ジョイントベンチャーの設立と株式取得の届出
平成21年改正で株式取得が事前届出化されました。
他社から株式を購入する場合には株式取得の独禁法上の届出が必要になることが容易にイメージできるので、まったく独禁法を知らなかったという場合以外は、一応独禁法上の届出の要否を検討するのではないかと思います。
しかし案外忘れがちなのが、合弁会社を設立するような場合です。というのも、新たに会社を設立して株主となることも、言葉の定義の上では株式の取得に該当するからです。
では実務上よくある例として合弁会社の設立の場合に、改正法下で株式取得の届出が必要になるのはどのような場合でしょうか。
まず旧法下では、株式発行会社の規模基準が総資産10億超だったので、総資産10億超の子会社を設立すると必然的にこの基準は満たしてしまいます(なお、「総資産」は、原則として株主総会で承認された最終の貸借対照表に記載された資産の合計額を意味しますが(10条2項)、会社が設立されて間もないため株主総会が開催されていない場合には開始貸借対照表が「最終の貸借対照表になります)。
しかし旧法では、10条2項が、株式発行会社の発行済みの株式全部をその設立と同時に取得する場合には届出を要しない、と明文で定めていたので、100%子会社を設立する場合には届出が不要でした。
ところが、例えば50%ずつの持分で2社が合弁会社を設立する場合には、各社とも発行済み株式の「全部」を取得するわけではないので、株式取得の届出を要する、ということになりました。
さて、いよいよ本題の、新法下で合弁会社を設立する場合はどうなるのか、です。
新法10条2項には、旧法のような、設立と同時に全株式を取得する場合という例外規定はありません。また、あらかじめ届出を行うことが困難な場合として規則で定める場合にも、設立と同時に全株式を取得する場合というのは含まれていません(別に「困難」ではないので当然ですが)。
そこで、100%子会社を設立する場合でも、旧法10条2項但し書きのような明文の規定により届出が当然に免除されるということはありません。まして、50%ずつの合弁会社を設立する場合には当然には免除されません。
しかし、新法では、株式発行会社の規模要件が、単体と子会社を合わせて国内売上高50億円超とされています。
そして、「国内売上高」は、「国内において供給された商品及び役務の価額の最終事業年度における合計額として公正取引委員会規則で定めるもの」と定義されています(10条2項)。
しかし、設立した瞬間の会社には「最終事業年度」における売上はありません。
したがって、結論としては、100%子会社設立の場合はもちろん、50%ずつの合弁会社の設立の場合でも届出をする必要はない、ということになります。
ただし、上記は通常の現金出資で、まっさらで空っぽのJVを設立する場合を念頭に置いており、事業を現物出資することによってJVを設立する場合には、公取委の見解では、当該事業の国内売上高がJVに引き継がれると考えられていますので、注意が必要です。
詳しくは、公取委のQ&Aの「株式取得の届出の要否について」のQ11からQ14あたりをご覧下さい。
また、現金出資でJVを設立した後にJVに対してJVパートナーから事業譲渡をする場合には、別途事業譲受の届出の要否を検討する必要がありますので、ご注意下さい。
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