ハーフィンダール・ハーシュマン・インデックス(HHI)
市場の寡占度を測る指標に、ハーフィンダール・ハーシュマン・インデックス(Herfindahl-Hirschman Index, "HHI")というものがあり、合併ガイドラインでも採用されています。
これは各競争者のシェア(%表示)の2乗を足し合わせたものです。
例えば、市場に3社競争者がおり、各社のシェアが50%、40%、10%だと、50x50+40x40+10x10=4200となります。
HHIについては、HHIの数字そのものも大事ですが、企業結合前後のHHIの増分の方がイメージが持ちやすいですし、また重要です。
具体的には、統合前後のHHIの増分は、統合する2社のシェアを掛けて2倍したものになります。中学校で、
(a+b)^2 = a^2 + 2ab + b^2
というのを習いましたね。これの、2abの部分です。
HHIの増分が大事だという理由は、公取の実際の運用を見ると、HHIの増分が250以下(つまり2社のシェアを乗じた値が250÷2=125以下)の場合には、ほとんど問題是正措置なしに結合が認められているからです。
これによると、例えば10%と10%の会社の合併だとシェアを乗じた値は100となり、125を下回るので、多分大丈夫だろうな、というふうに、一応の目安として判断できます。
このHHI、「どうしてシェアの2乗を合計するの?」とか「どうして3乗ではダメなの?」とか、素朴な疑問が湧いてきます。「シェアを足すだけだと大きな企業が相対的に大きな市場支配力を持つ(例えば、シェア50%の会社はシェア25%の会社の2倍よりも大きな市場支配力を持つ)ことを反映できないから」と言われても、分かったような分からないような気になります。
産業組織論(ミクロ経済学の一分野)の本などには書いてあるのですが、2乗であることには意味があります。
実は、「HHIを需要の価格弾力性(の絶対値)で割った値は、各社のプライス・コスト・マージン(を価格で割った値)をシェアで加重平均した値に等しい」という関係があります。
もう少しかみ砕いて言うと、以下のとおりです。
まず需要の価格弾力性は所与のものなのでひとまず無視すると、上記の関係は、「HHIはプライス・コスト・マージン(を価格で割った値)の加重平均に比例する」、ということです。
そしてプライス・コスト・マージンを価格で割った値というのをラーナー・インデックスといいますが、経済学上のmarket power とは限界費用を超えた価格で販売できる力ですから、ラーナー・インデックスは、まさに企業の市場支配力の指標となるものです。
つまりHHIは、市場の供給者全員の市場支配力の総和を計るものである、ということになります。
ちょっと分かりにくいですが、2乗であることには理論的な裏付けがある、ということです。
それから、HHIを「%で計ったシェアの2乗の和」と定義するとイメージしにくいのですが、「小数点で表したシェアの2乗の和」と定義すると、HHIの値が、「同じ規模の会社何社の競争に相当するのか」を示す値となります。
例えばこの定義では、5つの同じサイズの会社が競争している市場のHHIは、
0.2^2+0.2^2+0.2^2+0.2^2+0.2^2=0.2
となります。その逆数を取ると、「5」となります。これを「5」社の同じサイズの会社が競争している状況、とイメージするのです。
そこで先ほどの、50%、40%、10%の3社が競争する場合だと、
HHI=0.5^2+0.4^2+0.1^2=0.42
となり、その逆数を取ると約「2.38」となります。そこで、この市場は同じサイズの会社「2.38」社が競争しているのと同じくらいの寡占度なんだ、とイメージできるわけです。
このほうが、%の値で2500を超えると高度に寡占的だとか言うよりもイメージが湧きやすいと思うのですが、いかがでしょうか。
ちなみにガイドラインで高度に寡占的といわれるHHI=2500超は、同じ規模の会社4社が競争しているのと等しい寡占度の市場、ということになります。
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