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2009年9月15日 (火)

独禁法と経済学

独禁法を理解するには経済学の知識が不可欠だ、とよく言われます。

しかし、なぜ不可欠なのか、については、実際に経済学を勉強してみないと分からないので、やっかいです。

例えば、物の売買において値段はどうやって決まるのでしょう。

法律家であれば「売主と買主の合意で決まる」というでしょう。

ところが、経済学者は「物の価格は市場で決まる」というのです。

どちらも正しいのですが、独禁法を理解する上では、経済学者の答えを理解できる必要があります。さらに、市場で価格はどうやって決まるのか、という仕組みを理解する必要があります。初級のミクロ経済学の教科書に載っている価格理論ですね。

ところが、(独禁法に縁のない)普通の法律家は、物の値段は当事者の合意で決まるという発想が強いので、どうも独禁法をやっている法律家と話が噛み合いません。

普通の法律家は、当事者間の利害関係を権利義務に還元して分析する傾向が強く、また、具体的な個々の個人(あるいは法人)の間の利害調整という観点から法律を解釈します。

なので、個別事例を挙げて説明すると(例えばこういう場合にはAさんが排除されてかわいそう、とか)、その個別事例については納得してもらえます。

しかし、個々の権利義務主体を超えた市場全体の問題については、なかなか理解してもらえません。

私はむしろ、独禁法の問題を具体的な個人(法人)の利害を元に考えると不都合、あるいは思わぬ見落としがあるような気がします。例えば、潜在的競争者の問題などは、具体的な個々の主体間の利害調整という観点に囚われていては見落としてしまうのではないかと思われます。

市場の仕組みについては、初級のミクロ経済学の教科書を読んでもらって、限界費用とか限界収入とかいった概念をモデルで理解してもらうのが、やっぱり手っ取り早いです。言葉で説明しようとしてもなかなかむずかしいです。

独禁法に関係した経済学者の論文は、必ずそういうモデルが前提になっています。独禁法学者の書いた論文も多くの場合そうです(たまに経済理論を知らないのではないかという記述があってびっくりしますが)。

以上まとまりが無くなりましたが、要するに、独禁法は経済学的な発想が基礎にあるため、「物の値段はどうやってきまるのか」という基本的な問いかけに対する答えからして、発想が違うのです。

経済学の基本を理解した、まともな独禁法の解釈論が(少なくとも独禁法専門を自称する実務家の間では)普通に交わされる日が来ることを願ってやみません。

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