2009年独禁法改正

2015年5月 2日 (土)

7条の2第8項2号と3号ロの棲み分け

独禁法7条の2第8項(主導的違反者の課徴金の5割増し)の2号(受託継続対価等「指定」者)では、

「単独で又は共同して、

他の事業者の求めに応じて、

継続的に

他の事業者に対し

当該違反行為に係る商品若しくは役務に係る対価、供給量、購入量、市場占有率又は取引の相手方

について指定した者」

は課徴金が5割増しになると規定されています。

同じく同項3号ロ(実行活動重要「指定」者)では、

「他の事業者に対し

当該違反行為に係る商品又は役務に係る対価、供給量、購入量、市場占有率、取引の相手方その他当該違反行為の実行としての事業活動

について指定すること(専ら自己の取引について指定することを除く。)。」

と規定されています。(ただし3号柱書で、「重要なもの」に限定されています。)

何らかの「指定」をする点で両者は共通しているので、その棲み分けが問題になります。

ここで、3号ロ(実行活動重要「指定」者)に該当するとされた東京電力本店等発注の特定架空送電工事事件のTLCに対する納付命令(平成25年(納)第39号・2013年12月20日)について、毎年恒例の公正取引での座談会(766号2頁)で、岸井大太郎先生が、

「〔1号に認定された関電工に対して〕3号のTLCについては、どのように事実を認定しているかよくわからない部分があります。

3号は『当該違反行為を容易にすべき重要なもの』という要件になっていまして、

2号と異なり『他の事業者の求めに応じて』『継続的に』という要件がないという説明がされています。

けれどもこの事件では、事件解説(・・・公正取引763号70-76頁)を見ると、継続性の要件を満たしていたと読めるような書き方をしてありますし〔注:というか、納付命令の2頁に明記されています。〕、

また他者の要望を受けて行われたというようなことも書いてありますので〔注:公正取引763号75頁の事件解説に書いてあります。〕、

その点では実質的には2号と変わらないように思いました。

そこで、どこが違うのかを見てみると、

2号は『違反行為に係る』ですけれども、

3号は『当該違反行為の実行としての事業活動について』

とされています。

そうすると、本件の場合、TLCは、受注予定者自体を決めるのではなく、決まった受注予定者が受注できるように価格低減率〔注:東京電力が定める査定価格から減額が可能な程度を百分率で示すもの。もちろん、価格低減率が大きいほど落札しやすくなるわけです〕を調整するという行為をしていましたので、そのようにカルテルの実施のプロセスで重要な部分を担ったということで、2号ではなく3号のロを適用したのではないかと考えました。」

という発言があります。

しかし、私は、岸井先生のこの解釈はちょっと条文の文言をこねくり回し過ぎている感じがして、よくわからないところがあります。

2号(受託継続対価等「指定」者)の「違反行為に係る」というのは、

「当該違反行為に係る商品若しくは役務に係る対価、供給量、購入量、市場占有率又は取引の相手方について指定した者」

の下線部分のことですから、単純に、2号の指定の対象は、違反対象商品役務の「対価、供給量、購入量、市場占有率又は取引の相手方」に限定されている、というだけのことではないでしょうか。

そして、TLCは、「対価、供給量、購入量、市場占有率又は取引の相手方」のいずれも指定していない、というだけなのではないでしょうか(なので、2号非該当)。

納付命令では、TLCの加算原因行為は、

「TLCは,東京電力が架空送電工事の発注方法を変更したことを契機として,継続的に,東京電力本店等発注の特定架空送電工事のうち,予報(価格低減率の提示による競争によって予報先を選定するものに限る。)の方法により発注されるものの大部分について,受注予定者(受注予定者が共同企業体である場合にあってはその代表者)からなされる当該事業者が東京電力に提示する価格低減率の連絡を受けて,これを基に,

受注予定者以外の各事業者が東京電力に提示すべき価格低減率

を調整した上で,それぞれ指定することなどにより,

受注予定者が確実に受注できるようにしていたものであり,この行為は独占禁止法第7条の2第8項第3号ロに該当するものであって,前記3の違反行為を容易にすべき重要なものである。したがって,TLCは,同号に該当する者であり,同項の規定の適用を受ける事業者である。」

と認定されています。

つまり、2号(受託継続対価等「指定」者)の

「対価」

というのは、実際に取引する(あるいは、少なくとも取引の申し込みをする)「対価」なので、受注予定者以外の者の応札価格は、あくまでダミーなので、「対価」ではない、ということですね。

これに対して3号ロ(実行活動重要「指定」者)の指定対象には、

「当該違反行為に係る商品又は役務に係る対価、供給量、購入量、市場占有率、取引の相手方」

のみならず、

「その他当該違反行為の実行としての事業活動」

も含まれるので、落札予定者以外の者の応札価格(ダミー価格)を指定した場合も、この「実行としての事業活動」に問題なく該当する、というのが条文の素直な読み方だと思います。

実際、同じ座談会の野口文雄前公正取引員会事務総局審査局長は、端的に、

「TLCが受注予定者や受注予定者の価格低減率をきめていたわけではないことから、3号ロを適用したという点については、そのとおりです。」

と回答されています。

つまり、受注予定者を決めていれば2号の「取引の相手方」の指定に該当するし、受注予定者の価格低減率を決めていれば2号の「対価」の指定に該当するので、2号を適用できたけれども、TLCはいずれにもあたらなかったので3号ロになった、ということです。

また岸井先生の上記発言中の、

「そのようにカルテルの実施のプロセスで重要な部分を担ったということで、2号ではなく3号のロを適用したのではないか・・・」

というのも、よくわからないところがあって、2号で指定しているのも「実施のプロセス」であることには変わりがないように思います。

続けて岸井先生は、

「そうだとすると、本件は、2号と同じく『求めに応じて』『継続的に』であれば、違反行為全体を直接指示していなくても、その重要部分について指示していればいいとした先例として理解できることになりますが、いかがでしょうか。」

と質問されていますが、この理解も条文のどの文言から出てくるのか、よくわかりません。

「違反行為全体」という言葉の意味がまずよくわかりませんが、たとえば入札談合を例にとって、素直に「違反行為全体」というのを、受注予定者とその応札価格と、受注予定者以外の者(誰が応札するか)とその応札価格であると考えると、「違反行為全体」を指示することなど、2号でも、3号ロでも、求められていません。

