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2009年9月

2009年9月29日 (火)

円高と競争圧力としての輸入

企業結合ガイドラインでは、輸入圧力が十分に働いていれば企業結合が競争の実質的制限が認められない方向に働く、とされています。

しかし、1ドル90円を切るような急激な円高を目の当たりにすると、果たして輸入を国内での代替商品と同様に考えて良いのか、疑問が生じてきます。

メーカーの方とお話をしていて感じるのは、特に日本のメーカーでは原材料の安定供給を極めて重視している、ということです。

安定供給のためなら、多少値段は高くなることが分かっていても、何社かのサプライヤーを抱えておくことも稀ではありません。徹底的に安さを追求して一番安いサプライヤーだけに絞ってしまった場合、そのサプライヤーに万が一事故でもあったときには大変なことになってしまいます。

とくに、メーカーが当該材料の購入市場において、買い手側として大きなシェアを持つ場合、意図的に何社かのサプライヤーと取引をしておかないと、一部のサプライヤーは市場から退出してしまって代替先が見つからなかったりする危険があります。

さほどに安定供給というのは、場合によっては値段以上に重要なのですが、今回のような急激な円高だと2割も3割も値段が上がってしまうわけです。

過去の輸入量の推移を見ればこのような為替変動のリスクが当該商品の輸入に与えるインパクトもある程度わかるのでしょうけれど、輸入品を競争圧力と考える際には、輸入品には為替リスクがつきものであることを明示的に意識しておくことが必要なように思われます。

2009年9月28日 (月)

日経新聞法務インサイド(9月28日)

今朝の日経朝刊の「法務インサイド」の排除型私的独占についての特集に私のコメントを引用していただきました。実務界の方の反応も大変興味深かったです。

改めて記事を読み返して思うのですが、今回の課徴金対象行為の拡大で、独禁法の解釈論としては本筋ではない些末な問題で多くの問題が生じるように思われました。

例えば排除型私的独占の課徴金の算定対象である売上額の範囲を決める「一定の取引分野」などは、課徴金が絡むために、本来の「一定の取引分野」の解釈とはかけ離れた独特の解釈がなされる可能性があると思われます。

つまり、通常「一定の取引分野」といえば、商品市場と地理的市場で画される一定の競争の場のことを意味し、企業結合の場合に最も激しく争われ、またそのために最も精密な議論がなされます。

しかし、排除型私的独占における「一定の取引分野」は、これとは異なった考え方がまかり通るような気がします。

例えば、企業結合の場合に「一定の取引分野」は日本全国だ、とわれるような商品でも、排除型私的独占の課徴金算定の際に「全国」を「一定の取引分野」としてしまうと余りに課徴金の額が大きくなるので、例えば、排除された事業者の店舗が東京都にしかないような場合には東京都が「一定の取引分野」であるとして、課徴金の額の辻褄を合わせる、というような考え方が取られるのではないか、と予想します。

これにはそれなりの根拠があります。例えば入札談合の場合には従来から「合意の対象が一定の取引分野である」という考えが公取の実務の中でまかりとおってきました。この傾向は、リニエンシーが導入されて以降、より一層強まったように思われます(それでもこちらはリニエンシーを申請する側なので、場合によっては市場を細切れに認定してもらった方が良いこともあり(その方が、小さな市場では3位以内に滑り込めたりする)、そういう公取の扱いに文句を言うこともないのですが)。

つまり、これと同じようなこと(=根拠のない狭い市場画定)が、排除型私的独占の課徴金算定の際に起こるのではないか、と思うのです。

違反者の全売上を基準にするのではなく、排除された競争者の事業活動の範囲を基準に課徴金を算定するというのは、ある意味しっくり来ますし、結論も穏当なので、理論的根拠は疑問ですが、公取には案外すんなり認められそうな気がします。

このこと一つを取っても、課徴金に公取の裁量を認めないために生じた技術的な問題が、多くの無用な紛争を生むような気がしてなりません。

刑事事件の情状立証で、情状(例えば被害者弁償は済んでいるか、被告人は反省しているか)と刑期の間に明確な、数学の関数のような関係があったら、無用な争点が増えてしまうでしょう。排除型私的独占や不公正な取引方法の課徴金算定方法は、そんな危うさを感じます。

