« ハーフィンダール・ハーシュマン・インデックス(HHI) | トップページ | シカゴ学派について »

2009年10月31日 (土)

「最終事業年度」の定義にまつわる問題点

平成21年独禁法改正で企業結合の規模要件が国内売上高基準となり、国内売上高は、大まかに言って「最終事業年度」における国内の売上高、ということになりました。

独禁法には「最終事業年度」の定義はありません。なので(計算書類の承認があった事業年度に限る会社法の定義と異なり)、文字通り、最終の事業年度、もう少し丁寧に言えば、既に終了している事業年度の中で一番遅く終了したもの、ということになります。

そうすると、企業結合の届出についてやや奇妙なことが生じます。

例えば、①A社からa事業を新設分割で切り出してaを設立し、②直後にB社がa株式全部を譲り受ける、という場合を考えます。a事業の最終事業年度における国内売上高は50億円超、B社の最終事業年度における国内売上高は200億円超とします。

ここで、①は単独の新設分割なので届出は不要です。

②は、株式取得なので届出の要否を検討する必要がありますが、問題になるのは株式発行会社であるaの国内売上高です。

常識的な感覚では、このようにA社のa事業を切り出してa社を設立した場合には、(A社の一事業部門であった時代の)a事業の国内売上高が(A社の子会社となった後の)a社の国内売上高となるように見えます。

しかし、a社は設立したばかりの会社で、まだ第1事業年度の途中です。よって、最終事業年度は無いことになります。当然、「最終事業年度」における国内売上高もゼロ、となります。

したがって、結局②についても届出を要しないことになります。

しかし、上記①+②は、実態としては、A社がその重要な事業であるa事業をB社に承継させた吸収分割と似ています。

B社がa事業を吸収する吸収分割なら、届出要件を満たします(しかもa事業の売上は50億超でなく30億超で届出要件を満たします)。

このように、吸収分割とのアンバランスということもさりながら、根本的には、届出要件を最終事業年度の国内売上高一本で行くことにしたことに問題がありそうです。

この点、現行法では、株式発行会社側の届出基準は総資産10億超でした。

そして「総資産の額」は「最終の貸借対照表による資産の合計額」と定義されており、設立間もない会社の場合の「最終の貸借対照表」は設立時の開始時貸借対照表であると解されていました。したがって、「設立直後の会社でも事業年度が終わっていないために資産ゼロでとなって届出を免れる」ということはありませんでした。

吸収分割ではなく、上記のような①新設分割+②株式譲渡の手段を取りたい法律上、ビジネス上の理由はいくらでもあります。したがって、①+②が脱法を禁じる独禁法17乗に違反する、というのはちょっと無理な議論だと思われます。

公取はこの点どう解釈するのでしょうか。聞いてみたい気がします。

ただこれは直感ですが、日本の独禁法では届出基準を満たさなくても実体法上違法になることはあるので、もし問題のある企業結合なら実体法上の違法を理由に排除措置命令を出せばよい(しかも届出対象外の企業結合に対しては排除措置命令を出す時期に制限がありません!)ので、届出の抜け穴については余り頓着しない(無理な法律解釈をしてまで届出をさせることはない)、というのが据わりの良い運用であるように思われます。

« ハーフィンダール・ハーシュマン・インデックス(HHI) | トップページ | シカゴ学派について »

2009年独禁法改正」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「最終事業年度」の定義にまつわる問題点:

« ハーフィンダール・ハーシュマン・インデックス(HHI) | トップページ | シカゴ学派について »

フォト
無料ブログはココログ