学者の方は、条文の文言を理論的に構成しなおして読む傾向があり、それはそれで妥当な法解釈として極めて重要不可欠なことではあるのですが、実務に出ると、ややこしい条文は、立法経緯や立法趣旨はどうあれ、まずは、書いてある通りに解釈するとどうなるのか、というところからスタートします。

条文を読むのにいちいち背景まで考えないというけないというのでは、忙しい実務は回っていきませんし(独禁法の専門家は弁護士のごく一部でもありますし)、理論的な説明をしても、その結果が条文の文言から外れていては、裁判では勝てません。

岸井先生の問いかけに対して金井貴嗣先生は、

「今岸井先生がご指摘になった点は、要するに3号の柱書きの『容易にすべき重要なもの』が一体どういう場合を指すのかということがポイントですね。」

と、なんとか条文に引き戻そうとされているのが微笑ましいところです。

さて、翻って以上の議論からどういうことが分かるのかといえば、まず、2号の

「対価、供給量、購入量、市場占有率又は取引の相手方」

というのは、実際に成立した(あるいは成立させようとした)「対価」であり、「供給量」であり、「購入量」であり、「市場占有率」であり、「取引の相手方」なのだ、という、ある意味で当たり前のことですね。

少なくともいえるのは、入札談合の受注予定者以外の応札価格(ダミー価格)の指定は、「対価」の指定ではない、ということです。

なんとなく2号(受託継続対価等「指定」者)の方が、重要性を問わない(あるいは、重要性が擬制されている)という点で、3号ロ(実行活動重要「指定」者)よりも悪いのだ、というイメージかと思います。

そうすると、TLCは、顧客が実際に支払う対価自体を決めたわけではないので(それは受注予定者自身が決めています)、2号ほどには悪くないので、3号ロに落ちていく、というのは、分からないではありません。

ただ3号ロに落ちていくと、重要性の要件が必要なので、「求めに応じて」「継続的」という事実があれば、3号ロの重要性において参酌される、ということなのでしょう。

前述のとおり岸井先生は、

「・・・本件は、2号と同じく『求めに応じて』『継続的に』であれば、違反行為全体を直接指示していなくても、その重要部分について指示していればいいとした先例として理解できることになりますが、いかがでしょうか。」

とおっしゃっていますが、これも条文の文言からはおかしくって、「全体」か「部分」かという切り分けがよくわからないというのが1つ(上述のとおり)と、条文上は端的に、「重要」であれば(そして、何らかの実行活動を指定していれば)3号ロに該当するといってよいはずです。

もし、岸井先生の「その重要部分について指示していればいい」というのが、「重要なもの」(3号柱書)と同じ意味なら、さらに加えて、「求めに応じて」「継続的に」という要件が必要になるわけではないでしょう。

反対に、「求めに応じて」「継続的に」であれば必然的に「重要なもの」といえるかといえば、必ずしもそうともいえないわけです。

なお、そもそも論ですが、2号は3号ロの一部を明確化したということなのでしょうけれど、いずれにせよ課徴金5割増という結果は同じなのですから、もう少し整理した条文にした方がよかったのではないでしょうか。

そうすれば、以上のような不毛な解釈論争も起きなかったのにと思います。

2015年5月 1日 (金)

主導的役割に対する割増課徴金

平成21(2009)年改正で、カルテルで主導的役割を果たした事業者に5割増の課徴金算定率が適用されることになりました(7条の2第8項)。

7条の2第8項は、柱書で、

「第一項の規定〔課徴金納付命令〕により課徴金の納付を命ずる場合において、当該事業者が次の各号のいずれかに該当する者であるときは、〔課徴金算定率は1.5倍〕とする。

ただし、当該事業者が、次項〔10年内の繰り返し+主導的役割=2倍〕の規定の適用を受ける者であるときは、この限りでない。」

としたあとで、5割増の要件についての各号で次の通り定めています。

「一  単独で又は共同して、

〔①〕当該違反行為をすることを企て

かつ、

〔②〕他の事業者に対し

当該違反行為をすること又はやめないこと

を要求し、依頼し、又は唆す

ことにより、

〔③〕当該違反行為をさせ、又はやめさせなかつた者

二  単独で又は共同して、

〔①〕他の事業者の求めに応じて、

〔②〕継続的に

〔③〕他の事業者に対し

当該違反行為に係る商品若しくは役務に係る対価、供給量、購入量、市場占有率又は取引の相手方について指定した者

三  前二号に掲げる者のほか、単独で又は共同して、のいずれかに該当する行為であつて、〔①〕当該違反行為を容易にすべき重要なものをした者

イ 〔②〕他の事業者に対し当該違反行為をすること又はやめないことを要求し、依頼し、又は唆すこと。

ロ 〔②〕他の事業者に対し当該違反行為に係る商品又は役務に係る対価、供給量、購入量、市場占有率、取引の相手方その他当該違反行為の実行としての事業活動について指定すること(専ら自己の取引について指定することを除く。)。」

一見してわかるのは、

1号(発案(「企て」)者)と、3号イ(重要「要求」等者)、

2号(受託継続調整(「指定」)者)と、3号ロ(重要調整(「指定」)者)、

が、それぞれ対になっているということです。

つまり、1号では「企て」かつ「違反行為をさせ、又はやめさせなかった」という要件があるのに、3号イでは、ありません。(その代わり、「重要なもの」に絞っています。)

図示(?)すれば、

1号=「企て」+「要求等」+「させ」

3号イ=     「要求等」     +「重要性」

といったところでしょうか。

別の言い方をすると、1号では、「企て」に加え、「要求」等したことにより、さらに、「違反行為をさせ、又はやめさせなかった」こと、という、ある意味での結果の発生まで進むことが必要とされているのに対して、3号イでは、「させ」まで進むことは要求されていません。

ただ、「させ」まで進むほどの行為は通常、「重要なもの」でしょうから、1号は3号イの典型的な場合(に絞りをかけたもの)ということができそうです。

2号では「求めに応じて」「継続的に」という要件が必要ですが、3号ロでは不要です。その代わり、「重要なもの」に絞るとともに、「指定」の対象に「その他当該違反行為の実行としての事業活動」が加えられています。

