夫か?」という思考が働くからです。
ところが株式取得の場合は、このブログでも過去に述べたことがありますが、株式取得が合併や事業譲渡の陰に隠れて表に現れないことがあります。こういう場合に見落としが起こる可能性が高いのです。
このような、見落としの可能性が他の企業結合形態に比べて大きい株式取得が事前届け出化されたことは、上述のように、スケジュールを狂わせてしまう現実のリスクがあるように思われます。
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