やはり公取の裁量を認める課徴金制度にすべきだったのではないでしょうか。

2009年9月26日 (土)

ジョイントベンチャーの設立と株式取得の届出

平成21年改正で株式取得が事前届出化されました。

他社から株式を購入する場合には株式取得の独禁法上の届出が必要になることが容易にイメージできるので、まったく独禁法を知らなかったという場合以外は、一応独禁法上の届出の要否を検討するのではないかと思います。

しかし案外忘れがちなのが、合弁会社を設立するような場合です。というのも、新たに会社を設立して株主となることも、言葉の定義の上では株式の取得に該当するからです。

では実務上よくある例として合弁会社の設立の場合に、改正法下で株式取得の届出が必要になるのはどのような場合でしょうか。

まず旧法下では、株式発行会社の規模基準が総資産10億超だったので、総資産10億超の子会社を設立すると必然的にこの基準は満たしてしまいます(なお、「総資産」は、原則として株主総会で承認された最終の貸借対照表に記載された資産の合計額を意味しますが(10条2項)、会社が設立されて間もないため株主総会が開催されていない場合には開始貸借対照表が「最終の貸借対照表になります)。

しかし旧法では、10条2項が、株式発行会社の発行済みの株式全部をその設立と同時に取得する場合には届出を要しない、と明文で定めていたので、100%子会社を設立する場合には届出が不要でした。

ところが、例えば50%ずつの持分で2社が合弁会社を設立する場合には、各社とも発行済み株式の「全部」を取得するわけではないので、株式取得の届出を要する、ということになりました。

さて、いよいよ本題の、新法下で合弁会社を設立する場合はどうなるのか、です。

新法10条2項には、旧法のような、設立と同時に全株式を取得する場合という例外規定はありません。また、あらかじめ届出を行うことが困難な場合として規則で定める場合にも、設立と同時に全株式を取得する場合というのは含まれていません(別に「困難」ではないので当然ですが)。

そこで、100%子会社を設立する場合でも、旧法10条2項但し書きのような明文の規定により届出が当然に免除されるということはありません。まして、50%ずつの合弁会社を設立する場合には当然には免除されません。

しかし、新法では、株式発行会社の規模要件が、単体と子会社を合わせて国内売上高50億円超とされています。

そして、「国内売上高」は、「国内において供給された商品及び役務の価額の最終事業年度における合計額として公正取引委員会規則で定めるもの」と定義されています(10条2項)。

しかし、設立した瞬間の会社には「最終事業年度」における売上はありません。

したがって、結論としては、100%子会社設立の場合はもちろん、50%ずつの合弁会社の設立の場合でも届出をする必要はない、ということになります。

ただし、上記は通常の現金出資で、まっさらで空っぽのJVを設立する場合を念頭に置いており、事業を現物出資することによってJVを設立する場合には、公取委の見解では、当該事業の国内売上高がJVに引き継がれると考えられていますので、注意が必要です。

詳しくは、公取委のQ&Aの「株式取得の届出の要否について」のQ11からQ14あたりをご覧下さい。

また、現金出資でJVを設立した後にJVに対してJVパートナーから事業譲渡をする場合には、別途事業譲受の届出の要否を検討する必要がありますので、ご注意下さい。

2009年9月25日 (金)

SSNIPテスト

日本の企業結合ガイドラインでもいわゆるSSNIPテストが採用されています。

時々、SSNIPテストが価格に関する詳細な情報を元に計量経済学的な手法を用いて行われる市場画定の手法であるかのようにいわれることがあるのですが、それは誤解です。

というのも、詳細な計量経済分析ができるくらいのデータがあるのであれば、わざわざSSNIPテストを使って市場画定をしてマーケットシェアを計算することによって市場支配力の有無を見るというような迂遠な方法を採る必要はなく、商品の需要の価格弾力性を計測して直接市場支配力を測定すれば良いからです。

しかし、だからといってSSNIPテストが意味のないものであるということでは全くありません。

市場画定をしてマーケットシェアを計算して、「マーケットシェアの大きい企業には市場支配力があるだろう」と考えることは、直感的に非常に正しいと多くの人に感じられます。

