米国企業結合の事前相談
米国の企業結合届出はハート・スコット・ロディノ法(HSR)に基づいて行われます(手続の概略は連邦取引委員会(Federal Trade Commission. 略してFTC)のホームページにアップされているマニュアルが分かり易いです)。
日本では独禁法上問題が生じそうな案件については正式な企業結合の届出の前に任意の事前相談を行うことがほぼ例外なく行われており、実質的な審査は事前相談で行われ、事前相談で問題なしとされた事案は独禁法上の届出も事実上フリーパスとなります。
このような日本の事前相談に対応するような制度は米国にはありません。
HSRの届出をする前に事実上FTC及びDOJ(Department of Justice. 連邦司法省のこと)に説明に行くということはありますが、このHSRの届出前の説明の主な目的は、予め当局に事情をよく理解してもらうことで、詳細審査に進むためのSecond Requestが出ないようにすることにあります。
つまり、当事者は30日の待機期間中は企業結合を行うことができませんが、この待機期間中に当局が「問題なし」との結論に至ることができない場合には、時間切れのために詳細審査に進んでしまう、ということがあり得ます。
このような、時間切れによって詳細審査に進んでしまうという事態を防ぐために、HSRの届出の前に当局に説明に行くのです。
したがって、実質的な審査はあくまでHSR上の待機期間中に行われ、その審査に従って問題ありか無しかが判断されるのです。日本の事前相談の場合のように、正式な届出前の相談の段階で問題有りか無しかを当局が正式に回答してくれることは通常ありません。
なお、敵対的買収の場合など企業結合の事実自体を秘密にしておきたい場合にこのような届出前の相談を行う場合には注意が必要です。買収が秘密であることを伝えれば当局は同業他社や顧客に対する調査に際して調査の理由を明らかにしないなどある程度配慮してくれるようですが、それでも、調査があるのは往々にして寡占産業で競争者の数が少ないという事情もあって、FTCからDOJから調査があればだいたいどこがどこを買収しようとしているのか察しがついてしまう、ということがあり得ます。
なお、このような届出前の相談をすると否とに関わらず、HSR法上の届出をする前であっても当局が審査を開始することはあり得ます。もちろん、調査のために同業他社や顧客に接触することもあります。
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