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2009年12月11日 (金)

買手独占(monopsony)の分かりにくさ

独禁法では売り手側の独占(monopoly)と同様に、買い手側の独占(monopsony)も違法であると考えられています。

独禁法2条4項でも、供給する競争(売る競争)と供給を受ける競争(買う競争)が並列的に並べられており、売る競争も買う競争も制限されれば同様に独禁法上違法であるという態度が伺われるとも言えます。

それではなぜ買い手独占は問題なのでしょうか。

これを誰にでも分かるように説明するのは、実は簡単ではありません。

一言で言えば、資源の効率的な分配が害されるからなのですが、経済学を知らない人にはなかなか理解してもらえません。

さらに、売り手側のカルテルは競争価格よりも値段が上がるから悪いのだと(ある意味素朴に)考えている人にとっては、買い手側のカルテルでは競争価格よりも値段が下がるから悪いのだといっても、「値段が下がるのにどうして悪いのだ」と反発を受けてしまいます。

分かり易いようにと「買い手独占により買い手独占者の商品購入量(供給者から見れば供給量)が減ると、その商品をインプットとして用いた完成品の川下市場における供給量が減るからいけないのだ」と(やや本質からそれることを承知で)説明しても、「なぜ購入量が減るのだ(あるいは供給量が減るのだ)。必要ならほかからいくらでも買えばいいではないか。」という答えが返ってきます。

こういう反応に出くわすと、確かに経済学のモデルを知らない人に「資源の効率的分配」とか説明してもイメージできないだろうなぁ、とつくづく思います。

「安ければ良いというものではないのだ」とか、「高すぎるのと同様に安すぎるのもいけないのだ」と説明するのは、不当廉売を想起させ、買手独占の説明としては不適切と思われます(不当廉売は供給者自身のコストより安いかどうかを問題にしているのに対して、買手独占は、競争価格より安いかどうかを問題にしており、まったく異なるものです)。

しかも、現実の世の中で買手独占が問題になることは売手独占が問題になる場合に比べて遙かに少ないので、苦労して買手独占も違法だと説明した後に「でもやっぱり買手独占はほとんど問題ないことが多い」(なおこれには経済学的裏付けもあります)というと、相手が不満顔になること請け合いです。

やはり買手独占については、素朴に「被害者が気の毒だ」と思ってもらえる例を挙げて説明するほか無さそうです。

例えば、ロースクール生には、「四大法律事務所が新人弁護士の給与の最高額を1000万円以下にすると協定したら、四大事務所を目指す新人弁護士が可愛そうでしょう?」という例を挙げるとか(余り良い例ではありませんが)。

経済学の言葉を使わずにいかに納得してもらうかはいつも腐心しているところですが、独禁法も法律であり、法律は国民のためのものである以上、これからも誰にでも分かり易い説明を心掛けていこうと思います。

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独禁法と経済学」カテゴリの記事

コメント

参考になります。
経済学の視点からの説明もあるともっと楽しそうです:)

コメントを書かせていただきます。

最大の買手独占市場は公共事業調達市場です。 もちろん、国や自治体の独占は合法ですが、いま問題になっている建設業界の人手不足は、この市場特性を無視して談合根絶などの自由競争政策を強制したことにあります。

談合がすべていいとは言いませんが、談合絶対悪にも同意できません。 

小生のブログもお読み頂ければ幸いです。

たしかに説明を聞いてもさっぱり分かりませんでした。笑。

買い手独占の例としてよく指摘されるのが労働市場です。
企業が労働者を安く買いたたくことが問題視されています。
労働市場の流動化などの取り組みの狙いは、こうした問題を解消するための取り組みにあります。

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