リニエンシーの経過措置
平成21年独禁法改正で、リニエンシーの申請がグループごとに出来るようになりました。
新法施行を待ってからグループでリニエンシーを申請しようと考えている企業がそれほど多くいるとは思いませんが(普通は他社に先を越されないよう一刻も早く申請するでしょう)、リニエンシーの経過措置はどのようになるのでしょうか。
まず、旧法下になされた違反行為について、旧法下で誰もリニエンシーを申請していなかった場合、最初の申請者が新法施行後に申請したとすると、新法が適用される、つまり、最初の申請者はグループ単位で申請できる、ということに問題はないでしょう(経過規定は問題にならず、専ら新法が適用されます)。
では、旧法下でなされた違反行為について、旧法下で同一グループの2社が既に申請を済ませていた場合、新法施行によって何が起こるのでしょう。
一番気になるのは、既に申請した2社を、同一グループの申請として両社とも1位とすることができないでしょうか。これができると2社とも課徴金全額免除になりますし、席も1つ空くので、後順位の申請者にもメリットがあります。
改正法の附則をみてもこの点に直接関係する規定はありません。附則17条に、"旧法の規定に基づく処分その他の行為で新法にも当該旧法の規定に相当する規定がある場合には新法の当該規定に基づく行為とみなす"と規定されているだけです。
そこで一般論から解釈していくことになりますが、まず、3位以下がいない場合は、1位と2位の会社が申請を一旦取り下げると同時に新法下の共同申請をすることは、認められて良いでしょう(ただし、公取に立入があると「立入後の申請者」になってしまい3割の減額にとどまってしまいますので要注意。以下、立入前であることを前提にします)。
しかし、3位がいる場合には、1位と2位が取り下げると3位が1位に繰り上がるため、困ってしまいます。1位と2位をキープしている企業グループとしては、何とか1位を確保したまま、2位の会社を1位にくっつけたい(共同申請だったことにしたい)ところでしょう。3位の会社としても、1位は無理でも2位に繰り上がれるなら嬉しいでしょう。
では、3位がいる場合に、新法下で2位を1位にくっつける(結果的に3位は2位に繰り上がる)ことは可能でしょうか。
結論をいうと、無理そうです。新法7条の2第13号では、グループ申請が認められるためには「共同して・・・報告及び資料の提出を行った場合」であることが必要とされており、申請の時点で共同申請であることを明示して申請することが要求されている(共同性の要件だけを事後的に追完することは認められない)と解されるからです。
ついでに言うと、当然のことですが新法下でもグループ申請が義務づけられている訳ではありません。グループ申請できる場合でも敢えて単独申請することは可能です。
では、1位と2位がグループ会社で、グループ外の3位がいる場合、3社で示し合わせて、①全社一斉に申請を取り下げる→②1位と2位の会社が共同申請をする(結果、グループで1位になる)→③3位の会社が申請する(結果、2位になる)、ということは可能でしょうか。
これも不可能でしょう。なぜなら、リニエンシーは「単独で」(新法7条の2第10号1号など)しなければならず、このように他社と示し合わせて申請することは「単独で」申請したとは認められないからです。
なお、一旦取り下げて再申請できるのも、公取から順位の通知(新法第7条の2第15項)がなされるまでだと思われます。「この通知後は・・・報告を行った事業者が減免の資格を失うことになっても、後順位の報告を行った者の順位が繰り上がるわけでは(ない)」(品川等「課徴金減免制度等の解説」p67)からです。
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