独禁法も法律である以上、多くの人に直感的に正しいと感じられるということは非常に大事なことだと思います。

また多くの人に直感的に正しいと感じられるような基準でないと、裁判で使い物にならないと思われます。

このように、①市場画定をして②マーケットシェアをみることによって③市場支配力を測定する、というステップは、みんなに納得できるという意味で、法律解釈の基準として非常に合理的だと思います。

ところが、市場画定をする際に、商品の性質や用途によって代替性の有無を見る、と抽象的に言うだけでは、人によって代替性のとらえ方が様々であり得ます。これは言い換えると、人によって代替性の程度を計る物差しが様々であり得る、ということです。

SSNIPテストは、このような商品の代替性の有無・程度を考える際の物差しとなり得るものです。

確かに、仮想的な独占者が5%値上げをして利益を増やすことができるかどうかなんて、具体的な事案で計算することはできないことの方が多いでしょう。

しかしそれでも、市場画定の考え方や基準をSSNIPテストという形で示すことで、おおよその議論の共通の基盤ができるのだと思うのです。

逆に言うとSSNIPテストはそれ以上のものではないのですが、やはり、共通の議論の基盤ができるというのは大きいことだろうと思います。

ところが、日本の公取の実務をみていると、ガイドラインではSSNIPテストと言いながら、実際にはおよそそれとかけ離れた考え方をしていることが多いように思います。

つまり、多くの場合、SSNIPテストを素直に使えばもっと市場が広く画定されると思われるような場合でも、商品の規格や業界での慣例的な分類や統計上の分類に引きずられて、狭い市場が画定されることが多いようです。

そのような狭い市場を画定してもシェアが低いから問題ない(SSNIPテストで市場画定したらもっと市場は広くなって逆にシェアは低くなるのでなおさら問題ないから)、ということで決着がつくことも多いです。

逆に、そのような狭い市場を画定してシェアが一見高く見えて、どうも問題ありそうに見える、だけれど問題ありとするのは感覚的におかしい、という場合には、「隣接市場からの競争圧力がある」などといって、結論として市場支配力を認めない、という辻褄合わせをしたりします。

それで正しい結論が導かれるのであれば目くじらを立てることもないじゃないか、という考えもあり得ることでしょう。

でもはやり、ガイドラインで市場画定はSSNIPテストを使うと明言している以上、それに従うべきではないでしょうか。そうでないとガイドラインの意味がないように思います。

ガイドラインというのは、その分野の法律に詳しくない人(=その法律の理屈を良く理解していない人)でもガイドラインをみればおおよその答えが予測できる、というものであるべきだと思います。

そうでないと、いつまでたっても独禁法が一部の専門家のためのものにとどまってしまうのではないでしょうか。

2009年9月24日 (木)

平成21年改正法と共同株式交換

平成21年改正で共同株式移転に関する届出制が導入されました(新法15条の3第2項以下)。

では新法下で共同株式交換はどのように取り扱われるのでしょうか。

まず、旧法下では共同株式交換も単独株式交換も株式の取得として事後報告の対象とされていました。株式交換においては株式交換親会社が株式交換子会社の株式を取得するので、株式交換親会社に株式取得の届出義務が生じるのは、いわば当然のことでした。

そしてこの取扱は、新法に株式交換についての特別の規定がないことからすると、新法においても変わらないと思われます。

例えば、株式交換の結果親会社となる会社をA社、株式交換の結果子会社となる会社をB社とすると、株式交換によりA社はB社の株式100%を取得するので、A社に株式取得の届出義務が発生します(もちろんA社の国内売上高合計額が200億円超、B社の国内売上高(子会社があればそれも加える)が50億超であることが前提です)。

さらに、B社株主の中に国内売上高合計額200億円超の会社があると、当該B社株主が株式交換の末A社の株式20%超を取得する場合、当該B社株主にも、A社株式を取得したことについての株式取得の届出義務が発生することになりますので注意が必要です(なお、この点は企業規模の基準が総資産から国内売上高に変わった点を除き、基本的に旧法下でも同じことです)。

そこで共同株式交換に関連して以下のような問題が生じると思われます。

例えば、ここに共同株式移転により経営統合を計画しているA社とB社があるとします。話を簡単にするためA社およびB社には親会社および子会社がなく、A社とB社の間には株式の持ち合いはないとします。さらに、A社の国内売上高は200億円超(200億をやや超える、という意味です。以下同じ)、B社の国内売上高は50億円超とします。

