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2010年1月

2010年1月31日 (日)

待機期間内の20%以下の議決権取得

平成21年独禁法改正で導入された株式取得の事前届出制度の下では、届出受理の日から30日を経過するまでは株式を取得してはならないとされています(10条8項。待機期間)。

では、30日の待機期間が経過するまでは一切株式取得をすることはできないのでしょうか。それとも、20%以下までであれば待機期間経過前に取得してもよいのでしょうか。

例えば、A社がB社の議決権の30%を取得する予定で事前届出をしたとします。

20%超の議決権を取得する場合に初めて事前届出が独禁法上要求されていることからすれば(つまり20%以下の議決権取得についてはそもそも届出が要らないことからすれば)、待機期間が経過しなくても20%までは取得できると考えるのが常識的なように思われます。

しかし、10条8項の文言を見る限り、話はそれ程単純ではなさそうです。

10条8項では、届出を行った会社は届出受理の日から30日を経過するまでは、「当該届出に係る株式の取得」をしてはならない、とされています。

私はこの「~に係る」という表現は曖昧なので嫌いなのですがそれはさておき(笑)、「当該届出に係る株式」という文言を文言どおりに解釈すれば、届け出られた取得計画の対象となっている株式全部のことを指していると解釈するほか無いように思われます。

そうすると、文言解釈としては、取得計画の対象となっている株式は待機期間中は一株も取得してはならない、ということになりそうです。

それに、無理矢理理屈を考えれば、取得計画の対象になっている株式取得は一体のものであり公取委も一体として取得の是非を判断するのだから、たとえ一部であっても(20%以下であっても)取得は認めるべきではない、という実質的な理由付けをすることもできるような気がします。

ではどのように解すべきでしょうか。

私は、届け出た計画全体では30%の取得が予定されている場合であっても、20%までは待機期間中でも取得可能と考えるべきだと思います。

なぜなら、20%以下の取得ならそもそも届出不要(したがって待機期間もなし)であるにもかかわらず、全体として30%の計画であるというだけで、本来取得が自由な20%についてまで取得できなくなるという実質的な理由が見いだせないからです。

待機期間中に株式取得をすると200万円以下の罰金に処せられますので(91条の2第4号)、罪刑法定主義の観点からもここは控えめに解釈しておくべきだと思います。

上述の通り、このような私見は確かに10条2項の「当該届出に係る株式」の文言解釈としては苦しいのですが、10条2項の文言は合併等の場合をそのまま使用しているだけでそれ以上の深い意味はない(少なくともここで問題にしているような部分取得の問題を念頭に置いて立案されたわけではない)、と考えるのが的を射ているのではないでしょうか。

合併や会社分割だと「一部だけの合併」や「一部だけの分割」ということはありえないのでこういう問題は生じませんが、株式取得は「一部だけの取得」ということがありうるのでこういう問題が生じます。このほかにも、株式取得独自の問題がいろいろあるかもしれません。

【2011年1月26日追記】

改めて考えてみたのですが、上では「文言上苦しいかも」と書きましたが、そんなこともなく、文言上も20%ちょうどまでは待機期間中に取得できると解釈できる、と思います。

つまり、10条8項のは、

「第二項の規定による届出を行つた会社は、届出受理の日から三十日を経過するまでは、当該届出に係る株式の取得をしてはならない。」

としているところ、そこでの

「当該届出」

というのは、

「第二項の規定による届出」

のことであり、第2項の届出というのは、元を辿れば10条2項の

「〔20%〕を超えることとなるときは、公正取引委員会規則で定めるところにより、あらかじめ当該株式の取得に関する計画を公正取引委員会に届け出なければならない。」

を指します。

そして、10条2項の届出というのは、20%を超えるときの届出、つまりは20%を超える部分についての届出、と考えるのが素直だと思います。

とすれば、20%ちょうどまでの取得は、10条8項の「当該届出」に該当しない、と解釈できると思います。

2010年1月28日 (木)

