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2009年10月 4日 (日)

不当な取引制限を主導した者とは

平成21年の独占禁止法改正で、不当な取引制限を主導した者の課徴金が5割り増しになりました。

「主導」という言葉をみると(新明解国語辞典では「他の対立者を抑え、その人が主となって指導すること」とあります)、他の参加者を引っ張っていったというような、リーダー的なものが思い浮かびますが、条文の文言はそれより随分と広いようです。

まず改正法7条の2第8項1号は、「企て and (要求 or 依頼 or そそのかし)」です。

「企てる」というのは、「あることを計画する」(新明解国語辞典)ことで、計画さえすればすべて該当します。競合他社の担当者といつどこで会おうとか、値段はいつからいくらぐらい上げようとか、具体的なことを計画したことは必要ではありません。

法令での「企て」の使用例としては、国家公務員法98条(法令及び上司の命令に従う義務並びに争議行為等の禁止)2項に、「職員は、政府が代表する使用者としての公衆に対して同盟罷業、怠業その他の争議行為をなし、又は政府の活動能率を低下させる怠業的行為をしてはならない。又、何人も、このような違法な行為企て、又はその遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおつてはならない。」というのがありますが、この文脈からすると、細かいことまで決めなくても「企て」には該当するようです。

「要求 or 依頼 or そそのかし」というのは、カルテルの文脈での他社との接触はすべて該当しそうです。業界団体の新年会で、

A:「最近商売あがったりですなぁ」、

B:「値引きの要求も厳しいですしなぁ」、

C:「おたくもですか?」、

D:「なんとかせなあきませんなぁ」、

E:「そうですなぁ」

なんていうやりとりをしても、Dあたりは「そそのかし」くらいにはなるかも知れません。7条の2第8項3号イが重要なものという限定をされていることとの対比から1号は重要でないものでも該当する、ということからすると、なおさらです(なお上記会話が関西弁なのは私が大阪出身で、この方がイメージが湧くからであって、それ以上に深い意味はありません)。

「要求し、依頼し、又は唆す」の法令での使用例としては、暴力団対策法12条1項に「公安委員会は、第十条第一項の規定に違反する行為が行われた場合において、当該行為をした者が更に反復して同項の規定に違反する行為をするおそれがあると認めるときは、当該行為をした者に対し、一年を超えない範囲内で期間を定めて、当該行為に係る指定暴力団員又は当該指定暴力団員の所属する指定暴力団等の他の指定暴力団員に対して暴力的要求行為をすることを要求し、依頼し、又は唆すことを防止するために必要な事項を命ずることができる。」というのがあり、この条文の文脈上、相当広い範囲をカバーすることが念頭にありそうです。

次に2号は、「求められ and 継続的に対価等指定」です。

これは1号に比べて、リーダー的な感じがしますね。他社が「求めて」くるくらいですから、きっと業界の盟主でしょう。また他社が決定を委ねてきて決めてしまう(さらに、他社もそれに従う)のですから、他社ににらみが効くのでしょう。まさに「主導的」です。

ただ、2号だけに該当する(つまり1号には該当せず、他社に要求も依頼もそそのかしもしていない)場合には、何だか周りに担がれてリーダーになってしまったようで、気の毒ではあります。

3号イは、「要求 or 依頼 or そそのかし」で重要なもの、です。1号に比べて「企て」たことは不要です。他社の企画に自分も乗って、さらに他の参加者に参加を呼びかけるような場合でしょうか。

3号ロは、「対価等指定」で重要なもの、です。2号と違って他社からの求めは不要です。しかも「専ら自己の取引について指定することを除く」とされているので、入札談合で落札を希望して他社にそれより高い値段で入札してもらっただけでは、これに該当しません(他社の入札価格は成約の可能性がなく、ダミーに過ぎないからです)。

以上検討すると、「主導的役割」というのはかなり広く解釈される可能性があることが分かります。それも、一見キャッチオール的な3号イよりも、重要性の要件のない1号の方が広く解されそうです。

少なくとも、主導者は必ずしも1社に限らないようです(条文では「単独で又は共同して」とされているので共同して行った場合には2社以上いるのは当然ですが、ここで言っているのはそういうことではなくて、単独で別々に主導者に該当する者が2社以上いることがある、ということです)。

あと、以上のような意味での「主導的役割」を担ってしまうかどうかは、当該企業の業界での地位や力関係もさることながら、担当者の人柄や押しの強さや、どちらが大学の先輩でどちらが後輩か、とかいう事情に影響されるところもあるように思います。そのような担当者の属性で課徴金が5割増しされた企業はある意味気の毒ですが、普段からカルテルを許さない企業文化を作っていくことがより一層求められる、ということでしょうか。

以上、私なりの解釈を述べましたが、感覚的には、5割り増しに相当するような悪質なものだけが「主導者」と認定される、という、ある意味で結論先取りの(また、実務的にはよくありがちな)、常識的な運用に落ち着くのではないか、と予想しています。

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