これも図示すれば、

2号=「求めに応じ」+「継続的」+(対価等の)「指定」

3号ロ=                (実行活動の)「指定」+「重要性」

といったところでしょうか。

3号ロ(重要「指定」者)の「指定」の対象に

「その他当該違反行為の実行としての事業活動」

が加えられていることから翻って考えると、2号(受託継続「指定」者)では指定の対象は

「対価、供給量、購入量、市場占有率又は取引の相手方」

に限定されているんだなかということが分かります。

このような限定が合理的なのかはよくわかりませんが、2号は個別規定ということで、適用対象を明確にしようとしたということなのでしょう。

ところで、1号の「単独で又は共同して」の説明について、菅久他『独占禁止法(第2版)』p214では、

「『単独で又は共同して』なので、1社である必要はなく、1つの違反行為について複数の事業者が該当し得る(以下の場合も同じ)」

と解説されています。

しかし、この説明は、はちょっとおかしいと思います。

「共同して」というのが必然的に複数の事業者が必要なのは、そのとおりでしょう。

でも、「単独で」というのは、1社とは限らず、2社がそれぞれ相手とは無関係に行う、という場合も含まれるのではないでしょうか。(そういうのを「共同して」とはいわないでしょう。)

たとえば、「企て」を、たまたま2社がそれぞれ相手の存在を知らずにやる、ということも、理屈の上ではありうると思います。

そして、2社が「企て」たけれど、結局どちらの「企て」が成就してカルテルが成立したのかよくわからない、ということもあるのではないでしょうか。

そのように「企て」とカルテル成立の因果関係が不明な場合でも、文言上は1号に該当するといって差し支えないと思います。

(「企て」は、「企て」者内部の問題なので、結果発生との因果関係を問題にする性質のものではないように思いますし、因果関係を読み込めそうな「(違反行為を)させ」についても、参加者の1人に違反行為をさせれば「させ」にあたるといって差し支えないでしょう。

つまり、「企て」者の行為は最低1人に違反行為を「させ」れば十分であって、参加者全員に「させ」る必要はない、あるいは、カルテル全体が「企て」者の行為によってもたらされる必要はない、と思います。

つまり、最低1人に「させ」たことと、カルテル参加者全員にカルテルを行わせたことは、必ずしも一致しないということです。)

(ちなみに、1号の、

〔①〕当該違反行為をすることを企て

かつ、

〔②〕他の事業者に対し

当該違反行為をすること又はやめないこと

を要求し、依頼し、又は唆す

ことにより、

〔③〕当該違反行為をさせ、又はやめさせなかつた者

の要件は、上記の改行で示したとおり、

(「企て」〔①〕+「要求等」〔②〕)×「させ」〔③〕

と読むべきなんであろうと思います。

逆にいうと、

「企て」〔①〕+(「要求等」〔②〕×「させ」〔③〕)

ではない、ということです。)

・・・といろいろ考えると、「共同して」という文言を、複数の事業者が該当しうる根拠とするのは、論理的におかしいように思えます。

むしろ、(「単独で」はあたりまえなのでよいとして)「共同して」の意味というのは、3号の重要性を、共同者全体として一体的に判断できる、というところにあるのではないでしょうか。(刑法の共犯のイメージです。)

ところで、主導的役割(という言い方をされることが多いのでここでもそう表現しますが、この表現自体、1人であることをイメージさせるので若干ミスリーディングです)を果たす者が複数存在し得るのか、という問題があります。

この問題について、立案担当者解説である藤井・稲熊編著『逐条解説平成21年改正独占禁止法』p59では、1号から3号共通の説明((4)複数の事業者に対する適用)として、

「例えば、入札談合において『幹事』等の役割を持ち回りにしている場合がこれ〔複数の事業者が主導的役割を果たす場合〕に当たる。」

と解説されています。

これだけみると、5社のカルテルで5社間で幹事を持ち回りでやっていた場合には、5社すべてが割増課徴金の対象になりそうです。

しかし、それは、割増課徴金の趣旨からいっておかしいでしょう。

菅久p214では、1号に関する説明ですが、この点がもう少し絞られていて、

「特定の事業者が主導した場合にその事業者について算定率を割増すこととした趣旨にかんがみれば、すべてのカルテル参加者がこれ〔複数の事業者が加算対象となること〕に該当するようなケースは想定されない。」

と、少なくとも1号で全員が加算対象になることはないと解説されています。

しかし、菅久ですら、「すべてのカルテル参加者が」該当することは想定していないと明示するのは、1号の「企て」者だけであって、2号と3号については全員が加算対象になる可能性を排除していないように読めます。

(菅久p214の「(以下の場合も同じ)」というのが、「・・・想定されていない。」の次に来てれば話は違うのですけれど。さすが赤本、このあたりは良く練られています。)

でもやっぱり、2号でも3号でも、全員が加算対象というのはあり得ない(少なくとも、めったにない)のではないでしょうか。

というのは、

「特定の事業者が主導した場合にその事業者について算定率を割増すこととした趣旨にかんがみれば」

という説明は、1号の「企て」者のみならず、2号の受託継続「指定」者や、3号イの重要「要求」等者や、3号ロの重要「指定」者の場合でも、同様にあてはまるように思われるからです。

ちなみに、主導的役割による加算が適用されたのは、いまのところ、

①高知土木工事事件談合事件納付命令・平成24年(納)第44号(2012年10月17日・ミタニ建設工業)

②同事件納付命令・平成24年(納)第45号(同日・入交建設)

③同事件納付命令・平成24年(納)第48号(同日・轟組)

(以上①~③は、同一事件)

④東京電力架空送電工事事件納付命令・平成25年(納)第39号(2013年12月20日・TLC)

⑤東京電力地中送電ケーブル事件納付命令・平成25年(納)第71号(2013年12月20日・関電工)

の5つの命令だけです。

(なお、村上他編著『条解独占禁止法』は平成26(2014)年12月の刊行で、原則として平成26(2014)年9月現在の法令に基づくようですが(前書き)、同書の7条の2第8項の解説(361頁以下)では、①~⑤のいずれの事件にも言及がありません。せっかく新しいコンメンタールなのですから、少しは触れておいてもよかったのではないかという気がします。)