国内売上高の定義

平成21年度独禁法改正で、企業結合の届出基準が従来の資産基準から国内売上高基準に変わりました。そこで、「国内売上高」の定義について整理しておきます。

「国内売上高」は独禁法10条1項で、

「国内において供給された商品及び役務の価額の最終事業年度における合計額として公正取引委員会規則で定めるもの

と定義されています。結局、規則を見ないと分からないわけですね。

そこで、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第9条から第16条までの規定による認可の申請、報告及び届出等に関する規則」(通称「届出規則」)の2条(国内売上高)では、「国内売上高」を、概ね以下のとおり定義しています。

まず、取引の相手方が消費者か法人かで区別されます。

国内の消費者に対する売上は、すべて「国内売上高」となります。国内の消費者に売った以上、その消費者が外国に転売しても「国内売上高」ですし、逆に、外国の消費者に対する売上はその外国消費者が日本に輸入しても「国内売上高」になりません。

これに対して法人等に対する売上は、商品を国内で供給するか外国で供給するかでさらに取扱いが分かれます。

まず法人等に国内で供給する場合には、原則として「国内売上高」になります。常識的ですね。

ただし例外として、当該法人等が当該商品の性質又は形状を変更しないで外国を仕向地として取引したり外国支店に回送したりすることを、こちら側(企業結合を届け出ようとする会社)が契約締結時に把握している場合には、そのような国内で供給された商品の売上は「国内売上高」から除かれます。

海外に転売されるので国内売上から除こう、ということですね。

ただ、「性質又は形状を変更しないで」となっているので、上記例外は、そのまま外国に転売する場合に限られることになります。つまり、最終消費地が海外でも、国内で加工される場合は「国内売上高」になります。反面、そのまま海外に送られて外国で加工される場合には、海外での売上となります(「国内売上高」にはなりません)。

また、外国に送られることを「契約締結時に」把握していないといけないので、「あとから実は買主が外国に転売することを知った」という場合は、この例外規定を使って国内売上高から除外することはできないことになります。

ちょっと融通が利かない感じがしますが、届出企業の認識ではなく客観的な事実を基準に国内売上高か否かを判定するとわけが分からなくなりそうですし、余り細かく例外の例外を規定したりするのも大変なので、割り切って契約締結時の届出企業の認識を基準にしたのでしょう。

これも細かく考えると「契約締結時」というのが基本契約締結時なのか個別契約締結時なのか、など問題はありそうですが、割り切って契約締結時の認識を基準にしているのですから、基本契約締結時で良いのではないかと思います。

次に法人等に対して外国で供給する場合には、原則として海外での売上と扱われます(「国内売上高」にはなりません)。これも常識的ですね。

ただし同様に例外があって、性質又は形状を変更しないで国内を仕向地として取引したり国内支店に回送したりすることを、こちら側が契約時に把握している場合には「国内売上高」となります。

以上が正式な「国内売上高」の求め方です。

しかし、このような計算ができない場合には、「適正かつ合理的な範囲内において、同項の規定の趣旨及び一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に基づく」方法によって国内売上高を算定して良いということになっています(規則2条2項)。

「適正かつ合理的な範囲内において」というのは何ともコメントのしようがなく(笑)、常識的な範囲内でというくらいの意味でしょうね(そうするとさっきの「基本契約時か個別契約時か」という文言解釈も余り意味がない気がしますね)。

「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」というのも、要するに、会社の会計書類がGAAPに基づいて作られていれば会計書類の数字を使って合理的に算定してよいということなのでしょう。

むしろ実際に使えそうなのは連結財務諸表を使って「国内売上高合計額」を算定する方法です(届出規則2条の3)。

届出規則2条の3では、要するに、グループ内に連結財務諸表提出会社がある場合には、それにぶら下がっている子会社群の「国内売上高合計額」は連結損益計算書の売上高から海外売上高を引く方法で計算してよい、とされています。

2010年1月27日 (水)

一橋大学大学院連続講義(アメリカ独禁法)

昨日、一橋大学大学院国際企業戦略研究科の連続講義で、アメリカ独禁法についてお話しさせて頂きました。

お忙しい中、また夜遅い時間に出席頂いた皆様、どうもありがとうございました。

講義の中でも少し触れたのですが、アメリカ独禁法ではシャーマン法1条が共同行為(水平的制限、垂直的制限を含む)、2条が単独行為を規制するという形になっています。

この区別はEU独禁法でも、またそれを参考にした中国独禁法でも採用されているので普遍的に世界に行き渡った感がありますが、合理的な区別であるのか今ひとつすっきりしないものがあります。