ここでオーソドックスに共同株式移転を行うと、新法15条の3第2項により、事前届出義務がA社およびB社に発生します。

では、この2社が共同株式移転をせずに、①新たなペーパーカンパニーC社を設立し(C社の株主には司法書士さんにでもなってもらいます)、②B社(国内売上高50億超)が完全子会社、C社が完全親会社となる株式交換を行う、③次いでA社(国内売上高200億超)が完全子会社、C社が完全親会社となる株式交換を行う、とした場合、どうなるでしょうか。

この場合、①の時点でペーパーカンパニーであるC社の国内売上高はゼロなので、B社との株式交換(②)について株式取得の届出は不要です。

次に、③のC社とA社の株式交換についてもC社に株式取得の届出義務は生じません。なぜなら、②の株式取得が終わった時点でC社の国内売上高合計額はB社の国内売上高である50億円超だけであり、株式取得の届出要件の1つである《取得会社の国内売上高合計額が200億円超》を満たさないからです。

結局、どの会社にも届出義務は生じないことになります。実質的にはA社とB社の共同株式移転と変わらないにもかかわらず、です。

以上のことは、②→③の順序で行うのではなく、②と③を同時に行う(共同株式交換)であっても異ならないと思われます。株式取得側の国内売上高200億円超というのは取得の直前で判断すべきだからです。A社もB社も国内売上高200億円超の場合には、同時にやるしか手は無さそうです。

なお、「脱法行為を禁じる17条に反するのではないか」という議論は当然あり得るので注意が必要です(しかしこの点については、新法が共同株式移転については規定を設けながら株式交換については敢えて規定を設けなかったことからすると、株式交換については引き続き株式取得一本で取り扱うという趣旨であり、脱法というのは筋違いではないかと思いますが、いかがでしょうか)。

グループ会社の共同行為

経済学を学んでいると独禁法の問題の答えが出ないまでも答えを考える物差しになることがおおいのですが、経済学の発想ではどうにもならない問題の一つがグループ会社の共同行為です。

たとえば共通の100%親会社を持つ複数の兄弟会社が入札に参加してカルテルを行った場合、不当な取引制限にあたるのでしょうか。

これをあたるとしたのが関東エコステーションの事件です。

経済学では、各経済主体は自己の便益を最大化するべく意思決定を行うことが当然の前提にされます。

しかしグループ会社ではその前提が成り立ちません。

やはり、各経済主体が自己の便益を最大化するという前提のさらに以前に、競争法の観点から「どの主体とどの主体は競争すべきなのか」という価値判断が入ることが不可欠に思われます。

やはり入札談合という文脈では、競争法の観点から、たとえ兄弟会社でも入札に参加する以上はファイアーウォールを敷くなりしてちゃんと競争しなければいけない、ということなんでしょうね。

いずれにしても、関東エコステーション事件を一般化して、グループ会社間の行為でもカルテルになりうるとするのはきわめて疑問だと思います。競争法の観点から競争すべきという価値判断が、一般的にはなされないからです。

2009年9月22日 (火)

排除型私的独占の課徴金算定の基礎の売上高

平成21年改正で、排除型私的独占に課徴金が課されるようになりました。

しかし、不当な取引制限の課徴金と異なり、そこには不当利得の剥奪という性格は希薄で、むしろ懲罰的であるとすら言えそうです。

つまり、不当な取引制限の場合は、カルテルをした場合に上昇する価格を参考に課徴金算定率が決められ、カルテル対象の売り上げに課徴金が課されます。

これに対して私的独占の場合には、①違反行為の行われた取引分野における違反行為者の売上高と、②当該取引分野において違反行為の対象となった商品等を供給する他の事業者に対して違反行為者が供給した違反行為に係る商品等、を合算した売上高に、課徴金が課されます。

しかし、私的独占の場合、このような対象売上は違反行為者の不当利得とは何の関係もありません。

むしろ、それまで違反者が違反行為なしに市場支配力を獲得していたとすると、違反者の売上が大きいのは、適法な競争の結果であると言えます。

それにもかかわらず、そのような適法に獲得した市場支配力の結果大きくなった売上高に課徴金を課すというのは、適法な競争に勝ち抜いた果実に対して課徴金を課するということです。

