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2009年12月13日 (日)

最大5社まで減免対象が拡大されたことの意味するもの

平成21年改正で、それまで減免対象は最大3社だったのが最大5社に拡大されました。

最大5社に拡大した理由としては、より幅広く証拠を収集するためであると言われます。

しかし、減免対象を拡大するということは、その分だけ「いち早く申請しよう」というインセンティブを損なわせる可能性があり、バランスの取り方が難しいところです。

例えば談合・カルテルの参加者が5社であった場合、2番目までの申請が既になされていれば、現行法のように3社までしか減額が認められない制度では3番目に入るために急いで減免申請しようという気になりますが(4番目では減額が認められないため)、改正法のように5社まで認められるとなると、「それほど急がなくてもいいか」となってしまうかもしれません。

しかし実際にはそれ程単純ではなくて、改正法下でも立入調査が入ってしまうと立入前も含めて最大3社までしか減免が認められなくなりますので、3番目に入っておくことが絶対に必要です。

改正法が立入調査後の減額対象者を最大3社に限ったのは、立入調査をしている以上公取には充分な証拠が既にあるはずで、5社まで減額を認める必要性が乏しいからである、と説明されますが、立入調査後の減額対象者を3社に限定することによって、結果的に、「立入調査後に申告すればいいや」という気持ちを起こさせないようにしている、ということもできそうです。

公取の証拠収集能力を拡充するために3社から5社に減免対象を拡大したというなら、平成17年改正のときから5社にしておけばよかったのではないか、という声も聞こえてきそうですが、やはり新しい制度を導入する場合にはある程度控えめな制度にしておいて、実際の運用を見ながら必要に応じて対象を拡充していく、ということに合理性があると思われます。

公取は談合・カルテルの行われた会合等の事実関係については必要以上に細かいところまで事実調査をしますので、やはり3社では証拠が足りないという場合もあったのでしょう。

さて、今回減免対象が最大5社まで拡大されたことは、以上のような証拠収集の拡充ということの他に、もう一つ意味があると思われます。

それは、課徴金の減額という特典を与えることで、違反事実について争うインセンティブを失わせる、という点です。

合理的に考えれば、違反事実を争って勝てる可能性と課徴金の減額を受けることができる金額を天秤にかけてリニエンシーの申請をするかどうかを決めることになるのでしょうが、人間はどうしても確実に得られるメリット(=課徴金の減額)を、得られるかどうか不確実なメリット(=違反を争って勝つこと)よりも重視しがちなものです。

さらに建前の上では、リニエンシーを申請しておいても後で撤回することは可能なので、「違反の事実は充分確認はできないけれどもとりあえず申請しておく」という選択肢もあり得るのですが、これも人間の性として、一旦申請したものを取り下げるには心理的な抵抗があります。

また、リニエンシーを申請するとその後の社内調査は当然、違反事実の存在を固めることが目的になるので、必然的に、違反があったという証拠ばかりが集まります。ある種のバイアスがかかるわけです。

しかもリニエンシーを申請するかどうかの決断は一刻を争います。そのような切羽詰まった状況でなされた判断が、その後の対応を事実上決めてしまうのです。

したがって、違反事実を争うインセンティブを失わせるという効果(しかも切迫した状況下での判断を迫られるということ)が5社にまで拡大されたことには大きな意味があります。

例えば、カルテル参加者が7社あったとします。現行法では3社までしか減免が認められないので違反の事実が確実に確認できなければ4社目以降は「争う」という方向に行きがちですが、改正法では5社まで減額されるので怪しいけれども確実に違反があったとは認められない場合でも5社目まで「申請する」という選択になりがちです。

そうすると、現行法では3社が認めて4社が争うということになりますが、改正法では5社が認めて2社が争う、ということになります。更に言えば、2社で争っても勝ち目はないとみて、最初からその2社も争わないかも知れません。

違反をした場合には違反を認め違反をしていない場合には争のが当然、といわれれば確かにそうなのですが、人間の意思決定はそれ程単純でも合理的でもありません。正義を貫くにもエネルギーが要ります(弁護士としては依頼者が正義を貫く場合には最大限サポートしますが)。

リニエンシーが導入された当時も、いわゆる利益誘導で虚偽の自白が誘発されるのではないかという懸念があったはずです。今回の改正で減免対象が最大5社に拡大されたことに伴い、その懸念もまた拡大したことには注意が必要です。

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