例えばシャーマン法1条では再販売価格維持も垂直的合意ということで違法となりますが、合意を違法とするなら合意の両方の当事者を違反としないと辻褄が合わないような気がします。

しかし、メーカーが再販売価格維持を行ったケースで、そのような「合意」をしたことを理由に販売店が独禁法違反とされたという話は聞いたことがありません。

でもそうなのであれば、再販売価格維持という行為をしたメーカーの単独行為というふうに整理するのが論理的ではないのでしょうか。しかし、そのような理屈も聞いたことがありません。

シャーマン法2条の単独行為規制は市場支配力のある者だけが対象になるので、再販売価格維持をシャーマン法1条の問題とするのは結論としては正しいと思いますが、「単独行為か共同行為か」という区別と、「違反の前提として市場支配力を要するか否か」という区別は一致しないこともあると思います。

再販売価格維持を再び例に取れば、再販売価格維持は、「単独行為」、「共同行為」という言葉を文字通りに捉えれば、単独行為なのではないかと思われます。

しかしそうすると違反の要件として市場支配力が要求されてしまって不都合だし、確かに再販売価格維持には必ず(メーカーと販売店のような)二当事者が登場するので「合意」と考えるのが常識的に収まりがよいので、「共同行為」と整理されていたに過ぎないということなのではないでしょうか。

しかも、共同行為の中でさらに垂直的制限と水平的制限があり、両者で違法要件が違ったりするので、ますます条文の整理が直感と結びつかなくなります。

特に勉強を初めて間もない人は、シャーマン法1条がカルテルのような水平的制限で、2条が垂直的制限という理解をしてしまいかねないように思います。

でもその誤解にも理由がないわけではなく、垂直的制限は制限をする側(川上業者)だけが違法となるので、言葉の素直な意味からすれば「単独行為」と呼ぶのが実は自然だともいえるのです。

要するに、市場支配力を有する者だけを対象とするのが「単独行為規制」だ(再販売価格維持などは単独で行うが市場支配力が違反の要件ではないので「共同行為規制」だ)と考える方が、物事の本質を捉えているように思います。

2010年1月24日 (日)

職務活動の成果の法理(Work-product doctrine)

弁護士・依頼者の秘匿特権と似ているものにwork-product doctrine (職務活動の成果の法理)というのがあり、work productに該当する場合には証拠開示手続で開示することを拒否できます。

弁護士が自分の法的意見や分析を相手方当事者に開示しなければならないとすると充分な弁護活動ができないから、というのが、この法理が認められる元々の理由です。

民事手続でも刑事手続でも認められます。

Work-productの法理により開示を拒むためには、

①訴訟を予期して作成された、

②文書その他の有形物であること、

です。

しかし、この法理は秘匿特権とは違って絶対的なものではなく、相手方にとって当該文書が相当程度に必要で、相手方が不相当な困難を伴わない限り同等の情報を得ることができない場合には、裁判所は開示を命じることができます。

この法理は、元々は弁護士が作成した文書等が対象でしたが、現在では企業が依頼した調査士や環境コンサルタントが作成した文書も対象となり得ると考えられています。

ただし、弁護士でない者が作成した場合には、「訴訟を予期して」作成されたのではないと判断される可能性もあります。

Attorney-client privilegeとWork-product doctrineは同時に主張されることも多いです。一般的にはWork-productのほうが適用範囲は広いが絶対的な保護ではないし、Work-productとしては保護されないけど秘匿特権としては保護されることもあり得るからです。

2010年1月23日 (土)

弁護士・依頼者間の秘匿特権(attorney-client privilege)

独禁法の実務でもしばしば問題になる米国のattorney-client privilege (弁護士・依頼者間の秘匿特権)について簡単にまとめておきます。

アメリカの民事訴訟にはdiscoveryという証拠開示の手続があり、手元の資料は原則として全て相手方に開示しなければならないことになっています。

このような全部開示の原則に対する例外の1つがattorney-client privilegeというものです。この特権は文字通り、弁護士と依頼者の間のコミュニケーションの内容を秘密とするものです。

