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2009年11月 2日 (月)

シカゴ学派について

アメリカの独禁法の学会には「シカゴ学派」という一派があります。

村上政博先生の著書に「~シカゴ学派の勝利~」というインプレッシブなサブタイトルがついたものがあるせいか、独禁法を専門としない人でもシカゴ学派という名前は聞いたことがある人が多いようです。

ではシカゴ学派とはどのようなものなのでしょうか。

シカゴ学派にもいろいろな考えがあって一括りにできないという向きも一部にあるようですが、細かい議論は実務でのアドバイスには不要です。

一言で言えば、独禁法の文脈で出てくるシカゴ学派というのは、単純なミクロ経済学のモデルをそのまま独禁法にあてはめて解釈する考え方です。

それによってどういうことが起きるかというと、排他的取引などの垂直的制限はほとんど合法になります。A社が小売店と排他的契約を結んでB社が排除されたとしても、小売店レベルに新規参入が速やかに起こるので、排他的取引によりB社が排除されることはないと考えるからです。あるいは、B社がA社より有利な条件を小売店に提示すれば、小売店はB社との取引を選択するので、競争が阻害されることはないからです。

また略奪的価格設定が違法になることはほとんど考えられない、とシカゴ学派はいいます。略奪的価格設定によって競争者が排除されても、略奪価格設定者が値段を上げたとたんに新規参入が生じるし、略奪価格設定者はライバルが市場から退出するまでライバルの何倍もの損失を被り続けなければならないからです。

抱き合わせも違法になることはほとんどないと考えます。アメリカでは抱き合わせが違法となる理由は市場支配力のある商品(主たる商品)の市場支配力を従たる商品市場に及ぼすことであると考えられていますが、主たる商品の市場で市場支配力を十分発揮している企業はそれ以上に従たる商品市場で市場支配力を発揮することはできない、と考えるからです。

価格差別は、一般的には効率性を増進するものであり、問題とすべきではないといいます。全需要者に同じ価格を提示しなければならない場合よりも、高い値段を払いたい需要者には高く、安い値段しか払わない需要者には安く売った方が、産出量は増えるからです。

シカゴ学派の背景にある考えは、市場への参入は速やかに生じるはずである、あるいは仮に速やかに参入が生じなくとも政府が介入するよりはましな結果が生じる、という、市場の機能に対する厚い信頼です。

また、独禁法の保護法益は消費者厚生(consumer welfare)だけであり、中小企業の保護などを考慮してはいけない、といいます。

シカゴ学派はミクロ経済学の完全競争モデルをそのまま使って解釈論を展開するので常識からかけはなれた結論になることも少なくないのですが、学ぶところも大変多いです。少なくとも、独禁法上問題とされている行為がなぜ問題なのかを非常にすっきりと理解させてくれますし、現実の事案の評価に当たっても、シカゴ学派は一方の極端を示すことで、明確な物差しを提供してくれます。

カルテルなどは誰がどう考えても違法なので、カルテルが違法であるというアドバイスをするのに独禁法の専門家である必要はありませんが、上でいくつか挙げた微妙な例が違法か適法かを判断する際の基準として、シカゴ学派の考え方を知ることは今でも不可欠だと思います。

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