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2010年1月23日 (土)

弁護士・依頼者間の秘匿特権(attorney-client privilege)

独禁法の実務でもしばしば問題になる米国のattorney-client privilege (弁護士・依頼者間の秘匿特権)について簡単にまとめておきます。

アメリカの民事訴訟にはdiscoveryという証拠開示の手続があり、手元の資料は原則として全て相手方に開示しなければならないことになっています。

このような全部開示の原則に対する例外の1つがattorney-client privilegeというものです。この特権は文字通り、弁護士と依頼者の間のコミュニケーションの内容を秘密とするものです。

またAttorney-client privilegeは刑事手続においても認められます。

以前は、捜査機関が企業に秘匿特権を放棄するよう要請する(放棄しない場合には不利な取り扱いをすることをほのめかしつつ)、ということが行われていて各方面から問題視されていましたが、司法省の2008年の「Principles of Federal Prosecution of Business Organization」(http://www.justice.gov/opa/documents/corp-charging-guidelines.pdf )では、そのような取り扱いは明示的に禁止されています。なので現在はそのような取り扱いはなされていないはずです。

Attorney-client privilegeが認められる要件は、

①弁護士と依頼者の間の、

②法的助言を得るためになされた、

③秘密の(かつ秘密にする意図でなされた)、

④コミュニケーションであること、

です。

いくつか問題になりそうな点を述べると、まず、弁護士からの法的アドバイスを必要な限度を超えて社内で伝達すると、秘密性がなくなって秘匿特権が失われることがありますので注意が必要です(なお、法的アドバイスを守るべき従業員に当該法的アドバイスを伝えることは、通常、「必要な限度」の範囲にとどまると考えられます)。

また、これと関連しますが、社員と弁護士とのコミュニケーションであればどのような社員でも秘匿特権の対象になるというわけではありません。そのコミュニケーションは社員の職務上の義務の範囲内であったか、上司の指示はあったか、などが問われます。

法務部員であれば通常問題ないのでしょうが、営業担当者が法務部の指示も無く弁護士にアドバイスを求めた場合などは、秘匿特権が認められない可能性があると思われます。

コミュニケーションは文書やEメールに限らず口頭のものも秘匿特権の対象になるのですが、弁護士と話をしているときに第三者が同席していたり、同席していなくても立ち聞きされていたりすると、やはり秘密性が失われます。

もちろん、メールのccに第三者を入れたりしてはいけません。

ところで冒頭に述べたように秘匿特権の大前提としてディスカバリーという制度が米国にはあるのですが、以前米国の弁護士さんに、

「アメリカではdiscoveryにおいて証拠を隠すことはないのか。ないとすればなぜか」

という素朴な質問をしたことがあります。

その答えは、

「Discoveryにおいて証拠を隠すことはない。米国の弁護士は訴訟の公正を確保する公的義務があると考えられており、また、証拠を隠すことはリスクが大きくて(あるいは弁護士が負うべきリスクではないので)、アメリカの弁護士なら誰も証拠を隠そうなどとは考えない。」

と、当然のようにお答えになりました。

これを、アメリカの弁護士は倫理観が高いとみるか、クライアントとの関係を割り切って考えているとみるかは人それぞれでしょうが、なかなか興味深いコメントでした。

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コメント

弁護士との情報交換が保護される、というのであれば全ての証拠をまず弁護士に寄託して、必要に応じて相手方に提出するようにすれば全部の証拠を出さなくても済む、とはならないのでしょうか?

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