またAttorney-client privilegeは刑事手続においても認められます。

以前は、捜査機関が企業に秘匿特権を放棄するよう要請する(放棄しない場合には不利な取り扱いをすることをほのめかしつつ)、ということが行われていて各方面から問題視されていましたが、司法省の2008年の「Principles of Federal Prosecution of Business Organization」(http://www.justice.gov/opa/documents/corp-charging-guidelines.pdf )では、そのような取り扱いは明示的に禁止されています。なので現在はそのような取り扱いはなされていないはずです。

Attorney-client privilegeが認められる要件は、

①弁護士と依頼者の間の、

②法的助言を得るためになされた、

③秘密の(かつ秘密にする意図でなされた)、

④コミュニケーションであること、

です。

いくつか問題になりそうな点を述べると、まず、弁護士からの法的アドバイスを必要な限度を超えて社内で伝達すると、秘密性がなくなって秘匿特権が失われることがありますので注意が必要です(なお、法的アドバイスを守るべき従業員に当該法的アドバイスを伝えることは、通常、「必要な限度」の範囲にとどまると考えられます)。

また、これと関連しますが、社員と弁護士とのコミュニケーションであればどのような社員でも秘匿特権の対象になるというわけではありません。そのコミュニケーションは社員の職務上の義務の範囲内であったか、上司の指示はあったか、などが問われます。

法務部員であれば通常問題ないのでしょうが、営業担当者が法務部の指示も無く弁護士にアドバイスを求めた場合などは、秘匿特権が認められない可能性があると思われます。

コミュニケーションは文書やEメールに限らず口頭のものも秘匿特権の対象になるのですが、弁護士と話をしているときに第三者が同席していたり、同席していなくても立ち聞きされていたりすると、やはり秘密性が失われます。

もちろん、メールのccに第三者を入れたりしてはいけません。

ところで冒頭に述べたように秘匿特権の大前提としてディスカバリーという制度が米国にはあるのですが、以前米国の弁護士さんに、

「アメリカではdiscoveryにおいて証拠を隠すことはないのか。ないとすればなぜか」

という素朴な質問をしたことがあります。

その答えは、

「Discoveryにおいて証拠を隠すことはない。米国の弁護士は訴訟の公正を確保する公的義務があると考えられており、また、証拠を隠すことはリスクが大きくて(あるいは弁護士が負うべきリスクではないので)、アメリカの弁護士なら誰も証拠を隠そうなどとは考えない。」

と、当然のようにお答えになりました。

これを、アメリカの弁護士は倫理観が高いとみるか、クライアントとの関係を割り切って考えているとみるかは人それぞれでしょうが、なかなか興味深いコメントでした。

2010年1月19日 (火)

立入調査の際に質問を受けたら答える義務があるか。

カルテルや談合をした場合には立入調査が行われるのが通常ですが、その立入調査の際に公取委の職員から質問を受けることがあります。書類の内容の説明を求められることもあれば、事件の中身について聞かれることもあるでしょう。

この質問には答える義務があるのでしょうか。

独禁法47条1項1号では、公取委は被疑会社の従業員に出頭を命じて審尋(尋問のこと)したり報告を命じたりすることができることになっています。

これらを出頭命令、報告命令と呼びますが、これらの命令に違反すると刑罰の対象となります。

しかし、出頭命令や報告命令を出すには一定の手続が必要です。

すなわち、「公正取引委員会の審に関する規則」(通称「審規則」)の9条によると、これらの命令を出すには命令書(書面)を送達しなければならないことになっています(単に書面があればよいと言うのではなく「送達」を要することにも注意)。

そして、立入調査の際には出頭命令書や報告命令書を公取職員が持参することはまずないと思われます。

つまり、立入調査のときにされる質問は、あくまで任意の事情聴取です。したがって法的な強制力はなく、これを断っても罰則はありません。

ただし、多くの会社では調査には協力するという方針を採ると思われますし、いろいろな意味で、任意に協力するのが妥当であるとは言えます。

2010年1月17日 (日)