①~③は同一事件で、3社が共同して受注予定者を指定していたということで、そろって2号(受託継続指定者)が適用されています。

④と⑤は、同じ東電発注の事件で相互に関連していますが別の事件(談合)で、④でも⑤でも、加重されているのは1社ずつです。

④のTLC(東電のグループ会社)は3号ロ(重要「指定」者)、⑤の関電工は1号(「企て」者)が適用されています。

2012年11月19日 (月)

海外当局に提供する情報の刑事手続での利用制限(43条の2第3項)

独禁法43条の2は、公取委の海外競争当局への情報提供について定めていますが、第3項は、

「第一項の規定により提供される情報については、外国における裁判所又は裁判官の行う刑事手続に使用されないよう適切な措置がとられなければならない。」

と定めています。

典型的な、国際カルテルで米国司法省(カルテルを刑事訴追する)と情報交換をする場合を想定すると、この3項はどのように理解すべきでしょうか。

(問題意識としては、「米国ではカルテルは刑事事件なのだから、43条の2第3項があると、結局日米独禁協定があるのに、米国司法省には情報提供してはいけないのではないか?という点です。)

まずそもそも論ですが、現在の世界の競争法当局間での情報交換においては、ナマの証拠(供述証拠や押収した手帳など)のやりとりまではなされていません。

このナマの証拠とその他の情報を区別する発想が頭にあると、どうしても

《情報》の交換はするけれど《証拠》の交換はしない、

という枠組みでの議論になりがちで、実際、外国の弁護士と議論すると彼らはそういう発想で話すので何となく議論がかみ合わなかったりします。

ですが、ナマの証拠は交換しないというのはあくまで運用上そういうことだということに過ぎないので、43条の2第3項の意味を考えるにあたっては、ひとまずそのことは置いておいて、条文を素直に解釈する必要があります。

この点、平成21年改正の立案担当者による解説である藤井他編著『逐条解説平成21年改正独占禁止法』(商事法務)p140では、刑事手続の証拠の国際的な収集・提供については、

「国際捜査共助等に関する法律」

のみによるべきであるので、43条の2第の公取委による情報提供によって国際捜査共助が事実上行われないようにする必要があるので、同条に基づいて提供された情報について、

「外国における裁判所または裁判官が行う刑事手続に使用されないよう適切な措置がとられる必要がある旨規定している」

とされています(条文のままですね)。

これだけ読むと、どういう場合に米国司法省に情報提供できるのか、正直ピンと来ません。

つまり、読み方としては、

①裁判官が直接関与する刑事訴訟手続や令状発布手続に使用しなければ足りる、というふうに限定的に解釈するのか、

それとも、

②およそ刑事手続に役立てるために使ってはいけない、というふうに広く読むのか、

2つの可能性がありうるようにみえます。

実は類似の規定を置く日米独禁協力協定10条をみると、もう少し具体的になっています。

つまり同協定10条1項では、

「この協定に従って一方の締約国政府〔ここでは日本〕から他方の締約国政府〔ここでは米国〕に伝達された情報(公開情報を除く。)は、

刑事手続において大陪審又は裁判所若しくは裁判官に提示されてはならない。」

とされています。

要するに、公取委から司法省に提供した情報(たんに「情報」といっているだけなので、供述調書などのナマの証拠はもちろん、事件に対する公取委の心証や審査の進捗状況についての情報も当然含まれるでしょう)は、米国の裁判所や大陪審に証拠として見せてはいけない、ということです。

さらに、外務省北米局北米第二課編『解説日米独禁協力協定』(日本国際問題研究所)p87では、よりはっきりと、

「捜査機関が内部的に当該情報をインテリジェンスとして捜査の端緒に用いることまで制限する必要性は必ずしもない」

と書かれています。

以上から結局、独禁法43条の2第3項についても同様に、司法省は公取委から受領した情報を裁判所や裁判官に証拠として提出してはいけない、という意味に解すべきでしょう。

前述のように、ここでの「情報」には、文言上はナマの証拠も公取委の心証的なものも含まれますが、現在の実務(=ナマの証拠は交換しない)を前提とすると、ナマの証拠でない情報を司法省は刑事裁判官に証拠として提出していはいけない、ということになるのでしょう。

ただ、43条の2第3項の、

「外国における裁判所又は裁判官の行う刑事手続に使用されないよう適切な措置がとられなければならない」

という文言は、大陪審には言及していないので、この点をどう考えるべきかが問題となります(海外競争当局一般への情報提供について日本の法律で定めているだけなので、一国の制度を前提にした記述がないのは当然といえば当然なのですが)。

考え方としては、大陪審への証拠としての提示も、

「外国における裁判所又は裁判官の行う刑事手続」

での

「使用」

にあたるという解釈もあり得そうです。

しかし、大陪審といえば日本の検察審査会に相当する、一般市民からなる会議体であり、起訴不起訴の相当性を判断するのが役割ですから、大陪審への証拠としての提示を「外国における裁判所又は裁判官の行う刑事手続」での「使用」というのは文言上無理があると思います。

別の言い方をすれば、大陪審の段階では、「外国における裁判所又は裁判官の行う刑事手続」が、まだ始まっていないわけです。

また大陪審には、司法省の検察官の手足になって大陪審サピーナによって証拠を収集するという役割がありますが、これもあくまで捜査機関の情報収集活動に過ぎないので、「外国における裁判所又は裁判官の行う刑事手続」での使用というのとは、ちょっと違う気がします。

というわけで、独禁法43条の2第3項では、情報の大陪審での使用は許され、この点において独禁法43条の2第3項の制限は日米独禁協力協定10条よりも緩やかである、ということができます。

最後に念のためですが、独禁法上、公取委が提供した情報は「外国における裁判所又は裁判官の行う刑事手続」で使用されてはならないのですから、ナマの証拠でなく例えば公取委の心証や捜査方針のようなものでも、当該情報が含まれている以上、これを例えば司法省の報告書や電話聴取書のような形に作り替えても、やはり刑事手続での使用はできないと考えられます。

