「警告」の手続の規則化
平成21年改正法に併せて成立予定の「公正取引委員会の審査に関する規則」(審査規則)で、「警告」についての手続が明記されました(審査規則案31条)。
事実上の強制力があるという点で、実際の効果という点では排除措置命令と余り違わない「警告」の手続が明記されたことは、喜ばしいことです。
いくつか気になる点を記します。
まず、警告の手続は基本的に排除措置命令の事前手続を準用していますが(審査規則案32条)、排除措置命令前の説明に関する審査規則25条を準用していません。
つまり、排除措置命令の場合には命令が出る前に公取で事実認定の基礎となる証拠の説明をしてくれるのですが、警告の場合にはこの手続が無い、ということです。
警告でも実務上のインパクトとしては排除措置命令とあまり違わないことからすれば、この事前説明についても準用して欲しかったところです(なお、排除措置命令の事前説明では、事実認定の微妙な事案については公取はかなりきちんと説明してくれます)。
さらに、今回の規則で「警告」の定義が変わったようです。
つまり、公取のホームページのQ&Aには、
「また,排除措置命令等の法的措置を採るに足る証拠が得られなかった場合であっても,違反の疑いがあるときは,関係事業者等に対して「警告」を行い,是正措置を取るよう指導しています。」
という記載があり、現行法上、警告は「法的措置を採るに足りる証拠が得られなかった場合に違反の疑いがあるとき」に採られる措置であるとされています。
これに対して審査規則案31条1項では「警告」の定義が設けられ、
「委員会が、法第3条・・・の規定に違反するおそれがある行為がある又はあったと認める場合」
に採られる措置である、とされています。
違反の証拠が「なく」、疑いに過ぎない場合と、違反する「おそれがある」場合とでは大違いです。「違反するおそれがある」ということは、違反するおそれがあることを立証しなければいけないからです。これに対して、違反の証拠が「ない」場合には、違反の立証をする必要はありません。
「おそれがある」と「証拠がない」を一緒くたにするのはとんでもないことです。例えば、不公正な取引方法は「公正な競争を阻害するおそれがある」行為ですが、これを「公正な競争を阻害する証拠はないがその疑いがある行為」などと解釈するのがおかしいことは一目瞭然でしょう。
先ほどの、証拠の事前説明がないことは、審査規則案で「警告」の定義がこのように変わってしまったこととも考え合わせると、さらに問題です。
なぜなら、現行法では警告は「証拠が無い」という位置づけなので証拠の説明は無くてもよさそうですが、審査規則案では「違反するおそれがある」行為なので、「おそれがある」ことの立証を公取はすべきであり、そのための証拠の説明も違反者に対してすべきだからです。
なぜこのように「警告」の定義が変わってしまったのか、正直よく分かりません。きっと、規則に明文で「法的措置を採るに足る証拠が得られなかった」と書くのがみっともなかったから、というくらいの理由ではないでしょうか。
なので、改正審査規則の下でも、実際には、公取での警告の扱いは現行法と変わらないのではないか、と推測します。
しかし論理的に考えれば、改正審査規則の下では、「違反するおそれはないから警告は違法な行政指導である」という争い方ができてよいはずです。
立案時にどのような議論が公取であったのかは知りませんが、国民はできあがった条文しか見ないのです。もうすこし、「素人が素直に読めばどういう風に解釈できるのか」ということに気を配って規則も起案してほしいものです。
« IBAマドリッド大会 | トップページ | 累積違反課徴金と確定排除措置命令違反罪の関係 »
「2009年独禁法改正」カテゴリの記事
- 7条の2第8項2号と3号ロの棲み分け(2015.05.02)
- 主導的役割に対する割増課徴金(2015.05.01)
- 海外当局に提供する情報の刑事手続での利用制限(43条の2第3項)(2012.11.19)
- 課徴金対象の差別対価(2012.02.20)
- 優越的地位濫用への課徴金と継続性の要件(2011.10.27)
コメント