グループ内での株式譲渡と株式取得の届出

ご存じの方には今さらながらですが、今日はグループ内での株式取得には届出が不要であることを、やや詳しく説明したいと思います。

平成21年改正で、グループ内での企業結合については届出を不要とすることが明文化されました。

例えば合併については15条1項但し書きが、

「ただし、すべての合併会社が同一の企業結合集団に属する場合は、この限りでない。」

として、合併当事会社が同一の企業結合集団(その定義は10条2項)に属する場合には合併の届出を要しないと明記しています。

共同新設分割については15条の2第2項但し書き、吸収分割については同条3項但し書き、共同株式移転については15条の3第2項但し書き、事業譲渡については16条2項但し書きが、ほぼ同様の規定を置いており、同一企業結合集団内での企業結合は届出を要しない、としています。

これに対して株式取得に関する10条2項には、以上に相当する規定がないため、条文を読むと一瞬、株式取得についてだけこのような例外が無いのではないかという錯覚が起こりかねません。

しかし、結論から言えば、グループ内のある会社から同一グループ内の別の会社に株式を譲渡する場合は、いかなる場合であっても株式取得の届出は不要です。

その理由は、改正法では株式取得の届出閾値(20%または50%)を、企業結合集団全体の保有比率に基づいて算定するからです。

具体例を挙げましょう(国内売上の要件は満たすとします)。

A1(エーワン)社とA2(エーツー)社は同一の企業結合集団(Aグループ)に属します。A1社はB社(Aグループとは別グループ)の議決権を10%、A2社はB社の議決権を15%保有しているとします。ここで、A1社がその保有するB社の全株式をA2社に譲渡するとします。

この場合、株式譲渡後にA2社が保有するB社の議決権は25%となり、一瞬届出が必要なように見えます。

しかし、前述のようにB社に対する議決権保有比率はAグループ全体でみるので、Aグループの当該譲渡前のB社議決権保有比率は25%(=A1社10%+A2社15%)、当該譲渡後も25%(=A1社0%+A2社25%)と、譲渡前後で変わりません。

したがって、グループ内での株式譲渡については届出は不要となります。

さて、以上を10条2項の条文の文言に即して説明しようとすると、実はちょっと厄介な問題があります。

10条2項の文言では、

①「当該株式取得会社(A2社)が当該取得のにおいて所有することとなる当該株式発行会社(B社)の株式に係る議決権の数

②「当該株式取得会社の属する企業結合集団に属する当該株式会社以外の会社等(A1社)が所有する当該株式発行会社(B社)の株式に係る議決権の数

とを合計した議決権の数が、届出閾値算定の議決権保有比率の分子になるとされています(分母はもちろん、「当該株式発行会社の株主の議決権の数」です)。

このような議決権保有割合が「100分の20・・・」を「超えることとなるとき」に、届出が必要になります。

ここで、①は「こととなる」という文言から、株式譲渡後の議決権(上記設例では、譲渡後のA2社のB社株保有割合25%)のことだと分かります。

そして、①と②を合計した保有割合が20%(または50%)を「超えることとなるとき」としていることからすると、譲渡前には①と②を合計した数は20%(または50%)を超えていないことが届出義務の前提であると理解できます。

問題は②です。

②では「所有する」と現在形になっているため、文言上はこれが譲渡前の議決権数なのか譲渡後の議決権数なのか少し分かりにくいです。

もちろん届出の前後での市場集中度をチェックするという届出制度の趣旨からすれば、譲渡直後の議決件数(設例では、A1社によるB社議決権0個)を意味するのですが、届出要否の判定は譲渡前にすることもあって、「所有する」という現在形を届出要否の判定時(つまり譲渡前)での保有割合と誤解する方もあるかもしれません(もしこのような理解に立つと、届出時のA1社の議決権10%と取得後のA2社の議決権25%を足して35%となり届出を要するという結論になってしまいます)。

文言解釈としては、①の中の「当該取得の後において」という文言は②にもかかる、しかも②の「所有する」は「所有することとなる」という趣旨である、ということなのだろうと思います。

いずれにしても、10条2項はあまり良い条文ではないですね。株式取得以外の企業結合にはグループ内の例外が明記されているのでなおさら株式取得は反対解釈かな、と思ってしまいそうです。