(このように、いかなる情報でも証拠になり得るのですから、「《証拠》の交換か、《情報》の交換か」という議論の枠組みが無意味であることが理解できます。)

2012年2月20日 (月)

課徴金対象の差別対価

平成21年改正で課徴金対象となった差別対価の書きぶりが、一見すると何か意味ありげに見えて分かりにくいので、ここで条文の整理しておきます。

まず平成21年改正前の差別対価(旧一般指定3項)は、

「不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもって、商品若しくは役務を供給し、又はこれらの供給を受けること」

となっていました。

ただ、同改正前の内容を特定するには改正前の独禁法2条9項1号もみておく必要があるので、改正前の独禁法2条9項1号をみておくと、

「 この法律において不公正な取引方法とは、左の各号の一に該当する行為であつて、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するものをいう。

一 不当に他の事業者を差別的に取り扱うこと。

二 不当な対価をもって取引すること。」

となっていました。

ちょっと分かりにくいですが、1号で「他の事業者を差別的に取り扱う」というのは、例えば違反者が売る側なら、差別的に取り扱われる「他の事業者」というのは買い主なので、不当に高く売ることが問題にされています(いわゆる、「準取引拒絶型差別対価」)。

それに対して2号で「不当な対価をもって取引すること」というのも差別対価に混じっており、典型的には、ライバルの顧客に対してだけ安売り攻勢をかける(そのような安売りが、「不当な対価」)、というのが想定されていました(いわゆる、「略奪廉売型差別対価」)。

次に平成21年改正後の差別対価は、課徴金対象のものが法律に、そうでないものが一般指定に書き分けられました。

つまり、改正後の現行独禁法2条9項2号の差別対価は、

「不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもつて、商品又は役務を継続して供給することであつて、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの」

であり、

現行一般指定3項の差別対価は、

「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号。以下「法」という。)第二条第九項第二号に該当する行為のほか、不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもつて、商品若しくは役務を供給し、又はこれらの供給を受けること。」

であるとされています。

現行法2条9項2号では、「継続」してするもの、しかも「供給」する側の差別対価に限って(つまり、差別的な購入価格の設定は除いて)課徴金の対象にされていることは、容易に分かります。

しかし、「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある」(独禁法2条2項2号)という要件については、改正前でも同様に解釈されていたのを明確化したに過ぎない、というのが一般的な理解だろうと思います(白石「独占禁止法(第2版)」p176)。

つまり、現行法2条9項2号を反対解釈して、現行一般指定3項の差別対価を、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがないものも含むと解釈するのは誤りである、ということです。

丹念に条文を読んでいる人ほどこういう反対解釈をやりがちなので、注意が必要です。

2011年10月27日 (木)

優越的地位濫用への課徴金と継続性の要件

平成21年改正によって優越的地位の濫用に対して課徴金が課されることになりましたが、すべての優越的地位の濫用に対して課せられるわけではなく、

「継続してするもの」(独禁法20条の6)

に限って課せられることになっています。

では、この「継続性」とは、具体的にはどのようなことを指すのでしょうか。

立案担当者の解説では、

「どのような場合が『継続してするもの』に該当するかは、

事案の態様に応じて個別に判断することになるが、

例えば、一定期間従業員等を派遣させたり、

定期的断続的に協賛金を収受したりすることや

恒常的に返品を繰り返す場合には、

それぞれ継続的な行為に該当しうるものと考えられる。」

と説明されています(藤井他編著「逐条解説平成21年改正独占禁止法」p89)。

どうやら、「一定期間」、「定期的」、「断続的」、「恒常的」というあたりの修飾語がポイントになりそうです。

ただ、ここで挙げられている事例は、いずれも、継続的に行われているか否かの判断が比較的容易なものばかりだと思います。

でも、例えば、発注者(優越している側。甲)が、製造委託先(優越されている側。乙)との契約内容を、一方的に乙に不利に変更したとします。例えば、納入価格を著しく低額に設定するような契約です(優越的地位ガイドラインでは、「取引の対価の一方的決定」といわれる類型です)。

このような契約を締結するのは1回きりだけれど、その後、そのような低額の価格で継続的に納入させ続けたような場合、「継続性」の要件は満たされるのでしょうか。

これはかなり微妙ですね。

「取引の対価の一方的決定」という、「決定」行為が優越的地位濫用の実行行為だとみれば、決定したのは1回だけですので、「継続性」は満たさないようにみえます。

これに対して、決定後の、個別の納入を受ける行為(各取引)を実行行為とみれば、「継続性」あり、ということになりそうです。

(もっとも、こんなに「かっちりした」議論の枠組みが分析手法としてそもそもふさわしいのか、議論はあり得るでしょう。)

他の行為類型とのバランスを考えると、「継続性」あり、とされる可能性が高そうですし、おそらく公取委はそのような見解に立つだろうと想像されます。

ただ、私は、このような場合は、決定したことは1回きりなので、継続性はないと考えるべきだと思います。

というのは、「継続性」の要件は、事業者を過度に萎縮させないようにという趣旨で加えられたもので、とすると、その都度意思決定をして、何度も濫用行為があったのなら「継続性」ありとされても過度な萎縮効果はないといえるでしょうが、一度決めたものを何度も実行しただけで「継続性」ありとされたのでは、萎縮効果はかなりあると思われるからです(決めるのは1回きりなのに、それでもダメだと言われるのですから)。

実際、契約内容の一方的な不利益変更が優越的地位濫用に該当しないかという相談は、実務ではけっこう多く、(そういうことを気にして弁護士に相談に来るクライアントはきちんとした会社が多いですから、多くの場合、問題ないと回答するのですが、それはさてき)もし不利益変更は1度きりでも契約が続くのであれば「継続性」ありで課徴金リスクもある(つまり、いわゆる継続的契約の変更だと常に課徴金リスクありとなる)、ということになると、それなりにリスクとしては無視できないということになると思います。

ただ、上記立案担当者の解説で、従業員派遣や協賛金収受、返品といった行為が例示されているのは、やはり公取委が想定している課徴金事例というのはそういった行為類型なのであって、契約の不利益変更などはそもそも優越的地位濫用として摘発するつもりはないのではないか、ということが伺えて、興味深いものがあります。

