差別対価における課徴金対象取引
平成21年改正で一定の差別対価に対して課徴金が課せられることになりました。
そして、課徴金算定の基礎になる取引(課徴金対象取引)は、「当該行為(=差別対価による供給)において当該事業者(=違反者)が供給した」商品役務の売上額、ということになっています(20条の3柱書き)。
しかし、ここでいう「当該行為において・・・供給した」というのは、具体的に何を指すのでしょうか。
何が問題意識かというと、差別対価の場合の「当該行為において・・・供給した」商品役務というのは、①相対的に高い値段で供給した商品役務なのか、②相対的に低い値段で供給した商品役務なのか、③高い方も低い方も両方含むのか、です。
条文の文言はさておいて、他の違反類型との対比で考えると、特定の需要者に対して高く売ることが問題な差別対価(例えば、家電メーカーが量販店には安く卸し、個人商店には高く卸して、個人商店を困らせるような場合。いわゆる準取引拒絶型差別対価)の場合には、共同の取引拒絶の算定方法に類似するのでそれに倣って、相対的に安く売った方の売上(①)に課徴金を課すのが自然です。
これに対して、これも他の違反類型との対比で考えると、特定の需要者に対して安く売ることが問題な差別対価(例えば、ライバルのいる地域では安く販売してライバルを困らせ、ライバルのいない地域では高く販売して安売りの赤字を補填するような場合。いわゆる略奪廉売型差別対価)の場合には、不当廉売に似ているので、それに倣って、やはり相対的に安く売った方の売上(②)に課徴金を課すのが自然です。
これに対して、文言はさておき常識的な感覚からすれば、「当該行為において・・・供給した」というのを、独禁法上問題のある供給をした、という意味で捉え、相対的に高く売るのが問題の場合(準取引拒絶型)の場合には高く売った方の売上(①)に課徴金を課し、相対的に安く売るのが問題の場合(略奪廉売型)の場合には安く売った方の売上(②)に課徴金を課す、という解釈にも一理あるように思われます。
いずれが正しいのでしょうか。
やはりここは、形式的な文言解釈を重視して、全部の売上に対して課徴金を課する(③)というのが正しいのだろうと思います。準取引拒絶型も略奪的廉売型も安い方の売上と解釈したり、準取引拒絶型の場合は高く売った方、略奪的廉売型の場合は安く売った方、と解釈することは、文言解釈として無理と思われるからです。
しかし、本当にこれで妥当な結論が導けるのでしょうか。とくに略奪型廉売の場合に、ライバルのいる地域に限って安売りをした違反者が、ライバルのいない地域で高く売った方の売上に対してまで課徴金を課されるというのは、ちょっと行き過ぎのように思われます。排除型私的独占の一種のコスト割れ販売の場合にはコスト割れ販売部分に課徴金が課されるのでありコスト割れでない販売には課されないこととのバランスも取れないように思います。
そもそも論ですが、「当該行為において・・・供給した」などというよく分からない日本語に問題があると思います。「において」という文言から、安い方も高い方も全部含むという結論が感覚的にすんなりと出てくる人がどれほどいるでしょうか。
「○○において」とか、「○○に係る」とか言う文言は、条文の趣旨がよく分かっている人には理解できるのかもしれませんが、そうでない人には不親切です。
とくに最近の法律は、言葉を記号としか考えていないようなものが多く、読んですっと頭に入ることは余り重視されていないように思われます。もっと味のある、人間味のある条文にしてもらいたいものです。
【2012年2月20日追記】
この記事を書いた後に出た公取委担当者による解説(『逐条解説平成21年改正独占禁止法』)では、差別対価に、
「競争者排除型」(=競争者の顧客を狙い撃ちして安売り攻勢をかけること)
と
「取引事業者排除型」(=自分の取引の相手方を不利に扱うこと。自分が売主なら、不当に高く売ること。多くの場合、自分も取引の相手方と競争している)
があるとした上で、
「いずれの場合も、課徴金の算定の基礎となるのは、差別的な対価をもって供給された商品等の売上額である。」
と解説されています(p84)。
これはつまり、
安く売るのが不当な場合(=競争者排除型)には、安く売った方の売上、
高く売るのが不当な場合(=取引事業者排除型)には、高く売った方の売上、
が課徴金対象である、ということです。
というわけで、高く売ったのも安く売ったのも全部課徴金対象売上だ、という上記の記事の見解は採られないことが明確になりました。
常識的な結論になって良かったというべきですが、確かに、
「不当に・・・差別的な対価をもって・・・供給する」(独禁法2条9項2号)
という文言は、
高く売ることが不当な場合は高く売ったほうが「差別的な対価」だ(安い方は「正当な対価」だ)
で、
安く売ることが不当な場合は安く売ったほうが「差別的な対価」(高い方は「正当な対価」だ)
だ、というのも理解できるので、やはり公取の解釈で良いのでしょう。
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