理屈が頭にあると先入観のために以上のような正しい条文解釈をしてしまう(そのため文言上の疑問点は素通りしてしまう)のですが、法律をつくるときは、理屈を知らない人が論理的にその条文を読んだらどのような解釈になるかを常に意識すべきだと思います。

2010年1月14日 (木)

独禁法(景表法・下請法含む)と消費者保護法

独禁法を消費者保護法の一分野であるかのように扱う一部実務家がいるのですが、私は独禁法と消費者保護法は別物であるべきと考えています。

消費者保護法は、消費者が充分な情報も判断能力も有せず、企業に対して劣位な地位にあることから、対等な当事者間を前提としては認められないような特別な契約解除権(クーリングオフなど)や損害賠償請求権を認めることにより、消費者を保護しようとするものです。

これに対して独禁法は、一般消費者の利益の保護をその目的に掲げてはいるものの(独禁法1条)、保護の手段といいますか、保護の考え方が、いわゆる消費者保護法と大きく異なります。

すなわち、独禁法は事業者間の競争を促進することで消費者の利益に資そうというものです。因果関係の流れを図示すれば、

競争の促進→価格の低下・品質の向上→消費者の利益

という流れです。

このような、消費者の利益保護のあり方・方法が異なる消費者保護法と独禁法を一緒くたにすると、競争をする側からしてみれば、何を基準に独禁法違反と判断されるのかが分からない、ということになってしまいます。

このような観点からとくに消費者保護法との境界線が曖昧なのが、独禁法の特別法といわれる景表法です。

独禁法の特別法としての景表法は、正しい情報が需要者に伝わることにより公正な競争を確保するものであり、一応競争の保護を視野に入れいてるのですが、実際には、景表法のアドバイスをするのに通常の独禁法の知識・考え方は不要であることが多く、どちらかというと消費者保護法に近い発想の法律だと思います。

同じく独禁法の特別法とされる下請法も、建前では公正な競争の保護を謳いますが、実際には弱い下請業者保護であり、消費者保護法に通底するものがあります。独禁法の中の優越的地位濫用も同様の発想であり、他の独禁法違反行為類型とは異質であるというのが率直な印象です。

景表法や下請法、優越的地位の濫用における消費者保護や弱者保護という価値は一般市民や通常の法律家に理解しやすいため、同じような発想で独禁法を消費者保護の道具に使おうという流れが起こるのかもしれませんが、前述のように、いわゆる消費者保護法と独禁法とはまったく異なる考え方に基づくものであるので、両者を混同するのは問題であると考えます。

2010年1月13日 (水)

独占禁止法(競争法)の勉強法

世の中「勉強法」の本が流行りですが、本日は私が辿った独禁法の勉強方法を綴ってみたいと思います。

私が司法試験に合格した当時には独禁法は試験科目ではなかったので、受験勉強で勉強する機会はありませんでした。

私が学部生当時、母校京都大学では川濱昇教授が主に院生向けに独禁法の講義を担当されていましたが、学部生には余りに高度な内容で2回出席しただけで脱落してしまいました(今思えば惜しいことをしました)。

弁護士になってから必要に迫られて独禁法の基本書を何冊か拾い読みしましたが、まったく理解できずに挫折しました。

ニューヨーク大学でHarry First教授の講義を聴いて、アメリカの歴史上独禁法(アメリカなので「反トラスト法」ですが)の解釈が時代とともに大きく変わった様子とその理論的背景を知り、なるほど独禁法の発想が普通の法律と違うのはこういう事情のせいかと、何となく肌で感じることができました。

以上の体験を踏まえ、また当時シカゴに住んでいたので「やっぱりシカゴ学派だろう」という軽いノリで(笑)、シカゴ学派のバイブルといわれロバート・ボークk著「The Antitrust Pradox」を読み衝撃を受けました。

この本、法律の教科書としては極めて刺激的な内容で、我妻の「債権総論」、星野英一著「民法概論4(契約)」、森本滋著「会社法」と並び、私にとって思い出深くかつ重要な法律基本書となっています。