ちなみに公取委の英訳では、「継続してするもの」とうのは、

「performed on a regular basis」

となっています。直訳すれば、「定期的に」ですし、

"regular"の意味を辞書で調べると

"following a pattern, especially with the same time and space in between each thing and the next"(パターンに従うこと。とくに、各事柄とその次との間に、同じ時間および空間を伴う。)

なので、こっちのほうが、立案担当者解説の具体例にしっくりと馴染むような気がしますね。「継続的」というのは、どうも漠然としすぎている気がします。

2011年8月16日 (火)

投資一任契約と議決権保有者

Aファンド(例えばケイマン法人)が、多数の投資家から資金を集めて株式等で運用する(株式等を売り買いして利益を上げる)場合、B社(運用会社)と投資一任契約を締結して、運用をB社に一任するとします。

投資一任契約とは、金商法2条8項(金融商品取引業の定義規定)の12号ロで、

「当事者の一方〔B社〕が、

相手方〔Aファンド〕から、

金融商品の価値等の分析に基づく投資判断の全部又は一部を一任されるとともに、

当該投資判断に基づき当該相手方のため投資を行うのに必要な権限を委任されること

を内容とする契約」

と定義されています。

(なお、かかる「投資一任契約」に基づいて、有価証券に対する投資として金銭等の財産を業として運用すると、「金融商品取引業」になります。金商法2条8項。)

このような場合、投資家から集めた資金で購入した株式の議決権の行使も、(本来はAファンドが議決権を行使できるはずですが)B社に任せてしまう、ということもあるようです。

この場合、株式取得の届出との関係で運用先の議決権を保有しているのは、Aファンドでしょうか。それともB社でしょうか。

より具体的には、Aファンドが、投資資金の運用として、P社の議決権を20%を超えて取得した場合、届出義務があるのはP社の株主であるAファンドでしょうか、それとも、P社の議決権行使を委任されているB社でしょうか。

(なお、アメリカと違って、日本には投資目的の株式取得の届出を免除する例外規定はありませんから、投資目的の取得だというだけの理由で届出が免除になることはありません。)

正解は、Aファンドです。

以下、条文を確認してみましょう。

独禁法10条2項では、

「会社・・・は、他の会社・・・の株式の取得をしようとする場合・・・は、公正取引委員会規則で定めるところにより、あらかじめ当該株式の取得に関する計画を公正取引委員会に届け出なければならない。」

と、届出義務があるのは他の会社の株式の取得をしようとする者、すなわちAファンドであることが明らかです。

議決権を実際に行使するのが誰であるかに関わりません。

この点、EUでは、届出すべき「集中(concentration)」は実質的なコントロールが誰にあるのかをみる概念であるために、「集中」にあたるか否かの判断に際して、関係者間で締結されている議決権行使に関する契約の存在が考慮されることがあり得ます。

しかし、日本では、届出をすべき人は、あくまで「株式の取得」をしようとする者なので、契約上議決権が株主以外に与えられていても、届出との関係では考慮されません。

ちょっと誤解しやすいのが、株式を信託に入れている場合です。

つまり、独禁法10条2項では、

「・・・〔株式取得会社が〕株式の取得をしようとする場合

(金銭又は有価証券の信託に係る株式〔→ちょっと分かりにくいですが、信託財産として受託した金銭または有価証券の運用として取得した(する)株式ですね〕について、

自己〔=株式取得会社に相当する信託委託者または信託受益者のこと〕が、

①委託者若しくは受益者となり議決権を行使することができる場合

又は

②議決権の行使について受託者〔通常は、信託銀行ですね。〕に指図を行うことができる場合において、

受託者に株式発行会社の株式の取得をさせようとする場合を含む。)において、・・・」

となっており、信託銀行が信託財産として株式を取得する場合には、実質をみて、

委託者または受益者が、

自ら議決権を行使できる場合(①)

および

信託銀行に議決権行使の指図をできる場合(②)

については、当該「自己」(=委託者または受益者)が株式を取得したものとみなす、と取り扱われます。

さらに独禁法10条3項では、

「前項の場合において、

当該株式取得会社が当該取得の後において所有することとなる当該株式発行会社の株式に係る議決権には、

金銭又は有価証券の信託に係る株式に係る議決権

(委託者又は受益者が行使し〔上記①に相当〕、又はその行使について受託者に指図を行うことができるもの〔上記②に相当〕に限る。)

・・・を含まないものとし、【以上、前半】

金銭又は有価証券の信託に係る株式に係る議決権で、自己が、委託者若しくは受益者として行使し、又はその行使について指図を行うことができるもの

・・・を含むものとする。【以上、後半】」

と、【前半】では、

委託者または受益者が、

自ら議決権を行使できる場合(①)

および

信託銀行に議決権行使の指図をできる場合(②)

については、法律上の株式取得者である信託銀行の議決権にはカウントしないこととし、

【後半】では反対に、

委託者もしくは受益者が自ら議決権を行使できる株式(①)

および

委託者もしくは受益者が信託銀行に指図権を有する株式(②)

については、当該委託者または受益者の保有する議決権としてカウントすることとされています。

つまり、対象会社(ターゲット)の株式が信託に入っている場合には、実質を見て、議決権を行使できる者(必ずしも法律上の株主とは限らない)が、株式(議決権)を取得する(よって届出義務を負う)、という建て付けになっているのです。

しかし、信託においてこのような実質的な解決がなされているのは、まさに以上のような明文の規定があるからです。

投資一任契約に付随した議決権行使の委任、その他、契約上議決権行使の決定が第三者に委ねられているに過ぎない場合には、そのような明文の規定はありませんから、形式どおり(条文どおり)、法律上の株主が誰かによって、届出の有無を判定することになります。

なお、金銭又は有価証券の信託に係る株式の取得については、一定の場合(ざっくりいえば、取得したとみなされる者自身が取得の意思決定をしていない場合)に届出不要とされているので、一応注意です(届出規則2条の7第6項、7項)。

2011年6月 8日 (水)