これはつまり、私的独占に対する課徴金は、不当利得の剥奪とは何の関係もなく、むしろ大きいこと自体で処罰を受ける、ということです。

また課徴金算定率が6%というのも、寡占企業の売上利益率を参考にしたということですが、ここでも、不当利得の剥奪という発想はありません(普通の寡占企業はむしろ適法な競争により市場支配力を獲得しているはずですから)。

排除型私的独占の課徴金の性質がこのようなものである事の是非はさておき、大きな企業ほど大きな課徴金を受ける、ということは認識しておく必要がありそうです。

2009年9月21日 (月)

単独の株式移転

平成21年改正法で共同株式移転の事前届出制が導入されました(改正法15条の3)。

では、単独の株式移転はどのように扱われるのでしょう。

結論を先に言えば、株式の取得として扱われます。株式移転により設立される100%親会社が株式移転をする会社の株式を取得するからです。具体的には以下のとおりです。

株式移転をする会社をa社、株式移転により設立されa社の100%親会社となる会社をA社とします。

この株式移転により、A社はa社の株式100%を取得します。

これだけ見るとA社はa社の株式を取得したことについて株式取得の報告が必要になりそうですが、そうはなりません。

理由の一つはA社は株式移転で初めて設立されるので事前に株式取得の報告をすることができない、ということもありますが、もう一つの理由は、A社は新たに設立される会社なので国内売上高合計額がゼロだからです(なお、a社の国内売上高も足せば国内売上高合計額はゼロではないのではないか、という疑問もあり得るところですが、10条2項の規定振りからみて、株式取得会社の「国内売上高合計額」は当該株式取得の前の時点で計算すべきことが明らかであり、a社の国内売上高はA社の国内売上高合計額にカウントされません。言い換えれば、企業結合集団に属するか否かは株式取得の前の時点で判断されます)。

また、a社の株主で20%を超える大株主がいる場合、当該大株主はA社の株式の20%超を取得することになるので、株式取得の届出が必要になりそうですが、これも、A社の「国内売上高合計額」がゼロなので、結論としては届出は不要です。

次に、共同株式移転の事前届出制が導入された理由を考えてみます。

新法15条の3がないと(つまり共同新設分割を株式取得として扱うと)、単独株式移転の場合と同様に、共同株式移転の結果設立される会社(A社に相当)の「国内売上高合計額」がゼロであるため届出を要しないことになってしまいます。

しかし、共同株式移転の実態は合併と同じなのにそれではまずい、ということで、結合企業の規模要件は共同株式移転をする各企業結合集団の国内売上高合計額を基準として、独自に15条の3を設けることで対応した、ということだと思います。

これに対して単独株式移転は所詮新たに100%親会社を作るだけの組織再編であって、競争に与えるインパクトは皆無なので、何も規定が設けられなかった、ということなのだろうと思います。

2009年9月20日 (日)

不当な取引制限の「合意」

経済学を学ぶと独禁法の解釈にも役に立つことが多いですが、その一つが、不当な取引制限(以下「カルテル」)における「合意」の意味の解釈です。

カルテルが成立するためには、違反者の間に「合意」が必要であると解されています。

しかし、この「合意」という言葉の意味がくせ者です。

普通の法律家が「合意」という場合、民法の契約法の合意をイメージします。法律用語でいうところの、表示上の効果意思の合致というやつですね。

しかし、カルテルの「合意」は、民法上の合意とはかなり異なります。そのことは、「契約の成立にはなぜ合意が必要なのか」を考えてみるとわかります。

契約、たとえば売買契約の場合、合意の当事者の利害関係はそもそも相反します。簡単に言うと、売り主はできるだけ高く売りたいし、買い主はできるだけ安く売りたい、ということです。

このような、利害関係が真っ向から反する当事者をお互いに拘束するのが契約法上の「合意」の本質なので、契約における「合意」はある程度はっきりしたものでないといけません。何となく買いたいけれど値段(の決め方)もはっきりしないし、何個欲しいのかも「だいたい」しか分からない、というのでは、契約の前提の意思表示として不十分でしょう。