「The Antitrust Paradox」を読んで「経済学をきちんと勉強せねば」と悟り、グレゴリー・マンキュー著「Principles of Economics」、ニコルソン著「Microeconomic Theory」、カールトン著「Modern Industrial Organization」、カブラル著「Introduction to Industrial Organization」などを読みました。

いきなり経済学の教科書を頭から読もうとすると普通の法学部生は挫折するので(私もそうでした)、「The Antitrust Paradox」を読んでミクロ経済学のどの部分が独禁法の解釈に必要なのかをイメージした上で、必要な限りで各論から総論へと遡っていくのが良いと思います。

例えば「独占」の話が必要だと分かれば、「独占」の章を読み、その理解のためには完全競争下での価格理論の理解が必要、価格理論を理解するには限界費用とか限界収入、固定費と変動費の区別の理解が必要と理解して更に読み進む(本の初めの方に読み戻る?)、という具合です。

今は日本語の教科書もたくさんあって恵まれていると思いますが、おすすめは何と言っても白石忠志著「独占禁止法」と同「独禁法講義」です。ミクロ経済学の基礎を勉強してからこれらの本を読むといかに合理的な解釈論が展開されているか、よく分かります。

いわゆる通説的な本が良い(或いはそういう本も読まないと不安)、という人は金井・川濱・泉水編「独占禁止法」がよいと思います。

基本書ばかりではつまらない、という人にはKwoka他「The Antitrust Revolution」が超おすすめです。アメリカの重要なケースが経済学的知見から詳細に論じられており、理論が具体的な事案にどのように適用されるのかがよく分かります。

日本では岡田・林編「独占禁止法の経済学」が同様の発想で作られています(まだ一部しか読んでいませんが)。

理屈を極めたい、という人はMotta著「Competition Policy」が良いと思います。しかし私の数学力では全部読みこなせません。。。

以上を私なりに4段階にまとめると、

①基本書等で独禁法の考えやケース(事案)になじむ、

②必要なミクロ経済学の分野を学ぶ、

③もう一度基本(書)に戻る、

④具体的なケースへの応用を学ぶ、

というかんじです。

ロースクールの学生さんにはこのような勉強方法は向いていないかも知れませんが(しかも洋書が多い・・・)、長い目で見ればこのような勉強法のほうがしっかりした基礎が身に付くと思います。

かつてある独禁法専門の弁護士さんが「独禁法はケースが重要。たくさんケースを読めばだんだん感覚が付いてくる」といっていましたが、私の考えるところでは、理屈が分からずにいくらケースを読んでも無駄です。古い公取委の審決などは特にそうです。

最近ある税法専門の弁護士さんと話したときに「独禁法には理論があるとは思えない」という趣旨のことをおっしゃっていましたが、一見そう見えるのは無理もないと認めざるをえません(笑)。

しかし実際にはそうではありません。白黒付きにくいのは事実ですが理屈が無いわけではありません。

独禁法の理屈をきっちりと理解した若い法曹が増えることを願っています。

2010年1月 8日 (金)

【ザ・ローヤーズ1月号】平成21年改正法特集

雑誌「月刊ザ・ローヤーズ」1月号の平成21年改正法特集に、リーニエンシー制度の改正についての記事を掲載していただきました。

リーニエンシーの対象者が最大5社となったことで、違反事実の成否が微妙な案件については、争うか否か迷った企業がリーニエンシーの恩恵に誘因されて違反事実を認める傾向が強まる可能性がある(そのような企業が3社から5社に増える)結果、企業が違反事実を争うことが一層困難になるであろう、ということを具体例を挙げながら論じました。

それでは企業はどのように対応したらいいのか、という答えが無いのが悩ましいところではありますが、むしろこのような問題があることを公取委や裁判所に認識してもらいたくてこの記事を書いたというのが本音のところです。

もしご興味のある方は書店で手に取っていただければと思います。

2010年1月 7日 (木)

株式事前届出化が実務上意味するもの

平成21年改正で株式取得が事前届出化されました。このことが株式取得のスケジュールに与える影響などが議論されていますが、現実的な実務上の問題としては、事前届出化されたことにより、クローズ前に届出義務の見落としが判明する可能性が出てきた(それによってスケジュールが狂ってしまう)ということがあるかと思います。

