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2009年11月29日 (日)

ECの制裁金算定方法

インテルが5月に10億ユーロ超の制裁金を課せられたりして何かと話題の欧州委員会の制裁金ですが、どうすればこんなに高額の制裁金になるのかと感じる方も多いことでしょう。そこで欧州委員会の制裁金算定方法を簡単にまとめておきます。

まず、日本ではカルテルと私的独占とで課徴金の算定方法や算定率が異なりますが、ECでは違反類型にかかわらず算定方法は同一です。

そこで、実例も豊富でイメージしやすいカルテルの場合を念頭に置いて説明します。

【設例】

ある日本企業(A社)が欧州である商品(「対象商品」)を販売していたとします。直近事業年度の対象商品の欧州での売上は1億ユーロでした。

A社は1998年7月から2006年12月までの8年6ヶ月の間カルテルに参加していたとします。

【計算方法】

ECの制裁金ガイドラインによると、制裁金の計算方法は、以下の5つのステップからなります。

① 欧州経済地域(EEA)内での違反対象商品の直近事業年度の年間売上高を算定、

② ①の売上高に、重大性に応じた係数(最大30%)を乗じる、

③ ②の金額に違反継続年数を乗じる、

④ ③に「エントリーフィー」(年間売上の15~25%)を加算

⑤ ④の金額(「基本額」)を調整(例:繰り返し違反者は倍増)

「エントリーフィー」というのはちょっと分かりにくいですが、カルテル等の違反行為に加わった(エントリーした)ことだけで(違反年数にかかわらず)課される金額です。

【あてはめ】

そこで上記設例の制裁金の額を計算してみます。

まず、A社の対象商品の欧州での売上は1億ユーロでしたので、①は1億ユーロとなります。

次に重大性に応じた係数を、ここでは仮に最大の30%とすると、②の金額は1億ユーロ×30%=3000万ユーロとなります(あくまで売上を0.3倍するのであって、1.3倍するのではないので念のため注意して下さい)。

次に継続年数は8年6ヶ月なので②の金額を8.5倍して、③の金額は、3000万ユーロ×8.5=2億5500万ユーロとなります(なお、乗じる年数は半年単位で切り上げられます)。

次に、これにエントリーフィー(ここでは年間売上の20%としておきます)として、1億ユーロ×20%=2000万ユーロを加算します。そこで④の段階の金額は、2億5500万ユーロ+2000万ユーロ=2億7500万ユーロ(基本額)となります。

最後に、この2億7500万ユーロの基本額に調整がなされます。調整がなされなければ、制裁金の額は基本額のまま2億7500万ユーロとなります。

以上を踏まえて欧州での制裁金がこれほど多額になる原因を考えると、最大30%という算定率(②)もさることながら、制裁金算定期間に制限が無いことが大きな原因であろうと考えられます。日本が課徴金算定期間を3年間に限定しているのと対照的です。

なお、欧州委員会の競争法担当委員が代わり前任のクルーズ氏の厳罰主義が維持されるか注目する向きもありますが、日本のような公取に裁量の一切ない課徴金とは異なるとはいえ、欧州の制裁金も基本的にガイドラインに従って算定されているのですから、ガイドラインが変わらない限り担当委員が代わったからといって制裁金の額が急に低くなることは考えにくいと思われます。

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