SSNIPテスト
日本の企業結合ガイドラインでもいわゆるSSNIPテストが採用されています。
時々、SSNIPテストが価格に関する詳細な情報を元に計量経済学的な手法を用いて行われる市場画定の手法であるかのようにいわれることがあるのですが、それは誤解です。
というのも、詳細な計量経済分析ができるくらいのデータがあるのであれば、わざわざSSNIPテストを使って市場画定をしてマーケットシェアを計算することによって市場支配力の有無を見るというような迂遠な方法を採る必要はなく、商品の需要の価格弾力性を計測して直接市場支配力を測定すれば良いからです。
しかし、だからといってSSNIPテストが意味のないものであるということでは全くありません。
市場画定をしてマーケットシェアを計算して、「マーケットシェアの大きい企業には市場支配力があるだろう」と考えることは、直感的に非常に正しいと多くの人に感じられます。
独禁法も法律である以上、多くの人に直感的に正しいと感じられるということは非常に大事なことだと思います。
また多くの人に直感的に正しいと感じられるような基準でないと、裁判で使い物にならないと思われます。
このように、①市場画定をして②マーケットシェアをみることによって③市場支配力を測定する、というステップは、みんなに納得できるという意味で、法律解釈の基準として非常に合理的だと思います。
ところが、市場画定をする際に、商品の性質や用途によって代替性の有無を見る、と抽象的に言うだけでは、人によって代替性のとらえ方が様々であり得ます。これは言い換えると、人によって代替性の程度を計る物差しが様々であり得る、ということです。
SSNIPテストは、このような商品の代替性の有無・程度を考える際の物差しとなり得るものです。
確かに、仮想的な独占者が5%値上げをして利益を増やすことができるかどうかなんて、具体的な事案で計算することはできないことの方が多いでしょう。
しかしそれでも、市場画定の考え方や基準をSSNIPテストという形で示すことで、おおよその議論の共通の基盤ができるのだと思うのです。
逆に言うとSSNIPテストはそれ以上のものではないのですが、やはり、共通の議論の基盤ができるというのは大きいことだろうと思います。
ところが、日本の公取の実務をみていると、ガイドラインではSSNIPテストと言いながら、実際にはおよそそれとかけ離れた考え方をしていることが多いように思います。
つまり、多くの場合、SSNIPテストを素直に使えばもっと市場が広く画定されると思われるような場合でも、商品の規格や業界での慣例的な分類や統計上の分類に引きずられて、狭い市場が画定されることが多いようです。
そのような狭い市場を画定してもシェアが低いから問題ない(SSNIPテストで市場画定したらもっと市場は広くなって逆にシェアは低くなるのでなおさら問題ないから)、ということで決着がつくことも多いです。
逆に、そのような狭い市場を画定してシェアが一見高く見えて、どうも問題ありそうに見える、だけれど問題ありとするのは感覚的におかしい、という場合には、「隣接市場からの競争圧力がある」などといって、結論として市場支配力を認めない、という辻褄合わせをしたりします。
それで正しい結論が導かれるのであれば目くじらを立てることもないじゃないか、という考えもあり得ることでしょう。
でもはやり、ガイドラインで市場画定はSSNIPテストを使うと明言している以上、それに従うべきではないでしょうか。そうでないとガイドラインの意味がないように思います。
ガイドラインというのは、その分野の法律に詳しくない人(=その法律の理屈を良く理解していない人)でもガイドラインをみればおおよその答えが予測できる、というものであるべきだと思います。
そうでないと、いつまでたっても独禁法が一部の専門家のためのものにとどまってしまうのではないでしょうか。
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