どういうことかというと、株式取得が事後報告で良かった改正前には、万が一株式取得後に届出義務の見落としが判明した場合も、何とか30日以内に届出書を準備して届け出ることが可能でした。

また仮に株式取得後30日を過ぎてから見落としが判明した場合、或いは30日ぎりぎりになって見落としが判明した場合でも、遅れた理由を書いた始末書を添えてとりあえず届出はしておく、ということで、大きな問題にはならなかったのではないかと思います。

つまり、仮に届出をうっかり忘れていても、株式取得は既に終わっているので、株式取得を反故にしたりやり直したりすることはありませんでした。

ところが事前届出になるとそうはいきません。

株式取得後に届出義務の見落としに気づいた場合には、もう株式取得が終わってしまっているので、まだ影響は限られているといえます(もちろん違法ではあるわけですが)。

問題はむしろ、株式取得前に届出義務の見落としに気づいてしまった場合です。

改正前なら、例えば取得の前日に見落としに気づけば、30日以内に届出をすれば済んだわけです。

ところが、事前届出制の場合には、取得の直線に届出義務の見落としに気づいた場合には、届け出ないまま取得してしまう(=届け出義務を意図的に無視する)という選択肢は、まともな企業であればあり得ないと思われます。

しかも、合併等改正前から事前届け出であった企業結合については、見落としというのは起きにくいと思われます。「合併」という企業結合の法形式ごとに届け出義務を規定していることが功を奏して、反射的に、「合併→独禁法15条は大丈夫か?」という思考が働くからです。

ところが株式取得の場合は、このブログでも過去に述べたことがありますが、株式取得が合併や事業譲渡の陰に隠れて表に現れないことがあります。こういう場合に見落としが起こる可能性が高いのです。

このような、見落としの可能性が他の企業結合形態に比べて大きい株式取得が事前届け出化されたことは、上述のように、スケジュールを狂わせてしまう現実のリスクがあるように思われます。

2010年1月 6日 (水)

【日経法務インサイド1月4日】「公取委、クアルコムに排除命令」

1月4日日経新聞朝刊の「法務インサイド」のクアルコムの非係争条項に関する記事で私のコメントを引用していただきました。新年早々おめでたいです(笑)。

ところで、排除措置命令では「クアルコムは○○を余儀なくさせ」というフレーズが連発されており、いかにも非係争条項を無理矢理押しつけたという認定になっていますが、無理矢理押しつけたとしてもそのことが反競争性の認定にどのような影響を及ぼすのか、今ひとつよく分かりません。

優越的地位濫用であれば不当な条項を押しつけたことが違反の要件であることが素直に理解できますが、本件は一般指定13項の拘束条件付取引に該当するとされた事案です。セブンイレブンが弁当の値引きを禁じたのが(本来は再販売価格維持や拘束条件付取引で規制されそうなのを)優越的地位の濫用に該当するとされたのとは対照的です。

素朴な法感情としては、不当な条項を無理矢理押しつけるなんてけしからん、というのも理解できるのですが、それが反競争性とどういう関係に立つのでしょうか。

やや掘り下げて言えば、双方充分協議を重ねた上で非係争条項を盛り込んだ場合と、無理矢理非係争条項を押しつけた場合とで、公正競争阻害性にどのような差異が生じるのでしょう?同じ条項なのに(=当事者は同じ権利義務を負うのに)、契約締結に至る経緯次第で公正競争阻害性の有無・程度が異なったりするのでしょうか。

素朴な法感情としては「余儀なくさせた」ことに悪質性を見出す公取委の立場も理解しやすいですし、現実の実務がそういう方向である以上、私も「契約締結に際しては対等な立場で充分協議を尽くして下さい」という、当たり障りのないアドバイスをすることはありますが、その理論的根拠については今ひとつ納得できないものがあります。

クアルコムは審判で争うようですが、「余儀なくさせた」かどうかというような素人目に分かり易い議論にばかり注力せず、非係争条項がどのように(=どのような因果関係の流れを経て)公正な競争を阻害するのかという本質論が審判の場で争われることを期待したいと思います。

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