これに対して、カルテルの「合意」は、合意の当事者間の利害が基本的に一致します。つまり、競争者はみんなできることならカルテルをやって、みんなでカルテルの分け前にあずかる方が儲かるのです。

このあたりの利害関係を理解するのに、経済学が役に立ちます。

経済学のモデルの完全競争下では、競争者は利潤を得ることができません。

これに対して独占者は一定の独占利潤を得ることができます。

そして競争している者も、競争者みんなで合意できれば、独占者と同一の独占利潤をみんなで得ることができます(もちろんその利潤はみんなで分けないといけませんが、完全競争の場合に利潤がゼロであるのと比べればまだましです)。

つまり、可能なのであれば、競争者はカルテルの合意をすることが利潤の最大化になるのです。そのような意味で、カルテルの合意は合理的な行動であるといえます。

では、競争者各自がみんなで独占者であるかのような行動をとるには(=カルテルが成立するには)どのような条件が必要でしょうか。ここで「合意」の意味が問題になります。

みんな(仮にAさん、Bさん、Cさん、としましょう)で独占者であるかのように行動するためには、Aさんからみて「BさんとCさんは独占者のように振る舞うだろう(=独占価格を付けるだろう)」という予想がつけば足ります。同じくBさんからみれば「AさんとCさんも独占価格を付けるだろう」という予想がつけば足ります。

このようにお互いの行動を予想するのに、民法上の「合意」のような明確な拘束は必要ありません。みんなカルテルをした方が儲かるのは分かっており、基本的に利害は共通するからです。

このようにお互いの利害が共通しているので、(他の競争者の行動がある程度予想できるというような、あまりに不確実なものでは足りませんが)ある程度確実なコミットメントがあればカルテルが成立するには十分であると言えます。

しかし、何らかのコミットメントがあった場合すべてにカルテルの成立を認めると、いわゆる寡占的協調の場合もカルテルになってしまって当事者に酷なので、カルテルには意思の連絡が必要であると解されており、それを「合意」と呼んでいるだけなのです。

このようにカルテルの「合意」は民法の「合意」とは何の関係もありません。どちらかというと刑法の共犯の合意に近いかもしれません。それも、共同正犯の合意までは不要で、「他の者にジャマされない(=値下げされたりしない)」という安心感があれば足りるので、幇助犯の場合の意思の連絡に近いと言えるかもしれません。

このように、経済学を学ぶと、企業の合理的な行動(=利潤を最大化する行動)とは何なのかが分かり、独禁法の解釈論にも役立つことが多いのです。

2009年9月18日 (金)

独禁法を使って法令遵守

独禁法の解釈を通じて企業の法令遵守を促すことができないでしょうか。

例えば、不当廉売の場合には販売価格がコスト割れか否かが問題となり、そこでいう「コスト」とは何かがしばしば問題となります。

そこで、「コスト」の中に、違反者が実際に支出したコストだけではなく、法律を守っていれば支出すべきであったコストも含めると解釈することはできないでしょうか。

例えば、残業代を払っていない違反者のコストに未払いの残業代も含めて計算する、と解釈することはできないでしょうか。

その結果、「コスト」が上がるので廉売を認定しやすくなり、きちんと法律を守って残業代を払っている他の企業が競争上不利になることを防げます。

あるいは、違反者が下請から部品を買い叩いて作った製品を販売している場合には、実際の部品購入代金ではなく、適正な購入代金を「コスト」に含めて計算すべきではないでしょうか。

一国の法体系はできるだけ整合的に解釈すべきであるとの一般論に従えば、このような解釈はあながち不合理ではないように思いますし、独禁法の解釈を通じて他の法律の遵守を促すことにもつながると思います。

さらに、外国企業にも目を向ければ、外国企業の不当廉売が問題になっているような場合、外国企業が日本国内の環境法や労働法を守ったとしたら要したであろう費用も「コスト」に含めて解するべきではないでしょうか。

日本に商品を売り込む以上、日本国内に拠点を持たない外国企業であっても、日本国内で適用される法律を守るべき、あるいは独禁法の解釈を通じて国内企業と対等な競争基盤を築くべき、といえるのではないでしょうか。

