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2010年1月17日 (日)

グループ内での株式譲渡と株式取得の届出

ご存じの方には今さらながらですが、今日はグループ内での株式取得には届出が不要であることを、やや詳しく説明したいと思います。

平成21年改正で、グループ内での企業結合については届出を不要とすることが明文化されました。

例えば合併については15条1項但し書きが、

「ただし、すべての合併会社が同一の企業結合集団に属する場合は、この限りでない。」

として、合併当事会社が同一の企業結合集団(その定義は10条2項)に属する場合には合併の届出を要しないと明記しています。

共同新設分割については15条の2第2項但し書き、吸収分割については同条3項但し書き、共同株式移転については15条の3第2項但し書き、事業譲渡については16条2項但し書きが、ほぼ同様の規定を置いており、同一企業結合集団内での企業結合は届出を要しない、としています。

これに対して株式取得に関する10条2項には、以上に相当する規定がないため、条文を読むと一瞬、株式取得についてだけこのような例外が無いのではないかという錯覚が起こりかねません。

しかし、結論から言えば、グループ内のある会社から同一グループ内の別の会社に株式を譲渡する場合は、いかなる場合であっても株式取得の届出は不要です。

その理由は、改正法では株式取得の届出閾値(20%または50%)を、企業結合集団全体の保有比率に基づいて算定するからです。

具体例を挙げましょう(国内売上の要件は満たすとします)。

A1(エーワン)社とA2(エーツー)社は同一の企業結合集団(Aグループ)に属します。A1社はB社(Aグループとは別グループ)の議決権を10%、A2社はB社の議決権を15%保有しているとします。ここで、A1社がその保有するB社の全株式をA2社に譲渡するとします。

この場合、株式譲渡後にA2社が保有するB社の議決権は25%となり、一瞬届出が必要なように見えます。

しかし、前述のようにB社に対する議決権保有比率はAグループ全体でみるので、Aグループの当該譲渡前のB社議決権保有比率は25%(=A1社10%+A2社15%)、当該譲渡後も25%(=A1社0%+A2社25%)と、譲渡前後で変わりません。

したがって、グループ内での株式譲渡については届出は不要となります。

さて、以上を10条2項の条文の文言に即して説明しようとすると、実はちょっと厄介な問題があります。

10条2項の文言では、

①「当該株式取得会社(A2社)が当該取得のにおいて所有することとなる当該株式発行会社(B社)の株式に係る議決権の数

②「当該株式取得会社の属する企業結合集団に属する当該株式会社以外の会社等(A1社)が所有する当該株式発行会社(B社)の株式に係る議決権の数

とを合計した議決権の数が、届出閾値算定の議決権保有比率の分子になるとされています(分母はもちろん、「当該株式発行会社の株主の議決権の数」です)。

このような議決権保有割合が「100分の20・・・」を「超えることとなるとき」に、届出が必要になります。

ここで、①は「こととなる」という文言から、株式譲渡後の議決権(上記設例では、譲渡後のA2社のB社株保有割合25%)のことだと分かります。

そして、①と②を合計した保有割合が20%(または50%)を「超えることとなるとき」としていることからすると、譲渡前には①と②を合計した数は20%(または50%)を超えていないことが届出義務の前提であると理解できます。

問題は②です。

②では「所有する」と現在形になっているため、文言上はこれが譲渡前の議決権数なのか譲渡後の議決権数なのか少し分かりにくいです。

もちろん届出の前後での市場集中度をチェックするという届出制度の趣旨からすれば、譲渡直後の議決件数(設例では、A1社によるB社議決権0個)を意味するのですが、届出要否の判定は譲渡前にすることもあって、「所有する」という現在形を届出要否の判定時(つまり譲渡前)での保有割合と誤解する方もあるかもしれません(もしこのような理解に立つと、届出時のA1社の議決権10%と取得後のA2社の議決権25%を足して35%となり届出を要するという結論になってしまいます)。

文言解釈としては、①の中の「当該取得の後において」という文言は②にもかかる、しかも②の「所有する」は「所有することとなる」という趣旨である、ということなのだろうと思います。

いずれにしても、10条2項はあまり良い条文ではないですね。株式取得以外の企業結合にはグループ内の例外が明記されているのでなおさら株式取得は反対解釈かな、と思ってしまいそうです。

理屈が頭にあると先入観のために以上のような正しい条文解釈をしてしまう(そのため文言上の疑問点は素通りしてしまう)のですが、法律をつくるときは、理屈を知らない人が論理的にその条文を読んだらどのような解釈になるかを常に意識すべきだと思います。

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