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2009年12月30日 (水)

公開買付けQ&Aの疑問点

平成21年独禁法改正で株式取得が事前届け出化されたことに対応するため「株券等の公開買付けに関するQ&A」が金融庁から発表されました。

http://www.fsa.go.jp/policy/m_con/20091126.html

結論の妥当性に配慮した、実務的には極めてまっとうな内容ですが、理屈の上ではいくつか疑問点もあります。

同Q&Aの理屈は要するに、株式取得の30日の待機期間の経過(その間に公取から追加情報要求があった場合には90日または120日の審査期間の経過)をもって株式取得に必要な「許可等」とみなす、ということです。

つまり、独禁法の企業結合審査では公取委から積極的に許可状のようなものがでるわけではないので、待機期間を過ぎても何事もなかったことをもって「許可等」とみなす(裏返せば、30日の待機期間の間に追加情報要求がなされたために公開買付期間の末日までに90日または120日の審査期間が満了しなかったことは「許可等」が得られなかったこととみなす)ということです。

しかしこれって何も、株式取得が事前届出化されたために必要となった論点では必ずしもないように思われます。

つまり、改正前のBHPビリトンのリオ・ティントに対する買収の例を見ても分かるように、株式取得が事後報告であった改正前であっても、公取委は、株式取得の前に審査をすることができるという立場であったし、おそらく緊急停止命令も(場合によっては排除措置命令も(取得をする前に排除措置命令が可能か、という問題はありますが・・・))可能であるとの立場であったと想像されます。

しかし、改正前には、緊急停止命令の申し立てがなされたこと(や、場合によっては排除措置命令がなされたこと)が「許可等がなかった」ことにあたる、というような解釈はなかったわけです。

結局、実務では必要のない問題は気にもとめられないので目立たないですが、理屈の上では、改正前には緊急停止命令(や場合によっては排除措置命令)がなされても「許可等がなされたなかった」ことと扱う、という解釈はなかったのに、改正後は、排除措置命令が出るかどうか分からない「審査期間の未了」という事実を「許可等がなされたなかった」とみなす、とされているわけで、理屈の上ではバランスを欠いているわけです。

要するに事後から事前になったことで、公取委の態度が公開買付期間中に「見える」形になったので、にわかに論点として脚光を浴びることになった、ということなのだと思います(なお実務上は事前相談で事実上決着がつくので、Q&Aの議論も多くの場合問題が表面化することはないのですけれど)。

それからもう一つ、Q&Aでは、事前届出の対象にならない株式取得も排除措置命令の対象になりうるという視点が欠けているように思われます(というか、そういう些末なことは無視しているようです)。

事前届出の対象にならない株式取得の場合、届出制度の時間制限の縛りがないので、半永久的に排除措置命令の可能性があるわけです。そうすると、「審査期間の経過」ということが観念できないので、「審査期間の経過」を「許可等」とみなすという立場に立つ限り、永久に「許可等」がなされないと考えるのが、論理的には一貫しているように思われます。

ここまで考えると、果たして「審査期間」の経過を「許可等」とみなすというQ&Aの立場が理屈として正しいのか、という疑問が沸くわけですが、そこには目をつむるのが穏当な解釈というものなのでしょう。

この問題に限りませんが、株式取得が事前届出化されたことは、単に「前か後か」という時期の問題だけではなくて、株式取得が完了していない不安定な状態で公取委の見解が(事前相談への回答という法律外の事象としてではなく)追加情報の要求という法律上の行為として「見えてしまう」ことから生じる様々な問題を引き起こすような気がします。

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