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2009年11月19日 (木)

中国独禁法:インベブ・アンハイザーブッシュ買収(2008年)について

2008年11月に、中国の当局が、ベルギーのビール大手インベブによる米国ビール大手のアンハイザーブッシュ(バドワイザーなどで有名)の買収を条件付で認めた、という事案がありました。

「ベルギーの会社がアメリカの会社を買収する場合にも中国の独禁法が適用されるの?」と疑問に思われる方もあるかも知れませんが、自国にある程度の売上がある限り他国の企業間の買収にも当該自国の独禁法の適用がある、というのが世界の独禁法の解釈の趨勢ですので、中国の独禁法が適用されたこと自体はとくに問題はありません。

この事件の面白いところは、当局が付けた買収の条件にあります。

中国の当局(合併を審査するのは商務部(英語の略称はMOFCOMで、「モフコム」と呼びます)は、

・アンハイザーブッシュはその保有する青島ビールの持株比率(27%)を増やさない、

・インベブはその保有する珠江ビールの持株比率(約29%)を増やさない、

・インベブは中国大手の酒造メーカー2社に出資しない、

等というものでした。

これらは、将来における行為について条件を付けた点に特徴がある、と捉える向きもありますが、将来の行為を制限する条件は日本の公取でも付けますので(例えば、コスト・ベースでの原材料供給を将来にわたって義務づけるなど)、単に将来の行為である点が特徴的であるというのはやや不正確です。

この条件の特徴は、一言で言えば、この条件を付けることで本件買収の反競争的効果が軽減されるという関係(因果関係)が無い、ということです。

企業結合に条件を付ける場合、その条件をつけることによって違法な反競争的効果が無くなる、という因果関係があるのが通常です。

というより、そのような因果関係がなければならないと考えるべきです。

同じような問題は、排除措置命令としてどのような内容の命令を出すことができるか、という場合も問題になります。

日本の独禁法では「(独禁法の各規定に)違反する行為を排除するために必要な措置を命ずることができる」とされています(独禁法17条の2)。

これは排除措置命令の名を借りればどのような内容でも命令できるということではなくて、違法な行為を「排除するために必要な措置」しか命じられない、という意味です。

確かに、「絶対に必要」という強い必要性までは要しないですが、措置を命じることで違法状態がより除去される、という程度の因果関係は必要です。

同様に、買収の届出手続において条件を付ける場合にも、「このまま買収を認めれば違法だけれども○○の条件を付ければ違法でなくなる」という因果関係が必要なはずです。

もちろんどんな法律でもその国の立法機関が定めた以上法的拘束力を持つわけなので、「中国法の解釈では、付ける条件と違法状態の除去の間に因果関係は要らないのだ」というのもあり得るのかもしれません。

しかし、中国独禁法29条では、

「国務院独占禁止執行機関は、禁止されない企業結合に対して、当該企業結合が競争に対して及ぼす消極的な影響を軽減するための制限的な条件を付加する決定を行うことができる。」

とされています(公取仮訳)。

この文言によれば、当該企業結合が「競争に対して及ぼす消極的な影響」があることがまず大前提で、かかる影響を「軽減するため」の条件であること、言い換えれば、条件を付けることで影響が軽減されるという因果関係が必要である、と解釈するのが当然だと思います。

ところが本件買収では、インベブによるアンハイザーブッシュの買収自体に、そもそも違法性は認定されていません。したがって、付されたいくつかの条件が違法状態を「軽減するため」という要件も満たすはずがありません(そもそも買収は適法なのですから)。

このように、たいした根拠もなく文言からかけ離れた運用を当局がしてしまうところに、中国独禁法の不気味さがあるように思われます。

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