単独の株式移転
平成21年改正法で共同株式移転の事前届出制が導入されました(改正法15条の3)。
では、単独の株式移転はどのように扱われるのでしょう。
結論を先に言えば、株式の取得として扱われます。株式移転により設立される100%親会社が株式移転をする会社の株式を取得するからです。具体的には以下のとおりです。
株式移転をする会社をa社、株式移転により設立されa社の100%親会社となる会社をA社とします。
この株式移転により、A社はa社の株式100%を取得します。
これだけ見るとA社はa社の株式を取得したことについて株式取得の報告が必要になりそうですが、そうはなりません。
理由の一つはA社は株式移転で初めて設立されるので事前に株式取得の報告をすることができない、ということもありますが、もう一つの理由は、A社は新たに設立される会社なので国内売上高合計額がゼロだからです(なお、a社の国内売上高も足せば国内売上高合計額はゼロではないのではないか、という疑問もあり得るところですが、10条2項の規定振りからみて、株式取得会社の「国内売上高合計額」は当該株式取得の前の時点で計算すべきことが明らかであり、a社の国内売上高はA社の国内売上高合計額にカウントされません。言い換えれば、企業結合集団に属するか否かは株式取得の前の時点で判断されます)。
また、a社の株主で20%を超える大株主がいる場合、当該大株主はA社の株式の20%超を取得することになるので、株式取得の届出が必要になりそうですが、これも、A社の「国内売上高合計額」がゼロなので、結論としては届出は不要です。
次に、共同株式移転の事前届出制が導入された理由を考えてみます。
新法15条の3がないと(つまり共同新設分割を株式取得として扱うと)、単独株式移転の場合と同様に、共同株式移転の結果設立される会社(A社に相当)の「国内売上高合計額」がゼロであるため届出を要しないことになってしまいます。
しかし、共同株式移転の実態は合併と同じなのにそれではまずい、ということで、結合企業の規模要件は共同株式移転をする各企業結合集団の国内売上高合計額を基準として、独自に15条の3を設けることで対応した、ということだと思います。
これに対して単独株式移転は所詮新たに100%親会社を作るだけの組織再編であって、競争に与えるインパクトは皆無なので、何も規定が設けられなかった、ということなのだろうと思います。
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