このような解釈をすることで、例えば公害対策を怠り汚染を垂れ流して格安で商品を日本に供給している外国企業のために国内企業が排除される、という事態を防げるように思われます。

とはいえ、例えば外国の労働者にも日本の労基法の最低賃金を払ったと仮定して「コスト」を算定すべき、というのも行き過ぎのように思います。

そこで、やはりすべての日本法を適用すべきと言うことはできず、競争法の観点(公正な競争確保の観点)から、適用される日本法と適用されない日本法がある(もう少し厳密に言えば、独禁法の適用を通じて外国企業にも遵守を促されるべき法律と、そこまではいえない法律がある)ということなのだと思います。

まだ生煮えの解釈論ですが、さらに検討を深めたいと思います。

2009年9月17日 (木)

(経過措置)4番目と5番目のリニエンシー申請者

平成21年の改正で立入調査前の4番目と5番目のリニエンシー申請者も課徴金の30%の減額を受けることができるようになりました(改正法7条の2第11項3号)。

では、改正法施行前にリニエンシーを申請した者が4番目(あるいは5番目)であった場合に、そのまま立入調査が行われないまま施行日を迎えたとき、この申請者は新法施行により自動的に30%の減額を受けられるのでしょうか。感覚的には減額を受けられて良いように思いますが、どうでしょうか。

経過規定としては、改正法附則17条で、"新法の施行前に旧法の規定によってした行為であって新法の規定に相当の規定があるものは、新法の規定の相当の規定によってしたものとみなす"と規定されているのが関係しそうです。

しかし、旧法下には「4番目の申請」というのはリニエンシー制度上そもそも存在し得なかったのですから、附則17条を根拠に旧法下の「4番目の申請」(←法律上は存在しない)を新法下の「4番目の申請」とみなすのは、解釈論として無理があると思われます。

条文解釈としては、旧法下でした4番目の申請は「旧法の規定によってした行為」ではない(旧法に4番目の申請に関する規定はないので)、ということになると思われます。

なお、旧法下で4番目の申請者がいる場合に、上位の申請者が何らかの理由で申請を取り下げたり失格したりして順位が繰り上がることがあり、その限りで4番目の申請は無意味ではありませんが、それは、その申請者が法律上「3番目の申請者」と認められるに至ったからであって、決して旧法上「4番目の申請者」というものが存在するからではありません。

したがって、旧法下で4番目のままであった申請者が、新法下の4番目の申請者とみなされるということはないと思われます。

4番目の申請者は、新法施行後直ちに申請をやり直すことをお勧めいたします。

2009年9月16日 (水)

リニエンシーの経過措置

平成21年独禁法改正で、リニエンシーの申請がグループごとに出来るようになりました。

新法施行を待ってからグループでリニエンシーを申請しようと考えている企業がそれほど多くいるとは思いませんが(普通は他社に先を越されないよう一刻も早く申請するでしょう)、リニエンシーの経過措置はどのようになるのでしょうか。

まず、旧法下になされた違反行為について、旧法下で誰もリニエンシーを申請していなかった場合、最初の申請者が新法施行後に申請したとすると、新法が適用される、つまり、最初の申請者はグループ単位で申請できる、ということに問題はないでしょう(経過規定は問題にならず、専ら新法が適用されます)。

では、旧法下でなされた違反行為について、旧法下で同一グループの2社が既に申請を済ませていた場合、新法施行によって何が起こるのでしょう。

一番気になるのは、既に申請した2社を、同一グループの申請として両社とも1位とすることができないでしょうか。これができると2社とも課徴金全額免除になりますし、席も1つ空くので、後順位の申請者にもメリットがあります。

改正法の附則をみてもこの点に直接関係する規定はありません。附則17条に、"旧法の規定に基づく処分その他の行為で新法にも当該旧法の規定に相当する規定がある場合には新法の当該規定に基づく行為とみなす"と規定されているだけです。

そこで一般論から解釈していくことになりますが、まず、3位以下がいない場合は、1位と2位の会社が申請を一旦取り下げると同時に新法下の共同申請をすることは、認められて良いでしょう(ただし、公取に立入があると「立入後の申請者」になってしまい3割の減額にとどまってしまいますので要注意。以下、立入前であることを前提にします)。