組合による事業譲受と届出

平成21年独禁法改正で、組合による株式取得についても、届出が必要になりました(ただし、組合を支配する親会社が存在する場合に限って)。

では、組合が事業を譲り受ける場合には、届出は必要でしょうか。

結論としては、不要と考えます。

というのは、組合による株式取得を定めるのは独禁法10条5項で、

「会社の子会社である組合・・・の組合員・・・が組合財産・・・として株式発行会社の株式の取得をしようとする場合・・・には、当該組合の親会社・・・が、そのすべての株式の取得をしようとするものとみなし、会社の子会社である組合の組合財産に株式発行会社の株式が属する場合・・・には、当該組合の親会社が、そのすべての株式を所有するものとみなして、第二項の規定を適用する。 」

とされていますが、事業譲受に関する16条3項では、10条8項から10項までは準用されているものの、10条5項を引用していないからです。

これで話は終わりかと思って念のため立案担当者の10条5項についての解説を見たら、ちょっと気になることが書いてあります。

つまり、藤井他編「逐条解説平成21年改正独占禁止法」(商事法務)p117では、

「旧法における事後報告制の下の運用では、会社が法人格のない組合を通じて株式発行会社の株式を取得する場合には、当該組合自身には法人格がないこと、民法の規定に組合財産は総組合員の共有に属するとの定めがあることから、当該組合に出資を行っている組合員がその出資の割合に応じて当該他の会社の株式を取得するものと解されていた。」

とされています。

だけどそれだと、業務執行権限の無い組合員は組合が取得した株式の議決権割合を把握できないことも多く不都合だったので、新法で、組合が全部を取得するとみなすことにした、という説明です。

でも、組合による株式取得の場合に、

「組合員がその出資の割合に応じて当該他の会社の株式を取得する」

と解されていたのなら、組合による事業譲受の場合にも、

「組合員がその出資の割合に応じて当該他の会社の事業を取得する」

と解されていた、ということになるはずです。

だとすると、株式取得の場合の10条5項のような規定が新法で導入されなかった事業譲受の場合には、引き続き、旧法での解釈が生きている、と解することになりそうです。

とすると、M1社、M2社、M3社がP組合を組成し(出資は3分の1ずつ、議決権は1票ずつ)、組合PがX社のT事業を譲り受けた場合、T事業の国内売上高が届出基準の3倍を超えていれば、M1~M3社はそれぞれ届出基準を上回る国内売上高を持つ事業を譲り受けたことになり、届出が必要、となりそうです。

しかし、それはちょっとおかしいように思います。

そもそも旧法下での説明がおかしいです。

組合が株式を取得した場合に組合員の共有になるというのは正しいですが、それは、例えば他社の株式90株を組合員A、B、Cからなる組合が取得した場合に、それぞれの1株1株がA、B、Cの3分の1の共有(正確には、民法264条の準共有)になるということであって、Aが30株、Bが30株、Cが30株所有することになるわけではありません。

そして、会社法上、株式の共有者は、株主の権利を行使すべき者1人を定めて会社に通知することを要し(会社法106条)、その者だけが株主の権利を行使できます。

権利行使者の指定を欠く共有株式については、会社が共有者全員が共同して行使する形(最判平成11年12月14日・判時1699号156頁)か、その他の権利行使(議決権の不統一行使等)に同意した場合(会社法106条但し書き)を除き、誰も権利行使できないことになっています(江頭「株式会社法(第3版)」p118)。

つまり、A、B、Cが、30株ずつ単独所有するのと、90株を3人で共有するのとでは、全然意味が違うわけです。

にもかかわらず、30株ずつ各自単独所有したかのように旧法下で運用されていたとしたら、その方がおかしいと思います。

(なお、会社に対抗できない議決権でも競争法上は届出させる必要性があるなど、競争法独自の観点が必要ではないか、という議論はあり得ますが、株式共有の場合の共有者の権利は会社法という強行法規で定められているのであり、そのことは重く捉えるべき(=各自30株の単独所有と捉えるべきではない)と思います。)

また、3分の1の共有持分を90株分保有していることを30個の単独議決権保有と同視するのは、独禁法10条の文言にもそぐわないと思われます。

では翻って、組合が事業を譲り受けた場合は、どう考えるべきでしょうか。

やはり、届出は不要と考えるべきでしょう。

株式取得の場合と同様、3分の1しか持分がないということは、当該事業に対して単独では決定できないということであり、3分の1の売上分の事業を単独所有しているのとは、わけが違います。

また、世の中では、組合の株式取得について新法で届出義務が課された、と理解されているのが通常でしょうから、その準用のない事業譲受については、届出不要、と理解する(反対解釈)のが通常と思われます。

なのに届出必要と解するのは、不意打ちもいいところです。

ですので、旧法下での組合による株式取得に関する運用は理論的には誤っていたので無視して差し支えなく、組合の株式取得について届出制が導入された新法では事業譲受については届出不要ということが一層はっきりした、と理解すべきです。

2011年5月30日 (月)

リーニエンシーの共同申請の際の注意点

平成21年改正で、グループ会社共同でリーニエンシー(課徴金減免制度)の申請ができることになりました(独禁法7条の2第13項)。

そしてこの場合、減免規則6条の2では、減免申請の報告書は、

「連名で提出しなければならない」

とされています。

ですので、減免申請の報告書の作成者欄を複数つくって、各社の名称、住所、代表者の役職名等、書式の所定の事項を、全社分記入して、ハンコを押す、ということになります。

しかし、ここでちょっと問題があります。

書式では、申請者の名称は申請書の冒頭(標題、日付、宛先(公取委)の次)に記載することになっています。

ですが、この冒頭部分に、例えば申請グループ会社5社の分のハンコをつくとなると、1枚の紙が5社を回ることになります。

これは、一刻を争うリーニエンシーの申請の場合、致命的な遅れになりかねません。

そこで、ハンコを押す部分を(冒頭ではなく)末尾に回すことにして、記名押印部分を別の紙として(よく、契約書でサイン欄が別になっているイメージです)、1枚に1社、会社名と住所、そしてハンコをついて、例えば親会社にファックスかPDFで送り、親会社で取りまとめて1通の報告書の体裁にして、公取にファックスする、という方法を取ることが考えられます。