しかし、3位がいる場合には、1位と2位が取り下げると3位が1位に繰り上がるため、困ってしまいます。1位と2位をキープしている企業グループとしては、何とか1位を確保したまま、2位の会社を1位にくっつけたい(共同申請だったことにしたい)ところでしょう。3位の会社としても、1位は無理でも2位に繰り上がれるなら嬉しいでしょう。

では、3位がいる場合に、新法下で2位を1位にくっつける(結果的に3位は2位に繰り上がる)ことは可能でしょうか。

結論をいうと、無理そうです。新法7条の2第13号では、グループ申請が認められるためには「共同して・・・報告及び資料の提出を行った場合」であることが必要とされており、申請の時点で共同申請であることを明示して申請することが要求されている(共同性の要件だけを事後的に追完することは認められない)と解されるからです。

ついでに言うと、当然のことですが新法下でもグループ申請が義務づけられている訳ではありません。グループ申請できる場合でも敢えて単独申請することは可能です。

では、1位と2位がグループ会社で、グループ外の3位がいる場合、3社で示し合わせて、①全社一斉に申請を取り下げる→②1位と2位の会社が共同申請をする(結果、グループで1位になる)→③3位の会社が申請する(結果、2位になる)、ということは可能でしょうか。

これも不可能でしょう。なぜなら、リニエンシーは「単独で」(新法7条の2第10号1号など)しなければならず、このように他社と示し合わせて申請することは「単独で」申請したとは認められないからです。

なお、一旦取り下げて再申請できるのも、公取から順位の通知(新法第7条の2第15項)がなされるまでだと思われます。「この通知後は・・・報告を行った事業者が減免の資格を失うことになっても、後順位の報告を行った者の順位が繰り上がるわけでは(ない)」(品川等「課徴金減免制度等の解説」p67)からです。

2009年9月15日 (火)

独禁法と経済学

独禁法を理解するには経済学の知識が不可欠だ、とよく言われます。

しかし、なぜ不可欠なのか、については、実際に経済学を勉強してみないと分からないので、やっかいです。

例えば、物の売買において値段はどうやって決まるのでしょう。

法律家であれば「売主と買主の合意で決まる」というでしょう。

ところが、経済学者は「物の価格は市場で決まる」というのです。

どちらも正しいのですが、独禁法を理解する上では、経済学者の答えを理解できる必要があります。さらに、市場で価格はどうやって決まるのか、という仕組みを理解する必要があります。初級のミクロ経済学の教科書に載っている価格理論ですね。

ところが、(独禁法に縁のない)普通の法律家は、物の値段は当事者の合意で決まるという発想が強いので、どうも独禁法をやっている法律家と話が噛み合いません。

普通の法律家は、当事者間の利害関係を権利義務に還元して分析する傾向が強く、また、具体的な個々の個人(あるいは法人)の間の利害調整という観点から法律を解釈します。

なので、個別事例を挙げて説明すると(例えばこういう場合にはAさんが排除されてかわいそう、とか)、その個別事例については納得してもらえます。

しかし、個々の権利義務主体を超えた市場全体の問題については、なかなか理解してもらえません。

私はむしろ、独禁法の問題を具体的な個人(法人)の利害を元に考えると不都合、あるいは思わぬ見落としがあるような気がします。例えば、潜在的競争者の問題などは、具体的な個々の主体間の利害調整という観点に囚われていては見落としてしまうのではないかと思われます。

市場の仕組みについては、初級のミクロ経済学の教科書を読んでもらって、限界費用とか限界収入とかいった概念をモデルで理解してもらうのが、やっぱり手っ取り早いです。言葉で説明しようとしてもなかなかむずかしいです。

独禁法に関係した経済学者の論文は、必ずそういうモデルが前提になっています。独禁法学者の書いた論文も多くの場合そうです(たまに経済理論を知らないのではないかという記述があってびっくりしますが)。

以上まとまりが無くなりましたが、要するに、独禁法は経済学的な発想が基礎にあるため、「物の値段はどうやってきまるのか」という基本的な問いかけに対する答えからして、発想が違うのです。

経済学の基本を理解した、まともな独禁法の解釈論が(少なくとも独禁法専門を自称する実務家の間では)普通に交わされる日が来ることを願ってやみません。

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