あるいはバリエーションとして、記名欄は5社全部を1枚の紙にまとめ、各社自社の分だけ記名押印する(その結果、5社の記名欄のうち1社分だけ埋まって他の4社分は空欄の紙が、5枚できることになる)ことにしたほうが、共同申請であることが一層明らかになって、よいかもしれません。ちょっと見た目は悪いですが、見た目を気にしている場合ではありません(笑)。

(なお、公取へファックスした後、各社のハンコを押した署名欄の紙の原本は、本社で綴じて原本とし、遅滞なく公取委に提出することになります。減免規則1条4項。)

なお、減免申請は代理人名でもできますが(減免規則6条の2)、この場合には、報告書自体には代理人のハンコがあれば足り、会社のハンコは不要ですから、以上のような問題は生じません。

委任状は、共同申請の場合でも、各社別々で構わないと考えられます。

つまり、1通の委任状に全社が押印する必要はなく、同じ弁護士を(各社別々の委任状で)代理人として選任しさえすれば、委任状に敢えて「共同申請する権限の委任」とか書いていなくても、共同申請を委任する趣旨であることは明らかなので、問題ないと考えます。

2011年5月25日 (水)

外国競争当局との情報交換と守秘義務

平成21年改正により、公取委と海外競争法当局との情報交換に関する規定が独禁法に設けられました(43条の2)。

同条1項では、

「公正取引委員会は、・・・外国競争当局・・・に対し、その職務・・・の遂行に資すると認める情報の提供を行うことができる。」

とされています。

しかし、このことは、公取委がどんな情報でも外国の当局と交換できることを意味するわけではありません。

というのは、公取委の職員は、守秘義務を負っているからです(独禁法39条)。

この点、43条の2第2項では、

「公正取引委員会は、外国競争当局に対し前項に規定する情報の提供を行うに際し、次に掲げる事項を確認しなければならない。

 省略)

 当該外国において、前項の規定により提供する情報のうち秘密として提供するものについて、当該外国の法令により、我が国と同じ程度の秘密の保持が担保されていること。

号 省略)」

とされており、2号をみると、秘密情報も外国の当局に提供されることが予定されているのですが、だからといって、無制限に(守秘義務に反して)情報交換をしていいことにはなりません。

実際にも、公取委が当事者から入手した秘密情報を海外の当局と交換する場合には、当事者から同意を得ており、このような同意書は「waiver」と呼ばれています。

つまり、

①当事者から得た秘密情報を外国当局と交換するには、当事者の同意が必要(39条)、

②仮に当事者から同意を得ても、秘密の保持が担保されていない当局とは情報交換しない(43条の2第2項2号)、

ということです。

厳密に言えば、守秘義務の対象は「秘密」(39条)なので、「秘密」に該当しない情報であれば当事者の同意がなくても交換できるわけですが、秘密かどうかは微妙なことも多いですので、公の情報以外は基本的に秘密情報として扱うべきでしょう。

また、公取委が知った「事業者の秘密」は、「職務に関して知得した」(39条)ものであれば守秘義務の対象となるので、審査の対象になっている当事者から受け取った情報に限らず、第三者に対して審査権限を行使して任意または強制的に得た情報であっても、守秘義務の対象となると考えられます。

理屈を言えば、独禁法39条のような公法上の義務を、私人の同意により解除できるのか、という問題があり得ますが、当の本人が構わないといっているのですから、目くじらを立てることはないでしょう。

なお、独禁法39条では、「事業者の秘密」となっていますので、事業者でない法人や個人の情報は、同条の守秘義務では保護されないことになります。

これは、独禁法では違反者は事業者に限られることになっていることに引きずられたものと思われますが、公取委が審査の過程で事業者でない者から情報を得ることもあるでしょうから、あまり合理的な規定ではないと思います。

そのような場合は、国家公務員法100条の一般的な守秘義務で保護されることになります。

また、違反者が違反行為をした事実なんていうのは、最も秘密にしたい事実でしょうから、当然、守秘義務の対象になると考えられます。

したがって、被疑者自身の同意が無い限り、違反の事実を海外当局と情報交換してはいけないと考えられます。

2011年4月11日 (月)

逆三角合併と届出

公取委の届出書式は、株式取得、合併、事業譲渡などがありますが、逆三角合併(reverse triangular merger)の独禁法上の届出はどのようにすれば良いのでしょうか。

まず逆三角合併というのは、買収者(A社)が、ターゲット(T社)を100%買収したい(かつ、許認可とかの関係でT社の法人格を温存したい)場合に、A社の完全子会社S社(もっぱら買収に使う目的で設立したSPCであることが多い)とT社を合併させるけれど、その際にS社が消滅会社、T社が存続会社となって、だけれども存続会社であるT社株主にA社株式を交付して、最終的にはT社がA社の100%子会社となる、というものです。

日本でこれに相当する制度はありません(存続会社の株主に合併対価を交付する制度がない)。

しかし、同じ結果は、

①S社とT社で、S社を完全親会社とする株式交換をA社株式を対価として行い(これにより、T社株主はA社株式を受け取り、T社はS社の完全子会社(=A社の完全孫会社)になる。三角株式交換)、

②その後、S社を消滅会社、T社を存続会社とする合併(これにより、A社は合併対価としてT社株式を受け取り、T社がA社の完全子会社となる)を行う、

というステップを踏むことにより、得られます。

で、本題ですが、結論をいうと、公取委の実務では、逆三角合併は、A社がT社の株式を取得する株式取得として届け出れば良いことになっています(公取委に電話で聞けばすぐ教えてくれます)。

逆三角合併の実質は、A社によるT社の買収であり、最終形ではT社はA社の完全子会社になるのだし、途中のS社の設立とかS社との合併とかは技術的なステップに過ぎないので、結論としてはこれで良いんだろうと思います。

公正取引723号(2011年1月号)の「公正取引委員会の将来像 - 畏敬される存在となるための具体的提言」という座談会でも、SPCを使った株式取得は株式取得として届け出ることが実務的に固まった、という趣旨の発言をされています。

これは主に逆三角合併の場合を念頭に置いているのでしょう。

ところで、この座談会は内容自体私も共感を覚える点が多いですし、非常に面白いので、手に入る方はぜひ一読をおすすめいたします。

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